『優秀な兄PTとクズの弟PT』 その4





 ミリアルドは不死鳥の翼を、シンフォルニアは天使の翼を背中にはやしたような状態で顔を見合わせた。


 二人はどや顔で数瞬睨み付け合うなり、


「エメラルド! いつもので行くぞ! 後のお二人さんも頼むぜ!」


 ミリアルドがそう大声を上げると、ミリアルドの後ろで控えるように立っていたエメラルダが、


「一人あたり金貨千枚の仕事だから張り切って当然だけど」


 エメラルダは手をすっと伸ばして、ミリアルドの不死鳥の翼に触れた。


「人使いが荒いのは考えものね」


 するとどうだろうか。


 エメラルダの背中にも、ミリアルドとほぼ同系列の不死鳥の翼がはえたではないか。


 ある程度の能力であれば『盗んで一時的に自分のものにする事ができる』アビリティがエメラルダにあった。


 シーフ属性のたまものと言っても過言では無く、シンフォルニアの装備の能力は盗めないが、ミリアルドであれば盗む事が可能なのであった。


「勢いで出てきちまったが、敵がどこにいるのかわからねえんだ。いつもの奴で、俺達を敵の居場所まで導いてくれ」


 エメラルダはこれ見よがしに嘆息したが、拒否するような態度はこれっぽっちも示さずに、


「はいはい。神様の言う通り」


 投げなりにそう言って、空に手を掲げると、遙か上空に一縷の光がとある方角を指し示すように差した。


「ほほぉ、あっちか」


 ミリアルドは何かを想像してか、舌なめずりをして光が示す方向を見やった。


「さすがは三流ですね、元司教様」


 マルグリットの小馬鹿にするような声が矢のように放たれるも、エメラルダは鼻で笑って、


「勇者を一本釣りしようだなんて思惑で動いている性根の腐ったような現司教様と違って、手を抜くのが大好きなの。悪い?」


 エメラルダとマルグリットは営業スマイルのような見てくれだけは美麗な笑顔を取り繕い、お互いを牽制しあった。


「エメラルダ、兄貴の肉便器なんて相手してないで、とっとと行くぞ。シシット、アイアンウィル、後から付いてこい! この戦いは早い者勝ちなんだよ! 敵将の首級をあげるのは、この俺だ! そして、俺はあの女を抱く!」


 ミリアルドはマルグリットやシンフォルニアを一顧だにせずに翼を羽ばたかせて、空へと飛翔した。


「なっ?!」


「貴様、またマルグリット様を愚弄して!! 待て、愚弟よ!!」


 憤然としているマグリットと、咎めるに刺す視線を送るシンフォルニアのそんな怒声を背中に受けても、ミリアルドは気にもとめない。


「お先に行くわね、肉便器さん」


 エメラルダは女神のような笑みを表情に貼り付けると、ウィンクをマルグリットに飛ばして、ミリアルドを追うように翼をはためかせて空へと舞い上がった。


「エメラルダ!! あなたという人も!!」


「ふふっ、あなただって身体を武器にするものね、ふふっ」


 反論を聞くどころか、とりあえず爆弾でも落としておくかとばかりにエメラルダはミリアルドの跡を追った。


「……さて、わしらも向かうとするかのう」


 シシット・ブラウナーは顎に手を添えて、ミリアルドとエメラルダの姿が見えなくなりつつある方向を目を細めて見やった。


「……」


 アイアンウィルが無言で頷くと、


「我が愛しのアリーネよ。メルヘンっぽい移動方法で向かわんかね? もちろん報酬は愛しのアリーネの脱ぎたての下着じゃがな」


 下劣な面持ちになって、姪のアリーネをじろじろと視姦でもするかのようになめ回すように視線を絡めた。


「ひぃっ?!」


 そんな視線で見られたものだから、アリーネは寒気でも感じたのか、ぶるっと身震いをして、


「メルヘンだかなんだか知りませんが、その場で舌を噛んで死んでください。それが世のため、人のためです」


 汚らわしいものでも見るかのような視線を返して、僅かながらも対抗の意思を示した。


「ほっほっ! 言うのう。言うようになったのう。わしが生きている方が世のため人のためじゃ。わしの飽くことないパンツへの欲望がこの世を救うのじゃ! パンツは世界を救うのじゃ!」


 世迷い言のような言葉を繰り出すシシットを、アリーネは軽蔑しきった眼差しをシシットに一瞬だけ向けるも、それ以上は見ていられなくなったのか、さっと顔を逸らした。


「……アリーネの蔑むようなその目、いいおかず」


 アイアンウィルが誰にも聞こえないような声でそう呟いた。


 その呟きは誰の耳にも聞こえてはいなかったためか、これといった反応を顕著に表した者はいなかった。


「メルヘン魔法・レンボーロード。ほほいの、ほい」


 アリーネが関わり合いを持ちたくはないといった態度を取り始めたのに勘づいてか、シシットは深いため息を吐くなり、ごにょごにょと詠唱をした。


 詠唱が完了するなり、シシットとアイアンウィルの前に虹が架かった。


 虹が架かったというべきか、虹が地面からはえてきたというべきか。


 その虹はミリアルド達が消えた方面へと『道』のように続いていく。


「先に行かせてもらうかのう」


 シシットは目の前にできた虹にひょいっと飛び乗った。


 アイアンウィルも倣い、虹に乗る。


「メルヘンなんじゃがのう。アリーネの好きそうなメルヘンなんじゃがのう」


「途中で落ちてくたばってください、糞ジジイ」


「ほっほっ! そう言われると長生きせんといかんな。アリーネの胸とお尻とフェロモンの成長を見守るためにも。ほっほっ!」


 虹が動き出した。


「……アリーネの罵詈雑言。……うっ?!」


 シシットとアイアンウィルを運搬するように、初めはのっそりとではあったが、次第に勢いを増し、風を切る勢いへと変わっていき、最後の方では放たれた矢以上の速度で虹の道がエスカレーターであるかのように稼働していた。


 瞬く間に、シンフォルニアの前から二人の姿が虹と共に消えてしまった。


「無礼で下品なあの方々はどうにかならないのですか?」


 マルグリットが心の底にまだ憤りが溜まっているかのように言葉を発すると、


「気にする必要はない。あの者達は勇者になりきれなかった半端者だ。所詮は二番目でしかないんだ。好きなように、言いたいように言わせておけばいい。彼らはただの無法者でしかないのだから」


 シンフォルニアが勇者の貫禄と言える優美な笑顔をマルグリットに向ける。


 すると、マルグリットは頬を朱色に染めて、そっとシンフォルニアから顔を逸らして、口をつぐんだ。


「私達も赴かねば。愚弟の好きにはさせない」


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