第10話悪夢、ふたたび

一年半ほどの断酒生活から「これからは週1焼酎ロック一杯だけ」に取り組んだオレの志は三日と持たなかった。その"節度ある飲酒"を決めた次の日にはあっけなく飲んだ。正月休みだったせいもあり、「この正月休みが終わってからでいーや」という自分の甘さと休日のスキだらけの時間が何の迷いもなくオレの志を飲み込んだ。まるでアスリートがウォーミングアップをするかのように一日一日と徐々に飲酒の量は増えていき一週間後には4ℓのペットボトルは底をついていた。

断酒生活でそれまで摂取できなかった分を取り返すかのように、自分の本来あるべきペースを取り戻すかのように2度目の飲酒生活は容易に復活した。

しかも飲酒欲求は前よりパワーアップしているようで、かつアルコール耐性も強じんになった感じがした。だから一日に1リットル近い量を飲むのが当たり前になった。ペットボトルも中身が4分の1程度になると焦って不安になってくるので店もローテーションを組んで絶対切らさないように購入した。じゃないと精神的に安定しないのだ。日常に再びアルコールが入り込んでからは食事も夕飯以外は殆ど口にしなくなり、朝はようやく菓子パンをかじる程度で昼飯は一切食べなかった。昼飯を食べると胃に血液が集中し、手足など末梢神経への血行不良ですぐこむら返りを起こすのだ。足なら経験ある方はいると思うが手がこむら返りをおこすのだ。特に細かい作業をするときや過度に手を使っているとグリッと筋がひっくり返る感じでこれがまた痛いし作業もその都度中断しなければならない。それと同時に仕事を早く終わらせて家で酒を飲みたいという渇望感があったからだ。だから仕事は早かった。手の震えも飲んで半年もしないうちに出ていたが禁断症状は震え以外にも生活に支障をきたすようになっていった。まず、不安感や焦燥感といった感覚が朝目覚めたあと徐々に襲ってくるのだ。オレは毎日車を運転するがまわりの車の運転者や歩行者など自分の目に入る全てのものが敵に見えてくる。「オレのことをアルコール依存者だって不審そうな目で見やがって、ぶっ殺すぞ!」と勝手に妄想が膨らんできてイライラが止まらず、仕事の最中も「早く終わらせないとオレは一生ここから出られない」と現場の部屋の中でもがき苦しむのだ。他にあったのが作業中、部屋のキッチンカウンターの上に生首が置いてあるのが視界に入ったりベランダのありえない角度から人がのぞき込んでいたり、現実か錯覚かわからない状態になったりした。そうした不安や焦燥感につきまとわれながら帰宅すると同時に酒を冷静さを装いながら一気に流し込む。少したつと焦りや不安も消え始め安堵の瞬間を迎えるという繰り返しだった。ここまで来ると自分自身の生活行動全てにアルコールがないと活動できないようになっていた。まず休日も車の運転もアルコールを一杯やってから運転する。家族の行事などどこか行くときも必ず一杯やる。近所のコンビニにタバコを買いに行くだけなのに酒を飲んでから行く。といった具合で酒を飲まなきゃ行動できないようになっていた。この頃になると家族からも酒について何か言われていたんだが「飲みすぎだ」と注意されたことぐらいしか記憶にない。

大量飲酒から2年目くらいになるといつも嫌なことしか考えられなくなって何かのきっかけで自殺してしまうかもしれないとも思った。そんな感覚から逃れるように酒を飲み続けた。楽しくとか気晴らしでとかそんな気持ちで飲むのでなくアルコールの弊害による底知れぬ不快な世界から逃れる為に、わずかな安堵感を得るために飲み続けるのだ。まさに自分で自分の首を絞め続けながら酒地獄の出口を必死に探し続ける日々だ。


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