報告と不穏
自分と彼との共通点がなくなった髪をなびかせて、彼と廊下を歩いている。
彼の横顔を見る。
整った顔とその瞳は私にとって大切にするべきものだと改めて思う。
でも、どうして彼は今ここにいるんだろう。
「ねぇ、」
「ん?」
「…いや、なんでもない。」
話しかけて、やめる。どうしても聞きたいけど、今この瞬間が壊れてしまいそうで怖い。
「どうした?」
彼が私の顔を覗き込んでくる。
「んーん。なんでもない。」
にこりと笑って見せる。
「そう?」
「あ!神父様に会いに行こ!報告しなきゃ!行こ!」
ちょっと無理やりだったかなと思うくらい、彼の腕を引っ張る。
「おぉっ!ちょっとちょちょっ…!」
「神父様~!!どこですかー?」
「どうしたんだ?サキ。」
神父を見つけると、彼の手がするりと私から離れていく。
「君は…!」
神父はビックリした顔をした。私は得意げな顔をしてみせる。
「ビックリしました?」
神父の顔をのぞき込む。悲しそうな顔をしていた。私に対して。
「お久しぶりです…。」
彼は引きつった笑顔を神父に向けた。
「ああ…。まぁ、ゆっくりして行きなさい…。」
悲しい表情して笑う神父を見て、なんだか胸がざわざわした。
それから今日1日は彼に仕事を教えた。お花にお水をあげたり、子供たちに本を読んであげたり。彼は積極的に手伝ってくれた。
どれもすごく楽しそうに笑う彼。
こんな日がまた、ずっと続いほしいと心から願った。
でも…。気になることはある。どうして今、彼はここにいるのか。あの引きつった顔は?
神父の悲しそうな表情はなに?
私が…何かしたのかな。
まだそれは分からない。
でも、早く知りたくて、知りたくない。
もう彼を失うなんて、私にはできない。
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