其々《あまた》の序章を経て
【私】は此処に降り立った。
様々な
目の前に居るあなたは一体、どんな記憶を持って生まれて来たのかしら。
私は少しだけ、あなたを見つめた。
「…なに?」
「…別に…」
変わらない街並み。
変わらないあなた。
「そう言えば」
「なぁに?」
「ちょっとだけ長い話になるんだけど、聞いてくれる?」
「構わないけど…」
「ありがとう」
あなたは微笑んだ後、窓の外を見る。
そしてそのまま語り始めた。
「今日、僕の死んだ日なんだ」
「……え?」
「いつの時代かは、わからないけどね」
「……」
「平成っていう世界だか時代に大きな地震があったの、今でも偶にニュースでやるだろ?」
「……」
「その辺じゃないかなぁって、思ってるんだ」
「変だろ?」と、あなたは私に向き直ってもう一度、微笑む。
「キミが偶にやる“そういう話”、結構、信じてるんだ。魂の…輪廻みたいなの」
「嘘」
「嘘じゃないさ」
「いつも笑い飛ばしてたじゃない」
「そうだね、」
傾いたグラスにワインが注がれるのを見つめながら、私はまた、あるはずのない偶然から思考を逸らした。
「あなた、この前は詩人だったって言ったわ」
「キミの“この前”って、いつの事だか分からない」
「……」
……確かに。
――――――――
新しい出逢いの季節には、新しい、
別れの気配も、やって来る。
「ねぇ」
「考え直してよ」
其れは僕達の“背中”で繰り広げられていた。
「運命だって言ったじゃない」
「そうだね、でも」
「運命も変わるから」
「変わってない」
「其れは、君が成長してないからだろ」
「どうして」
啜り泣きが聴こえる。
僕は少しだけ不安になって
そっと、彼女の手に触れた。
「・・・なぁに?」
「・・・別に」
───────
私達を振り回す記憶
其れは本当に必要なものなのかしら。
体温を重ねていく度に
感覚が研ぎ澄まされていく。
「此れは運命なのだ」
「出逢うべくして出逢ったのだ」
誰かが囁くの。
「どうか幸せに」
「今度こそ、叶えてくれ」
「僕の悲願を───……」
あなたの声。
「どうして」
「?」
「どうして、私を好きになったの?」
「また其の話?」
「だって…」
「言ったろ、運命だって」
「私は何回もあなたを探そうとして失敗したのに」
「だから其れは」
「好きよ、あなたが好き」
逢えばこんなにはっきりわかるのに
私達を振り回す記憶
どうして、曖昧なままで生まれるのかしら。
───────
“あの日”の出来事はうんと昔で
自分事に語る人は随分減ってしまった
其れでも僕は怖い
波が高く打ち上がる映像
風が呼び起こす波の音も
君に「ごめん」と
何度も謝りながら手を伸ばしたが
流れて来た何かに身体を押し潰された
そう云う感覚が
鮮明に残っている
遠い遠い土地の出来事
遠い遠い、昔の出来事だけど
照り付ける太陽の下で生まれたのも
運命なのかな
僕らは様々な地に流れたらしいから
此処もまた、思い出の場所なんだろう
此の青く透き通った海が
少し僕らの無念を、濯いでくれたのかな
やさしく僕らを
手繰り寄せてくれたのかな なんて
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