本題の時間

『お前は私と約束を交わしたろう。』


黒いものは言った。


「な、なんのことですか。」


私は後ずさりながら叫ぶように聞いた。


『覚えてないのか…。』


覚えてないってどういうこと…?


『あいつは、小さいときに死んだ。』


冷たく言う黒いものにわたしは苛立った。


「そんなことない!彼は死んでないわ!だって、今もあんなに普通にっ…。」


「じゃあ、お前の髪の色はずっとその色だったのか?!」


私の言葉を遮って、怒ったように黒いものは聞いてきた。


「それはっ……」


『いい加減、思い出せ。』


黒いものが私の額に手を伸ばす。

私は逃げられずに、その手に触れられ


そうか…私は、たぶん彼に会いたかったんだ。



『思い出したか…?』


「……はい。」




私は…彼を、彼に会いたくて、この黒いものと約束を交わしたんだ。


私は悲しくて、辛くて、ベンチに座り込み泣いた。



『あいつとの生活は、どうだった。』


「と、とても、楽しかった。あの頃より、たくさん笑ってくれた。もっともっと、彼と一緒に、、いたいと思った…。」


『そうか…。』


「もう、お別れなんですか?また…。」


私は泣きながらその黒いものに聞いた。


「だから、ここへ、私のところへ来たんですか?」


『理由はそれではない。お前と私は約束を交わした。でもそれはただの約束にすぎない。』


「どういうこと、ですか。」


『今回は約束ではなく、契約を交わしにきた。』


「けい、やく?」


『お前が本当にあいつとの日々をこれからも過ごしたいのなら、日曜日、あいつと枯れた花を持ってここへ来い。それ以外をここへ入れることは許さない。』


それだけを残して、その黒いものは消えてしまった。

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