第4話 冒険者エクヴァル(3)

 ついに、依頼主の目的の町に到着!

 途中でイラッとする事はあったけど、問題がなくて良かった!

 キュクロプスでテンションが上がっていたとはいえ、この温厚な私を怒らせるとは。いけないね、彼らも。


 冒険者ギルドに行ってカードを出し、護衛の任務終了!しかしEランクが一人で護衛?と首を捻られた。早くランクを上げたい…

 とはいえ、だんだん慣れて来たぞ。

 次は依頼主の家に行き、回復魔法を使うんだったな。娘さんは幾つかな!?楽しみにしていたから聞いてないんだ。


 着いたのは確かに金銭に余裕のなさそうな、こじんまりとした木の家だった。イリヤ嬢の実家よりもかなり寂しい感じだが、あそこは宮廷魔導師見習いから仕送りがあったんだ、裕福な方だったんだろうな。

 依頼主が声を掛けると、五十代半ばから後半くらいの男性が顔を出した。とても疲れた顔をしていたが、訪ねて来た男の顔を見て、嬉しそうに破顔する。

「よく帰って来てくれたね、娘はまだ全然治らないんだ…」

 古びた棚、立て付けの悪い扉。掃除はされているが、色々と直すべき個所はある。

 奥に進むと彼の妻らしい、五十代前後の女性が出て来た。

 二人とも暗い顔をしている。そして後ろにいる私をみて、彼は、と聞いた。

「ああ、…回復魔法を使える方なんだ。」

 無難な答えだ。


「お初にお目にかかります、冒険者をしているエクヴァルと申します。護衛の任務を担って参りました。回復魔法が使えますので、こちらのお嬢様のお力になれるかと思い、僭越ながら押しかけさせて頂きました。」

 肩口に手を当ててお辞儀をする私を、夫婦はじっと見ている。

 あれ?変だったかな?

「エクヴァルさん丁寧過ぎ!冒険者っぽくないよ!」 

 依頼主はこっそりと耳打ちしてくる。

 あ、しまったつい。ご婦人の前だからとキメすぎたか。しかもこの後は娘さんと会うんだ~、とか思ってたから!

「あ~、とりあえず、娘さんの所へ案内して頂けませんか?診ない事には何とも言えませんので。」

 我に返った奥さんが、すみませんと言って奥へ案内してくれた。


 背中に傷を負った娘は、うつ伏せで粗雑なベットに寝ている。あまり清潔な服でもないな。そしてまだ傷が痛むようで、時折眉を顰める。年の頃はイリヤ嬢と同じくらい、肩程の長さの髪の女性だ。

「…直接傷を見たいのですが、服をめくっても?」

「は、はい。お願いします。」

 奥さんが頷くと、男二人は部屋から出て扉をそっと閉めた。


「…どうでしょうか。ポーションを与えても、傷薬を塗っても、毒消しを使ってみても効果が薄いんです…」

 獣に引っかかれたような三本の爪の痕が背中の半分もあり、周囲は未だに赤黒い。

 なるほど、これは回復薬では慰めにしかならない。

けがれですね。我々は呪い傷、と呼んでおります。浄化しなければ治りませんよ。」

「…呪い!?」

 普通に生活していると聞かない言葉だから、かなり驚いた様子だ。

 爪に呪いを宿す生物もいるのだ。だいたい襲われると死ぬから、気付かないだけで。


「では浄化しましょう。」

 私はそう告げて魔法円マジックサークルを出した。専門家なら必要ないかも知れないが、さすがに私程度の腕では強くない呪いの傷口の浄化でも、これが必要になる。私以外の周囲の影響を取り除き、浄化の魔力を増幅させる魔法円だ。これを傷の下になるように敷く。


「邪なるものよ、去れ。あまねく恩寵の内に、あらゆる霧は晴れ、全ての祈りは届けられる。静謐せいひつを清廉なる大気で満たせ。プリフィケイション」

 魔法円から光が放たれ、傷口の周りの赤黒さが薄くなっていった。

 成功だ。あんまり自信はなかったけど、安心した。

 そして回復魔法を唱えて終了!傷は殆ど塞がっている。私は娘さんの顔を覗き込み、顔色が良くなっていることを確認した。

「…終わりましたよ。具合はどうですか?」

「痛みが…なくなりました…」

 何日も苦しんでいたからか、まだ呆然としている。

「良かった…こんなにあの傷がキレイに!ありがとうございます!何とお礼を言ったらいいか…!」

 父親と依頼主も部屋に入ってきて、ずっと寝たままだった娘がベッドに座っている姿を見て、たいそう喜んだ。


 その後は依頼主にも来てもらい、ギルドに行って出来そうな依頼を探す。

 土地勘がある人間がいると、とても助かる。討伐ついでにボアを倒して肉を提供したら、またとても感謝された。精を付けないと治らないからね。

 食事をご馳走になり、出発だ。ようやく次の国だが、まだ半分も来ていない…

 遠いな、チェンカスラー王国…。

 着くまでに冒険者ランクのアップを目指して頑張ろう…。



 今度は山越えだ…。

 山よ、なぜお前はここにいるのだ。

 討伐依頼で受けておいたサンダーバードを倒しつつ、深い山を進んでいった。

 冒険者ギルドの依頼は、採取は受けたギルドでしか提出できないが、討伐や護衛は別のギルドでも終了を受け付けてくれて、ちゃんと評価されるそうだ。討伐に関しては連絡が遅れるから、できれば元のギルドがいいそうだが。

 FからEへは依頼を5つ終了させれば内容に関係なく上がるが、この先は難易度もポイントになるらしい。詳しい規定はよく解らないが、同じ討伐でも強い敵の方がポイントが高くなり、採取も希少価値が高い方がポイントが高い。護衛なんかは、依頼主の評価も対象になるという。

 確かにその方が公平だな。何でも一ポイント、というと簡単なのしかやらなくなりそうだ。

 そしてあまりに素行が悪いと警告され、除名処分やランクアップの停止もあるそうだ。

 

 途中、規模の小さな盗賊団に出くわしたので、とりあえず礼儀として殲滅しておいた。

 さて、今度は少し大きな街だ。入口で身分証を求められたので、冒険者ギルドのカードを提出した。これで通れたが、この年でEか…って呟くのはやめてくれ。なったばかりなんだ、察しろよ。

 今日はここで宿をとって、ゆっくり休んでから次に備えたい。あ、魔導書欲しいな…。何か使えそうなの無いかな。実家なら無料で学べたのに、変な意地を張るんじゃなかった…。


 久々のベッドで眠りすぎてしまった。

 次の日の朝、冒険者ギルドへ行って依頼を確認する。めぼしいものは取られた後のようだ。強すぎる敵と、簡単すぎるものばかり残っている。

 強すぎると言っても私には問題ない程度だが、Eだから受けられないんだよ…。

 ガッカリしていると、後ろから誰か近づいてくる。

「あんたEランク?一緒に依頼をやらないか?」

「剣士だろ、討伐なんだよ。」

 十代の若者だ。緑の短髪の男、水色の髪の男、そしてオレンジ色した髪の女性。

「その通りだけど、何を倒す依頼だい?」

「森に打ち捨てられたゴーレムよ。まだ動くらしいの。」

「へえ、そりゃ面白い。ぜひ同行させてくれ。」

 ゴーレムとは、ラビと言われる特殊な神官が、土や石から作る守備用兵器と言ったところかな。

 彼らは剣士、槍使い、攻撃魔法と回復をする女性の三人パーティーで、やはりEランクらしい。しかしEランクには少し荷が勝ちすぎるかもとギルドで言われ、追加メンバーを探していたところだそうだ。

 私はまだゴーレムを見た事がないので、とても楽しみだ。しかも場所も解っててあまり移動しないらしいし、町からはそんなに遠くない。程よい依頼だ。


 彼らがポーションなどを買って準備するのを待って、共に出掛けた。

「私たちはここを拠点にしてるの。貴方は初めて見るわね。」

「ああ、南に向かってるんだ。惚れた女を追いかけててね。」

「…兄ちゃん確かにいい男だけどさ、逃げた女を追うのはやめろよ…」

 水色髪の槍使いよ、何を心配しているんだ。

「違うよ、貴族に見初められて逃げたんだ。恋人である私の仕事を奪うって、脅されたらしいんだ。だから冒険者になって、追いかけようと思ってね。」

「おおお!そうだったのか、カッコイイ!!」

「いいなあ、そんな物語みたいな恋…」

 最初に声を掛けてくれた、緑の髪の少年が目を輝かせて話を聞いてくれる。やはり女の子にも受けがいいぞ。気軽に誘えなくなるが。

 こんな創作ならいくらでも話せるから、任せてほしい。

 でもいいな、この設定。これからはこれでいこうかな?


 そんなこんなで、ギルドで聞いた通り、街道から少し入ったところにゴーレムはいた。

 材質は…土じゃないな。ストーンゴーレム…?あ、いま持ってるの鉄の剣。これじゃ切れない…

 と、私が分析している間に、若さは暴発していた。

「見つけた、行くぞ!」

「おう!ニナ、離れてろ!」

 ニナは女の子の名前らしい。

 ていうか、お前らその武器で向かうのか!?折れるから!それよりまずは魔法だろ、この女の子は攻撃魔法使えるんじゃなかったの!?

  

 案の定二人の武器はゴーレムに当たって簡単に折れてしまい、ブンと振られたゴーレムの腕にぶつかり、二人まとめて一気にすっ飛ばされた。

 …あ~あ……

「きゃああ!だいじょうぶ!?」

「いってえ…、おい、アンタも突っ立ってんなよ…!」

 彼女は回復魔法を使い始める。

 突っ立ってるなって…、私が行くよりニナちゃん、ここで攻撃魔法決めないと。ほらゴーレムの目が赤く点滅して、危険信号が入ってるよ。あれ、迎撃に移行の合図だから。

 仕方なく今持っている剣を捨て、まずは魔法で攻撃。

 走って近づきながら、まずは魔法を唱える。


「ストームカッター!」

 ゴーレムは傷を負っても怯むことはない。痛みも感情もないからだ。魔法が当たったのを確認し、素早く剣を取り出す。このオリハルコンなら鉱石だって切れる。

 私の速度を計算してゴーレムが腕を水平に振って攻撃を開始したので、近づいた時に一気にスピードを上げて、当たる前にゴーレムの体の真ん前まで入り込む。腕より低い体勢で入りながら横に一刀浴びせ、通り過ぎてから右足のつま先を軸に体を反転し、振り返りざまにもう一撃。

 ほおお、楽に切れる。オリハルコンは、やはりいい。

 ゴーレムは体をガタガタ揺らしながら、振り返って私の姿を捕らえた。

 さらに攻撃してくるつもりのようだ。

 ほいっと額のemethの文字を切り裂いて終了。“e”を削れば動かなくなるというのはよく知られた手口だが、どうやら彼らは知らなかったようだ。しかし魔法弾を装填そうてんしているタイプもいるから、いきなり正面から文字を狙うのは危険だと聞いたことがある。


「だめだよ~君達、ストーンゴーレムは鉄じゃ切れない。武器が買えなかったら無理だから。それと攻撃魔法を使うとかね。」

 剣を収めながら三人の様子を見る。

 大した怪我ではないようだ。

「す…すげえ、早すぎて全然わからなかった…」

「あんた、魔法も使えたのかよ…!」

「それ、中級の魔法よ…?剣と魔法、両方使えるの!??」

 なんだか私を見る目が変わってるぞ。おお、嬉しいな。

「え、中級なの?テキトーに選んで覚えたんだけど。」

 それは知らなかった。あとで父上に怒られるかな…。まあいいか。どうせ兄上達にしか興味ないからな、あの人は。

  

 ギルドで討伐終了を報告して、若者たちに惜しまれつつこの街を出た。次の街までへの配達の仕事を受けられたので、また一つ依頼をこなせる!

 しかし護衛はDランク以上と書かれたのばかりだ。まだ信用がたりないようだ…

 早くもっと強い敵の討伐も、受けられるにようになりたいなあ。

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