『錬成術とギルガントの関係』 その5



「敵は巨大なギルガントかのう」


 シシット・ブラウナーがやや嫌悪感をむき出しにした顔をして、右頬をぼりぼりと掻いた。


「俺達にやれない事はないが、面倒なんだよな、集合体は。報酬次第ではあるが、あの前金じゃ二の足を踏むな。依頼主の全財産をもらうのが妥当か」


 巨大ギルガントの存在を感知してか、ミリアルドはアンジャーヌ島の事情をそれとなく察していた。


 同盟を結んだ三カ国が何故音信不通の状態になったのか。


 何故情報が外部へと出なくなってしまったのか。


 その答えは至極簡単だった。


 巨大ギルガントの前に連合軍が全滅か何かしたのだろう。


 滅亡するしかなかったクルーガ王国は首都そのものが錬金術によって消滅したような形となり、他の王国などと連絡が取れなくなった。


 連絡が取れなくなったのではなく、連絡を取れる者が全滅した、が正しいのかもしれない。


「おい!」


 ミリアルドは一面に広がる瓦礫に視線を向けながら、ぶっきらぼうに声を上げた。


「おい、近くにいるんだろ!! 出てこいよ!!」


 今度は声を張り上げた後、周囲を確認するように視線を彷徨わせる。


 すると、その声に応えるかのように瓦礫の一部の土が盛り上がる。


 隆起してきた土は泥人形と化すなり、色を帯びて人とパッツィー・アルマナマへと変化した。


「来るのが速すぎです。私達はまだ決戦の準備がまだできていません」


 パッツィーは困ったような表情を浮かべて、ミリアルドと向かい合った。


「準備なんていらねえよ」


「敵は強大です。私達は一矢報いることもできませんでした」


「敵は巨大ギルガントなんだろう? 俺達四人なら、一分あれば片付けられる」


 俺達ならばできて当然という揺るぎない自信に満ちた態度でミリアルドは言い放った。


「本当なのですか?」


 パッツィーは目を大きく見開いて、ミリアルド達の事を見つめた。


 パッツィーの方から声をかけたというのに、ミリアルド達の実力を過小評価していたかのように。


「報酬を前払いにしてくれ。じゃなきゃ、俺達はやらねえ」


「……構わないです。ですが、本当に倒せるのですか?」


「余裕で倒せる。そう断言させてもらう」


「そこまで自信があるようでしたら、前払いをお約束します」


「で、報酬だが、お前達が持っている全財産を要求したい。それくらいいいだろ? もうお前達には必要がないものだろうしよ」


 その一言で表情には出てはいなかったが、パッツィーが怯んだように、一歩後ろに引いた。


「図星か。お前ら、巨大ギルガントになりそこねた半分人間、半分ギルガントの奴らなんだろう? 人の意思が残ってはいるが、身体の一部がギルガントになっているってところなんだろう?」


 ギルガントとは、人と『何か』を錬金術で錬成したなれの果ての姿である。


 ギルガントに錬成されてしまった人は、人としての意思を失い、命令に従うしかないただの人形と化す。


 各地でギルガントの進攻が止まらないのは、意思のない人形が己の死を顧みずに特攻をかけてくるからでもあった。


 人の武器が通用しない者達の特攻になすすべもなく各国の軍隊がなぎ倒されていったのである。


「……分かりました」


「俺達は金しか求めらねぇんだよ。お前達を女として抱くこともできない。シシットの趣味であるパンツもない。アイアンウィルのおかずにもなんねえし。エメラルダの獲物になるような男もいない。だから、俺達は全財産を要求する。それだけの事だ」


 ミリアルドは冷淡な目でパッツィーを射すくめながら坦々とした口調で言う。


 自分の欲求を満たす物が金しかない事を知っているからこそ、ミリアルドは冷酷になれるのだった。



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