第3話夢中になれるモノと酒を飲む日々

オレはいつの頃からか退廃的かつ倒錯的で何事にもネガティブに物事をとらえるような性格になった。やはり生まれ持った性質や日々の生活環境から形成されたのだろうと思うが、その闇の中でわずかな光を求め掴もうとするオレも同時に存在する。

オレはアルコール依存症になった。まさかオレがアル症になるとは思わなかったと言えばウソになる。むしろなるべくしてなったとしか言いようがない。

とにかく飲んだ。酒が美味いとか食事と一緒に楽しむといった飲み方ではなく、「道具」として飲んだ。故中島らも氏の「今夜、すべてのバーで」の中で出てくる

”この世から別の場所へ運ばれていく為のツール"まさにそれだ。

アル症については本やネットなどあらゆるメディアで取り上げられているのでここではアルコール依存症になったオレの経緯と個人的な見解を書いていこうと思う。


現在、断酒して3年目になるオレだが今後一切、酒は飲まないと断言はしない。ただ酒を止めているだけだ。今日一日飲まないでいるだけだ。と自分に言い聞かせながら毎日を生きている。逆に言い聞かせないとここまで断酒は続いてないのかもしれない。人生の半分以上をアルコール漬けにしたオレの脳は飲酒に対して完全なる土台が築き上げられているし常にスタンバってる状態だ。いや、ほんとに何かの拍子で自然に当たり前のように飲んでしまう日が来るだろう。別にそれでも構わない。それがオレだしオレの人生だ。他のヤツはうるさい!それだけだ。

16,7の頃から飲みだしたが毎日飲んでいたわけではない。まあ十代特有の興味本位や背伸びをしたくなる感覚でたま~に飲む程度で、むしろ酒はダメな大人の象徴とさえ思っていた。しかしながら酒というものは魔物である。いろんな所から顔を出してくるのだ。

元々、気が弱く内向的かつ、ヒネクレモノのオレを悪魔の水はあらゆる角度から侵入していき、リニューアルしてくれる事に気付いたのだ。生きていれば避けては通れない場面でも酒を飲む事により堂々とその場を乗り切る事が何度かあった。いや、乗り切るというより酒の力で誤魔化すが正解だが。

なかなか踏み出せないでいる最初の一歩を、悪魔の水は勇気や度胸に姿を変えて容易に前に進むことができる潤滑油だ。外に出れば七人の敵がいるというが酒は武器と鎧に姿を変えて、いわば武士にもなれる。

20代の頃はバンドをやっていた関係でまわりの連中も酒好きが多くどこかに集まれば飲む、ライブがあれば飲む、練習の時でも飲むといった具合で何かあればとにかく飲んでいたが病的な飲み方ではなかった。飲まない日もあるしだからといってガマンして飲まなかったというわけでもない。バンドをやってるといろんな不特定多数の人間に出会えるし酒を飲んでいると初対面の相手でも気楽に打ち解けることができる。知ってる顔、仲間が増えていき酒とともに毎日が刺激と楽しさで充実していたように感じる。こんな生活は酒よりも強いドラッグだったかもしれないからこそまだ楽しく飲めていたんだと思う。そんな一方で自立した生活をしたい、親の息にいつも触れている生活から脱したいという思いが強くなり20代半ばにやっと一人暮らしを始めたわけだが、この辺りから独り飲みが強くなった。1Kながらも自分の城を持てたし親からの解放と、もちろんバンド活動やら実家暮らしではできなかった自由な空間がその部屋にはあるはずなのになにか物足りない。

その物足りなさを埋めるように悪魔の水は入り込んでくるわけだ。恐らくいくら楽しく酒を飲んでいても常に監視されているかのような実家暮らしが手かせ足かせとなって悪魔の水をせき止めていたのだが独り暮らしによって制限するものがなくなった。

破滅型でマイナス思考のオレは酒を飲むとプラス思考で前向きに生きているようなヤツに異様な感情を抱く。疎ましく煩わしく、反面少しの憧れを抱きつつソイツを完全否定して自分が絶対存在価値と示す。

ある意味、酒は物事をマイナスからプラスに変え破滅からクリエイティブな思考を生み出すエネルギーを持っていると思う。


独り暮らしの中で仕事は酒の配送をしていたが倉庫の管理が雑なとこだったから在庫取り放題でいつしか自分の部屋がちょっとした倉庫のようになった。だから部屋に帰れば当然のように水を飲むように酒を飲んだ。それからバンドの曲作りやその頃やってたミニコミの企画なども酔った状態で考えるとウマくいった。かもしれないし、感じただけかもしれない。ただ言える事は夢中になれるモノと酒を飲む日々が過去の事や明日の事などをいちいち思うことなく何か自信に満ちていた感じがする。

しかし、所詮はドラッグ。法律で唯一許されている合法ドラッグだ。

大麻、ヘロイン、コカイン、覚せい剤等とアルコールは同レベルだとオレは思っている。依存性が強いか弱いか、遅いか早いかの差だけである。

オレにもやがて斜陽が来るのだ。

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