コミカライズ、一巻発売&重版記念!
子イリヤ :わああい! イリヤのマンガが出たです。すごいです、イリヤ最強です!
ベリアル :何が最強かね
子イリヤ :くらえ~最強イリヤパンチ! チョップ! キック!
ベリアル :暴れるでないわ!
クローセル:これ、閣下に失礼をしてはならぬ!
子イリヤ :ふきゃきゃ! イリヤの必殺技がサクレツですよ~
ベリアル :……(小突いてやろうかと考えている)
子イリヤ :必殺! イリヤアターック!!! あはははは~
(子イリヤが両手を広げてかっかに突撃)
ベリアル :何が楽しいのか、サッパリ分からぬ
子イリヤ :……かーらーの~、ひっつきイリヤ! 最強イリヤは止められないですよ!
(抱きついて離さない)
ベリアル :阿呆かね、いい加減にせぬか!
クローセル:確かに閣下は、イリヤがひっついたら自分から離すまで引き剥がしたりされぬわい……
子イリヤ :ふははははっ、イリヤの勝ちであるぞ~!!!
ベリアル :口真似をするでない!!!
子イリヤ :疲れたから、おひざに座るです
ベリアル :……よくもこの流れで、そのようなワガママを言えるわ……
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◆ イリヤが去った後の猫人族の村
◆ 最初に羊先生に詰め寄ってた猫人族の視点です
やあ。オレは猫人族のカルポ。茶色い体に黒い耳がチャームポイントさ。
ちょっと前のことだがな、オレの娘や村の他の何人かが、高熱が出てお腹が痛いと苦しんでいた。往診に来てくれる羊人族の先生もサジを投げるような酷い状況で、それでも病に関しては先生にすがるしか手がなかった。
そんな困り果てているところに、立派な悪魔を連れた人族の娘が現れたんだ。
長い赤い髪に黒い服、瞳も真っ赤っ赤。そりゃ爪だって赤いさ。目付きが鋭くて、怒鳴れば震えるような魔力があふれるおっかない悪魔で、ありゃあよっぽどの貴族だな。
……ん? そう、悪魔。人族は……、そうだ、紫っぽい髪の色をしてたよ。あと服は桃色……じゃなくて、白だった。白。
それはどーでもいいや。流行り病か食あたりかと思ったら、よりにもよってバシリスクが原因だったんだ!
……いや、死んでない、娘は生きてるよ。
バシリスクの毒で生きてるなんて、ありえないって言うんだろ? 直接触ったり目が合ったりしたらそうだろうが、川の水が汚染されたんだってさ。薄まっていた分、弱かったんだ。
それでも生死をさ迷うなんて、バシリスクってのは本当におっかない! お前も気を付けろよ。まあエルフなら矢で一発か。その後の処理だよな~。
……また話が反れた。
ほんでその娘が薬を作って浄化して、みぃんな治ったんだ!
そんだけじゃないぞ、その娘が井戸を掘ってくれて! これでオレ達の村にも井戸ができたぜ! 見ろよ、あっちに土の山があるだろ? あんなに掘ったんだ。ほら今も、水汲みしてる。
なんかなぁ、井戸を掘れる魔法があるらしい。
人族もそんな立派なことができるんなら、魔法を使って戦争なんかせずに、役に立つのを考えてりゃいいのにな。
めでたい時は、もちろん宴会だよ。悪魔も酒好きだから、新しい樽をバーンと開けてな~。盛り上がった盛り上がった!
これが今回の一部始終だよ。お礼に薬草の群生地を教えたんだ。エルフの里の方だよ、なんだかんだでお前らエルフが住む場所が、一番薬草が豊富だからな。
「治療をして、井戸まで……。先程会った人間達だな。人間はもっと、悪い者ばかりだと思っていた」
エルフのユステュスは、感心したようにため息をついた。なんか真面目なんだよなあ、コイツ。
悪魔連れの人族の娘と別れたのは、まだ朝のこと。エルフに会ったみたいだし、ちゃんと群生地に着いたんだな。
「エルフは狙われやすいからなあ、無理もない。そういや何かあった?」
「先日また行方不明者が出たので、念の為に聞き込みに来たんだ」
「ここ最近で猫人族の村にきたエルフはアンタだけだぞ、ユステュス」
オレの答えを見越していたように、ユステュスは小さく頷いて、ため息をついた。周辺を探したり聞き込みをしていても、人族に連れ去られたのだと考えているんだろう。
森でエルフが迷うわけがない。
「おや、二人ともどうしたんだ?」
羊人族の先生だ。村に残って病人が回復するのを見守ってくれているんだ。治りかけも大事だよな。
「先生。そちらの村にもエルフは行ってませんか?」
「来とらんよ。また消えたのか、大変だな。気を付けないと……」
ユステュスが念の為に質問をしたものの、答えは同じ。そうだろうなあ。
「ところで、あの人族の娘と悪魔に会ったんだよな? 悪魔、貴族だよな? すごくなかった?」
「え……ああ、危険な悪魔だな。……うん」
ユステュスの声が固くなる。急に挙動不審だぞ、何かあったかな。そしてすぐに先生に顔を向けた。
「あ! 先生、お帰りになるなら送りますよ。私も村へ帰るところです!」
「もう少し様子を見てからだな。ありがとうよ」
「そうでしたか、では失礼!」
仲間の捜索もあるだろうし、ユステュスは逃げるように去ってしまった。
そうだ、俺も井戸で水汲みしてみよう。
村に井戸ができたぞー!!!
★★★★★★★★★★★★★
◆ イサシムの大樹の人達、1巻で喧嘩に巻き込まれた後の話
◆ 三つ編みの治癒師、レーニの視点です
「は~……。絡まれて詰め所で事情聴取されて……。怪我はするし他の人は巻き込むし、今日はついてないわね……」
乱闘騒ぎはイリヤの活躍で終了したわ。
あの赤い髪の男性が、イリヤが紹介しようとしていたベリアル殿なのね。悪魔だったなんて……。見た目なんて、ほとんど人と変わらないじゃない。その辺でよく見掛ける小悪魔とは、全然違う。
「レーニ。回復魔法を使ってもらったけど、君自身は怪我してない?」
「心配してくれてありがとう、私は大丈夫よ。少しリーダーらしくなったね、レオン」
私達、冒険者パーティー『イサシムの大樹』は、同じイサシム村出身の幼馴染みなの。レオンが冒険者になろうって皆を誘ったから、リーダーなのよ。
イサシム村にはたいした仕事がないんだもん。継げる農地がないと小作人をして暮らすか、もの作りでもするかになる。もしくは私達みたいに、村を飛び出すか。
「なあなあ、そろそろメシにしようぜ」
やっと終わったと大きく伸びをする、弓使いのラウレス。
「リーダー、夕飯は屋台通りで買いましょうよ。外で食べたいわ」
魔法使いのエスメの提案に、私も賛同した。屋台が並ぶ狭い路地が、屋台通りと呼ばれているの。
「いいわね、ちょうど涼しいし。皆もそれでいいよね?」
「賛成!」
ラウレスが笑顔で片手を上げ、無口なルーロフが頷く。決まりね!
「じゃあ各自、好きなものを買って広場のテーブルに集合。はいこれが予算よ」
皆のお金から、全員に同じ金額を渡す。私がお金の管理を任されているの。
財布から取り出して一人一人に手渡すと、レオンとラウレスはえ~と不満を漏らした。
「……これだけ?」
「これじゃ足りないぜ、レーニ」
「今日は仕事ができなかったでしょ。節約よ」
いくら抗議しても私が折れないのは二人とも分かってるから、諦めて肩を落とした。効率的な買い物方法を相談してるわ。
「……夕方になると、まとめ売りしたり、値引きしてくれるお惣菜屋さんがあるから。皆で食べるように、安いものを買っていくね」
「良かった、レーニ様さすが!」
途端に明るい笑顔になって、ラウレスがお金をポケットに突っ込む。
「スリに取られないようにね」
注意しておかないと。油断して盗まれたら大変だわ。
家を買う為に、お金を貯めるんだから。宿暮らしは不経済なのよ。キッチンが付いた五人の家を手に入れるのが、今の目標よ。
私はお惣菜屋さんで、安くなったおにぎりと野菜の炒めもの、それから焼いた鶏肉のまとめ売りを買った。一気に買って値引き交渉するのよ! すっかり店主と顔見知りだから、私が商品を選ぶと向こうも戦闘開始みたいな雰囲気になるわ。
切りの良い金額にして、鶏肉を一つおまけに増やしてもらった。まあまあね。
通りではたくさんの屋台が食べものを売っていて、夜でも明るい。ただ細い脇道は光が届かないから、すぐに夜の領域に入ってしまうの。
ちょうど夕食の時間で人並みが途切れず、笑い声が響いている。ここで買って食べる冒険者も多いのよ。
「パン屋さんの閉店に間に合ったわ。安くしてもらえた」
エスメもお得な買いものをして、満足げに微笑んでいる。
広場を魔石灯が照らし、テーブルと椅子が幾つも並んでいる。屋台で買ったら、ここで食べられるのよ。空いているテーブルを探して待っていると、皆が夕食を持って集まった。食事開始ね。
レオンは大盛りご飯の焼き鳥丼、ラウレスはパスタ、ルーロフは大盛り焼き飯に卵を載せたもの。
夕食を食べながら、次の日の予定を話し合ったり、その日の反省会をしたりするの。ガヤガヤとした雑然とした雰囲気の中で食べるご飯も、賑やかで美味しいな。
「明日は退治の依頼があったら受けよう。もっと強くならないと!」
「その前に冒険者ギルドでも、注意くらいはされそうね」
気合いを入れるレオンに、エスメが冷静な声色で答えた。絡まれたとはいえ、一般人を巻き込んじゃったものね……。
「……次は、人のいない場所に相手を誘導しよう」
「だよな、ルーロフ。アレシアちゃん達に何かあったら大変だ」
ラウレスはフォークに巻いたはずのパスタが外れてフォークだけになり、口を閉じて巻き直してるわ。
「……あのさ、俺、魔法とかはよく分からないんだけど……。あの炎の壁はベリアル殿って人がやったんだよね? もしかして、イリヤさんってすごい人……?」
秘密の話でもないのに、レオンが小声で顔を寄せた。つられて全員、前屈みになる。
私もイリヤには、すごい経歴とかがありそうな気がする。貴族悪魔と契約している人なんて、その辺にフラフラ歩いてないもの。
「私達が見たことあるのなんて、他の冒険者が連れてる小悪魔とか、犬っぽいのとかだもの。全然レベルが違うわよね。噂に聞く、貴族悪魔なのかしら。だとしたら、とんでもないわ」
皆がうんうん、と頷いている。
「魔法も使い慣れていたわ。普通のアイテム職人じゃないみたい」
魔法使いのエスメがイリヤの魔法を思い出して、知らない魔法だったと言う。そもそもエスメが知っている魔法は、初級のものばかりなのよね。
「魔法、召喚術、アイテム作製。全部が得意な人って珍しくね?」
「……学びたくても、学べない」
ラウレスとルーロフの言葉に、そういえばイリヤは全部使えるんだという事実に、改めて思い至った。お金が掛かるから、それだけでも普通の人には無理よね。
「言われてみれば、どこで学んだのかしら。貴族の娘さんだったりとか……!?」
「……分かったわ。きっと王子様に婚約破棄されて、国外追放になったのよ!」
「エスメはそういう小説を読み過ぎよ。貸本屋でまた借りたの?」
魔導書はともかく、普通の本は貸本屋さんで安く借りられるの。
人気の本はタイミングが良くないと貸し出し中が続くし、状態が良くなかったりもするものの、買うには高いからね。新しくない本や借り手の少ない本は、特に安く読めるわよ。
「イリヤさんとパーティーが組めたり、ベリアル殿みたいな悪魔と契約できたら、楽なのになあ~」
頭の後ろで手を組んで、背中を反らせるラウレス。悪魔との契約なんて簡単にできるのかしら。
「イリヤさんは冒険者じゃないし、ベリアル殿も契約の対価が必要でしょ。提示できなかったら、悪魔とは契約できないわよ」
「……悪魔が欲しがるもの……」
ルーロフが呟いた。小悪魔みたいに賃金じゃないのよね、きっと。
「……好みのタイプだといい……とか?」
「そんな雰囲気じゃなかったわ」
真面目にくだらない推察をするラウレスに、エスメが冷たく言い放つ。
イリヤはベリアル殿に気を遣っていたし、でも仲良くて。相棒っぽい感じ?
「だよなー。イリヤさん清楚系でいいのに。あ、もしかしてベリアル殿は巨乳派かな?」
「それならあの対応も納得できる」
アホな発言を続けるラウレスに、リーダーのレオンが
「ラウレスと同じ、年上好きか……」
ルーロフまで話に加わった。何を言い出してるの?
「バカね。悪魔より年上って、この世界より年上じゃないの?」
エスメが呆れた表情でパンを千切る。
悪魔は世界ができるより先に存在していたって言われているわ。勝手にこんな想像してて、聞かれたら怒られないかしら。
結局“ベリアル殿の好みって?”という、全く意味のない話で終わっちゃったわ。
召喚術の講習会でも参加してみようかな。召喚できるようにじゃなくて、召喚された悪魔や獣の危険性とか、関わり方の講義の方。冒険者ギルドが開催していて、会員は安く参加できるの。
会員以外も申し込めて、飲食店や宿とか、関わる機会が多い人も講義を受けるのよ。私もうっかりベリアル殿を怒らせない対応を、学んだ方がいいかも。
ま、考えるのは講義の開催のお知らせがあってからでいいや。
今日はこれで終了、宿で寝ようっと!
★★★★★★★★★★★★★★★
コミカライズ一巻発売からちょうど一ヶ月。
重版までしました。ありがとうございます!
遅くなりましたが、なんとか更新できました。
もう序盤の話の内容を、忘れかけている(笑)
ユステュスはイリヤに会った直後にここへ来た、という感じにしてみました。
どうもなるべく齟齬がないようにするのが、難しかったです。でも名前のあるキャラを出したかった(笑)
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