病を治す悪魔!? カストノン国の、魔法調査局・局長視点

※341話の村の診療所のお話のところ。

今になってしまいました(^_^;)

局長は本編に出ていません、出たのはジャクリーンです(笑)



 私はカストノン国の魔法調査局の、局長をしている者だ。

 現在我が国では、節々の痛みや腹痛、喉の痛みをともなう高熱が数日続く流行病はやりやまいが発生している。魔法アイテム職人も薬草医も多くない我が国で流行病が起こると、油断をすれば国中に蔓延し、国家の運営がとどこおってしまう。

 幸いほとんどの者が数日で収まる病だったが、患者が増えて薬が足りなくなっているので、混乱が起き始めていた。徐々に重症化する患者も増えてしまっている。


 この事態を受けて、国王陛下から魔法調査局に、病の広がり具合を調査するよう命じられた。既に局員でも倒れた者がいる、気が重いな!


 とにかくすぐに動けるメンバーを集め、対応する地区を決める。そして確認事項などを書いた書類を渡し、少しでも早く調査を進めるように厳命した。

 私は魔法調査局に残り、集まった報告書をチェックする。届くまでは時間がかかるだろうから、国の備蓄からどこまで放出するかを、宰相や大臣と議論した。これはすぐに決定し、その間に確認させておいた保存状態の報告を受ける。薬の配分はどうなるかな……。

 とにかく早く動かねばならない。病は時を待たず、また人も選びはしないのだから。


 最初の報告書が届いたのは、翌日だった。それから毎日、報告書は増えていく。

 内容はこのような感じだ。


 診てくれる医者がいると聞けば、高熱の患者がその医者を目指して移動している。悪化するので控えて欲しいが、止められない。

 一家全員が罹患りかんしている家庭があり、流行病だからと患者が出た家の者を近隣が嫌煙する事態になっている。

 薬が足りず、薬草医も手の打ちようがない。

 村に一つしか無い食料品店が閉まって、行商もいつもの半分以下の頻度に落ちて食糧支援が必要。


 だいたい想定していた通りではある。

 足りない薬などはどの地域も似たり寄ったりで、備蓄を解放しても不足をおぎないきれない。

 近隣の国や商業ギルドにも薬の購入を打診し、他国の冒険者ギルドまで職員を派遣して薬草採取の依頼を出した。

 しかし病は国境を越えるもの。他にも高熱の病に対応していてる国があり、あまり成果を得られない。

 あ~……しんど。もっと備蓄しておけば良かったなぁ……。

 食糧支援ならすぐにできる、まずはコレに手を付ける。栄養不足だと治る病気も治らないからな。要請のある村や町をピックアップして、支援物資を用意するよう指示を出す。


「……局長、大変です!」

「まさか、別の問題まで……!?」

 背筋を悪い予感が走った。病が蔓延まんえんすると往々おうおうにして、他の問題が発生したり別の病まで流行ってきたりするものだ。

「悪魔です! 高位貴族クラスの悪魔が北部の小さな村にいるのではないか、と緊急連絡が入りました」

「場所は、地区の担当者は誰だ!?」

 無知な村人が迂闊うかつな行動を取れば、大変な事態になる。しかし魔法調査局の局員が調査に出向いている。彼らなら、対応を間違えないだろう。


「ええと……、ジャクリーン・バンフィールドです」

「勘弁してくれ!!!」

 よりによって、あの応用の利かないバンフィールドか!!!

 怒らせないで済むか……、とにかく召喚術に詳しい者を派遣しよう。調査局の召喚魔法部門に相談しようとすると、件のバンフィールドが戻ったとの知らせが入った。

「局長、ジャクリーン・バンフィールドが見慣れない悪魔を連れて帰還しました」

「攻めてきたのか!」

「局員が攻めてくるわけないでしょう」

 そうだった、思わず焦り過ぎた。きっと悪魔に失礼をぶちかまして、抗議に来られたんだろう。謝ったら許してくれるだろうか。


 ベランダへ出て、馬で来た二人を眺めた。貴族悪魔にしては質素な感じもする衣装だ。長い髪はクセがあり、背中に広がっている。そして私をチラリと見て、笑みを浮かべた。

 ゾクゾク。何とも言えない悪寒が全身に走る。

 おい、高位貴族というかこれ、公爵とかじゃないのか!?? どうしてそんな悪魔が、我が国にいるんだ……!?

 とにかく、歓迎してもてなそう。悪魔だし酒がいいだろう。

 応接室に迎える支度をするよう言い付けて、局長室で待った。まずは報告をしに、ここへ来るはずだ。程なく、扉がノックされた。


「局長! バンフィールド、ただいま戻りました。こちらパズス様です。病を治せるそうです!」

「病を……治す?」

 挨拶からスムーズに謝罪をしようと気合いを入れていたのに、思わずそのまま聞き返してしまった。そんな悪魔がいるのは初耳だ。

 小悪魔でもあるまいし、くだらない嘘をついたりはしないだろう。

「ちょっとちげぇな、病を振りまいたり、収めたりできるんだよ」

「こ、この病は……悪魔の仕業で……?」

 うっかり貴方の仕業、と言いそうになった。違った場合、機嫌を損ねてしまう。

「ちゃうちゃう、これは自然発生したヤツ。俺が蔓延させたヤツなら、この体勢だったら既に半分は死んでるぜ」

「そうデスカ……!」

 危険な悪魔には違いない。しかし豪放な性格に見える。話し合いの余地がありそうだ! 病を治せるのなら、是非協力を得たい。

 とにかく薬と医師が不足しているのだ。


「私と契約して、治療の手伝いをすると申し出てくださっています。ただ、契約とかがよく分からなくて、ご一緒してもらいました。召喚術に詳しい方をお願いします、代償は何がいいでしょう」

「契約を……! それは願ったりだな。パズス様、ご希望をお聞かせ願いますか。極力、添えるように致します」

「ん~、宴会でも開いてもらおうか! 俺は皇帝の臣下のヤツらと違って、自前の軍団も、集金システムもねえからな。適当に捧げものを受け取って暮らしてるが、たまいはハデに遊びてーわけよ」

「お任せを! ご満足頂ける宴会を開催しましょう!」

 召喚に応じるのは大抵、最大勢力の皇帝の配下らしい。小悪魔や下位貴族は、上納金の為に出稼ぎ感覚でやってくる。それ以上になると、思惑があったりするわけだが。

 確か地獄も色々勢力があるんだったな、彼はその外にいるワケか。


「ちなみに、この方が先程お話しした命を賭けて仕事をしている局長です。命が欲しかったら、どうぞ局長からもらってください」

「ジャクリーン・バンフィールド! 勝手に人の命を交渉に使おうとするな!!!」

「いらねーよ。お前、コイツに恨みでもあんのか?」

 悪魔パズスは笑っている。


 分かったぞ。不可思議な生きものの生態を楽しんでいるんだ。それで契約する気になってくれたんだな。この悪魔はかなりの好事家こうずかに違いない。

「恨みなんてありません。立派な方です。局長は有言実行がモットーなんです、仕事に命を賭けるなら悔いは無いはずです!」

 相変わらず、とんでもない……。これで悪気がないのが恐ろしい。

 そもそもパズス様の方は、いらないと言っているじゃないか。無駄に死んだらいしかない。

 局長室で仕事をしている数人の局員も、バンフィールドだよなあ、という生暖かい視線を向けている。だよなぁ。


 報告を直接ここに集めているので、随時届く書類の整理や、テーブルに置いた地図に現在の状況を書き入れたり、あまりに字が汚い報告書の清書もさせている。

 仕事を中断し、宴会の準備をするよう各所に連絡を入れさせた。

 召喚術師も手配して、迎える準備をさせておいた応接間へ移動する。職員が室内を整え、酒と簡単なつまみを用意していた。

 これ、この気遣いよ。お酒といわれたら、食べるものも出しておく。花まで飾っちゃう。バンフィールドみたいなヤツの相手をすると、こういうのが滅茶苦茶ありがたく感じる……。


 ソファーに座り、詳しい契約内容を詰めていく。こちらは宴会と地獄へ持ち帰る捧げものを用意し、代わりに王都と薬の足りない地域を中心に、熱を下げてもらう。面倒になったら終了だそうなので、飽きない工夫が必要だな……。

 大体の取り決めが終わった頃、バンフィールドが担当した地域の近くに派遣した局員からの連絡が入った、との報告があった。

「強大な悪魔の魔力を二つ感知した、とのことでした。どうも、パズス様の他にも貴族がいらしたようで」

「二つ? バンフィールド、何故黙っていたんだ」

 パズス様の横でボケッと突っ立っているバンフィールドに尋ねた。報告するのは義務だと思うんだが!


「もう帰られましたし、今回の調査とは無関係ですので」

「しかし貴族悪魔だろう。すぐに国外に出るとも限らない、情報を共有してだな」

「ベリアルなら行き先が決まってっからな、もうこの国にはいねえよ」

 つい説教を始めそうになった私を、パズス様が遮った。

 いかんいかん、地獄の貴族の前ですることじゃなかった。

「では……」

「局長、貴族悪魔との契約とか! 悪魔なら俺に任せてください」

 そのベリアルという悪魔について質問しようとした矢先、召喚術師が到着した。悪魔について詳しい子爵だ。彼は入室するなり、立ち止まった。


「よぉ、始めっか」

「……あの……我が国の人間と、短期の契約を結んで頂けるんですよね? ……爵位を伺っても、宜しいので……?」

 入ってきた時の勢いはなくなり、慎重に言葉を選んでいる。

 パズス様はビールを一杯あおり、悪戯する子供のような、少し意地の悪い笑みを浮かべた。

「王だ。ベリアルと同じだな」

「「「王……!???」」」

「ほう~」

 聞いていた全員が絶句しているのに、バンフィールド一人だけ反応がおかしい。重大さを全く理解していない!

 よくこれで、魔法調査局の局員が勤まるものだ……。私の悩みの種を入局させたのは、誰だ。


「王様って、けっこうその辺をウロウロしてるんですね」

「そんなわけないだろう、失礼な発言は控えろバンフィールド!!!」

「あーっはっはっは、物怖ものおじしねえ女だな!」

 大きな声で笑うパズス様。他の連中は口をひきつらせて、もう笑うしかないといった投げやりな笑いを浮かべていた。

「さあ揃ったところで、契約しましょう!」


 お前が仕切るな!!!

 あああ……頭が痛い。短期とはいえ、王様が本当にバンフィールドと契約して大丈夫なんだろうか。

 私の苦悩をよそに、バンフィールドは笑顔でパズス様とやり取りをしている。威勢の良かった召喚師も、怖々といった有り様だ。


 神様、この国が無事でありますように……。

 いや、悪魔だっけ。魔王様、よろしくお願いします……。

 ……これだと本人に訴えているだけじゃないか! 難しいなあ。

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