『優秀な兄PTとクズの弟PT』 最終話


「……何故、私達は敗北したというのだ……」


 シンフォルニア・アーシュタインはアリーネ、清姫、マルグリットの敗北を目の当たりにして愕然としていた。


 負けた事が夢であるとさえ思っている節があった。


「俺達は強い。ただそれだけだ」


 ミリアルド・アーシュタインはさも当然といった様子でそう告げた。


「その力を何故平和のために使わない?」


 にわかには信じられないという表情を隠しもせずに問う。


「平和? それって金になるのかい?」


「弟よ。貴様こそ何を言っているのだ。お金よりも尊き物が平和ではないか」


「平和になっちまったら、金が稼げないじゃないかよ。それどころか、美味いタダ酒や女が漁れなくなる。金にならない平和なんてまっぴらごめんだね」


 ミリアルド・アーシュタインは首を横に振って、やれやれだぜと言いたげにおどけてみせた。


「それが勇者の武器を使える者の言う台詞か!」


 激情にかられたように、シンフォルニアは感情をむき出しにして叫んでいた。


「勇者である事を俺が望んだ事は一度たりともない」


 ミリアルドはシンフォルニアの目を見ながら、真顔でそう返答した。


「貴様は!!」


「それに、俺はな、兄貴と違って勇者が使える武器を全て扱えるワケじゃない。いわば、半端者の勇者だ。あくまでも二番目、いや、勇者の補欠みたいなもんだ。二番手っていうか、二番目の勇者パーティーなんだからよ、好きにさせろよ」


「そんな考えが許される世界だと思っているのか! 今、世界はギギルガント帝国の危機にさらされ、人類の存在さえ危ぶまれているのだ! それに、お前という奴は!!」


「俺達は世界平和のために活動しているからな、そう言われる筋合いはない。ただし……」


 そこで言葉を切って、ミリアルドはにんまりと笑い、


「金、女、酒のためだがな」


「何故、善意で動かない! それこそが人の道……いや、勇者の道であろうが!」


「は? 善意で女は抱けないだろ? 善意で金をくれるのか? 善意でタダ酒が飲めるのか? 違うだろ?」


「しかし、それでは……」


「俺達は十分な対価をもらわない限り本気にはなれない。兄貴達とは違うんだよ。平和のためという善意だけで本気にやれる兄貴達のようなパーティーにはなれないんだよ。だから好きにやらせろ」


 もう結論は出ただろう、と言いたげにシンフォルニアに背中を向けた。


「ああ、そうだ」


 ミリアルドは一旦立ち止まり、シンフォルニアを顧みた。


「兄貴達の敗因は、平和のための勝負じゃなくて、俺達との競争だったからだよ。本気になれるわけはないだろ、俺達相手に」


「……言われてみれば確かに」


 その言葉を背中に受けて、ミリアルドは顔を元の位置に戻して、再び歩き出した。


「……さて、約束通り、あの女を抱かないとな。一晩で俺なしじゃいられない女に調教してやるよ。ははっ、それだけが楽しみだったんだよ、兄貴と勝負していてもよ!」


 そんなミリアルドを追うかのように、エメラルダがまずは現れると、


「私は金銀財宝が漁りたい! 王子でもいたら寝てあげるわよ。もちろん報酬は金銀財宝よね」


 シシット・ブラウナーがどこからともなく現れ、


「レベルの高いパンツはどこじゃ、パンツは! 姪のパンツなど面白くも何ともなかったのじゃ!」


 アイアンウィル・ディメーションがさも当然というふうにシシットの後を歩く。


「……まだ足りない。自己愛が足りない。あの侍のようなブスでは満たされない」


 シンフォルニア・アーシュタインはそんな四人の後ろ姿を見て、勇者としての実力がまだまだ不十分であり、平和を取り戻すにはまだまだ修行しなければならないと思ったのであった……。







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