『優秀な兄PTとクズの弟PT』 その10
地上に降り立った清姫が隊列を組んで行進しているギルガント兵に紛れた。
清姫を追うように雲から降りて地べたに両足をついて肩をいからせながら仁王立ちするアイアンウィル・ディメーションは清姫の出方を窺う。
しかも、アイアンウィルの表情は仁王像そのものといった様相であった。
風の音と共に、ギルガント兵達の身体が無数に切り刻まれ、血と共に舞い散る。
「お前、また我が自己愛を邪魔する。許さない」
マントの中で何かしながらも、アイアンウィルはふっと息を吹いて風を弾き飛ばした。
清姫が一瞬だけ姿を現すも、すぐにギルガント兵達の影に隠れて見えなくなった。
すると、風の音と共にギルガント兵達の肉片と血が飛び散る。
清姫がギルガント兵を殲滅するついでにアイアンウィルをも攻撃していたのだ。
アイアンウィルには、ギルガント達に紛れて自己愛行為を邪魔する女としかうつっていなかった。
「ふん!」
清姫の一撃を気合いで防いだかのように風のような斬撃をまたしても弾く。
たった二振りではあったが、清姫とアイアンウィルの周囲からはギルガント兵達が無残な姿となってしまっていた。
異変に気づいた他のギルガント兵達が足を止め、武器を構えながら、清姫とアイアンウィルとを包囲し始める。
「……お前達、邪魔するか。我が賢者行為を」
アイアンウィルの額に太い血管が浮かび上がるなり、
「渇ァァァァァァァァァァァァァァァツッ!!」
そんな気合いの入ったかけ声と共に、アイアンウィルを中心として衝撃波が円を描くようにして広がっていった。
衝撃波は二人を取り囲んでいたギルガント達を即座になぎ払う。
ギルガント兵達は血を穴という穴から血を吹き出しながら倒れていった。
清姫は避けようともせずにその衝撃波を受けたが、ギルガント兵達とは格が違うのか、傷一つついてはいなかった。
「……不細工のくせに生意気」
アイアンウィル・ディメーションが『賢者』と呼ばれるのには理由がある。
常にいじり続ける事によって常時『賢者モード』であるのは、アイアンウィルの性癖から来る呼称にしか過ぎない。
火、土、氷などといった自然界の力を魔法によって表現する以外にも、動作、息や声などに魔法を込める事によって独自の魔法を展開することができるのである。
シシット・ブラウナーが独自の魔法を生み出す天才というのならば、アイアンウィル・ディメーションは自分自身を魔法の媒介にできる天才と言える。
それは自己愛が高いが故になせる魔法とも言える。
「……面妖な」
周囲のギルガント兵達がアイアンウィル・ディメーションの一喝によって軒並み倒されていて、その場に立っているのは清姫だけになっていた。
清姫は手ぶらの状態でアイアンウィルと対峙している。
「お前、許さない」
アイアンウィル・ディメーションは平生とは異なり、怒気を孕んだ目で清姫を睨み付けていた。
先ほど、シシット・ブラウナーが降りた後のレインボーロードで自己愛に勤しんでいるときに、清姫の一撃を食らわされて地面へとたたき落とされた事が起因となっていた。
自己愛行為を邪魔されたのが、アイアンウィルの逆鱗に触れたのだ。
「拙者を許さない? 戯れ言を」
清姫は屈託のない笑顔になるなり動いた。
清姫はアイアンウィルの目の前に瞬時に移動して刀を抜くかのような動作をしている中、動く前の清姫が残像として元いた場に留まっていた。
「お前、鈍足」
アイアンウィルは蔑むようにそんな言葉を投げかけて、清姫の動きを見透かしていたかのようにマントの中から何かを投げつけた。
「ッ?!」
アイアンウィルの動きを見きれなかった清姫が目をカッと見開き、何が飛んで来るのか見定めようとした。
だが、それが誤りであった。
最初から清姫の目を狙っていたかのように白濁として濁った液体が見開かれた目に直撃した。
「ちっ?!」
清姫は液体が飛んでくるとは思ってはいなかった。
慌てて目を閉じても後の祭りで、目を開くことができないほどの痛みに襲われ、動きが鈍った。
「自己愛の洗礼を受けろ、不細工が!」
アイアンウィルのマントの下からぬらぬらとして濡れそぼった拳が飛び出してきて、隙だらけとなってしまっていた清姫の顔面を何の躊躇いもなく殴りつけた。
清姫はガードする事ができずに殴り飛ばされて、もんどりを打って倒れた。
「……あ、悪臭が……拙者の鼻が……も、もげる……」
起き上がる気力さえわかないのか、発酵でもしていそうな液体が付着していてか清姫は苦しそうに顔を歪ませて、その場で蹲っていた。
「明鏡止水、恐るるに足らず」
アイアンウィル・ディメーションはようやく怒りが収まったのか、いつも見せている賢者モードの顔へとなっていた。
「自己愛こそ最強。一週間分の自己愛の前には、侍などままごと」
そう呟いた後、倒れている清姫を見やりながら自己愛を再開した。
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