『優秀な兄PTとクズの弟PT』 その6
立ち塞がろうとしていたアリーネ・ブラウナーを、シシット・ブラウナーが引き受けたのを認めるなり、ミリアルドは速度を上げて、土の壁とアリーネの出現でまごまごし始めていたシンフォルニアを抜き去った。
「お先に!」
眼下に広がるギルガントの隊列の先が視界に入ってきた。
千人以上の軍隊であるが故に、隊列はさほど長くはなかった。
列の最後尾に他の一兵卒の数倍はあろうかと思しき巨躯のギルガントがいた。
着ている鎧は他の兵士とは異なり、黒光りしていて、オリハルコンかなにかを使用した将軍専用の装備だというのが窺えた。
「将軍をやるのは、この俺しかいないだろうが!」
ミリアルドの目標は、この軍隊のトップであろうレオベスト・マーランド将軍ただ一人であった。
他の雑魚など目もくれない。
そんな必要など微塵も感じてはいないからだ。
通常時使用している始皇帝の剣、そして、奥の手である聖剣ラストレギオンの前では、将軍はおろか有象無象の雑魚など刀の錆にさえならない相手しか思っていない。
「飛んで火に入る夏の虫」
渋い女の声がミリアルドの鼓膜を震わせた。
「ちぃ!?」
ミリアルドは咄嗟に始皇帝の剣を抜き放ち、声のした方向から吹いてきた風をたたき落としながら、翼を逆に羽ばたかせてその場で制止した。
「侍かよ!」
ミリアルドは厄介な相手が立ち向かってきたものだから、ついつい舌打ちしてしまった。
おそらくは、首級を取ろうとしているギルガントの将軍よりも厄介な相手なのだ、清姫という侍は。
「物理法則を無視して! 清姫、お前は相変わらず、何なんだ!」
清姫は空中に立っていた。
そこに地面があって、立っているのが当然といった態度で、桜が織られた白い羽織に黒い袴を着た清姫がミリアルドを見据えていた。
腰まである長い黒髪。
繊細そうでいて綺麗な黒髪が風が凪がれていて、ゆらゆらと揺れている。
その表情は目を閉じているが細部まで読み取れないが、風に揺られている事を愉快に思っていそうではあった。
奇怪なのは、侍であるのに腰に刀を佩いてはいない事であった。
普段は威嚇もかねて正宗を装備している時があるものの、本気を出さざるを得ない戦場では刀を下げてはいない事がある。
構えさえ見せる事無く相手を斬る事ができる神速の抜刀術が清姫の切り札であるからだ。
「拙者の明鏡止水に不可能はない」
涼しげな笑みを口元に表した。
肌を焼くような熱がどこからともなく発生して、ミリアルドの肌をじりじりと焦がす。
「塵芥と化せ。おかずにもならぬ不細工が」
マグマかと思えるほどの業火が地表より噴き上がっていた。
その辺りにいたギルガント兵達は、己の身体が燃え尽きた事さえ察する事ができたのか不明瞭であったほどの不意打ちであったのだろう。
業火の付近にいた者達は、数秒のうちに灰と成り果てていた。
「……ふむ」
清姫は清涼感のある笑みを絶やさずに、業火をはらりと避けた。
もちろん空中に立ったままである。
「俺の自己愛修行、邪魔した者、許さない」
そこにいたのは、アイアンウィル・ディメーションであった。
レンボーロードの上にいたはずなのだが、今では黄色い雲の上に乗り、滅多に見せる事のない鬼のような形相で清姫を睨め付けていた。
「アイアンウィル。そいつの相手は任せた」
二人が対峙するのを好機とみて、ミリアルドは背中の翼を羽ばたかせる。
ミリアルドが目指すのは、もちろんギギルガント帝国の将軍の首であった。
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