PV1千万&フォロワー2万人突破記念・エグドアルムの国王陛下のおはなし

一千万です!!???

まさかの桁数に………!!!

そんわけで、今回は皆様が気になっていらっしゃった(かは知らない)、エグドアルム王妃と陛下のお話です。

陛下の視点で、結婚直前。


★★★★★★★★★★★★★


「陛下、ついに結婚相手が決まりましたよ」

「結婚相手………、相手はどこの誰になった? 了承したのか?」

 婚約者が選べずに悩んでいた私に、思いがけない朗報が飛び込んだ。なんと婚約どころか、妻として、王妃として迎えられるという。

 エグドアルムは貴族派が強く、王室派や武断派と仲が良くなかった為、自分の派閥から王妃を迎えさせようと貴族達が画策していた。気の強い方ではない私は、この娘がいいと言われれば断れないし、ダメだとしつこく反対されると本当に良くない気がしてしまう。

 何人も候補に上がりながらも、なかなか結婚まで話が進まなかった。皆、人の結婚相手に口を出しすぎだ。ダメ元で宰相に一任して正解だった。


「貴族達も文句を言いにくい相手です。隣国の令嬢で、社交界の妖精と呼ばれている、細身の美人ですよ〜」

「なるほど、隣国はここ数年で海軍力を付けたから。海軍が弱い我が国との同盟を強固にする意味で、もってこいだ。妖精令嬢か、可愛いんだろうなぁ」

 私はまだ見ぬ妻に想いを馳せた。

 隣国はとある令嬢が体を張って海賊と戦い、海の安全を守ったという。そして社交界の妖精は、そんな令嬢の妹とは思えない穏やかで優しい人柄だとか。


 楽しみだなあ。

 すぐ結婚式の準備になるだろう。デートとかできるかな。

 楽しみだなあ。

 横槍も少なそうだし、平和になるかな。

 楽しみだなあ。

 可憐な妖精。隣国には数回訪問しているが、さすがに記憶にない。どんな女性だろう。宰相が美人というなら、かなりだな。本当に楽しみだなあ。


 彼女の輿入れの日を心待ちにしていた。

 送られてきた肖像画には、優しげな微笑みを浮かべる、はかなく美しい女性が描かれていた。

 私は少し美化した肖像画を描かせて、何度も書き直して直筆の手紙を用意し、ドレスや宝石と一緒に送らせた。印象を良くしておかないと。


 期待で寝付けぬ夜を幾つか過ごし、ついに待ちに待った日になった。

 隣国から花嫁を送る使節が国境を越える。嫁入り道具の馬車が連なり、大勢の警備兵に囲まれた立派な隊列が行く先々で大歓迎されている、と報告があった。私は宮殿のバルコニーで、今か今かと到着を待った。

 隣国によく行っている男性に彼女を知っているか、尋ねてみた。

 本当に穏やかな美人で、姉である私設海軍提督とは性格が真逆とか。礼儀作法は完璧、ダンスも得意、教養深く、どこにだしても恥ずかしくない女性だって。


 本当に楽しみだな〜!!!


 間もなく到着との報を受け、私は正面玄関付近に移動した。

 人々の大歓声に見守られ、ついに使節が宮殿の門をくぐる。立派な勲章を付けた男性達が、きらびやかな馬車の一番近くを守っていた。一人だけ白い制服を着ているのが、責任者だろう。サーベルを手にしている。

 扉の前で馬車を降りた花嫁はベールで顔を覆っていて、まだどんな顔か解らない。


 ついに相手の女性が、目の前にいる。宮殿の入り口の両側には、近衛兵が剣を掲げて並んでいた。心臓がバクバクしてる、とても冷静ではいられない。

「エグドアルムへようこそ。貴女が幸福に暮らせるよう、努力します。そして両国の友好関係が深まり、更なる発展を遂げられるよう……」

 なんとか挨拶を済ませた。

 父は退位しただけで、大公として暮らしている。そこまでの年齢ではないが、体が弱いので政務が務まらないと、自ら退位したのだ。父が存命のうちに花嫁を迎えられて、本当に良かった。今も調子が悪いので、この場にはいない。

 落ち着いたら一緒に、挨拶に行ってもらおうっと。


「よろしくお願いします」

 緊張しているのか、彼女は一言だけで黙ってしまった。

 さ、まずは謁見室へ案内しますよ。謁見室でいったん別れて着替えてもらい、有力貴族との顔合わせをする。

 結婚式は一週間後。


 わくわくそわそわ待っていると、彼女が着替えて登場した。どんな衣装か楽しみにしていた。

 飾りの少ないスラッとしたドレスで、光沢があって柔らかそうな生地を使用している。ネックレスも小さなダイヤモンドが一粒輝くだけの、とてもシンプルなものだ。

 結婚すれば、ここぞとばかりに商人が押し寄せるだろう。いろいろ買ってあげよう。顔は、顔は……肖像画とちょっと違う。体系も、細身ではなくガッチリしているような? こういうものかな?

 宰相をチラッと見たら、やっちまったーという表情をしている。なんだか急に、悪い予感。

 

「ようこそおいでくださいました、バレンティナ・バルス様。これからはエルツベガー様ですな」

「よろしく」

 宰相のうやうやしい挨拶に、彼女はニカッと笑った。

 バレンティナ。バレンティナって、それこそ私設海軍提督をしている、彼女の姉の名前では。

 私は宰相を振り返った。宰相は三秒考えて、笑顔で親指を立てた。

 

 騙された……!!!


 彼女が私の隣の椅子に座る。女性の魔法剣士二人をともなって。

 これが近隣に名をとどろかせる海の女帝と、女帝に常に付き従う二人の側近だ。

 女帝……怖そう。震えるな、私よ。私は国王。そう、国の王。

 隣国の国王が違法に海軍を従える彼女を裁こうと召還したら、逆に国民に城が囲まれて大変な目に遭ったのは、有名な話だ。クーデターが起きる五秒前までいったとか、いかないとか。

 そんな相手を恐れないのは、無理じゃないかな。


「陛下、王妃様をお迎えられましたこと、お慶び申し上げます」

 重臣の挨拶が始まる。今回列席しているのは、伯爵位までの貴族。バックス辺境伯は緊急事態が発生して間に合わないので、現れた魔物を討伐次第やって来る。

 数年前に宮廷魔導師長に就任した公爵が、挨拶に続いてエリクサー販売の話まで始めた。本当にお金が好きだな、この人。

「公爵、その話はまた今度で」

「いえ、今なら高く買い取ってくれると……」

 二度ほどそんなやり取りをした時だった。


「……黙りな!」

 しーん。

 部屋は静まり返った。

「だ、黙れとは……」

 さすがの公爵も、一瞬驚いて動きが止まった。面と向かって、こんなにハッキリ言われたことはないだろう、バレンティナさんは足をドカッと組んで、ハッと小さく息を吐いた。

「後にしろっつってんだろ、つっかえてるのよ。いい加減におし!!!」

 右手を握って親指を首へ向け、左から右に水平移動。

 それ、ダメとかじゃなくて、首を斬って殺すジェスチャーだと思います……。

 さすがの公爵もそれ以上喋れず、元の位置に戻った。次の人が挨拶するのに進み出たが、混乱したのか噛んでしまっていた。

 ちなみに公爵はこの件で王妃が苦手になり、王妃の前には姿を現さないようにしている。あの公爵にも苦手な人がいたもんだ。


 謁見が無事に終了すると、次はお披露目パーティーの準備。

 今回は国内の貴族だけ。各国の要人を招いて大々的におこなうのは、結婚の儀の後だ。

 パーティーの前に、いったん控え室で身だしなみを整える。彼女が離れるのを待って、宰相を手招きした。


「怖かった……。お前のいう妖精、レッドキャップか……???」

 人を襲って犠牲者の血で赤く染めた帽子を被る、危険な妖精レッドキャップ。出会えば斧で襲いかかってきたりするとか。

「まさか姉君がいらっしゃるとは……、でも美人ですし、お似合いでしたよ。陛下、ガンバ!」

「軽い、酷い!!! まさかじゃ済まないぞ、本当に心待ちにしてたのに!」

「文句があるならご自身で隣国へ苦情を入れてください。私は花嫁にケチを付けるような真似はしません。自分の身が可愛いので」

 最後に本音がポロリしている!!!


 この宰相は父の代から支えてくれていて、私より年上だ。

 昔、父に「貴方が結婚するまで、私もしません。だから早く相手を見つけてくださいね」と発破はっぱを掛け、一年ほどで良縁があり、先にさっさと結婚してしまったくらい軽い人だ。仕事ができて人望があるのが、納得いかない。

「陛下、花嫁さんが来ますよ~。仲良くしてくださいね」

「本当に他人事だなぁ……」

 堂々と中央を歩くバレンティナさんは、まさに女帝の風格があった。

 エグドアルムで任じた侍女も護衛も、昔からの家臣のように仕えている。

 ええと、ええと……誉め言葉を言うんだったな。

「かっこいいですね。結婚おめでとうございます」

「アンタが旦那だよ」

 でしたね。逃げたい気持ちが表れてしまった。

 この後も慌ててよく分からない発言をした気がするが、女帝バレンティナさんは笑っていて怒られなかった。


 それから約一年後。

「陛下~!!! 王妃様をお止めください、伯爵家に武器を持って乗り込んでいきます!」

「なんでまた……あ」

 もしかして、側室を勧めた話が漏れたのでは。王妃の生国では国王も一人しかめとれないから、私も許さないと最初に脅された。

 書類から顔を上げると、ちょうど報告に来ていた、カールスロア侯爵と視線が合った。

「……王妃様はお元気でいらっしゃいますな」

「バイタリティーの塊だなあ……。侯爵、兵を動員して止めに行ってくれ。私も近衛兵と、後から行く」

 全部終わった頃に着くように、ゆっくり移動しよう。王妃が怒ると、とっても怖い。


 伯爵家は壁が破壊されて、とても入りやすい状態になっていた。

 使用人達は隅で脅え、伯爵が泣いて謝りながら、必死に走って逃げている。伯爵家の警備兵は王妃の側近と戦っていて、何人かは床に倒れていた。侯爵が連れてきた兵は、王妃を止めるにも王族にみだりに触れるわけにもいかず、声を掛けて右往左往するだけ。

 まさに襲撃現場だ。

 これ以降、宮殿内では『側室』という単語がタブーとされるようになる。

 近衛兵が王妃を止めた珍事件は、いつまでも語り継がれるだろう。


 優柔不断な私と違って王妃はハッキリしたタイプなので、空いた官職に縁故の者を採用させたいとか、経費を増やして欲しいとか、私が断り切れず押し切られそうな時は、王妃に相談するとあっという間に片が付いた。

 とても頼りになる女性で、わりと上手くやっている。

 

 妹ではなく彼女が来た理由も、教えてもらった。

 エグドアルムの貴族が高慢で怖いという噂があり、不安だった妹の代わりを、彼女が引き受けたそうだ。どうせ家や国の繋がりだから、どちらでもいいだろう、と。

 文句を言われたら帰れば良いか、と思ってたって。

 文句なんて言えない……! 近侍に理由を聞いてくれと頼んでも、聞こえないフリで無視されたくらいなのに……!

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