『優秀な兄PTとクズの弟PT』 その7



 アイアンウィル・ディメーションが清姫と対峙したのを横目でちらりと確認しつつ、ミリアルド・アーシュタインは猪突猛進とばかりに速度を上げた。


「あいつは俺の獲物だ!」


 シンフォルニア・アーシュタインが背後から迫ってくるのを肌でひしひしと感じながらも、後ろを顧みる気はさらさらなかった。


 後ろにいる兄の存在を認知することは負けを意味するような気がしてならなかったからだ。


「先には行かせません! ミリアルド・アーシュタイン!!」


 天よりマルグリット・シーサードのいくらか怒気を含んだ声が降り注ぐ。


 どうやらシンフォルニアの邪魔をしているかのように行動しているミリアルドに対して憤りを感じているようではあった。


「エメラルダ!」


 ミリアルドはマルグリットの声がした方を一顧だにしない。


 興味がないのではない。


 マルグリットの相手はもう決まっているからだ。


「巨神兵カーラン! 彼の者を捕らえよ!」


 マルグリットの司教としての絶対的な能力は、治癒魔法などを自在に操れるのは当然として、他のプリーストと違って、神や神の使徒を一時的に召喚できる事にある。


 おそらくは、使徒である巨神兵を召喚したのであろう。


 巨神兵カーランが巨大すぎる故か、近辺にそそり立つほどの大きさの白い手が雲を割って空より降りてきた。


 ミリアルドを掴まえようとしているかのように手を広げて迫ってくる。


 だが、ミリアルドは怯まない。


「他の男に手を出すなんて、私と同じでただの阿婆擦れじゃない」


 別の方角から同じような大きさの白い手が伸びてきて、ミリアルドを掴もうとしていた手を邪魔するかのようにその手首をがっしりと掴んだ。


「またあなたなの! 私の能力をまた盗んで」


「ごめんなさいね。私は泥棒猫の特性持ちなの。盗みたくなるほど魅力的なものがあると、ついつい盗んでしまうの。シーフとしてのサガね」


 おそらくは、マルグリットが召喚した巨神兵カーランをエメラルダが盗んでコピーしたのかもしれない。


 エメラルダが意のままに操れる巨神兵を生み出し、本物の巨神兵カーランの手を掴んだのであろう。


「あなたには矯正が必要のようですね。神の名において、絶対的な矯正が」


「あなたに私が矯正できて? 私は性根からねじ曲がっているのよ」


「知っています! そのねじ曲がったものをまっすぐになるよう導くのが私の使命です!」


「楽しそう。ならやってみなさい」


 二つの大きな手がもみ合いへし合いを開始して、大気が揺らぐ。


 ぶつかり合う度に衝撃波が起こり、轟音がとどろき、周囲の地表が揺らいだ。


 そんな中であっても、ミリアルドとシンフォルニアは、将軍の首級を目指して飛び続けていた。


「俺が先にやるって決まっているんだよ!」


「貴様の思い通りにはさせない! それが兄としての教育だ!」


 ミリアルドもシンフォルニアも本能で悟っているからだ。


 この程度のギギルガント帝国の部隊、自分のパーティーが本気を出せば、蹂躙するなど容易いと。




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