『優秀な兄PTとクズの弟PT』 その3


「言葉巧みにビート十四世はおろかシーフィー様をも誘導するとは! 貴様、何を考えている!」


 大広間を出たミリアルド達をシンフォルニア達が後を追うように出て来て、シンフォルニアがそう問いただすように声を荒げた。


「決まってんだろ? あの女とやりたいだけだよ。俺は自分の欲求に素直に従っただけだ。っていうか、人間の根源的な欲求に従っているまでだ」


 ミリアルドは口角をつり上げて、不敵に微笑んだ。


「それが勇者が使う事を許されている武器を扱う者のやるべきことか!」


 シンフォルニアやミリアルドが使用している武器や防具は、勇者であると認められた者しか扱う事ができない。


 手に取り、普通に武器として使用する事は誰にでも可能である。


 だが、武器や防具が持つ『能力』を発動させる事ができるのは『勇者』と認定されている者のみだ。


 ミリアルドが発動させた『フェニックスウィング』


 シンフォルニアがよく使用する『ワルキューレ・オペレーション』


 そういった武器や防具が持つアビリティを発動させる事ができるのが勇者だけである。


 ただし、ミリアルドは勇者としての純度が百パーセントではないからなのか、一部の武器や防具の能力を発動させる事ができないでいた。


「お前は何を言っているんだ? それでいいだろ。自分の欲望の代価として、人を救ってあげているんだ。それのどこが悪いっていうんだ?」


「人を救う事を糾弾する気はない。だが、救った人々から金品を求めたりすることは感心しない」


「は? 何ら見返りを求めないお前とは同じように人助けを行っているだけだ。その見返りとして金品を要求したりしているだけだ。その要求がちょっと相場以上かもしれないが、俺達はこれっぽっちも悪い事はしていない」


「それでは搾取ばかりする暴君と変わらないんじゃないか」


「それは違うね。俺は『助けて』の声に応えているだけだ。きちんと人助けをしている。その見返りだって言っているだろ」


「自分の欲望を満たしたいだけの屁理屈を」


「ああ、屁理屈だ。俺達は俺達のやり方で生きているだけだ」


 話はこれで終わりだと言いたげに、ミリアルドはニヤニヤと欲望まみれの笑みを口元に刻んで歩く速度を上げる。


 ミリアルドの後ろを行くエメラルドと、シンフォルニアの三歩後ろを歩くマルグリットが視線だけで火花を散らしていた。


 さらに、その後ろではシシットはぺたぺたと駆け足気味でシンフォルニアを追いかけているアリーネにいやらしい視線を送っていた。


 大きなマントの下で何かし続けている事に不審を抱いているのか、清姫が暗器か何かを隠し持っているとでも思っているようで、刀の柄に手をかけて、即座に抜刀できるよう待機している。


 シンフォルニアが駆け足でミリアルドを抜き去る。


 即座にミリアルドも走り出し、シンフォルニアを抜く。


 抜かれたらまたシンフォルニアがムキになって抜き返し、抜かれたミリアルドがさらに頬を引きつらせながら抜き返していた。


 そんな二人に他のパーティーメンバーもお互いに火花を散らしながら付いて行っていた。


 抜きつ抜かれつを何度か何度か繰り返した頃には、二人のパーティーは城の外へと出ていた。


「開けよ! 俺の翼! 不死鳥の翼フェニックスウィング!」


 と、ミリアルドが炎の翼を出すと、


「天使よ、我に空を羽ばたく翼を! エンジェリックウィング!」


 シンフォルニアが対抗してか、天使の翼をその背中に生やした。


 もちろんシンフォルニアが装備している天使の羽衣に付与された効果によって天使の翼を自在に使用する事ができるのであった。


 天使の翼が羽ばたいた瞬間、シンフォルニアの姿が後光に照らされた神々しい姿となった。


 ミリアルドが舌打ちをすると、シンフォルニアは優美に笑って返した。


「俺はあの女とやるために兄貴には負けられないんだよ!」


「愚弟の野望は私が打ち砕く!」


 ミリアルドとシンフォルニアは、同時にそう叫んだ。

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