第5話そして父子家庭になった。

そして父子家庭になった。離婚当初、どっちが親権を取るかで激しい言い争いになるかと思いきや、あっさりオレが引き取るということに決まった。

実は元嫁が19歳の大学生の時にオレと出会いデキ婚だったが為に大学も中退してハタチでいきなりの主婦になった。付き合いはじめの頃、将来は法律に関係する仕事をしたいと時折言っていた記憶がある。当時のオレは自分の人生の中ではじめて本気で心の底から好きと言える相手に出会った事と将来死ぬまで一緒にいたいという気持ちで元嫁の将来の事など何処吹く風であった。

だから妊娠をきっかけに大学を続けるかどうかという問題も「無理でしょ。」、子供が生まれてからも元嫁は資格を取って仕事をしたいという相談も「家庭があるんだから無理に決まってんだろ。」とオレの言葉ですべて一蹴。

あとから考えればいくらでも選択肢はあったはずだ。大学現役でも子育てできるし、家庭を持ちつつも資格を取り自分の道を歩ける。大変な道のりだからこそ夫婦二人で協力しあい、まわりの協力も得てそれを乗り越えていくことができる。

オレのアルコール脳はそんな事も考えず、自分のことばかり考えていたわけだ。

つまり、心の底から好きになった相手のことなど何も考えずオレの独り善がりと傲慢さで幸せを築けるとでも勝手に思っていたんだろう、酒を飲みながら。

元嫁としてもそんなオレとの生活に不安感や嫌気がさしつつ、離婚後まだ4歳と3歳の娘と三人でどう生きていくか路頭に迷いたくなかったかもしれない。若さゆえ、言葉は汚いが「子供より自分」、「自分優先」。いや、「自分」というものを潔く正直に生きたいという思いが強かったのだろう。

この決断は周りの人間がそれが良いか悪いかなんてとやかく言うべきではないし理解すべきでもない。当事者だけがわかっていればそれでいいと思う。

オレはオレで「自分のことばかり考えてるオマエに子供は絶対渡さない!オレがりっぱに育てる!」なんて強く言い放ったが中途半端で不安定なアル症のオレができるわけない。本音はこれ以上何も失いたくなかった。職も失い、バンドも辞め離婚もしてそのうえ娘達までいなくなったら、他に何もないオレは後は死ぬだけだと思ったからだ。冷静になれば決してそんなことはないのだが、当時は絶望という言葉しかなかった。

そんなこんなで結局は親父がなくなって間もない一人暮らすお袋の実家に娘二人とオレは移り住むことになった。理由は一人で毎日暮らすお袋が不憫で寂しいんじゃないかという思いなんてこれっぽっちで、要は金銭的余裕もなく三人で生活する術も自信もなかったというのが本音だ。

まあしかし、狭いながらも賑やかに新生活を迎えたわけだが気持ちの切り替えもうまくできず過去をひきずりながらのオレはやっと見つけた仕事をやりつつもアルコールの摂取量は増え続けるばかりだった。





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