◆迷子の子供・中編2(冒険者フィンリー視点)
夜は遠巻きにこちらを眺める魔物が現れたが、石や木の枝などその辺にあるものを投げまくったら何処かへ消えてくれた。どうにか一晩、無事に過ごせた。
軽い朝食を済ませ、朝から歩いている。ご飯が足りないとしょんぼりするイリヤちゃんを慰めるのが、ちょっと大変だった。もう少しの辛抱だ……! 多分もう少し、きっとあと少し!
ガサガサと草を掻き分け、道なき道を進む。
行けども森、進めど山。ちゃんとした道にすら出ないし、誰とも行き合わない。
「イリヤリヤ~イリヤリヤ~」
単調な景色の中を歩いているだけだし、飽きたのかな。イリヤちゃんが謎の呟きを始めた。そういえばロージーは全然喋っていない。
「イリヤらバンバ、イッリヤらバンバ」
「それは何の歌?」
「……ん~……わからんです!」
そうだね、俺も分からんよ。イリヤちゃんは相変わらず片手に花の残骸を持って歩いていた。
「元気ね……、私はもう疲れたわ……」
疲れて静かだったのか。俺も疲れたしな、そろそろ休憩にするか。
「イリヤも疲れたです。だから、がんばろうって歌ですよ。いっしょに歌うです。イリヤらバンバ~、ヘイ!!!」
「休もう、休もう!」
突然大声を出すの、やめてくれないかなあ。ビックリするから。
現在は背の高い草の間を歩いていて、休憩には適さない場所だ。草を踏み分けて、少し平らにするかな?
「……待っててくれ、周辺にいい場所がないか探ってくる」
ジュードが率先して確認に行ってくれた。俺はその間、二人を守ってなきゃな!
イリヤちゃんはジュードが進む先を見守っていた。
「イリヤちゃんの村は、斜面とかに畑があるんだよね? 他にも村がある?」
「あるですよ。お薬作りのお友達もいるんだよ。トビーお兄ちゃんはね、お医者の先生のおうちに住んでいるの。イリヤ一度、遊びに行ったんだよ。あとはねえ、牧場もずっと先にあるです」
やっぱり幾つも村があるんだよな。イリヤちゃんの村じゃなくても、そのうち人里に着くかな。冒険者が依頼を受けて山に入ったり、兵の見回りもあるようだから、せめて人に会えたらなあ。
ただ、イリヤちゃんの話を聞いても、村の場所などの手掛かりは全く掴めない。この子を知る人がいる村を探すしかないか……。
イリヤちゃんはお話好きな子で、ちょっと話題を出して放っておけば一人で喋り続けるんだ。村の名前すら本人は知らずにいた。村の外に出なければ、あんまり必要ないもんな。
しばらくすると草をガサガサと掻き分けて、おーいとこちらに呼び掛けながらジュードが戻った。
「左手側が斜面になっていて、下ると川がある。水が汲めそうだ」
「やった! 水はもうほとんどなかった。魚もいるといいな」
嬉しい発見だ。俺達はジュードに案内されて、川を目指してた。
斜面には所々木が生えて、高さは大人二人分といったところかな。
「じゃあイリヤちゃんはゆっくり……」
「川だあ、わああぁい!」
振り返る俺をすり抜けて、イリヤちゃんが走って行く。
危ないから、坂だから!
さすがに坂の手前で速度落とし、足幅を狭くして下を見ながら進んでいく。あっという間に坂を半分くらい進んだ。
「気をつけて」
「はいですよー、わっきゃっきゃ!?」
言ったそばから足を滑らせ、尻餅をついてトントンと下まで滑ってしまった。もうほとんど下りきっていたから、怪我はしないだろうけど!
「大丈夫、イリヤちゃん!?」
ロージーが心配して声を張り上げる。
「あはははは、平気です。川であそぶです」
「川は危ないから、入っちゃダメだ!」
見た目に反して底の流れが速かったり、急に深くなっていたりするんだ。あの子は何を仕出かすか本当に解らない、川に近付かないようにさせないと。
「あそんじゃダメ?」
「イリヤちゃん、お姉ちゃんと焚き木を拾おう。お仕事だよ」
「おお~、イリヤのお仕事! やるですよー!」
斜面を慎重に進むロージー。草が滑るし、でこぼこしていたりするので、転びそうだ。イリヤちゃんは坂の下で、ロージーを今か今かと待っていた。
「俺達が魚を捕るからな。お昼には魚を焼いて食べよう」
「おさかなー! えへへ、イリヤ楽しみ。がんばって火を用意するです」
川幅は狭いという程でもなく、水は澄んでいて流れは割と緩やかに見える。上流に中州があり、川岸には丸く角の取れた石がゴロゴロと転がっていた。川を挟んで左右に背の低い草が生い茂り、少し離れて木も生えている。
俺とジュードが魚を捕り、イリヤちゃんとロージーは火を起こす係。
村の近くを流れる川で魚を捕っていたから、何匹か捕まえられた。これで全員分以上あるぞ!
ロージーが枝を削ってくれていたので、その棒に魚をぶすっと刺して火で
焼けるまでは、まだ時間がかかる。
食べられる木の実でもないかな。魚の番は疲れているロージーに任せて、俺達で探してみよう。イリヤちゃんは川に石を投げて遊んでいた。
「あ〜、狼さんです」
イリヤちゃんの視線が向いている川の対岸に目をやると、ダークウルフが水飲みに姿を表した。あれは人間も襲うぞ、こっちまで来るかな……?
ロージーが杖を持って、イリヤちゃん庇うように前に立った。
もし魔物がこっちまで来ても、この子を守らなきゃ。森の方にいた俺達も、慌てて駆け寄る。
「アイスランサー!」
不意にイリヤちゃんが魔法を口にした。詠唱も覚えてるのか、小さいのに偉いなと感心していたが、それどころじゃない。
実際に氷の槍が飛び、ダークウルフに当たった。
子供が攻撃魔法を唱えた!? しかもこの距離で命中させた? すごいぞ、しかしどこに驚けばいいんだ!
しかもダークウルフを一瞬だけ氷漬けにして、魔法は消えた。対岸ではダークウルフが横たわっている。もうピクリとも動かない。
「イリヤ倒した!」
「スゴイねイリヤちゃん、偉いね……!」
ロージーが胸を張るイリヤちゃんを褒めた。
「魔法……、上手だな」
ジュードも褒め言葉を絞り出した。呆気に取られて言葉が見つからないのだ。
イリヤちゃんはキラキラした瞳で俺を見る。めっちゃ期待されてる!
「が、頑張ったな! 立派な魔法使いだ」
「えへへ〜、褒められたです」
満面の笑みを浮かべるイリヤちゃん。何故かくるくると回り始めた。
俺達はまだ理解が追いつかずにいた。
この子は一体、何なんだ……!??
□□□□□□□□□□□□□□□(クローセル視点)
今日は魔法の授業にしようかの。防御魔法が良いか。
方針についてベリアル閣下と相談していると、どこからともなく男女の声が耳に届く。
「……どこにいるの……イリヤ……」
「イリヤちゃん、いたら返事して」
イリヤを呼んでいるぞい。忘れ物でもしたのであろうか? しかしイリヤはまだ来ていない。
「閣下、様子を見て参ります」
「……うむ、我も参ろう」
声がする方へ飛ぶと、三人の男性を
私は彼女達の少し前に距離を取って降りた。いきなり目の前では、驚かせてしまうからの。
「イリヤはまだ来ておらんぞい。忘れ物でもしたのかの?」
「先生……! イリヤが昨日から帰らないんです。そちらにもいないのでしょうか?」
「帰っていない? 昨日も日が暮れる前に、家に帰ったぞい……」
なんと、まさかイリヤがいなくなっていたとは。
母親は
「……我らに任せるが良い。そなたは家に戻っておれ」
「いえ、私達も捜します。お世話になっている上、これ以上のご迷惑は掛けられません」
「イリヤが戻った時、家に母御がいなければ寂しがるであろう。閣下と私に任せて、安心して帰っていると良いぞい」
閣下のお申し出を断るのは良くないぞい。面倒だと思われれば、協力などされぬであろう。普段と変わらぬように見えても、イリヤを心配されておられる。
「お願いして、いったん戻ろう。先生のところにもいなかったと伝えないと」
「そうだよ、薬草を扱う人には秘密の採取場所があったりする。そういう場所を捜すんだろうから、俺達が一緒だとかえって迷惑になるよ」
男性達がなだめて、母御は困惑しつつも家に帰るのを了承した。幾度も私達に頭を下げて去って行く。
さて、イリヤを見つけねばの。本当に目の離せぬ子供だわい……。
「我が与えた宝石がある故、困りごとがあれば信号を送ってくるであろう。全く、仕方のない小娘よ」
「そうでございますな」
契約をすれば魔力的なつながりができるので、閣下ならばすぐにイリヤの居場所を突き止められるであろう。
それだけでなく、与られた宝石の魔力を辿れば隣国でも把握できる。
閣下は宝石の魔力の発生源へと向かうことにされた。
イリヤの母御達が引き返す方向だ。上空から追い越すと、程なくイリヤの住む村が視界に入った。
「……イリヤの村ですな」
「そうであるな」
近くにいるのであろうか?
村の周辺は女性達が捜していて、広場では子供が遊ぶのを老人が見守っている。村の外れにある畑には、今日は人影一つない。皆がイリヤの捜索に協力してくれているのだ。
閣下が止まられた場所は、イリヤの家の真上だった。
「……イリヤの家でございますな」
「ぐぬぬ、小娘があぁ……っ! 持ち歩けと申し付けたに、よくも置いて行きおったな……!!!」
閣下の手がワナワナと震えていらっしゃる。
連絡がないから問題がないのではなかった。よもや、連絡手段を置きっぱなしにしているとは……!
契約の魔力を辿っても居場所を把握できるが、閣下が手ずから魔力を籠めてくださった宝石には及ばぬのだぞい。イリヤにはあの宝石の大切さを、しっかりと教え込まねばならぬわい……。
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