可能性《みらい》が生み出す罪状

罪とは何だろうか?

人を殺す事?盗みをはたらく事?


確かに彼は其の全ての罪を犯したから、此処では立派な罪人、なのだろう。


でも殺すことは、国が許していた。

盗むことも、まぁ、認められていた。


隣の国を滅ぼして、全てを奪う。

そんな時代に生まれた僕たちに、何故。


何故、そんな罪を与えるのだろう?

さっぱり、理解が出来ない。


裁きを与えている人おまえたち

かれに救われて生きているくせに。


(まるで魔女狩りだな……)


彼はきっと逃げるだろう。

彼はきっと、此の罪を認めはしないだろう。


彼はきっと、


―――――――


「僕の名前を知りたいと言っていたね」


あなたは言う。


「残念、僕も僕の名前を知らないんだ」


追い詰められた状況で出自を明かす

―――其れはあなたの、計り知れない覚悟の証。


此の出来事があって

僕は暫く自分について考えた。


決められた名前 恵まれた出自

与えられた使命 進み続ける時間


全てを【重荷】だと思っていた

あの頃の自分と、向き合ってみたんだ。


君(僕)は僕を静かに見つめている。

ずっと、変わらない姿で。


ずっと、僕を見ている。


ずっと、


───────


君の記憶が目覚める時

僕はやっと器を与えられ

君を探す旅を始められる


君が目的を果たせるように

本当の世界に辿り着けるように


ゆっくり、ゆっくり

近付いていくよ


此の、白夜の世界は

暗澹たる光を讃えるためだけに


混沌で世界を埋め尽くしていくよ

君がはやく、君に戻れるように


全てを、壊していくよ。


其れが僕の存在意義

其れだけが僕を、生かしている。


───────


闇夜を切り崩す残酷な光が

今日も世界に降り注いでいる…


目覚めよ

彼もまた迷える者であり

不完全なる存在


何物とも交われぬ

罪を重ね過ぎたゆえに他ならぬが


其の罪も

他の罪により生み出されたもの


因果の根元を探れ

闇夜の末裔───夢追う暁よ


───────


「待て!盗人!」


あたしは逃げた。

盗人ですって?ぐっちゃぐちゃの店棚から転がり落ちたリンゴを、拾って返そうとしただけなのに!


「お前!あの邸に拾われたらしいな!」

「何だって!だったらもうこのリンゴは売り物にならないじゃないか!お代きっちり貰うからね!」


頭だいじょうぶなの!この人達!

何であたしが触っただけで売れなくなんのよ!?

パパの事も知ってるみたい。だったらあんたたちがあたしに示すべき態度は、感謝でしょーが!!


此れだから敗戦国は!!!


「おい!誰かあのネズミを捕まえてくれ!」

「すばしっこいねぇ!ホンット元軍人の家の子は、育ちが悪いんだから!」


だーれーがーネーズーミーでーすーっーてーーー!?

こーーーんなに可愛いのに!失礼しちゃう


「わっ!?」


いっけない!前見てなかっ…


「…あ!」

「おやおや。全く……誰かと思えばまた、君の仕業なのかい、マイレディ」

「仕業って!あたしは落っこちたリンゴをわざわざ…」

「失敬、各々方。僕の可愛い可愛い一人娘が、何か粗相を働いた様だね」


「あ……いや」

「これはこれは!粗相なんてとんでもない!お嬢様がね、うちのリンゴを拾ってくだすったんですのよ!御礼をしようと思ったんだけどねぇ、逃げ出しちゃって!」


は!!?


「ほぉ。リンゴを。」

「はい!…あ、ほら!このリンゴです!」

「此れはまた、意地汚さが滲み出ているリンゴだ。面白い。3つ貰おう」


…はぁ!?!?


「「…えっ!?」」

「リンゴを3つだ。濡れ衣を被った可哀想なそのリンゴと、君達の店で一番上等なリンゴを2つ。僕が買うと言っている」

「は、はい!すぐにご用意いたします!ほらアンタ!仕事だよ!!」

「いや今うちのリンゴ…意地汚いって…」

「余計なこと言ってんじゃないよ!元はと言えばアンタがあの子を盗人と間違うからいけないんだよ!!」


おーいおいおい

おばさん、さっきそんな事、おくびにも出さず一緒に追い掛けてきたじゃーーーん。

忘れないからね、あの顔!


───────


意地汚いのは僕も同じだ。

この灰色の空の下では…本来のあおを黙視する事も難しい。

世界を救った英雄、其れに名を連ねる騎士。前者を喪い混乱した世界は再び争い始めた。僕ら騎士を歴史の駒にして。


たくさんの友人を殺した。

たくさんの財産を奪った。


たったひとつの国のために。


僕らは来る日も来る日も大地を汚し続けた。


たったひとりの…王を守るために。


空の英雄よ。

君も争い傷付きながら世界を歩いたはずだ。


教えてくれ。

どうして僕らが裁かれるのか。


教えてくれ。

どうして、彼らが僕を裁いたのか。



「・・・なんて、柄にも無い事を考えるのは止めにしよう」

「えっ?」

「こちらの話だよ。空が晴れると、僕はどうも気分が悪くなる」

「こないだは雨が嫌いって言ってたよ」

「そうかい。そうだね、あの時は」


「大事なお姫様をずぶ濡れにさせた雨だったから」

「そうさ。僕の姫はいつでも完璧でなければ」

「リンゴ、美味しそうだね」

「きっと姫が喜ぶ」


「さっきはありがとう」

「おや。どうしたんだい突然」

「・・・あたしのこと・・・娘って」

「違うのかい?」


「パパがそう言ってくれるなら・・・娘でいい」

「僕は君を本当にそう思っているよ」

「・・・うん・・・」

「このリンゴは今から極上のジャムになる。綺麗に煮詰めてこの腹に収めてしまえば、さっきの夫婦の小さな罪さえも・・・きっと美味しく消えるはずさ」


───────


さて。

新たに出逢うべき英雄君は今、一体何処で何をしているのだろう。

頼まれているから待ち続けているこちらの事情などまるで理解出来ていない。このままでは振る舞っても良いと思っていたジャムを出し惜しんでしまう…いやそんな個人的な感情はともかくとして・だ。


彼はそもそも自分が何の為に生まれたのか、何故この時代に生きているのか、そんな小さな起源にさえも背を向けられ日々を無駄にしている。

其れも赦された時間であるとするならば空の英雄達はさぞ大らかな性格と言える。世界の事などまるで知らん振り・・・無責任も良いところだ。自分達が造り上げたにも関わらず、世話もせず・・・其れはもう立派な育児放棄ネグレクトと言える。


(僕は・・・君達の都合の良い世話役ベビーシッターじゃない)


「少し、家を預けても良いかい」

「えっ?あたし!?」

「君に家主は勤まらないだろう。僕は姫に訊いている」

「だ、だよね!大丈夫なの?ママ・・・」


・・・・・・。

・・・・・・。


「姫は何て?」

「あたしにわかる訳ないじゃん!」

「どうしてあんなに窮屈な場所を選んだのだろう」

「それこないだ読んだ随筆の引用だよね」


「“”・・・あの少年はどうして其の答を導き出せたのだろう」

「少年も・・・閉じ込められてた?」

「ふむ・・・君にしては良い回答だ」

「な!なんだよその言い方!!」


人と云う生き物は本当にわからない。

気泡が漂うだけの水槽の中に棲まうのを心地好いと言ってみたり、羽根が着いている訳でもないのに空を飛ぼうとしたり。


君達が望むから僕は叶えた。

人としての意義を喪っても・・・人は其の欲さえ満たす事が出来れば笑って生きて行けるのだろう。


我が欲の為

人や国を売り物にした僕の様に。


「じゃあ行ってくるよ、姫。」

「ああ久し振りに彼に、逢って来る。」

「いつか君にも逢わせたいな」

「彼は・・・どんな表情かおをするだろう」


うふふふふ あはははは

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