俺はあいつの何番目?
新巻へもん
最近気になってしょうがない
「ほら、次。美紀江の番だよ。一番て誰?」
「えー。やだ」
「みんな言ったのに美紀江だけ言わないなんてズルいじゃん」
「勝手に自分から言っただけでしょ。それに揃って川崎くんなんて、取りあえず言いましたって感じ」
「まさかさあ、岩下くんじゃないよね?」
俺の名前が出て、思わず首をすくめた。クラスの女子が誰が好きかと言う話を盗み聞きしているのは決してわざとじゃない。担任に別の授業で使ったノートパソコンを戻しておけ、と言われて準備室で片づけていたら、パソコン教室にやってきた女子たちがそういう話を始めただけだ。
すぐに出て行けば良かったのかもしれないが、出るタイミングを失って、こうやって俺は息を潜めている。別にミキの声が聞こえたからなんて疚しい気持ちはない……とは言い切れない。
川崎というのは、隣のクラスの奴だ。1年生のくせに野球部のレギュラーで、中間テストの成績も学年で3位。笑顔が爽やかなナイスガイでおまけに性格もいい。女子たちの人気ナンバーワンだ。ちなみに俺は……圏外かな。
「ヒロのこと? 1番じゃないな。うん」
「ってことは好きは好きってこと?」
「そうかな。2番目ぐらいには好きかも」
「うそ。ありえない」
「美紀江ってば趣味悪くない?」
うわ、俺の評価酷すぎじゃん。ミキは2番目って言ってくれたけど。つーか。2番目なのか。幼馴染のミキとは今でもよくつるんで遊んでいる。最近になって急にミキのことが気になりだした俺としては、喜んでいいのか、悲しむべきなのか。
「岩下くんてさ、まあ悪くはないけど、顔も普通だし、運動はイマイチ、成績だって一応上位ってぐらいじゃない。どこがいいの?」
「えー。一緒に遊んでて楽しいしさ。それに気を遣わなくていいから気楽なんだよね。付き合い長いし」
「それって好きとは違うんじゃない。てか、1番は誰なのよ?」
「もう、いいじゃない」
ミキの声が遠ざかる。女子グループもミキを追っかけていったようだ。
その翌日、俺はミキの部屋でいつものようにカードゲームをしていた。いつもは俺の家に来るんだけど、今日はミキの家だ。ここのところはネタデッキを封印して勝負に徹しているので、戦績はやや勝ち越している。ミキとしてはそのリベンジをしようというわけだ。
急にミキのことを意識しだした俺としては、先日の件が気になって仕方がない。そういえば、昔に比べて随分と女らしさが出てきたような気がする。まあ、立膝でカードとにらめっこしている姿はどうかとは思うが。こいつの一番て誰なんだろう。俺みたいなのが2番目というだけでも奇跡ではあるのだが……。というわけでミスを連発して今日は少々分が悪い。
「ヒロくん。今日はうちでご飯食べて行きなさい」
ミキのお母さんが空け放したミキの部屋のドアから声をかける。気づけば結構いい時間だ。
「あ、俺もう帰ります」
「いいじゃん。家で食べて行きなよ。うちのママの誘いを断ると後が怖いぞ~」
「いつもミキがお世話になってるんだから遠慮なんてしなくていいのよ。ヒロくんのお母さんには連絡しておくから」
ミキのお母さんはスマホを振って見せた。二人の母親同士も仲がいい。
「なんか、今日は精彩に欠けるねえ。どうしたの?」
俺のミスで勝負を落とした後にミキが聞いてくる。
「ミキってさ、もう高校生だろ。好きな相手とかいるのか?」
そう聞ければいいのだろうけど、まさか聞けるわけもない。
「まあな」
「なんか変なものでも拾って食べた?」
「んなわけあるか! イヌネコじゃあるまいし」
「そっか。なーんか怪しいなあ。悩み事があるなら聞いてあげるぞ。ミキ様に相談したまえ」
「なんでもねえよ。ほら、お前のターン」
その後、数戦して冴えない結果を出してから、夕食をご馳走になった。3人で食卓を囲む。俺の皿にはハンバーグが山のように盛られていた。
「うちのママのハンバーグ、大したもんだから食べてみてよ。私は1番だと思うんだ」
「おだてても何も出ませんからね。ヒロくんの前で恥ずかしいじゃない」
確かにミキが自慢するだけあってハンバーグは美味かった。付け合わせのポテトサラダとみそ汁もうまい。
「そういえばさ。ヒロって日本史の成績は1番だったんだよ。さすが歴オタだよね」
「あれすごいじゃない」
「そんなこと言ったら、美紀江さんはクラスで総合1位ですからね。俺じゃ逆立ちしても敵いません」
「そんなことないわ。得意なものがあるっていうのはいいことよ」
「そーよ、なんだって、1番になれるんだったらすごいじゃない。1番ばかりがいいってでもないけどさ」
なんだ。ミキのやつ。やたら1を強調するな。まさか、俺が立ち聞きしてたのを知ってるのか。澄ましてご飯を食べるミキの表情からは何も読み取れない。食事が終わったら早々に暇を告げる。
「じゃ、そこまで送ってくる」
母親に行ってサンダルをつっかけるミキ。
「馬鹿。それじゃ、また俺が送ってこなきゃいけないだろ」
「じゃあ、下まで」
エレベーターを降り1階のロビーで、じゃあなと手を挙げるとミキが唐突に言う。
「お味噌汁おいしかった?」
「ああ。うまかった」
「良かった。出汁は私が取ったんだよね。毎日それじゃ、また明日」
何だよ、藪から棒に。訳がわからねえ。
結局、あいつの1番は分からずじまいだった。まあ、聞けるわけ無いんだが。家に帰ると母親がきちんと礼を言ったのか聞いてくる。ああ、と投げやりに返事をして、ふと気になったことを聞いてみた。
「みそ汁の出汁ってどう作るんだ?」
「急にどうしたの?」
「いや、ミキが出汁とったとか言っててさ」
「あら。若いのにしっかりしてるわね。なのに、アンタときたら」
「それはいいからさ」
「出汁は鰹節と昆布を煮てつくるんだけど、最初のはお吸い物とか茶碗蒸しに使うの。これが1番出汁。でも、お味噌汁だとその出汁を取った残りをもう1回煮だしたものを使うのね。2番出汁っていうんだけど、料理によって合う合わないがあるってこと」
ミキの言葉は何か意味があっての発言なんだろうけど、やっぱり良く分からねえや。
俺はあいつの何番目? 新巻へもん @shakesama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
新巻へもんのチラシのウラに書いとけよ/新巻へもん
★101 エッセイ・ノンフィクション 連載中 257話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます