第6話 冒険者エクヴァル(ラスト)
都市国家バレンまで辿り着いた。チェンカスラー王国の隣だ!あとはティスティー川を越えれば、チェンカスラー王国領に入る。
その中でも比較的北にある都市にやって来た。
さて、まずは冒険者ギルドだ。受け付けに行って依頼の終了を確認してもらうと、ついにランクアップ!
「やった!Dランクだ!」
思わず声に出てしまい、周りの人間にクスクス笑われてしまった。大の男がDでは、本当はまだまだなんだよな…。
奥の部屋に行ってどんな依頼があるか確認していると、大声で何人もの男たちが話をしているのが聞こえてきた。
「竜だよ竜!!中級のブリザードドラゴンが出たって!やべえよ!!」
「あっちの山の方らしい!国境付近だから、チェンカスラーから討伐でないか…?」
へー、中級。どうせならイリヤ嬢にドラゴンティアスでもお土産にしたいけど、中級は一人だと厳しいかな…。
「中級か~。アイツらが居ないから、二人だと無理だよな。」
「…そうだな、ブレスの防御魔法が使えない。覚えておけばよかった…。残念だが諦めよう。」
ん?チャレンジできそうなヤツ、いるの?一緒にやれないかな。ダメで元々、声をかけてみよう。
ちらりと見ると、やたら大柄で鎧に身を固めた男と、きれいな金髪にとがった短い耳の、エルフの血が混じって居そうな整った顔立ちの剣士だった。腰から下げているギルド章は、Aランクのもの。
ギルドに出入りする時は特に、見えるようにしておくのが推奨されているのだ。
仲間を探す時の目安になるからだって。
「やあ、君達Aランクなんだね。ドラゴン倒すの?私、ブレスの防御魔法を1人分なら使えるけど?」
振り向いた二人は、私の姿を足先からてっぺんまで眺めた。
「…Dランクか。攻撃が当たると、けがでは済まないぞ?」
金髪の方だが、見下されてる感じはしないな。
「当たらなければいいんじゃない?魔法はタリスマンが買えればアップできるし、私がどのくらい戦えるかは、勝負してみれば解るでしょ?」
「…なるほど、一理ある。」
正直、Aランクの実力とやらには興味がある。しかしもっと侮った扱いをされると思っていたが、この金髪はやたら慎重だな。
「おいおい、大丈夫かよ。こいつとやんの?」
でっかい男の反応の方が、普通なんだろうな。周りもざわついてる。アイツ、誰に声かけてんのか解ってんのかよって言われてるわ。初めて来た街だし、彼らが誰だかなんて知らないんだけどね。
目立ちすぎるから冒険者ギルドを出た。
でっかいのがノルディン、金髪がレンダールと言うそうだ。
私はエクヴァルだと名乗り、旅をしながら一人で冒険者をしていると伝えた。
戦うのはレンダールという方。わざわざ木刀を二本買って、私に渡してくれる。
そして町から少し出た、誰もいない空地に連れられてやって来た。
私は適当に立って、レンダールにここら辺でいいか、と尋ねた。
レンダールは何か警戒しているようで、少し離れて立っている。さすがAランクと言ったところか、感がイイね。
もう一人のノルディンという男が、開始の合図をする。
でも残念だね!そのくらいなら半歩踏み出せば、もう一歩ですぐに届くよ!
合図と共に一気に飛び込む私に驚きながら、半歩下がって剣を受ける。
「はは、いい反応だね!」
「まさか届くとは…!」
勢いのままに三度ほど剣を合わせると、レンダールは苦い顔をして後ろに下がった。
私は姿勢を低くしながら追い、大股に一歩踏み出して左脇に構えた剣を水平に振りぬく。
「一撃が重い…っ」
下がりながら受けて少し重心を崩すが、何とか踏みとどまっている。
頭の高さをかえないように右足に重心を残したまま左足をスッと寄せ、右側に振った剣を返して、左足に重心を移しつつ前に出し、八相に構えた。
そして右足で踏み込みながら剣を振り下ろす。
レンダールはこちらをしっかりと睨み、体を躱す。辛くも避けてこちらに剣を向けるが、軽く弾いて一歩ずれた。
「おいおい…、なんなんだ、あのエクヴァルってやつ!レンダールが押されてる…」
それまで鷹揚としていたノルディンにも焦りが見える。
Dランクに負けたら悔しいだろうね。
ああ、これは私が勝たなければね!
何度か剣を交わすが、さすがに体勢を整えれば上手く避けるし、少し間があれば攻撃をしてくる。
いったん少し離れ、レンダールの攻め方を確認することにした。
レンダールは息を乱していて、苦々し気に剣を握っている。
「油断したつもりはなかったが…、いや、最初の一手はさすがに想定外だった…」
「その割にはしっかり避けたじゃないか。」
「どこがしっかりだ…」
言いながらも、私を捉える目は優男風に似合わず挑戦的だ。
ここで決めに来るって所かな。
レンダールは剣を体の前に構え、前に出ると同時に右下から切り上げて来た。私は斜めに一歩引くが、継ぎ足で追いかけてきて、更に上から真っ直ぐ剣を振り下してくる。剣を合わせて左側に流し、擦れ合ってるうちに崩そうと思ったが相手は正確に意図を読み、外して再び前に進んでくる。
私はあえてあまり後ろには避けず、半歩右に動いて剣を前に出した。
私が引くことを想定して進んできたレンダールの首の部分に、ちょうど剣が残る。
「残念だったね!間合いの詰め方は、自分が進むだけじゃないんだよ。」
「……くっ…。参りました…。」
首元の木刀を目で確認して、レンダールはガクリと膝をついた。
ノルディンが走ってやってくる。
「お、おい!まさかお前が負けるなんて…!」
「完全に読まれていた…、完敗だ。」
ん、意外と殊勝だな。やだなあもっと、この私が負けるわけがない!とか言ってくれないと…
苦手な空気になってしまった。真面目な男だ。
「いやあ、まあアレ、ドラゴン倒そうじゃないか。ドラゴンティアスだけ私にくれ。」
タリスマンは負けた彼が買ってくれるという事になった。いやいつそんな勝負にしたかなとは思ったけれど、せっかくだし貰えるものは貰おう。
ブリザードドラゴンを退治に行くのに、まずは打ち合わせからだ。
適当な喫茶店に入り、四人掛けの席に案内されて腰かけてた。
「…てかアンタ、Sランクの実力だろ。…何でDなんだよ。」
「最近、冒険者になったばかりなんだよね。元々軍人だけど、そこはあんまり聞かれると君達を消さないといけないから。」
「聞かねえよ、おっかないな!」
やはりこういう重要事項は最初に伝えておくに限る。話がスムーズでいい。本国から遠いし、エグドアルムに結び付ける者はいないだろうから、このくらいの話は許されるだろう。
ノルディンの方は怖い事を言うな、ぐらいな反応だが、レンダールはどこかの国の諜報員として極秘任務中か、くらいは気付いた節がある。それ以上聞かれることはないだろう。
「まあ、この国には用がないし、全部済んだらバラしてもいいんだけど。まだ時期じゃないんだ。」
なかなか楽しく戦えて気分がいいから、口が軽くなりそうだ。気を付けよう。
「こちらホットの紅茶です。」
「私です、可愛らしいウェイトレスさん。ありがとう、とても美味しそうだ。」
笑顔で受け取る私を、前の男二人はなぜか疑う様な目で見ている。
「なんつーか…。おかしな男だな。」
「ああ、少し不安になるな…。」
「何を言うんだい、美しい女性を褒めるのは紳士の義務だよ!」
二人の飲み物もすぐに配られ、飲みながら話を勧めた。
「私の防御魔法は範囲が狭いから、ブレスが来るときは私の後ろに来てくれ。ブレスの前動作は覚えているね?」
「ああ、首を斜めにして二秒くらい静止、だな。」
「正解だ。じゃあ最初に…」
色々とパターンを考えて話をし、出発は明くる朝に。
ノルディンとやらは剣の属性付与が氷だったと、悔しそうにしていた。ブリザードドラゴンに氷じゃね…。
さてブリザードドラゴン。その辺の木よりも高く、ドラゴンは全般的に肌が固い。鱗なんて超固い。
そういうわけで、愛用のオリハルコンの剣を使う。
さすがにAランク冒険者は
ノルディンが使う剣こそ、何か凶悪な魔法付与してないか…。見た事ない程、強力な気がするぞ。どんな術師に頼んだんだ。
目標を発見後、まずは私とレンダールが左右よりブリザードドラゴンの足を攻める。
レンダールに合図をさせて、彼に合わせて同時に行く。突然足を斬られたドラゴンは、痛みと驚きで、脚を振り上げてズシンと地面を蹴ったので、いったん離脱。
今度はブレスだ、来るぞ。
私は急いで詠唱をする。
「襲い来る砂塵の熱より、連れ去る氷河の冷たきより、あらゆる災禍より、我らを守り給え。大気よ、柔らかき膜、不可視の壁を与えたまえ。スーフルディフェンス!」
何とか間に合い、ブレスが左右に別たれていく。ノルディンとレンダールも隠れるのに間に合ったので、ダメージはなしだ。
ブレスが途切れると同時に二人は飛び出し、レンダールが飛び上がってドラゴンの頭を、ノルディンは横っ腹に太刀を浴びせる。
私もすぐさま二本足で立つ竜の、ノルディンに狙いを定めた手を斬りつけた。
思ったよりも固く、剣が深くは通らない。これは少し長引くか…
本当は強い攻撃魔法を使えるヤツが居ればいいんだが。少し弱らせると楽になる。
肩から背中側に回ったレンダールは、飛ばれないように二枚ある羽根を一枚、斬り落とした。
「よっし、やったじゃん!」
破顔するノルディンと対照的に、竜が痛みで咆哮を上げる。
「おい、またブレスじゃないか!?こっちに来られなければ、避けろ!」
すぐさま次の攻撃に備える。レンダールは後ろにいるからともかく、私とノルディンだ。
薄い膜は今度も襲い来る氷の息からしっかりと身を守ってくれた。
さすがに中級ドラゴン、このブレスを至近距離で喰らったら一溜りもないな。
「あんた魔法もすごいな、エクヴァル。」
「ん~、でも実はあんまり持ってないんだ。これもしっかり防げるのは、あと一回って所だな。ところで君の剣、凄い付与がかかってるよね?」
「ああ、自慢の剣だが今回は…!」
そう言いながらもノルディンは早速攻撃に加わっている。さすがにAランクだ、切り替えが早くていいな。
私も隣を走り、竜の前で左右に展開して一斉に攻撃再開。
レンダールは鞭のようにしなる尻尾を避けて背中を斬りつけた。
「それ、腹に突き刺して魔法を発動できないかな!?内部からなら、少しは竜を弱らせられるはずだ!」
「なるほど、やってみらあ!!」
私がまず跳んで竜の気を引き、襲い掛かる竜の爪を剣で弾く。その間にノルディンが地面を蹴って竜の膝を足場にして、体ごと飛び込みながら腹に深々と剣を突き立てた。かなり固い竜に、ここまで深く差し込むとは。ずいぶん力があるな。
「いっくぜ、全力で発動させる!!!」
まさかの展開だ。
ブリザードドラゴンが…凍った。
「待った待った!何この効果!アイスドラゴン系って凍る!?凍らないよね、普通??」
「本当にまさかだな…」
いつの間にか隣に来たレンダールも半笑いで氷像と化した竜を見る。
「あ、じゃあ、もしかしてこれ…」
ノルディンが剣にまた魔力を流すと、ビキビキと大きな音がして竜が半分に割れた。
さらにそれは、大きないくつもの欠片になって地面に落ちていく。
「君達、何この武器!何を使ってるんだ!??」
さすがの私も驚くしかない…
「うっわー凶暴な…。イリヤのやつ、おっかねえわ…」
……ん?イリヤ?まさか…
「イリヤ?まさか、それが剣に魔法付与した…?」
「ああ、イリヤという女性がしてくれた。それはもう、楽しそうに…」
楽しそうに、この恐ろしい付与を…!さすが“魔物全部ウェルダン事件”を起こした女傑だ…
そうだ、イリヤ嬢だった。お土産にしようとドラゴンティアスが欲しかったんだ。
「あ、ドラゴンティアスは無事だ。さすがに強いな、これ。良かった…」
「じゃあ今回のは、俺たちだけでギルドに報告して良いわけ?」
欠片となった竜から探した透明なドラゴンティアスを拭いて居る私に、ノルディンが討伐部位を切り取りながら声をかけて来た。
「そうそう、まだ目立つとマズイから。あ、そのイリヤって人の事を教えてくれないかな?私も魔法付与をしてほしくてね。」
「充分強くないか、君は…」
「いやいや、魔法付与カッコイイじゃない。」
テキトーに情報を貰おう。まさか家族にウソを告げるとも思わないけど。
「彼女はチェンカスラー王国の、レナントという街を拠点にしているそうだ。私たちはまだ行った事がないけれど。」
「どういう娘?かわいい??」
「ん~、清楚系かな。この辺じゃ珍しい薄紫の髪だし、すぐわかるぜ。白いローブを着て、やったら礼儀正しい子。」
清楚系、白、礼儀正しい!俄然会う気が湧いてきたぞ!そしてこの魔法付与の腕!すばらしい!!
「赤い髪の悪魔と一緒だよ。」
やはり居たな、悪魔。君の読み通りだ、アーレンス。
「それは…楽しみだね。」
思わず笑顔になってしまった私を、レンダールは何か勘違いしたらしい。
「…これは純粋な忠告だが、戦おうと思わない方がいい。君はかなり好戦的だから…」
「いやいや、私は単なる好青年だよ。」
「「いやいやいやいや!」」
…何だ、その否定の仕方。
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