第6話高柳の夢の中

 とある星にて。 

「はっはっは。面白いな生命って。こんな風に操れるんだもんな」

 嘘鬼琉は、ご機嫌そうに言った。

「これだから辞めらんないんだ」

 まるで、薬の中毒者みたいなことを言っている。

「まぁ、それにしても今回は、特に面白いな。高柳。この存在が、よく引き立ててくれてる」

 やっぱりコイツを選んで正解だったな。

「今回の物語は、どんな結末を迎えるのかな? ククッ。想像するだけで笑ってしまうな。なにせ俺は、この話の黒幕なんだからね」

 カッカッカ、っと彼は笑った。

「お前らの世界は、この俺が回している。さあ、もっと面白くしてみろ!」

 

 高柳たちはパーティの後、疲れていたからか、ぐっすりと眠った。

 imagerの攻撃によってボロボロになった、高柳の神社は、天の力によって綺麗に修復された。その、修復された神社の中は中々良くて、安心してぐっすりとみんな寝ている。

 そんな中、高柳は夢を見た。その夢は、いい夢か悪い夢か、区別がつかないものだった。

 

 ん? これは夢なのか? 現実か? 良く分からんな? それよりもここはどこだ?

 ……。

「確か、さっきまで俺の神社に居て、寝てた? んだよな」

 高柳の居るところは、到底現実の世界とは思えないような空間だった。

 ワンダーランド。

 なにせ、目の前には歯車で出来た城らしきものがあったのだ。しかも結構大きめな城だ。

 つまりこれは夢なのか。

「? 誰かいるな」

 目の前に人影があった。どこかで見覚えがあるような気がするんだが……。そんなことを思いながら高柳は、歩いてその人影の近くまで行こうとした。

「なんか引っかかる。誰だったかな?」

 テケテケテケ、としばらく歩いていたのだが、意外と距離があるようで、中々近くならない。

「ええい、能力を使っていくか」

 高柳は能力を使う。

「夢の中でも能力は使えるのか」

 高柳は、時速百キロほどで走っていく。

「だんだん近づいてきたな」

 最初からこうすれば良かったな、と思う高柳。しかし高柳はこの時、その影がまさか嘘鬼琉だとは思いもしなかった。

 

「……‼︎ お前は、あの時の……」

 高柳は、驚き言った。咄嗟に色んなことが、頭の中で浮かんできたが、驚きのあまり、口から出せなかった。

「やあ高柳。まさか君が来るとは思っても無かったよ。なんて嘘だけどね。ちゃんと分かってたよ」

 嘘鬼琉は、笑った。

「俺がここに来ると分かっていた? いや、ここは俺の夢の中だぞ」

 琉の言葉に疑問を持つ。

「いや、確かにここは君の夢の中だ。しかし、ここの空間は、君だけのものではない」

「は? 何言ってんだお前?」

 全く意味が分からない。夢は、その人の妄想で、その人しか見れないのでは無いのか?

「普通はそうだ。だがしかし、今僕たちが居るここの空間は、違うんだ。簡単に言うと、僕が作った」

「は? お前が作ったのか? 俺の夢の中を」

 このワンダーランドを。

 しかしながら、意味が全然分からない。何のためにここを作ったのか? 何で俺の夢なのか? など、色んな疑問が湧いて出てきたが、そんな疑問は、次の琉の言葉で解決するどころか、ますます謎が深くなる。

「そう。僕が作った運命だ」

 

 僕が作った運命だ? 自分の人生のことを言っているのか? だが何故、それを今言うのだ? 俺は、お前の人生なんてものには興味はない。

「どうやら、僕の言ってることが分からないようだね」

 当たり前だ。俺はそこまで敏感ではない。と言うか、夢の中でこんなこと言われても分からないだろう、普通は。

「簡単に言うと、僕は、君たちの運命を勝手に決めさせてもらった。そしてこの空間は、そのシナリオによって作られたもの。高柳が、僕が作ったワンダーランドに来たんだ。だけど、ここは夢の中だ。存在しない」

 少し理解するのに時間がかかった。つまり琉は、俺たちの運命を決めることが出来て、ここは、あくまで夢の中。

「しかし何で夢の中なんだ? 運命を操るのは、夢じゃなくてもできるだろう」

「いや、現実はそう甘くない。だから幻想に来た。悪事がバレるんだよ、神どもに」

「悪事か、成る程な。つまり、夢の中じゃあ悪事をやってもバレないから夢の中で俺たちの運命を勝手に決めたんだな」

「そう言うこと。都合が良いんだ」

 ははは、と琉は笑った。

「迷惑なやつだな。どうせ、楽しむためとかだろ、その悪事も」

「さすがだね高柳。似た者同士だな」

「どこが似ている。お前と一緒にはされたくない」 

 本当に迷惑だ。夢に出てきて、自分が楽しむために悪事をやる。さらに、俺を巻き込みやがって。

「さて、高柳がようやく状況を掴めたところで、本題に入ろうか」

「本題?」

 まぁ、俺の夢の中だから、俺に用があるのだろう。

「そのシナリオは、もうそろそろ終わる。そして、最後の戦いになるに当たって、少しお前と、とある神二人との歯車をずらして、本来ならば、出会うはずもない奴らに、出会うようにした。しかも、盛り上がるために、アドリブにした。だから、最後の結末は、俺にも分からないから楽しませてくれよ」

「成る程。つまりは、俺とお前と、神二人が戦うってわけな。いつだ?」

「今に決まってるだろう」

「今‼︎」

「早くしないと、お前の夢が覚めてしまうからな。そうなったら、せっかくのシナリオも興ざめだよ」

「そうか、それよりあの城はなんだ? さっきから気になって仕方ないんだが」

「あれは無視して良い。お前には関係ない」

 なんか怪しいと思ったが、その時は言わなかった。

 

 突如、空間に穴が開いた。

「来たぞ、高柳」

「見てるから分かってる。て、あれ、見たことあるような?」

 そこには、黒い翼が生えている、真っ黒いオーラをまとった神がいた。

「会ったことがあるのか? まさか、この俺のシナリオに間違いがあったと言うのか。……、まぁ良いだろう」

 琉の仕組んだシナリオには入ってなかった奴らが居たのか?

「ここはバーチャルの世界か?」

「まぁ、そんなものだろう。……、それより、お前の名前はなんて言うんだ?」

 高柳は聞いた。

「やっぱりな。あ、俺の名か? 俺の名はハデス。どっかで会ったことあるかな?」

 ハデス!

「あの時のか。やっぱり会ったことあったな」

「ほぉ。俺たちは会ったことあるのかよく覚えてるな。俺はすっかりと忘れてるがな」

「俺も今、思い出したとこだ」

 それより、と高柳。

「神は二人居るんじゃなかったのか琉」

「安心しろ高柳。俺のシナリオは、そこまで抜け落としてはない。なにせラストなんだから忘れるはずが無い。恐らくそろそろ来るはずだが」

「アポロのことか? あいつはそろそろ来るぞ」

 しばし待て。と言うハデス。

 そして一分後。

 ハデスの横に、空間の穴が出来た。そして、そこから。

「遅れてごめん。待った?」

「待った。それより、俺たちを待っていた奴らがいるぜ、アポロ」

「アポロ。やっぱりお前も会ったことがある」

 高柳が、思い出すように言う。

「そうなのかい? 初めましてかな? 僕の名前はアポロと言います」

「俺は、初めましてじゃ無いな」

 高柳が、アポロに声をかける。

「そうですか。すみませんがお名前は?」

「高柳」

「高柳……。申し訳ないのですが、私は覚えてないようで」

 そんなにすぐ忘れるものなのか? 確かに数分程度しか会ってないからってこともあるが、それにしても、つい最近だから覚えててもおかしく無いと思うが。

「そうか。なら初めまして。高柳という神だ」

「そうですか」

 アポロは、それだけを言って、目を逸らした。彼は、どこか冷たい。

「それより何で、お前らは、俺たちを待ってたんだ?」

 ハデスは聞く。

「それは君たちが、今からやる最後の戦いの、スペシャルゲストだからだよ」

 琉は、司会者のように言う。

「はぁ。スペシャルゲスト? 馬鹿馬鹿しい。その、最後の戦いというやつに、俺たちが参加するとでも? 第一、アポロは、やらないと思うぜ」

 そしてハデスはアポロを見る。

「僕は、戦いが好きじゃあ無いんだ。だから、スペシャルゲストにはなれない」

「それは無理だ」

 琉のそんな声が、その空間に響く。

「君たちは、戦うようになっている。そう、僕が設定したんだ。いやでもやってもらうよ」

「嫌だね。僕は帰らせてもらうよ」

 アポロがそう言って、この空間から出ようと、行き来たように空間に穴を開けて帰ろうとした。

 バチィ

「何? ここから出られないだと?」

「その通り。この戦いに参加して、盛り上げないと、出れない仕組みになってまーす」

 琉め、そんな仕組み作ってやがったのか。まあ、正直俺は戦いたかったから、そんなことどうでも良いが。だが、なんかウザい。それに何か引っかかる。

「諦めて戦おうぜアポロ」

「仕方ない。気は進まないが、諦めて戦うか。それしか方法が無いらしいし」

 アポロは、あっさりと考えを考えた。

「さて、じゃあ戦って、盛り上げていきましょう!」

 こうして、最後の戦いというやつが始まった。

 

「僕は、まずは様子見かなぁ。僕が出ると一瞬だしなぁ」

 そう言って琉は、城から歯車を能力で操って持ってきて、その上に座った。世界仰天空飛ぶ歯車、に乗る男。

「舐めてやがるな。お前の正体はよく分からんが、俺らは神だ。舐めて勝てるほど弱くは無い」

 ハデスは琉に言った。

 そう思うと、この場は琉除く、神三人居るということか。さらに、そのうち二人は有名な神様だし。確かに、油断して勝てる相手では無い。そういえば、俺がこの中で一番弱いのかもしれない。人の心配している場合では無いな。先手必勝。

 すぐさまできる限りの能力を使って、スピードを全開にした。

「……」

 まだバレていない。

 残り十メートルか。

「妖刀高柳」

 日本刀を呼び寄せると、すぐさま斬りかかる。

「ーー‼︎ いつの間に」

 その間、一秒。

「面白い。それくらいじゃ無いと勝てないもんな」

 バカな。何故、そんなすぐに動ける。

 ハデスは動き出したのだ。さらにた、高柳よりも速いスピードで。高柳は考えた。どうすれば良いか?

 気づけば、自分が攻撃していた局面から、こちらが守る局面に一瞬で変わっていたのだ。

「まずぃ」

 その間、一秒にも満たない。

声になる前に攻撃は始まって終わっていた。

「? ? ?」

 何だ? 何が起きた? 訳が分からない。今、攻撃されたのか? 

「理解できないか高柳。まぁ、それもそのはず。普通なら、攻撃されたことすら気づかない。それに気づいたきみは、それだけでも凄い。褒めるに値するよ」

 思わず笑っちまう。全く次元が違う。今、俺が痛感したことだ。不意打ちでもこれだ。なら、対等にやっても勝てるはずがない。

 高柳はふと思う。

 せめて、全盛期の頃の力が戻ればなぁ。

 無理な話である。そんなことが出来るはずがない。想像を膨らましたってムダだ。

 さて、どうするか。何だがやる気も出てこない。さっきと全然気持ちが違う。 

 落ち込む高柳。

「クックック。そうだ。死にたいだろう」

「何だが死にたくなってきた」

「こんな自分が居ても無駄なんだよ」

「そうだよなぁ。自分がここに居ても無駄なんだ」

 俺は、何がしたかったんだ?

「何もやりたくないだろう? なら、死んでリセットしないか?」

「その考えがあったか。それもいいなぁ」

「じゃあ死のう!」

「そうだな死のう」

 そう言って、誘導されるまま自殺を図る高柳。

「よし。これであいつは死んだな」

「やめなよハデスくん。死んだらどうするんだ? 命は大切何だ」

「何を今更。早くここから出たいんだろう? なら、ああするしかないだろう?」

「まぁ、そうだね」

 アポロは納得した。

「あいつが死ぬまで、五、四、三……」

 高柳は、自殺までのカウントダウンをしている間に、色んなことを思った。

「俺は、皆んなにどう思われてるんだろうなぁ。どうせ、ロクでもないとか思ってるのかなぁ。そういえば、俺の能力を使ってそれをしれたかもしれないな。前の自分なら。全盛期の自分なら。せめて夢でもいいから、能力を使って、自分を良くしたかったなぁ。……? 夢、か? そう言えばここは夢の中だよな」 

 ふと高柳は考える。

「二……」

「つまり、実際に無いものでも実現できるんじゃね」

「一……」

「やってみよう」

「ククッ。さらば」

 ……。

「あれ? 何も起きない、だと? そんなはずはない。俺の能力は、発動されていたはずだ」

 ハデスの能力は、人を死にたいと思わせる能力と、死にたいと思ったやつを死なす能力だ。しかし、それが発動しなかった。ということはつまり、

「死ぬわけねーよ」

「な! バカな」

 ハデスは、驚きの表情だった。

「そんなはずは無い、とか思ってるだろ? その通りさ。起こるはずは無い。ただしそれは現実だ。ここはバーチャルの世界である」

「そうか!」

 ハデスはわかった表情になった。

「おっと。多分、その解釈は違うぜ。あくまでもそれが出来るのは俺だけだ」

 それというのは、夢の世界のように、想像したものが実現するというものだ。要は、前の高柳の能力みたいなものだ。

「なに! 確かにできんな。何故だ?」

「それは」

 高柳はニヤリと笑って、

「俺にとっては、ここは夢の世界だからだよ!」

 瞬時にハデスの目の前に行き、顎を殴った。

 その高柳のスピードといえば、デタラメで、さっきのハデスの速さの倍近くである。

「がっ、この、おれがぁ……」

 ドサッ。彼は地面に落ちた。どうやら気絶したようだ。

 残りは三人。

「いやぁ、面白いよ。やっぱ面白い、高柳は。まさか、俺でも気づかなかったことに気づくとはね。というか、そんなことが出来るんだね」

 高柳は、この場の四人の中で唯一、本体は別の場所で眠っており、今、ここにある高柳の体は、夢の中の体である。つまり、彼にはデタラメが出来るというわけだ。

「そいつは殺してない。気絶させただけだ」

 アポロに向かって言った。

「ここで僕の出番だね」

 彼は能力を使うようだった。

「彼の傷を癒したまえ」

 ハデスは、回復して目を覚ました。

「くっ、俺としたことが、気絶するとは」

「アポロ。一つ聞いていいか?」

「なんだい高柳?」

「前にあんたと会ったことがあるんだけど、その時仲間はやられてたんだよ。もしかしたらあんたなら治せたのか?」

「その傷の状態にもよるけど、その人たちは生きてた?」

「いや、あの時は死んでいた」

「なら、僕には無理だ」

「何故だ?」

「それは、僕の力は、生きているものにしか使えないんだ」

 そういうことか。だから、あの時諦めたのか。いや、こいつ平和を望んでおきながらも、争いの後は諦めたように、助けようともせずどっかに行った。いや、もしかしたら、頼るなってこともあったかもしれないが、もしかしたらあの時、死んでるから自分は何も出来ないなって決まり切ったように思ってたのかも知れない。多分それだ。あの時も、この二人は、身勝手な神だと感じたんだ。

 ハデスは冥土の神だからいいとしても、アポロは駄目だろう。神として駄目だ。どんな事にでも、諦めが良すぎる。

「そうか。なら、変な話だが、あんたの目の前に苦しんでる人がいるとする。しかしその人は、あんたの能力じゃあ治せない。どうするんだ?」

「どうもしない。諦める。運が良ければ、誰かが来るだろう」

 やっぱそうだ。諦めが良すぎる。決めたことを突き通そうと思っていない。

「アポロ。あんた、少しは諦めないで粘ったりしないのか? 自分の思いを突き通そうとしないのか?」

「いや、しない。出来ないとわかったら、すぐにやめる」

「お前は平和を望んでるんだろう」

「そうだよ」

 高柳は、拳を握った。

「なら、その根性を叩き直してやる」

 そう言うと、高柳はアポロに向かって歩き出す。その途中で、ハデスが入るが、すり抜けてやった(夢の中の力を使って)。

 そして、目の前に立つ。

 アポロは、少し震えている。

「考え直しやがれ‼︎」

 パシーーン

 音は大袈裟だったが、それほど痛くは無いはずだ。何故なら、

「……、痛く、無い? と言うか、何だが力がみなぎるような」

 高柳は、ただのビンタをした訳ではなく、彼に力を与えてやったのだ。自分の意見を突き通すだけの力を。

「これで、少しは平和にするために、自分から動けるだろう」

「そうだよなぁ。自分から動かないとね。周りに流されていちゃあ、いつまでたっても平和になりやしない。大事なのは、自分から行動することなんだ」

 高柳は頷いた。

「ありがとう、高柳」

「どうってことないさ。ていうかそもそも、これは夢の力だからね」

 

 これで、一応敵は嘘鬼琉のみだ。

 アポロは機嫌が良く(自分に自身が持てて)、ハデスは機嫌が悪く(自分がまさかやられるとは思って無かったから余計に)、二人の戦いを、歯車の上から観戦することにした。

 

 さて、

「誤算だな嘘鬼琉。さて、どうするんだ」

「どうするも何も、戦うのみだろう」

「そういうことじゃあない。お前のシナリオとは、違うことが二つも起きてるだろ。二度あることは三度あるだ。完全に俺の方が有利だろう」

 高柳は、琉の能力を見たことがある。それを見るからには、今の状態の俺には勝てそうにないと、読んだのだ。

「何を馬鹿言う。確かに、シナリオとは違うことが二つも起きているが、失敗はこれまでだ。三度目の正直だ」

 琉は、余裕な表情を浮かべている。

「ちなみに言っておくが、俺の力は、お前の知っているものとは異なる」

「何⁉︎」

「たった今、シナリオ通りに進み、この俺に強い力が手に入った。分かるか高柳?」

「良く分からんが?」

「そうか。なら、見せてやる」

 琉はいつもの能力なら、喋って能力を発動しなければならないのだが、彼は今回は違った。

 彼は、指揮者のような構えを取った。

「面白いぜ。何せ、相手の力の向きを操るんだからな」

 そう言うと、腕を動かし始めた。

「? 何だ? 体が勝手に動く」

 高柳の体が、意思に反して動いたのだ。

「そして」

 琉が、手で何かを掴むようにして、腕を引き寄せるように動かした。

「うおっ!」

 高柳が胸元を捕まれ、琉の元に引っ張られていく。

「よいしょ!」

 琉は、引き寄せた高柳の顔面に向かって殴りにかかる。高柳は、体が勝手に動くので腕を顔の前で組んで、守ることが出来ない。そのまま高柳が殴られる。ように見えた。

「固えなぁ」

 高柳は能力を使って、殴られる瞬間に、岩と場所を入れ替えたのだ。つまり琉は、岩を殴ったのだ。琉は、最初から予想していたようで、殴る時に勢いを弱めたらしい。

「危なかった。ってあれぇ?」

 高柳はまた引っ張られる。

「分かってたよ。さすが高柳。反射神経がいいね。だけど次は、避けられるかな?」

 そう言うと、何か能力を発動するために喋り始めた。これは、元の力のようだ。

「何を言ってるのか聞こえねぇ。まぁ、また逃げればいいだろ」

 高柳は、またさっきと同じように、殴られる瞬間に、岩と場所を入れ替えた。これでまた回避できた。「同じ攻撃は効かないそ」と言いたかったが、そこまで相手は考え無しでは無かった。移動したら、目の前にいるはずのない琉がいたのだ。さらに、パンチもすぐ顔面に来ていた。

「なっ。ぐぉ」

 琉のパンチは、高柳の顔面に直撃した。

 ドサッ

 高柳は、その場に倒れた。

「何故だ……」

 結構強いパンチをもらった高柳は、意識が朦朧としていた。

「元の能力を使って、必ずパンチが当たるようにしたんだ」

「そうか。なら、納得だなぁ」

「さて、もっと君と盛り上がりたかったが、それは彼ら二人相手でやるとするよ。じゃあ、君はここでゲームオーバーだ」

 そして琉は、もう一度拳を握りしめて、大きく振りかぶり、拳を振り落とした。

 高柳は、その間に言った。

「それだけ力を入れたパンチじゃあ、俺は完全に落ちるよ。だが……」

 高柳はニヤリと笑い、

「またお前は、ミスを犯した。時間を与えすぎだ。そこまで俺が、ダメージ受けてるとでも思ったか?」

 そう言うと高柳は、夢の中限定の能力を使って、自分の行動スピードを早めた。そして、琉のパンチを跳ね除ける。

「なにっ」

 琉は完全に油断していた。楽しみたいとか言っていたから油断した。もっと楽しみたかったから、少し考えがぶれたのだ。

 琉は、すぐさま体勢を整えようとしたが、何もかもが遅い。早くなった高柳の前では。

 高柳は畳み掛けるように、パンチを琉に繰り出した。

「これでお前がゲームオーバーだ」

 バギィーーン

 琉は、その場に倒れ落ちた。

 力の限りで殴りかかったから、それに、動きが早かったからというのもあるが、そのパンチ一撃で嘘鬼琉は、気絶した。

「ちょっとやり過ぎちまったかな」

 高柳は、少し琉に悪いと思った。だが、せっかくの夢の中なのに、戦うとかしんどかった(現実でも戦ったばかりだ)し、早く夢から覚めたかったので、仕方ないことでもある(戦いの途中に、目が覚めるとかスッキリしないから)。

 

「おい高柳」

 ハデスの声が聞こえた。

「お前、そろそろ目が覚めるんじゃないのか?」

 そういえば、時間が思った以上に経っていた。

「まぁそうだな」

「なら、ここは俺たちに任せて、元の現実にさっさと戻れ」

 意外な言葉が出てきたので、予想以上に驚いてしまったが、高柳は答える。

「俺も言えたことじゃあないが、これ以上、琉を傷つけるのはやめてやってくれないか? それを約束してくれたら、安心して任せられる」

「大丈夫だ。傷つけない。任せとけ」

 ハデスはそう答えた。

 高柳は、能力を使って相手の心を読んだ。

「ありがとな。じゃあ、お願いするよ」

 高柳が、その場から立ち去ろうとした時。

「なあ高柳。宇宙って何でできたか知ってるか?」

「宇宙ね。考えたこともなかったよ」

「なら、面白いことを教えてやる。宇宙は元々一つの塊だった。しかし、とあることがあり対立した。突然変異に似てるけど。そしてそれを繰り返して繰り返して、今の宇宙ができた。時間もないし、短縮させて貰うけど、つまり宇宙は、対立するから出来たんだ。だから、争いは出来たんだ。身近にある争いは、ビックバンと同じなのさ」

「ふぅん」

 高柳は、あまり理解できなかった。

「そして最後に。今までに宇宙は何回か縮小して、対立することがなくなって、一つになった。ビックバン以前に戻ったんだ。面白いだろ。これは俺の仮説も入ってるけどね。ということで、じゃあな」

 最後に色々言われたが、まぁ高柳は、安心して夢から覚めたのだった。

 

 

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