2番目人間

東苑

2→1番 僕もあいつになりたい。


 男子の出席番号2番。

 これが僕の学校生活での定位置だ。

 なぜなら、いつもあいつと同じクラスだから。

 

 あいつはいつも僕の前にいる。

 小学校のときも、中学校のときも。

 4月。年度の初めになると、出席番号1番のあいつの背中が僕の前にある。


 毎年、それがすごく心強かった。


 忘れもしない、中学に上がったときのこと。

 小学校の友人たちとは離れ離れになって、正直すごく心細かった。

 初めての制服、慣れない通学路。

 教室に入っても知り合いはいなかった。

 ただ一人、あいつを除いて。


「おっす!」


 先に登校してたあいつが、教室に来た僕に気付いて手を振ってくれた。


「また同じクラスとか超ラッキーだよな~! よろしく!」


 中学入学初日。

 あいつの存在にどれだけ安心できたことか。

 完全アウェーの中でも友達が一人いるだけで全然違う。

 小学生の頃から積極的に友達をつくろうとしなかったけど、友達って素晴らしい。そう思った。

 

 ボッチだと社会的に死ぬ。そうも思った。


「それじゃ自己紹介始めるぞ~。じゃあ出席番号順で」


 そして年度始まり恒例の自己紹介の時間。

 先頭バッターはこれまた恒例であいつ。そして二番は僕だった。


 別の小学校出身の生徒が多いこの環境。

 友達ばかりの小学校ときとは違う。今までと同じやり方じゃ通用しない……!


 自己紹介で奇を衒うなんて自爆行為。

 故に名前と出身小学校のあとに付けくわえるなら「好きなものはイチゴショート」くらい無難なものがベスト!


 頼んだぜ! 僕も真似して言える話題にしてくれよ!


 小学校のときもそうだった。

 あいつはいつも僕に道をつくってくれる! 


 こういうとき緊張してぱっといいアイデアが浮かばない僕を。

 下手したら名前と「よろしくお願いします」だけで終わってしまう僕を導いてくれる……そう思ってた。


「~小学校から来ました。~です」


 うん、そこまでよかった。


「好きなアニメは……そうですねぇ、たくさんあって迷うんですけど、今推してるのは話題沸騰中のアレですね! 『妹が可愛過ぎて生きるのが楽しいんだけど、幼馴染が機嫌悪くて辛い』、略して妹幼馴染イモオサです! あ、ラノベ原作です! 図書室にあるかもしれないんでよろしくお願いしま~す!」


 はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? 

 

 ちょちょちょちょちょちょちょちょ、ちょっと待って!

 それ自己紹介で言う? 普通言う? 絶対言わん!


 重ねて言うけど、あの瞬間は忘れない。


 あいつの次に自己紹介した僕は何とか話題を変えようとしたけど結局なにも思い浮かばず「好きなアニメは……●〇キュアです」って言っちゃったことも忘れない。


 ……違う、違うんだ! あいつのキラーパスで気が動転してただけなんだ! そんな●○キュア詳しくないし! 妹が見てるから一緒に見てただけだし!


 今でもたまに思い出しては身悶える後遺症に苦しんでるよ。


 でもまあ……ね。

 あの自己紹介のおかげですぐにアニメとかラノベとか好きな友達ができたんだよね。隣の席になったオタク趣味の女の子ともそういう話できたし。


 中学でも居場所ができたのは、女の子とあんなに話せたのは、あいつの自己紹介のおかげ……だな。


 毎年毎年、趣味全開の自己紹介してさ。

 中学二年のときは好きな漫画・ゲーム・ラノベの三種の神器。

 中学三年のときは好きな声優さん。

 ……と、毎年キラーパスを送ってきた。

 やれやれだよ、僕も続いたよ。仕方なく。べ、別にそういうんじゃないんだからね!


 いや確かにあいつのやってることはこれ以上ない自己紹介だし、なにも間違ってないんだけど。


 普通恥ずかしくて言えなくない? アニメが好きとかラノベが好きとか……隠れオタやってる僕の方が珍しいのかな。


 そういう照れがあるからか、僕は結構引っ込み思案なところがある。

 正直、あいつがいなかったら友達できなかったかも。

 中学で仲良くなった友達も、元はと言えばあいつの自己紹介のおかげだったし。みんな、あいつに話し掛けてきて、僕も流れで仲良くなるって感じだった。

 

「今週のジャン○読んだ!?」


 と、言い出すのはいつもあいつで。


「~のイベント、行こうぜ!」


 と、言い出すのもいつもあいつだ。


 同じ趣味を持ってるのに、思い返すと僕から話題を振ることってなかったなぁ……。

 今週のジャン○読んでても、あいつが振ってこなかったら多分話さなかったし。深夜まで起きてアニメの最新話観ても、あいつが振ってこなかったら……。


 僕はいつだってあいつ待ちだ。受動的で、他動的だ。

 それが一般的に見ていいか悪いかは分からない。


 でも、僕もあいつみたいになりたいと思ってる。


 だって話し掛けてもらえるのは、すごくすごく嬉しいから。

 その気持ちをいつもくれるあいつに、今度は僕がと思ってる。


 そして現在。中学を卒業し、迎えた高校入学初日。

 今年も僕は出席番号2番だった。あいつが僕の一つ前にいた。すごく心強かった。

 因みに、今年のあいつの自己紹介は「今期で期待してるアニメ、1話が面白かったアニメ」。

 あいつの自己紹介のおかげで、このクラスにはアニメとかが好きそうな人が結構いることが分かった。マジでありがたい。てか担任の先生もアニオタだった。


 さて前置きはここまで。

 今度は僕があいつになる番。

 ちょっと心臓が痛いけど、まさか死ぬわけじゃないだろう。


「ねえ」

「ん、どしたの?」

「今度さ……イモオサの映画やるじゃん、一緒に観に行かない?」



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