『優秀な兄PTとクズの弟PT』 その11
マルグリット・シーサードが意識を取り戻した時には地面に倒れていた。
悪魔のような元司教エメラルダ・フォン・ヴァナージと激戦を繰り広げていた記憶があるのだが、とあるところでぷつりと記憶が途切れており、どうして倒れているのかさえ思い起こすことができないでいた。
「……ッ」
身体を動かそうとするも、腕や足を上げるどころか、指さえ動かす事ができない。
息ができる事と、声が出せることがせめてもの救いだった。
「さすがは司教様。ゾウさえも三日は動けなくするしびれ薬がたった数分で効力が薄れてくるだなんて、司教様は凄いわ」
エメラルダがマルグリットの顔色を知るべく上からのぞき込むように見た。
「……あなたは……卑怯者……ですね」
「ふふっ、最上級の褒め言葉ね。あなたと本気でぶつかり合ってもただただ消耗するだけで意味がないのよ。こういう手段しかなかったのよね」
エメラルダは満足そうに頷くと、前屈みになって、動けないでいるマルグリットの目と鼻の先に顔を近づけた。
「……くっ。殺しなさい。辱めを受けるなど……司教として……」
しびれ薬の影響を受けてか、たどたどしくも、威厳のある言葉を発する。
「安心なさい。殺しはしないわよ。あなたを殺したりなんかしたら、私が恨まれちゃうもの。信者にも、全知全能の神様にも。だから、殺さない。安心して」
エメラルダは身体を起こして、
「このままで終わりじゃ面白くないわよね。そうだ。いい事してあげるわね」
とっておきの悪巧みを思いついたとエメラルダの顔に書いてあった。
「……止めなさい……その顔は……」
マルグリットは逃げようとするも、身じろぎをすることもままならず動けない。
「あの堅物のシンフォルニアに片思いしているんでしょう? この私が恋のキューピットになってあげるわ」
エメラルダは不敵な笑みを隠そうともせずに見せ、
「囚われの姫様を救出した勇者って結ばれるものよね?」
ちょっとした神聖魔法を発動させて、動けないでいるマルグリットの衣服を光の粒子へと変える事で裸にした。
裸にされた事が分かっていながらも、身動きが取れないマルグリットは遺憾さで顔を歪ませながら、エメラルダの事をキッと睨み付けていた。
「あら? 裸にするだけじゃ物足りないわね」
エメラルダは腕を組んでしばらく思案顔をして、
「手足を縛っておくわね。とても扇情的な外見になるわよ。これで、あの堅物のシンフォルニアも抱くわよね。ふふっ、男だもの」
「……エメラルダ、あなたは絶対に許しません。神の名において」
「なら、私は当然許されるわ。神の名において」
マルグリットの手と足を縄で縛った後、エメラルダは猫のように背筋を伸ばした。
「あなたの穢れ一つ無い裸体を見ていたら、男を漁りたくなってきちゃったわ。とびきり金持ちの男をひっかけて、とびっきりのお宝を拝借したいわね。ああ、マルグリット、あなたに嫉妬して仕方が無いわ。あなたみたいな清楚な聖女であれば、もっと良い男が選り取り見取りだったでしょうに」
そんな事を口走るエメラルダをマルグリットは理解できないといった目で見つめていた。
理解できるはずはなかった。
わかり合えるはずもなかった。
マルグリットは聖女として完璧であるのに対して、エメラルダは『シーフ』として完璧であるのだから……。
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