『優秀な兄PTとクズの弟PT』 その2
「……噂の事実がようやく分かった。勇者様の武勇伝が同時多発していた理由は……兄弟が動いていたというのか」
ビート十四世は得心したかのように何度か頭を縦に何度か振った。
「ならば話は早い。我らの国を……」
「皆まで言わなくてもいい。俺達はもうすでに知っている事だしよ」
ビート十四世の言葉を遮り、ミリアルドが一歩前に出た。
「ギギルガントの将軍を倒せるレベルの猛者となれば、指で数えられる程度しか存在していない。その上、救援要請に応えるとなると、ほぼ特定できる。シンフォルニアくらいなものだろうよ。それを期待しての救援要請だったんだろう?」
「その通りだ。あなたは……」
「ミリアルド・アーシュタインだ。勇者と呼ばれるにはほど遠い俗物だが、実力は兄であるシンフォルニアとひけは取らない」
「ミリアルド・アーシュタイン。意外な誤算があったとだけは言っておく」
「俺達は不確定要素だ。不確定様相である以上、それなりの欲求をするのは当然と言える。シンフォルニア・アーシュタインとは違い、俺達は善意で行動しているワケじゃない」
「国王よ、こいつの話に耳を貸してはならない」
シンフォルニアがミリアルドに並ぶように立ち、御注進とばかりに口を挟む。
「兄貴は黙っていろ。俺はビート十四世の腹づもりが知りたいんだ」
「……何が知りたい?」
「シンフォルニアはおそらくは善意だけで動いて報酬を求めはしないだろう。だが、俺達は違う。将軍を倒したときはきっちりと報酬を請求する。つまりは……だ。シンフォルニア以外の誰かが将軍を倒した時、それなりの報酬を用意する気があったのかどうかが俺は知りたいんだ」
ミリアルドは一歩前に出て、ビート十四世との距離を縮める。
「何故そのような事が知りたい?」
「自分達の国を守る覚悟があるのかどうか知りたいって事だな」
ミリアルドはビート十四世の心を見透かすような、そんな目をした。
「耳を貸してはダメです! この男は口だけは達者なのです!」
シンフォルニアがビート十四世とミリアルドの間に立ち、ミリアルドの言葉を遮るようにしてまっすぐな眼差しを向けて正対した。
「ミリアルドの言わんとする事は分からんでもない。どうすれば、覚悟が分かるというのだ?」
ビート十四世は、シンフォルニアを見ず、ミリアルドに目を据えたままそう問いかけた。
「将軍を倒した際の報酬は金貨四千枚。それと……」
ミリアルドはビート十四世の傍にいる少女を指さし、
「その女と一発やらせろ。国王の娘か何かなんだろう?」
「なっ?!」
ビート十四世ではなく、最初に狼狽したのはシンフォルニアだった。
それに続くように広間にいた者達が、
『痴れ者が何を言う!』
『なんという不埒な事を!』
『この者達をたたき出せ!』
『無礼者が!』
などと声を上げて喚き始める。
そんな怒号を浴びせかけられていても、ミリアルドは怯まない。
挙げていた腕を降ろして平然とした顔で聞き流している。
「我が娘を一夜差し出せと? それで我が国を守る覚悟が示せるというのか?」
ビート十四世はさすがは国王であった。
広間にいる有象無象とは違い、国王は聡明であるようだ。
「ああ。他人に助けを求める。けれども、自分は何も出しません。それは人としてどうなんだ? ギブアンドテイクが基本のはずなのに、ギブか、テイクのみを求める。それって不公平じゃないか? いや、不公平じゃない。一方的に利用しようとしているんじゃないか? だから、俺は報酬を求めるんだ。娘を一夜差し出す程度のこと、俺の力を求めるのならば、やって当然のことだろう?」
「ミリアルド、お前は何を考えている!!」
シンフォルニアがミリアルドの胸ぐらを掴み、今にも殴りかかろうとするも、
「兄貴は分かっているんだろう? 俺は金女酒の事をしか考えてない。あの時から俺は自分の欲望に素直に生きる事に決めたんだ。兄貴は自分の正義を全うすることを決めたようにな」
シンフォルニアの手を振りほどき、余裕がまだまだあると言いたげに不敵に笑った。
何か説教でもしそうな表情を見せるも、シンフォルニアは素直に引き下がった。
「何も出す気がないのに助けを求める。確かにそれは虫がよすぎるというものだな。お前はミリアルドの言葉を聞いて、どう思った?」
ビート十四世は後ろに立っている少女に話を振った。
「至極真っ当な意見だとは思います。他者に求めるばかりで、私達が何も提供しない。それは確かに不公平……いえ、私達の覚悟さえ示してない事に他ならないとも言えます」
「この男に身を委ねても良いというのだな? シーフィーは」
「はい。ミリアルド様が、ギギルガントの軍隊を退け、将軍を討ち取ったのであれば、その時は一夜を共にする事を厭いません」
シーフィーと呼ばれた少女はその言葉が嘘ではないと言いたげに、ミリアルドの目をまっすぐな瞳で見つめた。
「交渉成立……か。お前ら、行くぞ。ギギルガント程度、容易く退けてやる」
ミリアルドは下卑た笑みをシーフィーに向けるなり、きびすを返して、大広間を後にしようとするも、
「シーフィーといったか。ちゃんと孕ませてやるよ」
ミリアルドに続くようにして、シシット、エメラルダ、アイアンウィルがビート十四世に背中を見せる。
「一人当たりの分け前は金貨千枚ね。良い仕事よね」
「金貨千枚あれば、美女の脱ぎたての下着が買いたい放題じゃな」
「ふぅ……すっきり、した」
ミリアルド達は颯爽と大広間を後にして、ギギルガント討伐へと向かう。
「私も向かいます。弟の好き勝手にさせはしない」
シンフォルニアがそう言うなり、早足で大広間を出て行った。
そんなシンフォルニアを追うように清姫、マルグリット、アリーネが続いた。
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