それが証だったとしても

「ん、どうしたの?サキ。」


彼が優しく私の名前を呼ぶ。


「え…?」


マヌケな声が出た。恥ずかしい。


「ぼーっとしてるから。これ、早く終わらせちゃお。」


そうだ。今、私はデーブルを拭いていて、彼は食器を洗っているんだった。


「そ、そうだね…!」


慌ててテーブルを拭く。この汚れ、落ちないなぁ、なんて嘘ついて頑張っているふりをする。


「サキってほんと、見た目とのギャップありすぎだよね。」


ニコニコ笑う彼が言う。


「そ、そうかな?」


ほかのところを拭こうとすると、


「そこ、さっき拭いてたところだよ?あははっ。」


指摘されて、そういえばと気づく。彼といると緊張する。

一通り終わって、食堂を出る。


「あっ、そういえばさ。」


彼が話しかけてきた。


「ん、なに?」


「サキ、さ。髪の色、どうしたの?」


気まずそうに彼は聞く。私はなんのことだと思い、自分の髪の毛を見てみると


「え…。」


怖くてたまらなかった。私の髪の色は灰色だったはずなのに、みんなと変わらない、黒い髪の色だった。


「なんで…。」


たまらず私はその場に座り込んだ。涙が止まらない。


「サキ…?大丈夫?」


彼も一緒にその場にかがんで私の背中に手を当てた。


「ぐすっ…。同じじゃなくなっちゃた…。なんで…?」


悲しくて、悲しくてたまらない。やっと会えたというのに。嬉しくてしょうがないのに、どうして、昨日まではちゃんとその色だったはずなのに。


「サキ。大丈夫だよ。気になって聞いただけ。黒でも君は綺麗だよ。」


顔を覗き込んで、私と目が合うと、彼はにっこり微笑んだ。


「うん…。」


私は少しほっとした。彼との共通点を失ってしまったのは悲しいけれど、彼に会えたことは何にも変えられないくらい幸せなことだ。

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