どんなにたくさんあったって

彼が現れて2日目。

この日は昨日とほとんど何も変わらない日々を過ごした。



お花の水やりをしていると、花が1輪だけ、枯れていた。


「あれ…、枯れてる。昨日まではそんなじゃなかったのに。」


「どうしたの?」


彼が近づいてきた。


「あー…、枯れちゃったんだね。ほかの花を邪魔しないように抜いてあげよう。」


彼はかがみながら、優しく言う。


「そうだね…。」


土をかき分けてそっと枯れた花を除く。


「なに、してるの…?!」


小さい女の子が悲しそうな顔で聞いてくる。

この子はこの教会の子だ。

そういえば、この花は確か、この子が植えた花だ。


「枯れちゃったから、抜いてるの。ごめんね。この花植えたのあなたよね。大切にしてたよね、ごめんね。」


と言うと、


「抜かないであげて!」


キュッと私の手を掴み、涙をポロポロと流す彼女。


「じゃあ、ほかの鉢に移してあげよっか。」


彼が言った。


「ほんと?!」


女の子はぱっと顔を明るくして、


「うん。ちゃんとお世話するんだよ。」


「分かった!」


涙を目に残しながら笑った。



鉢に移したあと、部屋に持っていってもいいよと言うと、彼女は


「ありがと!お兄ちゃん!また後でね!」


笑顔で手を振ってくれた。

手を振り返した後、


「あんなにたくさんの花があるのに、どうしてあれだけなんだろうね…。」


彼は遠くを見つめながら深く何かを考えている様子だった。


「どんなにたくさんあっても、それだけなのよ。それに、枯れちゃったらやっぱり悲しいじゃない。」


そう言うと、


「花もやっぱり喜んでるのかな。」


「きっと。だって、あの子が大切に育ててきたんだもの。また綺麗に咲くといいな。」


「でも本当にあの子が幸せだとは思えないな。」


え……?なにを、言ったの?

彼から出る言葉とは思えないような

優しさのない、冷たくて、中身のないものに聞こえた。


彼の顔を見ようとした。でもその前に彼は


「水やりも終わったし、夕飯の支度だね。子供たちがお腹空かせちゃうね。」


そう言って宿舎の方に足を向けてしまった。

彼の顔を見ることは出来なかった。



それから朝になるまで彼の顔を見ることが出来なかった。





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