『錬成術とギルガントの関係』 その2
「……国王がギルガント化か。倒しちゃってもいいのか? 仮にも血の繋がった親父さんだろ?」
ミリアルド・アーシュタインは驚いた様子を微塵も見せなかった。
『錬金術によってギルガントと化した我が父』と聞いても。
「……上に三人の兄がいました。そのうちの二人はギルガント化した父に殺され、残った一人が国外へと脱出し、再起を図ろうとしています」
クルーグ王国が国王イーショット・アルマナマの次女、パッツィー・アルマナマと名乗ったくノ一はその場から動かずに話を淡々と続けた。
「ほぉ……。あんたはその手伝いをしているって事なのかい?」
「……違います。私は名を変え、国内に留まり、抵抗勢力の一人として活動しています」
「その抵抗勢力とやらが不甲斐ないから俺達を利用したいってか? 烏合の衆っていうか雑魚どもがいくら集まろうが雑魚は雑魚だしよ」
ミリアルドは窓際に立ち続けていて近づいてこようともしない事に別段何も感じていない様子で、シーフィーが倒れているベッドに平然と腰掛けた。
「ごもっともな意見です」
ミリアルドは倒れているシーフィーに目を向け、何を考えているのか分からない淡泊な瞳で見るとも為しに見つめた。
「で、訊きたいんだが、なんで俺なんだ? 真の勇者な、シンフォルニア・アーシュタインがいるだろう? あいつの方がそういった話なら適任じゃないか?」
こういう案件は勇者に頼むのが王道ではないかとミリアルドは考えている。
正義感ならば報酬なしで請け負うのが確実であるからだ。
「彼には務まらないと思っています。故に、私はミリアルド・アーシュタイン、あなたを選びました」
「……だそうだ。どう思う、お前達は? 俺はうさんくさいと思っているんだが」
ミリアルドが右手を挙げて軽く振ると、
部屋の隅っこの闇からアイアンウィル・ディメーションが姿を現し、パッツィー・アルマナマが立っている窓の外にシシット・ブラウナーが空を浮遊しているかのように姿を見せ、いつからこの部屋にいたのか、エメラルダ・フォン・ヴァナージがミリアルドの横に腰掛けていた。
「……なっ?! いつから?!」
パッツィーは気後れしたような顔をして鼻白んだ。
この三人の存在そのものを察知していなかったのだから仕方のない事であった。
「レジスタンスがお金を持っているとも思えないし、私は嫌ね。取りっぱぐれそうだし」
エメラルダがやる気のなさそうな顔を隠そうともせずに言う。
「……任せる」
アイアンウィル・ディメーションは相も変わらずマントの下でまさぐっている。
「わしは下着さえあれば良い。下着が全てじゃ」
シシットは目の前にいるパッツィーには興味がないようで、どこか他人事であった。
「……俺はお前が気にくわない。そもそもお前は誰だ? 『クルーガ王国では忍者軍団の頭領をしています』とか言ってみたり、『抵抗勢力の一人として活動しています』と言ってみたり。設定がぶれすぎている。お前の目的はなんだ? 返答次第ではお前がここで死体として転がるだけだ」
パッツィーの口角が不敵に歪む。
それが本性だと言いたげに。
「……ふふふっ、クルーガ王国の国王を殺してもらいたいのは嘘偽りがない願いです。彼がギルガント化したかどうかは定かではありません。ですが、殺してもらいたいのです、ミリアルド様に」
「それが本性か。俺に国王殺しをやれって事なのか?」
「はい。あなたならば、必ず引き受けてくれるとは思いましたので」
「何故そう思う?」
「ミリアルド様、あなたは私には逆らえない。それが私の自信です」
パッツィーの口元に勝利を確信しているかのような笑みが刻まれる。
「……阿呆か? 俺は報酬で動く男だ。逆らう云々の話はない」
ミリアルドはそんなパッツィーを力のない瞳で見やりながら、
「俺達が見惚れるくらいの報酬を持って、おととい来やがれ」
そう言った後、深い深いため息を吐いた。
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