第5話imager

 皆さま、ここまで読んでいただき誠に有難うございます。突然ですが、ここまで読んでいただいた方に聞きたい。

「あなたは正義、悪どちらが正しいと思うか?」

「正義と悪、どちらも正解だと思うか?」

「それとも悪こそ正しいと思うか?」

 ではなぜ、あなたはそう思った。それが、論理だからか? 私はそこが疑問なのだ。いつもいつも分からない。いつまでたっても分からない。

 私が正義が正しいと思った時は、それが一番世界を幸せにするから、と思った。だけど、本当にそれでみんな幸せになるのか? 本当にそれでいいのか? そうやって考えると、悪こそが真の正義なのか? と思った。

 悪は正義の敵と思うだろう。

 だけれど、意外と正義は怖いんじゃないか?警察を見ると、「怖い」

 と思ってしまうことがあったんじゃないか? 私は少なくとも、

「警察は人を束縛している組織だ」

 と思ってしまうことがある。

 だから、そんな正義と戦ってくれる悪こそが正義なのだ。

 だけど悪も怖い。

 結局どちらも怖い。

 私は一つの結論にたどり着いた。

 正義、悪なんてどうだっていい。ただ自由に、何者にも縛られず楽しく生きれればいい。

 だけれどそれはなかなか世間に認めてもらえないのだ。全くやりにくい世の中である。  

 そんな現代を生き抜く、とある人達のお話。

 此処はとある神社の境内。

「なあ、腕相撲しよか」

 高柳が急に勝負を仕掛けてきた。

「へぇ、面白そうしゃないの」

受けて立とう、とユウナが言う。

「この際、誰が一番強いか勝負をしようじゃないか」

 かずきも乗り気のようだ。

「能力はありか?」

 元天下無双神の卵の天ちゃんが言う。

「いや、無しでいこう。使ったら反則負けな」

「それじゃ、我が勝てない」

「確かにそうだな。だが、一度やってみようぜ」

 

 数分後。

 

「よっしゃー。勝った!」

 勝者高柳。

「やはり勝てんかった。卑怯者」

「不公平」

「大人げない」

 三人から一斉に罵声を浴びる高柳。

「いや、卑怯じゃねーし」

 なんとか反論する高柳だが、

「女の子に本気出すとか。本当に男なのあんた?」

「男だわ。見ればわかるだろ。というか、真剣勝負だったろ。認めてたろお前ら」

「確かに認めたが、お前がしっかり配慮をすること前提だったからな。全く失望したよ」

「いや、かずき、お前は男だろ。負けて悔しいからって八つ当たりするなよ」

「むーー」

 天ちゃんがいじけている。

「わかったわかったわかったって。能力ありにしよう」

「いや待て。俺、能力無いぞ」

「そうか……、そうだ天ちゃん」

「なんだ?」

「みんなの力を同じにしてくれないか?」

「皆の力を均等にすると?」

「そうだ。出来るか?」

「勿論だ。しばし待て」

 そう言って術を唱え、しばらくすると、

「終わったぞ」

 天下無双神がそう言った。

「あまり実感わかないな」

 高柳は、シャドウボクシングをしながら言う。

「力が均等になるよう言ったからな。あまり大きくは変わるまい。特に高柳は」

 特に高柳?

「あっ、何か強くなったような気がする」

「俺もなんだか力が湧いてくる」

「なんでだ‼︎なんで俺は強くなんないんだ」

 高柳以外ここにいる全員強くなっているようだった。

「それは、高柳を基準にしたからだ」

「俺を基準に?」

「そうだ。お前がこの中で一番力が強かったからな」

 そう言うことだった。だから俺は強くなった気がしないわけだ。

「さあ、腕相撲しようぜ」

「まずは高柳から潰してやるぜ」

「ほう、面白いことぬかすじゃないか。受けて立ってやるよ」

 三人はやる気満々らしい。

「ふっ。この勝負は俺が勝つ」

 天が不敵に笑って言った。何か、悪巧みがあるような顔で。

 

「くっそー、負けた‼︎」

 高柳はもの凄く悔しがる。地震が起きそうなくらいに、地面を叩く。

「なんでだ。なぜ、お前だけ強い?」

「そうよ。なんだか怪しいわね」

「天ちゃんだけ強いなんて、なんか仕組んだようにしか思えないな」

 三人は天の方を見て言った。

「そうだよ。確かに君たちは、力を均等にしたよ。ただ、我は含まれないがな」

 カッカッカ。天は嬉しそうに笑う。

「いやいや。皆の力を均等にしないと不公平だろ」

「同じ力だといつまでたっても決着がつかないだろ?」

「あっ‼︎ ……だけど、それじゃダメだろ。ずるいし」

「お前もズルをした」

「いや、そうだけど」

 今度は一時間後。

 二人はずっと言い合っている。かずきとユウナはついつい笑った。

「何が面白い⁉︎」

 高柳と天が口を揃えて言う。

「ごめんごめん。なんとも二人の会話が面白くてね」

「ああん?」

 二人は怒っている。ますます子供っぽくて面白い。

「とにかく勝ちは勝ちだ」

「そんな勝ちが許されるか‼︎」

「許されるに決まってるわ。カッカッカ」

「ぐぬぬっ」

 高柳は、拳を握っている。そんなに悔しいか?

「その辺にしたら、二人とも」

 ユウナが間に入る。

「天ちゃんが勝ったことでいいだろ。大人げないぞ高柳」

 かずきが並んで言った。

「なっ。二人は我の勝ちを認めた。つまり我の勝ちだ」

「覚えてろよ……」

 高柳はやっと諦めた様子だった。やれやれ、ほんと苦労する二人である。

 

「まぁ、子供にムキになるのは大人気ないからな。しょうがなく負けてやったんだ。感謝してもらわなければな」

「さっきまで、マジで私たちに勝とうとしてたやつが?」

「さっきはさっきで、今は今。前を向け」

 高柳は言い訳をする。だか、無駄である。

「大人って都合が悪くなるとこんな感じなんだね」

 天は嘆く。

「高柳みたいな大人にはならないようにね」

 ユウナが天の保護者みたいなことを言う。

「おいおい、俺はまだマシな方なんだぜ。世界は甘くないってことを、子供の天ちゃんに教えてるんだ」

 俺は優しい神様だ。そんなんじゃ生きていけないぞ、と高柳は言った。

 これからも困ったことがあったらこの俺に頼れ、と言おうとする高柳の声を遮るように、何者かが舞い降りてきた。いや、舞い降りてというのは美化されすぎているかな? 正確には、ミサイルのように飛んできた。

「………………‼︎」

 皆は、空から人が落ちてきたらどんな反応をするか? 恐らく驚き過ぎて、反応出来ないのではないか? まぁ、鍛えれば驚かないのかもしれないけど、いや、鍛えれるものではないか。

「なっ、なんだ?」

 やっと発した言葉。その言葉が出るまでに数秒かかった。相当驚いた。

「人が落ちてきたのか……?」

 そこにいる皆も驚いている。無理もない。神の俺でも驚いたんだからな。

 ガラガラッ……。

 さらに、驚くことに、そのミサイルのように飛んできた人が、動き出したのだ。

「生きてる‼︎」

 生きていたということは、人間でないか、能力者かの二択だ。

「あーあ、もう着いちまったか……、まだ寝足りねぇなぁ」

 その人はなんだか眠そうであった。飛びながら寝てたのであろう。こいつは絶対に人間でない。化け物だなと思うと、皆、一瞬身がたじろいだ。

 

「ここは、どこだ?」

 その人は周りを見渡して言った。

「確か僕は……、天下無双神を消しにきたんだったな」

 彼は頭をぽりぽりっと掻きながら、ポツリと言った。

 今なんて言ったんだ? 天下無双神を消しに来たって? 天下無双神って、天ちゃんのことか。ということはつまり、こいつは、

「おいっ、今、天ちゃんを消すとか言ったよな?」

 高柳は言った。

「おっ、ここに人が居た。なんで気づかなかったんだろう。てっあれ? 天下無双神じゃね?」

 彼は高柳を無視して、天下無双神の方を見ている。

 高柳はそれにイラついて、

「おいお前。何俺を無視してやがる。俺は今、お前に聞いたんだ。答えやがれ」

「んっ? あっごめんごめん。そんなに怒らないで。ちゃんと聞いてたから。もしかして君って、構ってちゃん?」

 ブチッ

 高柳はキレた。高柳は犬歯をむき出しにして彼に、

「面白いこと言いやがるな。誰が構ってちゃんだ。いいからさっさと答えやがれ‼︎」

 やれやれっという表情で彼は、

「その通りだよ。僕は天下無双神を消しに来た」 

 彼はそう言った後に続けて言った。

「僕が作りたい世界には君は要らない。君は強すぎる。邪魔だから消す」

 と。

 そして、例の天下無双神の卵が言った。

「我は、天下無双神の卵だ。天下無双神ではない。そんなに強くはないし、現に今は、全盛期よりも弱くなっている」

 彼に向かってそう言ったが、

「そんなことはどうだっていいのさ。ただ、僕が危険と思った奴は、殺しておきたいんだ」

 彼はそんなことを言った。

 高柳は、その言葉にイラついて、

「お前は、人の命をなんだと思っているんだ‼︎」

 声を上げて言った。

「ならばお前。なんほど、お前は高柳と言うのか」

「‼︎ 何で分かった?」

 何か力を使ったのか?

 そんな高柳の疑問を無視して彼は、

「高柳。お前は命とは何だと思う?」

「命だと。命ってのは、その人の人生で一つしかないものだろう」

「そう言うことじゃない。お前にとって、命はどんなものなのかと聞いている」 

 彼は、高柳に問う。

「命……、か」

 高柳はすぐに答えが出なかった。

 命とは何だ?

 命とは大切なものなのか?

 命の価値なんてあるのか?

「命とはな、価値とか関係なく、大切にするもんだ」

「そうか。ならばお前はそう思うか?」

 そう言って彼は天を指した。

「我もそう思う……」

 天は戸惑いながらも答えた。

「本当にそう思っているのか? 今までそう思って生きてきたのか? 嘘を言っているんじゃないか?」

 天は困った表情を浮かべる。

「おい、もうやめろ。困ってんだろ」

 高柳は間に入り言った。

「おーそうか、気づかなかった。すまないな天ちゃん」

「⁉︎」

 天はゾッとした。なんだか嫌な予感がしてたまらなかった。

「おい、天ちゃん。imagerって知ってるか?」

「?」

 ガリッっと奥歯を噛んだ音が、彼から聞こえた。

「そうか、知らないか。忘れちまったかよ‼︎」

 彼は怒っているような声で言った。

「imagerって何だ?」

 高柳が彼に聞いた。

「僕の名前だ。覚えておけ」

 彼は天を睨みながら言った。

 この二人に何かあったのだろうか?

 

「我に何か言いたいことがあるのか?」

「とぼけるんじゃねぇ。分かってるだろう」

 彼はそう言うが、天はイマイチピンとこない顔だった。それが、また彼を苛立てた。

「お前はいつもそうだ。周りに迷惑をかけておいて、当の自分は周りを何もみてないんだ。だからお前を消しに来たんだ。けどよ、お前、俺のことすらも覚えていないみたいだからよ、俺の苦しみお前にも分けてやる。そこで見ていやがれ」

 彼はそう言って、

「高柳。お前を殺す」

「‼︎ 何故そうなる! 俺を殺すだって? 面白いこと言ってくれるじゃねぇか」

「天下無双神に復讐して、苦しませるのには、お前を殺すのがいい。どうやらお前らは、中々仲が良いらしいしな」

「……。なんだかわけが分からないが、面白そうだから受けてたってやる」

 二人は拳を握る。そして、お互いの距離を縮めていって拳をぶつけ合った。

 三人は、戦いの邪魔をするわけにいかないので、ただ見ているしかなかった。そこでただ一人、天だけは、どこか不安げな表情だった。

 

 バチィーーーーーーー。

 

 こいつなかなかやるな。互いにそう思った。

「高柳。お前能力が衰えたと聞いたが、強いじゃあないか」

「面白いこと言いやがる。まるで俺が能力に頼って戦ってたみたいじゃないか」

「そうだな。お前を侮っていた。僕も本気を出そう」

「お前本気出してなかったのか。生意気だな」

「そう言ってろ。いきなり相手がくたばっても興ざめだからな。だか、お前は骨がありそうだな」

「何がともあれ、楽しもうぜ」

「ふん」

 両者笑い合う。

 さて、どうしたものか。相手の能力がまだわからない以上、油断は出来ない。いや、戦いに油断なんてものあってはいけないか。

 奴の周りには、サイコロみたいなのが浮いている。おそらくそれが奴の武器だろう。そういえば、さっき俺の名前がバレたのは、あのサイコロの力があったのだろう。サイコロは全部で六つ。サイコロをなんとかしても、また何か隠し持っているのかもしれないから、深追いは出来ない。だが、怖がってたら始まらない。

「行くぞ」

 高柳は彼に斬りかかった。

「よっと」

 彼はすらりと避けた。まるで彼は雲のようだった。

「ふふーん。僕はそんなもんじゃやられないよ。本気で来ないとね、興ざめだよ」

「おいおい焦るな。これからゆっくり楽しむんだろ」

「そうかそうか。ならば楽しませてくれよ」

 明らかにimagerの方が有利である。しかし、そんなものを、物ともしない高柳の力を見せてやる。

 

 三人は、二人の戦いを見ていた。流石に、一対四は卑怯だ。というか、そもそも面白くない。興ざめだ。だから、見ていた。観覧者だった。

 しかし、観覧者ではいられなくなることが起きた。

「なんだか楽しそうじゃないか?」

「誰? ここは危険だよ」

 巨体の男の子がそこにいたのだ。巨体と言っても、筋肉はあまりなく、ただ身長がデカかった。百九十は超えてる。

 ユウナは、彼に、もしものことがあると危ないので、ここにいると危ないと言った。ユウナは、その時は見上げて言った。しかし、その身長の高い男の子は、

「大丈夫ですよ。私は強いですから」

「いくら男の子で強くたって、怪我したくないでしょう」

 なんだか語彙力がなくて、脅迫してるみたいになってしまったが、当の男の子はそれでも立ち去ろうとはしなかった。

「怪我なんてしません。それより、あなた達に会いに来たのです」

「私たちに会いに来た?」

 彼は笑っていた。

 

 俺たちに会いに来たって?

 誰だ、あの男は?

「おい、よく余所見できるね」

 鋭い光線が高柳を襲う。

「ヅッ」

 声を出す暇がなかったほど早かった。

「おおっ、さすが闘神様だ。よく、余所見しながら避けたね」

 ものすごく危なかった。当たってたらダメージは大きかった。余所見なんてした俺が悪かったけれど、容赦ない相手だ。

「それくらい、俺にかかればいくらでも避けられるさ」

「言ってくれるじゃないか」

 その瞬間に彼からビームが飛んで来た。さっきよりも早い。

 スピードも調整可能なのか?

「このスピードでもついてこれるのか。すごいすごい」

 舐めやがって。遊んでやがる。

 どちらにしても、あちらは、あいつらに任せることにするか。

 

「そうなんです。私は君たちに会いに来た」

「以前、何処かでお会いしましたか?」

「そんなことは無いですよ。今、初めて会いました」

「じゃあ何で?」

 三人は、ハテナマークを浮かべるような表情でいた。

「あなた達、強いみたいじゃ無いですか。手合わせ願いたいのですが、よろしいですか?」

 このタイミングで来るか。タイミングが良すぎる。こんな偶然があるのだなと思う。二人の敵が来る。いや、片方は敵ではないと思うのだが。まあ、観覧者ってのもつまらなかったからなぁ。ちょうど体動かしたいと思ってた。

「うん、いいよ」

「ありがとうございます」

 丁寧な言葉遣いだなと思う。

 だけど、彼と戦うなら誰がいいか? 聞いてみようか。

「君って誰と戦いたいの?」

「高柳の神と戦いたかったのですが、取り込み中のようで、なので天下無双神さん、お手合わせお願いします」

「我か? いいだろう。天と呼ぶがいい。ちなみに名は何という?」

「私の名前は嘘鬼琉です。嘘をつく鬼の琉って書いて、らいきりゅうです。りゅうでいいですよ」

「嘘鬼琉、か。中々カッコいい名前じゃないか」

「ありがとうございます。実は、よく言われるんです」

「そうなのか。琉球の琉か……」

 確か琉球は、沖縄か。

「それではお願いします」

「よし、いつでも良いぞ」

 そう言って天は、能力スイッチを入れた。

「では」

 嘘鬼琉は、少し悪そうな笑みを浮かべた。小悪魔的な笑い顔だった。

 

 高柳とimagerの戦いは、高柳が劣勢の一途を辿っていた。

「ダメだ、こんなんじゃ。カスリもしない」

 高柳は、彼の動きについていけてなかった。

「ダメだね。前まで強かったみたいだけども、今じゃ衰退してるみたいだし。能力に頼り切っていたみたいだし」

「ウルセェ‼︎ お前も頼ってるじゃぁねぇか‼︎」

 高柳は、彼の周りを回っている賽を指差した。

「これは私の能力ではない。詳しくいうと、私は無能力者だ」

 彼は、声のトーンを下げて言った。過去を思い出すような声だ。

「なるほどな。どんなことがあったか知らないが、とにかくお前はそれがないと強くないんだな」

 ニヤリと笑う高柳。次の瞬間。

 ボンっ。

「しまった」

 高柳は、雀の涙ほどとなった能力を使って、足の筋肉を増やし、素早く彼の元に飛んでいき、彼の賽二つを握り潰したのだ。(手は二つしかたいから)

「お前‼︎ さては、能力を使わずに、油断を誘うように戦ってたな」

「その通りだ。お前の隙を狙ってたんだ。そしてお前は油断したから、俺は行動に出たんだ」

 だがしかし、

「お前。僕がこのサイコロを直せないとでも思ってるのかい?」

 壊したサイコロは直せると言ったのだ。

「無駄な努力ご苦労さん」

 そう言って、高柳が砕いて出たサイコロの粉がまとまって、サイコロの形が出来た、のだが、

「何故賽が一つしかないのだ‼︎ 賽が二つ出来るはずなのだが?」

 そこには、二つ出来るはずだった賽が一つしかなかったのだ。

「何故だ? 何故だ‼︎ ……、もしかして、お前」

「やっと、この単純なことに気づいたか」

 高柳は、少し自慢げな口調で、

「ここに、ほら」

「‼︎ やはり持っていたか」

 つまり、いくら壊しても再生する賽なら、自分が奪って持っちゃえばいいと言う考えだ。

「どうやら偶然が勝機を導いてくれたようだ。使えるかと思って、なんとなく壊さないでいたサイコロが、こんなことになるとはな。つまり、こんな風に奪えば、いつかはハッキリとした勝機が見える筈だ」

「だが、サイコロはまだ五個あるのだ。お前とは五個でも多いわ」

「へぇ。せいぜい頑張りやがれ」

 少し高柳に、流れが向いた気がした。

 

 

「まずは、お手並み拝見といきますか」

 そして琉は、なにやらボソボソとなにかを言い始めた。

「天の足元は、地面があるから、下に落ちない。イコール。下に落ちるから、地面がない。これを真とする」

「‼︎」

 天は、いきなり目の前の視界が変わったのは、自分が今落下中してるからと気づくのには、時間が二秒ほどかかった。しかし、すぐに能力を使い、

「二秒前にいた場所へ戻れ」

 そして、落とし穴から脱出したのだった。

「ふぅ。まさか、落とし穴があるとは思わなかったぞ」

 ユウナとかずきは、先ほどの出来事を見ていたが、天は動いてなかった。動かずして、落とし穴にはまったのだ。そんなことがあるのか? その落とし穴は、結構頑丈で、長時間乗ってないと落ちない仕組みだったのか? いや、それならどうやって天をそこまで誘導した? おそらくその仮定は偽だろう。

 ならば何故、ありもしない落とし穴に落ちたのか。その答えは簡単である。琉が能力を使ったのだ。どんな力かはわからないにしても、少し厄介そうだ。

「さすがは天さんですね。反応が早かったです」

「どうやったか知らんが、うまく不意をついた作戦だったな」

「お褒めの言葉ありがとうございます」

「なら今度は、こちらから行くぞ」

 天は、琉の背後に素早く移動して、バトル漫画とかでたまにある、首元を叩いて気絶させる攻撃をした。しかし、

 スカッ

 手応えがない。

「そちらは残像です」

 琉は、天の背後に周り、同じような攻撃をやり返した。

「早い‼︎」

 天は、瞬時に盾を出した。

 ゴンッ

 素手で盾を叩いたら痛いだろうなと思ったのだが、

 ミシッ

「なんて力だ」

 盾にヒビが入っている。というか、このままだと壊しそうな勢いだった。

 すぐさま新しい盾を出して、耐えようとするが、

「くっ。重い」

 とてつもなく重い攻撃である。どこからそんな力が出ているんだ。ガリガリの身長が高い男と思ってたが、結構力はあるらしい。

 このまま耐えていてもきつかったから、脱出した。その直後、

 ズドーーーーーーン‼︎

 まるでタンスを七階から落としたような音を立てて、盾を粉々にした。

「はぁはぁ。お前、中々やるな」

「私は能力者ですから」

 もし能力者じゃないのならば、化け物としか思えない怪力だった。

 負けたくない。

「最初から全力でいくぞ」

「はい。こちらも本気でやらせていただきます」

 二人とも力を解放している。

「我に、力を」

「私は弱いは天より弱い。イコール。天より強いは強い。これを真とする。」

 そこにいる二人は、限りなく強い力を放っていた。

 

「このサイコロ邪魔だな。だけど、壊してもダメだし」

 賽は、自分で持ってないと、吸い取られてしまう。だからと言って、持ちっぱなしで戦うのはなぁ。

 そうだ。アイツみたく、俺の周りにまとえばとられないし、邪魔にもならないな。早速、能力を使って、自分の周りに纏わせてみた。

「おっ。これでよし」

「ふん。そんなんで大丈夫か。もっと大事に持たなくてもいいのか?」

 そんなんじゃ、すぐ吸い取ってやる。imagerはそう言って、吸い取ろうとするが、

「馬鹿か。そんなもんで取れるかよ。能力を使ってるんだよ。もし、それで取れてたら俺もそうやってるわ」

「バレてたか。まあいい。すぐ取り返してやる」

「そうかそうか。頑張れ」

 他人事みたいに言う。

「そんなことが言えるのも今のうちだ。ちなみにそのサイコロは、僕でないと使えないぞ」

「どうやら、それは本当みたいだな。サイコロは使えないにしても、体の周りに纏わせることが出来るだけでいい」

 目的は、奴のサイコロを全て奪って、戦えなくすることだ。

 さて、この戦いを長引かせるのはあまり好ましくない。相手の手の内がわからない以上、相手の思うツボにハマる可能性がある。それをさせないためにも早く終わらせる。それに、体力にも限界がある。体力が無くなると、同時に能力も使えなくなる。なんにせよ、賽を全て奪って、決着をつけるとするか。

 高柳は、アクセルを踏むように足に力を入れ、地を蹴った。

「同じ手を喰らうか‼︎」

 imagerは、流石に同じ攻撃を食らう程弱くは無かった。

 彼は、すぐさま賽の一つを前に出し、

「砕けろ‼︎」

 賽が大きな壁に変わった。

「そんなのに当たりにいくと思うか?」

 高柳は、日本刀であり妖刀の高柳を、転送して取り出すと、地を蹴った勢いを使い、大きな壁を真っ二つに切り裂いた。

 その壁の先にimagerは待ち受けて……いなかった。

「掛かったな。この場合は、身を引いて周りを見なければいけなかったんだよ高柳。そうすれば、見れたかもしれない光景もあったんだ」

「‼︎」

 背後から声が聞こえる。壁を作って、気を逸らした瞬間に瞬時に背後に移動したのか?

「いただき!」

 imagerは、満足そうな顔でそう言って、賽を取っていった。流石に高柳は対応に間に合わなかった。

「これで返してもらえたし……、なんだ?」

 ニヤリ。

 高柳は笑う。

 imagerは急に動かなくなった。いや、動けなくなった。何があったのか?

「痺れる。動け、ない」

 それもそのはず。高柳があらかじめ賽に細工をしておいたのだ。

「保険をかけておいてよかった。これでサイコロは全てゆっくりいただける」

「ぐっ」

 動けない。このままではサイコロを奪われてしまう。奪われてしまったら……。今度こそ死ぬ。復讐を終えるまで死んでたまるか。あいつのためにも。

「一個、二個、三個、四個、五個、そして最後の一個。お前は、サイコロを取るんじゃなくて、まずは俺を倒せば良かったんだよ。サイコロに目が行き過ぎたな」

 高柳が最後の一個の賽を取ろうとした瞬間。

 バチィ

「なっ。弾かれた⁉︎」

「そんな軽い気持ちで取られてたまるか‼︎ これはみんなの命の塊だ‼︎」

「命の塊?」

「命を削るが、天への復讐を前にして死ぬのはごめんだ。いや、復讐のために死ぬのなら、こんな安い命いらない‼︎」

 そしてimagerは賽を手に取り、

「命と引き換えに、この僕に復讐を遂げるだけの力を与えて下さい」

 賽に向かって誓約した。

 彼の持っていた一つのサイコロはうっすらとしていき、消滅した。

「これで、復讐をすると言う僕たちの夢を叶えられる」

 何が変わったといえば、奴の靴が黒くなったくらいで、特に強くなった感じがしない。しかし、何か強くなってるはずだ。いや、確実に強くなった。勘がそう言っている。

「サイコロがなくなったからお前、戦えないんじゃないのか?」

 当然の疑問を高柳は聞いてみた。

「何を言っている。サイコロは使わなくても戦える体になったのだ。分からないのか? 力が溢れてくる。しかし、まだ完全体ではない。お前の持っている残りの五つのサイコロを返してもらおうか」

 つまり、この俺の持っている賽を奴に渡してしまうと、強くなられてしまうのか。それは困る。その強さは気になるが、完全体になったら、何もかも終わってしまう。そんな気がする。

「そんな、お前を強くすると分かっているものを渡してたまるか‼︎」

「そうでなくてはつまらない。こうであるからこそ、復讐を達成した時の達成感は素晴らしいものとなる」 

「じゃあ早く取り返してごらん」

 少し挑発してみる高柳。

 二人の戦いは徐々にフィナーレへと向かっていく。

 

「久しぶりに全盛期の我に戻ったわい。力が湧き出てくるのう」

「天さんはそんなにも強かったのですね。お陰で私は限界をまた超えられた」

 天と嘘鬼琉は、とにかく強くなった。例えるなら、丸腰の人間が、虎やライオンになったような感じだ。

 天は、身長はあまり変わらず、姿とオーラが変わった。目つきはキリッとしていて、髪型は白くなった。白毛のような弱々しい髪ではなく、染めたような若々しい髪型である。その姿は、人間で言う、二十代の妖艶な女性だ。一方琉は、姿は変わらずとも、体から出るオーラと言うものが変わった。それはまた、強者のオーラだ。これからどんな戦いが始まるのか。

「後ろだ」

 天は、先制攻撃を仕掛けた。

「教えちゃあ、先制攻撃をした意味がないでしょう」

 琉は、簡単そうにさらっと天からの攻撃をかわした。

 ちなみにこの攻撃は、並大抵の人なら絶対に避けられないもので、背後にワープして、時速二百キロの蹴りを入れたのである。食らったら即死級である。

 それほど彼らは飛び抜けた力をもっている。

 

「みんな楽しそうね」

「そうだな。楽しそうだな」

 かずきとユウナは暇である。すぐそばで、すごい戦いをしているのに暇である。そんなことがあろうか?いや、あるんですね。その証拠に二人は、ババ抜きをしていた。

「二人でババ抜きしたって、すぐ終わるからつまらない」

「普通はもっと多くでやるもんだからな。仕方ないな」

 楽しいのは終盤の、ババがどっちにあるのか選ぶその瞬間だけである。

「あーあ。つまんないから神経衰弱やろうよ」

「それなら楽しめそうだな」 

 早速、トランプを並べ始める。

「どっちからにする?」

「ここは公平にジャンケンといこうじゃないか」

「そうね」

 ジャンケン……ポン。

 結果としては、かずきが勝ったが、両者、リズムが合わず、かずきが後出しをした形になったので、ユウナが訴える。

「いや待って。今のって、かずき後出しじゃない?」

「いや、お前こそ後出しじゃないか?」 

「わかった。もう一回公平にジャンケンしよう」

「よし、今度こそ後出しするんじゃないぞ。ジャンケンポン、とリズムよくやるそ」

「えっ、今間違えて出しちゃったじゃん」

 よくやるやつである。

「ああ、すまん。じゃあ今度こそ行くぞ」

 ジャンケンポン

 今度は、ケンとポンの間を空けずにやった。なんとかそうすることでリズムがあったようだ。

 かずきがチョキで、ユウナがグーだった。

「私が勝ったから、ますは私からね」

 まず、彼女はトランプを引き始めた。

「スペードのエースか」

 さて、何処にあるのかな。

 まあ、いきなり当たるなんて運がいいことが起こるはずもなく、ハートの四が出た。

「ハズレか」

「よし、次は俺だ」

 引こうとしたその時。

 ブァーーっと強い風がいきなり吹いた。その原因は、天と琉の気力のぶつかり合いによるものだ。そんな風が吹いたら当たり前だが、紙切れでかるいもののトランプなんか飛んでいってしまう。

「ああ、トランプが飛んでいっちゃう」

 そもそも、戦いが起きている近くでトランプなんて出来るはずがない。というか、普通はしようとしないんじゃないのか?

 緊張感が全く無い。

「そうだ、バリアを張ればいいじゃん」

 ユウナは守護神だ。だから、強い風なんか通さない。さらに、攻撃も防げるし、防音にもなる。戦いの起きている場所でトランプをやるには最適の能力だ。

「最初から張ればよかった」

 全くその通りである。

「そうだな。まあ、これで思う存分楽しめるぞ」

 そして神経衰弱を再開する。

「確か、かずきの番だったよね」

「さて」

 かずきはある情報を頼りに、二枚のトランプをめくった。

「おお、すごいねかずき。いきなり揃うとはね」

 かずきは、クローバーのクイーンを引き当てた。まあ、こんな偶然起きることもあり得ないことはないだろう。しかし、同じ偶然が続くのであれば話は違う。今回は、その例外が起きたのだ。トランプを連続で、なんの情報もなく引き当てることが。そんな偶然が起きるのか。あり得ないだろう。流石におかしいと思うのが普通だ。

「ええーー。十連続で当て続けるなんてありえない。何が仕組んだんでしょう」

 当然の反応だ。多くの人は、これを言わずにはいられないだろう。

 しかし、彼女には証拠がなかった。かずきが不正をしたことの証拠が。

 ただの偶然なのか? いや、それにしては不自然だった。なぜならかずきは、迷いなく、トランプを引いていた。まるで、手元に答えがあるように。

 かずきが不正に動いた時があったか? いや、なかった。

 ユウナは不思議だと思い続け、結局偶然なんだなと思い過ごした。

 この後も神経衰弱を再開するが、ますますかずきの行動に疑問が深まっていった。

「ええっ‼︎ また?」

 二周目に入り、ユウナが引き間違えて、かずきの番になった時に、またしてもカードが取られていく。今回は二組だった。

 ユウナが、引き外したカードを取られることが、この後も続き、結局、ユウナ四枚、かずき四十八枚という結果だった。流石のユウナも意地を見せ、二組だけは取った。だが、流石に天才だからっておかしい結果だ。たった四周目で全てのカードを引き終わるなんて。

「かずき、流石にこれはおかしくない?」

「何が? 私が勝つはずなのにーーとか思ってたのかい? 人生とは、何が起こるか分からないものなんだよ」

 まぁ、たしかにその通りなんだが。

「いや、そうじゃなくて、この勝負はかずきの勝ちでいいから、一つ教えて」

「何となくわかるよ。聞きたいことが。記憶力を伸ばす方法でしょう?」

「違う。それも知りたいけど、明らかにこの結果は偶然とは言い難いよ。何か、イカサマしたんでしょう?」

「イカサマはしてないさ。だって、そんな行動したらわかるでしょう?」

 うっ、とユウナは思った。

「まあそうなんだけど。だけど、何か仕組んでたとか?」

「仕組んでもない」

 かずきの言葉で、ユウナの声を遮った。そして、かずきは続けて言った言葉は、

「偶然に起きたことだよ。だけど、誰だってわかることでもある」

 ユウナはそれだけじゃ分からなかった。

 偶然に起きたことなのに、誰にだって分かる? 分かんないから偶然じゃないのか?

「偶然とは、予期できないものが起こることなんだ。だけど、今回は、ユウナが予期していなかったことが起きただけのこと。俺は分かってた。だから、利用させてもらった」

 ますます、頭がこんがらがってきた。私は分かんなかったことだけど、かずきは分かっていたこと?  

「あっ!」

 ユウナは今気づいた。

 全く気づくのが遅い。

 鈍感。

「まさか……」

 一つユウナが思い浮かんだこと、思い出したこと、それは、

「さっき、風でトランプが飛ばされたこと?」 

「正解!」

「だけどあんな短時間で何が出来るっていうの?」

 ユウナがバリアを張って、かずきとカードから目を離した時間は十秒あるかないかくらいだった。まさかとは思うが、

「飛ばされたカードの二十枚を目で追って、記憶したのさ」

「‼︎ そんなことが出来るの?」

 ヒラヒラ舞うトランプを、記憶してさらに目で追うなんてことを、かずきはしたのだ。訓練しても難しいだろう。

「例えるなら、パッと出てきた七桁の数字を十個、掛け算する感じ」

「たまにテレビとかでもやっているやつ?」

 確かにかずきなら出来るかもしれない。天才だから、意外とそういうことにも対応できるのかもしれない。

「めくれてたトランプを裏返して、軽く混ぜた時も目で追ってたのか」 

「流石にシャッフルされたら、キツかったけどな」

「シャッフルしとけばよかった」

 ユウナは後悔した。

 だか、そうさせないように、かずきは先に、表になったカードを裏返しにして、少し混ぜる行動をしたため、ユウナは、まぁいいかと思ってしまった。ユウナは、知らずのうちに、かずきに誘導させられていた。全く油断していた。

「だけど、不正じゃないの? カードの柄を見てるんだし」

「でもさっき、俺の勝ちでもいいと言ってたじゃん」

「しまった。私、いつの間にそんなこと言ってたのか」

「無意識に言ってたのか」

 ちなみに言うと、かずきは初めにも少し仕組んでいた。

 風でトランプが飛ばされて、自分の方に見えるように計算をしていた。運も実力と言うけれども、その言葉の意味には、こんな物語もあったのかなと思える二人だった。

 

「先程、私が言ったことに訂正を求める」

「何だ?」

「僕は、今高柳が持っているサイコロを使えないと誤解されていることに訂正を入れたい。僕は、お前の持っているサイコロを使えるぞ!」

「‼︎」

 なにっ、そんな言葉が出る前にもう奴が目の前にいた。距離にして二十センチ。

「ぐあ」

 imagerは高柳の腹に蹴りを入れた。

「こんなことも出来るんだよ。早くサイコロを僕に渡した方がいいんじゃない?」

 imagerはサイコロと自分の場所を入れ替えて、高柳の近くまでワープしてきたのだ。つまり、高柳がサイコロを持っていれば、ワープされて危険だと言うことだ。

「サイコロを渡すかよ。そんなことしたら、ますますこっちが不利になるじゃないかよ」

 高柳の状況はまさにジレンマだった。

 サイコロを渡しても、imagerに強くなられて不利になり、かと言ってサイコロを持ったままだと、サイコロと自分の場所を入れ替えたりして、危険なのだ。もしかすると、俺も奴の力によって移動してしまうのかもしれない。

「いや、それは出来ない。しようと思えば出来ないことはないが、その場合、サイコロを埋め込まなければならないんだ。俺は今、サイコロと同化してるから場所移動が出来るんだ」

「分かりやすい説明ありがとう。そんな説明したら、お前は不利になるだけで、得するのは俺だけだ」

 そんな、自分の力を説明して、なにが自分にとって利なのか。分からない。

 imagerは答えた。

「どうせ教えてもなにも出来ないだろ。それに、ハンデをあげることで、ますますあんたを殺した時の快感が強くなるからさ」

「なめやがって」

 なんだか、本来の目的だったことからずれてる気がするが、まあいい。

 しかし、いい情報を手に入れた。そんな油断が敗北のきっかけになることを教えてやる。

「舐めてないさ、ハンデだよ。楽しむためのね」

「それが舐めてるって言ってんだよ‼︎」

 ドン、と高柳は地面が砕けんばかりに地を蹴って飛んでいき、imagerにパンチを繰り出す形に入った。

「そんな、怒りに任せてはダメですよ」

 バキィ

 imagerは高柳の足を蹴りで折った。高柳の移動の勢いもあったから、折れてしまった。高柳は地面に落下した。

「ぐっ、くそが、面白いことしてくれるじゃないか」

「一度頭を冷やしたらどうです。無様ですよ、神とあろうものが」

 彼は、高柳の目の前に移動して、攻撃したら、元の場所に戻った。つまり、攻撃された後に、カウンターを与えようとしても、当たらないのだ。

 うざいうざいうざいうざいうざい。

 高柳はそんな感情があったからか、痛みなど忘れてしまった。

 そして、また同じようにimagerにパンチを入れようと踏み込んだが、

「痛。足折れてんのか」

 今気づいた。相当頭に血が上っていたようだ。

「そうか、まず落ち着かねえとな」

 深呼吸をする。

「ある程度は治せるだろう」

 高柳は自分の能力を使って、骨折した足を治そうとした。完全回復までとはいかないが、折れた足は無事くっつくだろう。問題は、奴が待ってくれるかだ。

「はは、待ってやろうか。いや、苦しませて殺すか。そろそろ飽きたからな」

 imagerは、気が変わったみたいだ。どうやら、俺との戦いに飽きたようだった。

「もう終わりか。つまらんだろう」

「つまらなかった。だか、それでいい。僕の本当の目的は、天の復讐だからな。お前の酷い死に様でも見せてやろうかと思ってな」

 ハハッ、と笑うimager。

 どうやら、本来の目的を思い出したようだ。

「そうと決まれば」

 シュン 

 imagerは、高柳の目の前に移動してきて、顔面にパンチを入れようとした。足が折れて、素早い動きが出来ないから、腕を顔の前でクロスして守りの姿勢に入る高柳だったが、それはフェイントで、蹴りを入れようとしてきたのだ。その蹴りが高柳の腹に入りそうなその時、

 ガンッ

 硬いものにあたる音がした。

「痛ってぇ」

 imagerは痛がる声を上げた。

 なにが起きたのだ? そんな疑問を解消すべく声が聞こえてきた。

「なんだかやばそうじゃない」

 ユウナの声だった。

「ユウナ。これは一対一の戦いだ」

「いいじゃない。こっちは何もなくてつまらないんだし。第一、天の復讐だとかなんだとか言ってるんだから、そんなこと言ってられないでしょう。どうやらサイコロを全部取られるとマズイみたいだから、守っただけ。あんたがやられたら困るのよ」

「そうか、そうだったな」

 やっと頭が冷えた高柳。

 自分こそ本来の目的を見失ってたようだ。

「ユウナ。俺の足が治るまで、援護を頼む」

「分かったわ」

「敵が二人になろうと流れは変わらない」

 今度は、高柳の背後に回ったimager。

 すかさず、ユウナがバリアを張った。

「くそ。これでは高柳を攻撃できない。ならば、貴様を攻撃するまで」

 彼は、ユウナに向かって石ころを投げた。いや、石ころではない。岩だ。おそらく直径二十センチはあると思われる。

「岩を投げるって、意外と力持ちね。だけどそんなもの当たるはずがないでしょう」

 ユウナは、目の前にバリアを張って、難なくその岩から自分の身を守った。

 しかし、彼女は一つミスを犯した。あまり大きく無い岩だから、「全体のバリアを張らなくても大丈夫ね」と、思ってしまった。それは、imagerによる思惑だった。それを想定してのことだったのだろう。

「あれ? あいつがいない」

 目の前から彼は消えていた。

「ユウナ。後ろだ」

 高柳は大きな声で警告した。

 しかし、その警告も虚しく、遅かった。

「っ‼︎ ……しまっ……た」

 彼女はそこに倒れこんだ。

 imagerは何をしたのか? ユウナには分からなかった。一瞬で背後に回った? サイコロをがなければできないんじゃなかったのか? 

 彼女は朦朧とする意識の中思う。

「人は知らぬうちに油断をしている。己の能力に頼っているのは強さではない。それらを自覚しなければ、強くはなれない」

 彼のその言葉を最後に、彼女は気を失った。

 

「すまないなユウナ。だが、お前のおかげで俺は回復できた。お前のやったことは無駄にはしない。もう、俺は油断しない。行くぞimager‼︎」 

「ふん。何度やっても同じことだ」

 ドン、と先程と同じように高柳は彼に向かって勢いよく飛んでいく。今の高柳には、ちゃんとした策があった。

「同じ攻撃か。つまらんな」

 こちらも同じように場所移動をして、蹴りをかまそうとした。この時、imagerは油断をしていた。

 突然、高柳の腹にバリアが現れた。

「何‼︎ さっき奴は確実に倒したはず」

 振り向いて確認する。

 その行動、それがまずかった。

「喰らえ!」

 高柳が、勢いを利用したパンチをimagerに入れた。

「しまっ」

 バキッ

 痛々しい音が響いた。

「グオオ。痛い」

 どうやら肋骨が折れたらしい。

 もがき苦しむimager。高柳は、すかさず能力で彼を拘束し、奴のサイコロを取り出そうとした。

「やめてくれ」

「なんだ。反省したか?」

「いや、反省はしてない。恨みはそう簡単に消えるものではない」

「そうだな。……、そういえば、このサイコロって、天に復讐したいと思ってるのと何か関係があるのか?」

「そうだ。今でも許せない」

 彼の目は、怒りであふれていた。

 

「いきますよ」

「こい!」

 ドン、ドン、バチ、激しいぶつかり合いが二人の中で起こっていた。

 天は内心思った。

 琉は強い。何故こんなに強いのか? 

 状況は、天がやや劣勢だ。

「このままではマズイ。まずは、琉の能力を詳しく知る必要がある」

 天は能力を使い、琉の能力を調べた。

「成る程。お前の能力、対偶能力って言うんだな」

「バレてしまいましたか。その通りです」

「対偶ってのは、あの数学のやつか?」

「ご名答。その数学のやつです。細かい説明をするのは面倒なので省きますが、つまり、今、現実にあるものを命題として、その対偶にあるものを、そっくりそのまま実現させるというものです。少し、数学とは異なる所もありますが」 

 天には分からなかった。難しすぎる。しかし、一つ思えることがある。

「面白いな、その力」

「そうですか? 結構不便で仕方ないですがね」

「まあそれもそうか」

 なんとなくのノリで答える。

「しかし、私の力を知ったところでなにが出来るんです?」

 その通りだ。なにも出来ない。

 だけど、その対偶能力ってのは、命題というやつは現実にないといけなくて、ないと対偶のものを実現できない。 

 要は、現実にあるものを変えてしまえば(奴の能力の妨害をすれば)いいのだ。

 それには、相手の考えていることがわかる必要がある。

 天は、能力を使い、琉の脳とリンクした。もちろん気づかれないように。

「まあ、対策も思いつかないから、突っ込むしかないな」

 嘘をついて誤魔化す。

「そうですか……」

 天は琉の心を読む。次は何をしてくるのかを。

 このまま戦いが長引いても、勝ち目は薄い。ならば、相手の能力を奪うまで。

 天は能力を使えるはなんでも出来るイコールなんでも出来ないは能力を使えない。これを真とする。

「読めた!」

「‼︎」

 琉は驚いた表情で天の方を見た。

「悪いが、その攻撃は喰らわないぞ」

「何を言っているのか分かりませんが、いいでしょう。天は能力を使えるはなんでも出来るイコールなんでも出来ないは能力を使えない」

「よしきた。能力カウンター」

「これを真とする」

 ピキィン。

「なんだ? 何が起きたんだ?」

「うまく言ったようだな」

 天は、琉の脳を探り、成功したことを確認した。

「悪いが、その力は、そっくり跳ね返させてもらった」

「‼︎ 能力が使えない」

 しまった、やられた。

「カウンターした時、その能力を少しいじってみた。我を琉に置き換えて、琉が能力を使えないようにね」

「そこまでやられたんですか。いやしかし、よくそこまで出来ましたね。予知でもしたんですか?」

「いや、脳を探らせてもらった」

「脳を? 通りで能力の内容が分かったわけだ。すごいです! 完敗です」

 なんとも清々しく敗北を認めた琉であった。

「お前も凄かったぞ。ただ、我の能力が上回っただけで、それ以外では負けていたのだろう。我はまた一つ学べた。ありがとう」

「こちらこそありがとうございました」

 

 なんともバトル漫画にしては、盛り上がりがイマイチな戦いであったのだか、彼らはそれぞれ何が得たのだった。

 天は経験を積むことができた。

 琉は、また新たな能力を知ることができた。そして、

「これで任務完了かな」

 琉は任務も達成したのだった。 

「もしもし? 聞こえるかい?」

「聞こえてるよ」

「幼神ステータス調査完了したぞ」

「そうか、ではもう一つの任務は?」

「そっちは引き続き、任務を遂行するよ。どうやらあっちは、もうクライマックスらしい」

 もう一つの任務とは、高柳のステータス調査だ。そして、個人的には、imagerのサイコロにも用があるのであった。

 

 

「昔、僕はここから遠い星に住んでた。そこには僕の家族もいたし、親友たちもいた。まさに、幸せなひと時であった」

 

 今からおよそ百年前。

 

 そこにはimagerがいて、家族がいて、友達がいた。

 母は、imaginal そして、父はimagine。

 弟もいた。そいつは、imag。

 自分も合わせて四人家族だった。

「なあ、みんなで家族旅行に行こうよ」

 imagerはそう言ったことを今はとても後悔している。もし、自分がそんなことを言わなかったら、みんな死なずに済んだのに。

「そうだな。どっかいくか!」

「どこにしましょうかね」

「ケプラー452bに行こう」

「あそこまでいくの? 流石に遠すぎない?」

「そう? なら、地球なんてどう?」

「地球か……、いいね」

「よし決定だね。地球に行こう」

「じゃあ明日の朝出よう」

「なら、荷造りしなきゃ」

「僕も手伝うよ」

 こんな感じで、この時はとってもウキウキしていた。明日が待ち遠しかった。早く明日にならないかな。何しようかな。そんなことを考えていたら寝れなかった。その次の日は、悲劇が起こることも知らずに。

 そして次の日(悲劇の日)がやってくる。

 僕たちは、予定どうりに地球に向かっていたんだ。その間、楽しく会話なんかして、まあそれが最後の会話となるんだけどね。今思えば、中々いい別れ方だったと思う。

 そして、残り数光年ぐらいに差し迫った時くらいだった。

 そこに奴が居たんだよ。 

 天が。

 

 奴はそこに居た。居るだけだった。しかばねのようだった。そこに居るのかすら分からなかった。まるで星のようで、静かにそこに居た。

 僕たちは、運悪くそこに出くわしてしまった。

 もし、旅行が今日でなくて明日だったら、こんなことにはならなかったし、復讐なんてする気もなかったのだろう。

 天はその時、星を破壊していたんだ。破壊神と言えるね。恐らく、軽い気持ちだったんだろう。そんなんで僕たちの家族は死んだ。何で死んだのか? 天に殺された? 星の破壊に巻き込まれた? いや違うね。

 天が、星を破壊している時に、僕たちは、星の破壊に巻き込まれないように避けた。全く危なかったよ。だけどそれだけなら良かった。問題はここからだ。

 天は、その僕たちを見て、殺すことを何とも思わないような顔で、殺したんだ。まるで星を破壊するかのようにね。まさに悪魔だった。

 僕たちはみんな体がバラバラになって死んだ。

 何で僕が生きてるのかって?

 僕にも分からない。気づいたらそこに居たんだ。

 そこには天は居なかった。あったのは、家族の死体だった。正確に言えば、家族の肉がそこら中に転がっていた。匂いで家族のものと分かった。

 僕の頭の中には、記憶が残っていた。元の体だった。

 全く意味が分からなかった。

 家族は殺されるし、自分は死んだのに生きているし、まさにパニックだった。そして叫んだ。

「何が起きてるんだよーーーーーーーーー‼︎」

 ピコン

 こんな音が聞こえたんだ。びっくりしたよ。死んだと思ったよ。まぁ、一回死んでんだけどね。まぁ、ここには誰もいないはずだったからね。家族は居たけど死んでるから、生き返ったと思ったけど、それは違った。少しガッカリした。皮肉。

 その音の正体は、サイコロだった。サイコロと言っても、一から六が書かれていたわけではない。ほら、このように様々な模様が書かれているんだ。

 そのサイコロは言ったんだ。

「あなたの家族は天下無双神の卵と呼ばれるものに殺されました。あなたも含まれます。しかし、あなたはこのサイコロによって生き返りました。このサイコロは、あなたの復讐のためにご活用ください」

 何となく状況は整理できたんだ。一週間かかったけど。つまり、僕は、天下無双神の卵によって殺され、家族の仇を取るため生き返って、このサイコロはそのために誰かが置いてったということだ。

 あなたの復讐のために活用ください。

 この言葉に引っかかった。

 誰かが置いてった。誰が?

 それを聞いた。そしたら、

「答えられません。しかし、今はあなたの味方です」

 とにかく僕の復讐を手伝ってくれる人らしい。

 そして僕は、天を復讐することに決め、情報収集や、サイコロの使い方とかを練習した。

 しかし、驚くニュースが僕に入ってきた。

 僕が復讐するはずだった奴が、何者かによってやられたんだ。

 そして、その天下無双神の卵を倒した犯人が君だよ、高柳。

 それと同じく、またしても驚くニュースがあった。

 僕は困った。彼を復讐するために生きてきたのに。これからどう生きればいいのか分からなくなった。その情報が信じられなかった。死んで欲しいと思ってるのに、生きているか心配とか矛盾してるね。まぁ、当然この目で確かめるためにここに来たんだ。

 そしたらこれだもん。彼はいるけど、弱くなってるし、本当に天を倒すほどの奴が居るんだもん。なんだが複雑な気持ちだった。

 そして今に至る。

 

「言っておくが、自分一人の力じゃないぞ。俺は仲間に頼りっぱなしで、弱い。さっきだって、ユウナにも助けてもらったしな」

「そうか。俺はそんな奴に負けたのか」

「そうだな。こんな弱い奴に負けたんだ、お前は。だがよ、仲間がいた方が、強い時もあるんだぜ」

 笑いながら高柳は言った。

「だから今の俺がいる」

 

「なあ、imager。お前は復讐を辞める気にならないのか?」

「ならない。もし、そうしてしまったら、今までの自分を否定することになる」

 そうだよな。どんな気持ちでここまで来たのか高柳は分からなかった。だが、心の底に重いものがあるような気持ちを感じ取ることはできた。

「だから、俺は最後まで成し遂げてやる」

 imagerは身動き出来ない。そのはずなのに、何かが起こる。高柳の本能がそう告げていた。

「お陰で、ある程度傷を癒すことができた」

 話している間に、サイコロの力で傷を癒したらしい。

「しまった。時間稼ぎだったか」

 時すでに遅し。imagerの姿と、高柳の持っていたサイコロが無くなっていた。

 

 彼はどこに行ったのか。そんなのは考えるまでもない。元天下無双神の卵であり、幼神の天の元に行ったのだ。

「待たせたな。お前に復讐をさせてもらう」

「さっきの奴か」

「imagerと言う。思い出せないか?」

「少し待て。……」

 天は能力を使って思い出す。思い出す。思い出した。

「! ……あの時の、か……」

「やっと思い出したか。お前には家族を奪われた。このサイコロを使ってお前を殺す‼︎」

「そのサイコロ……確か……」

 天の思考はimagerの斧の攻撃によって途切れた。

「ッーー」

 天は冷や汗をかく。

「チッ。惜しかった」

 天はギリギリ避けた。

「なあお前。そのサイコロはどこで?」

「あ‼︎ これはお前に殺されて生き返った時にそこにあったものだ」

 天は一つの不安がよぎった。

「おい、それは捨てた方がいい」

「捨てるかよ。少なくともお前を殺すまでは」

 天は謝りたかったが、謝っても許されることではないと分かっていた。そもそも、自分なんかが謝っていい権利なんて無いんじゃないかとさえ思った。

「我の予想が正しければ、それを持っているものは、大きな力を手にする反面、目的を達成したら死ぬ」

「死んでもいい。お前が死ぬならな」

 自分には反論する権利はない。自分は、それ以上のことをしてきたのだから。 

「いいから死ね‼︎」

 imagerは、斧を振りかぶって飛びかかってきた。

 もし、ここで我が死んだら、彼も死ぬのかもしれない。かと言って、彼を止める権利は我にはない。どうすればいい?

 ぐるぐると頭の中でいろんなものが回っている。

 もう斧はそこまできてる。もう避けられない。

 死ぬ。我は最低な神だ。

 そう思ったその時、

 バン‼︎

 斧を蹴る音がした。

「imager。お前に用があってきた」

 そこには、先程まで天と戦っていた嘘鬼琉の姿があった。

  

「お前、今なんて言った?」

「そこにいる彼に会いに来たんですよ」

 なんでこいつがimagerと会おうとするんだ? 

 だが、一つ思いついたことがあった。 

「もしかしてお前が、このサイコロの持ち主か?」

「まあ正解だよ。よく分かったね」

 やっぱりか。

「何となくだ。それより、なんでサイコロをこいつにあげたんだ?」

「そんなものは決まってるさ。こいつの生き様を見て楽しむためだよ」

 下衆が。そう思ったが、天は言わなかった。だって、自分も十分下衆かったのだから。

「どういう事だ‼︎ 俺の行動を全て見て、面白がってたのか?」

「そうさ、僕はそんなキャラクターだからね。意外でしょ」

 全く想像もつかなかった。知らない方がいいものもあると言うけれど、今それは本当なんだなと分かった。こいつ、腹黒い。

「ふざけるな。頭おかしいんじゃないのか貴様‼︎」

「頭おかしいのはどっちかな? まあ僕も人間から見たら頭おかしいと思われるだろうけどね。だけど、君がやってるのは結局、そこにいる神がやったことと似たようなものだよ」

「……」

 天は何も言うことが出来ない。

「いや全く違う‼︎ あいつはあんたみたいに楽しんで殺したんだ‼︎ 僕はあいつを止めるために殺すんだ‼︎」

「ならもし、その人が更生したとしたらどうするの?」

「……、それでもやったことには変わりはない」

「全く矛盾してるね。ははっ。面白い、なら君はどう思うのかな?」

「……。我がやったことには変わりはない。我は死んで当然なのだ。だから殺したければ殺せ」

「へぇ、なんだ、てっきり抵抗するのかと思ったけど違うみたいだね。随分変わったなぁ」

 こいつ、口調が馴れ馴れしい。さっきのは演技だったのか。

「じゃあそこ動くなよ。一発で殺すからよ」

 imagerは言った。

「我も出来れば苦しみたくない。しっかり狙え」

「言われなくても分かっている」

 imagerはゆっくりと斧を上げ、狙いを定めて、勢いよく天の首目掛けて斧を振り落とした。それは本当なら、天の首は、綺麗に切れていたのだろうほどの勢いだった。なのに、目の前は血で染まらない。切れた感触が無かった。それはつまり、空振ったということか? 斧はしっかりと何かに触れている感触だった。金属のようなもの。

「間に合ったーー。ギリギリだな」

 それは、高柳と言う日本刀だった。

「高柳ここに参上‼︎」

 かっこよくポーズも決めて現れた。高柳が。

 

「一応謙譲語使ってみたんだが、俺も神だから必要なかったな」

 参上って謙譲語なんだ。また一つ賢くなったな。まあそんな事はどうでもいい。

「天。お前、軽々しく死んでもいいなんて言うな!」

「別に軽々しくではない。考えた末に、我は死んで当然と考えたのだ」

「そっか。だけどそれって逃げじゃないのか?」

「何が逃げなのだ? 死んで償うしかないことをしたんだぞ。それの何が逃げなんだ?」 

「お前はそうやってまとめて終わりにするつもりか? そんなんで解決すると思ってるのか? そんなんでimagerは喜ぶと思うか?」

「僕はそれでいいんだ! それで仇を取れる」

「そうだ。本人もそう言っているんだ。喜ぶだろう」

「確かに本人はそう言うだろう。だがよ、その時は良くても、その後はどうなるんだ? imagerはその後スッキリするのか?」

「……。ならどうすればいいんだ?」

「そんなの簡単だ。天がimagerに謝って、その罪を許される事はないにしても、少しでも償うようにしていけばいい。もちろん俺たちも協力するぜ」

「くだらない。そんなんじゃ、やっぱり怒りは収まらない」

 imagerは、地面を蹴りながらそう言う。

「死ぬのは逃げ、か。……、しっかり償うために生きるのか」

 天は少し考えて、答えを導き出した。

「imager、悪いが我は死なん。罪を償うために生きるぞ」

「そうかそうか。なら、僕の攻撃を受けてなお生き延びてみろ‼︎」

 imagerはサイコロ五個を体に取り込み、パワーアップしていく。

「おおっ、面白いねぇ。これが、サイコロ六個使った力か」

 琉は、興味深く拝見している。

 それもそのはず。彼のエネルギーは、とんでもなく巨大になりつつあった。

「やばいな。このまま戦ってたら、止められるはずがない」

 無理ゲーだ。一レベルの勇者が、ボスといきなり戦うくらいだ。

「よかった。こんなことがあると思ったからあらかじめ頼んでおいたんだ。やっと出番だぞかずき!」

「やっと出番か。全く、俺を忘れてたんじゃないのか?」

「そんなことないぞ。今、お前の努力が発揮される時だ。さあ、調査の結果を示せかずき!」

「引き立て役ありがとう。さて、本題に入る。奴の弱点についてだ」

「!」

「奴の弱点は三つある。一つ目。今攻撃する」

「まあ確かに、今は隙だらけだからな。だが、imagerをできる限り傷つけたくない。他は?」

「二つ目。琉、持ち主のあんたがサイコロを爆破する」

「は? そんなつまんないことするかよ。確かにそれは傷つけずに終わるけどな、俺が楽しめんだろ」

「まあそう言うと思ったよ」

「だが、サイコロと一緒にあいつも道連れで殺すならいいけどな」

「それはさせない‼︎」

 天が力強い声で言った。

「そして三つ目。みんなで力を合わせて攻撃を受け止めるだ」

「それでいこう‼︎」

 即座に天は言った。

「そう言うと思った。よし、高柳、この作戦でいいか?」

「勿論だ。一番いい策だな」

「そうと決まれば、やるべきことを言う。出来るだけ人を集めてくれないか?」

「今からだともう間に合わないぞ」

「我が呼ぼう」

「ああ、頼む」

「今ここに、高柳の知り合いの中で、可能なものここに集え」

 能力を使って呼び出す。

「これで仲間は集まるな。俺はユウナを治療してくる」

「分かった。できる限り急いでくれ。データによるとおよそ三分でimagerのパワーアップは終わる」

「分かった」

 高柳はユウナのところに向かう。

「ユウナを回復させよ」 

 能力を使い、少しずつだが、ユウナを回復させている。

 残り二分。

 

「何? 高柳たちがピンチらしいじゃないの。詳しく説明してくれるかしら」

「楓‼︎ それに雛も」

 そこには和多志太高校の生徒の楓と雛がいた。過去に、高柳、ユウナ、かずきと戦ったことのある関係の若者である。

「今、高柳は手が離せないから俺が説明する」

 かずきは、ここで起きたことの数々を説明した。

「なるほどねぇ。まぁ、協力してあげましょうか」

 彼女たちはみんな協力の姿勢を示してくれた。

「すまないな」

「いいって。私たちも世話になったしさ。お互い様」

 なんだかかずきは、暖かい気持ちになった。

 ビリビリ

「これは。電神と雷神か?」

「よう。久しぶりだな」

「おお、久しぶり。こんな形でまた会うとは思ってなかったな」

「こっちもそう思う。僕たちは、君たちに恩があるからね」

「今度は私たちが助ける番だね」

「二人ともありがとう」

 

「おっ、ユウナ。大丈夫か?」

「ん……。私は大丈夫だよ」

「よかった。ユウナ動けるか?」

「うん。全然大丈夫だよ」

 元気よく、ぴょんぴょんと飛び跳ねるユウナ。

「病み上がりの中申し訳ないけど、ちょっと手伝ってくれないか?」

「ん、何?」

 

「よーし集まったのは十三人か」

「おいおい、俺は手伝わないぜ。観戦するだけだ」 

「じゃあ十二人だな。今から説明することを聞いてほしい」

 残り四十五秒。

 

「まぁ、説明と言っても、ただ、当たって砕けるだけだ」

「砕けるほどなのか?」

「その通りだ。あのサイコロの力を舐めるな! あれはただのサイコロではない」

 琉が言うからには本当なのかもしれない。元はあいつのものなんだから。

「琉の言う通り、最悪の場合、どちらも死ぬ」

 ゴクリ。皆、息を飲む。

「嫌だったらいいんだ。強制ではない」

 かずきは確認の為に、皆に聞いた。

 その帰ってきた答えは皆同じだった。

「そんなの決まってる。嫌だったらここには居ない」

 聞かなくてもわかる答えでしょう。

「分かった。では、そろそろ来るぞ!」

「‼︎」

 imagerのパワーアップは、終わったようだ。

「これで、何もかも終わりだ‼︎」

 imagerは、全身全霊をかけ、最後の攻撃を放つ。

「来たぞ」

「言われなくてもわかる。ぐっ、重い」

 みんなは、imagerの攻撃を受け止めた。その攻撃は重かった。彼の人生の全てを今、背負ったような、憎しみを込めた攻撃を受け止める。

「もう、これで終わりなんだ。これさえ決めてしまえば、何もかも良し。終わり良ければ全て良しだ」 

 十二対一というのに、その差をもろともしない彼の攻撃は、本気で人生を賭けてきてるのだなと思う。

「全然良しじゃない‼︎」

 その空間に一人の声が響く。

「確かに我が悪かった。謝って許されることじゃないことも分かってる。だけど、そんな悪人に言わせてくれ。これが最後はダメだ。全然良くない。そんなの、家族が嬉しいと思うか? 我は、思わないと思う。むしろ悲しむ。それじゃダメなんだ‼︎」

 ダメだダメだダメだ‼︎

「家族のみんなは、幸せに生きて欲しいって思ってるさ。きっとそうだ。だから、死ぬな。そして我に罪を償わせてくれ‼︎」

 本当に自分勝手な奴だなと思う。

 大切な人を殺されたら、恨まれるのは当然だ。そんな奴に、罪を償わせてくれと言われたらどう思う?

 殺したいと思うだろう。

 なのに我は、殺さないで生かして欲しい。罪を償うから殺さないでというのは虫がいい。恨まれて当然。殺されて当然。しかし我にはそれしか言えない。

 何も出来ない自分が憎い。いや、もはや憎む気にもなれない。殺したことすら忘れてたんだからな。死にたい。だが、逃げてはいけない。生きてやる。そして、imagerをすくい上げる。

「絶対に助ける。絶対に助ける。絶対に助ける」

 imagerを助けるのが今の自分の役目。そう考えていたら、無意識に言葉を発していた。

 その言葉は、形を成そうと少しずつ、良い方向に向かっていこうとする。

「天‼︎ 行くぞ‼︎」

 高柳はいきなり、心を読んだかのように言ってきた。

 本当なら、こっちから言おうとしたことを、先に言われてしまった。そんな、呆気にとられている暇はない。

「ああ、行こう‼︎」

「二人とも。ココは任せて、頑張ってきな!」

「出来るだけ早めに頼む。長くは堪え切れない。それこそ砕けてしまう」

 高柳と天は、みんなの思いに感謝した。

 これ以上、みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。二人は、imagerの元に向かう。

「こっちに来るな‼︎」

 その瞬間、imagerの攻撃が、こちらにも飛んできた。

「行くぞ!」

 二人は力を合わせ、攻撃を弾く。

 その攻撃は、流れ弾とは言えども、重い攻撃だった。

 こんなのを何度も食らってはしまっては、たどり着く前にやられてしまう。

「一気に行くぞ!」

 二人は能力を使い、アクセルを全開に走る。

「いい加減にしろ‼︎ こっちに来るなって言っただろう」

 imagerは、怒鳴って言った。しかしその顔は、どこか悲しそうに見える。

 これ以上imagerを一人にしてたまるか。急げ‼︎

「あーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎」

 imagerは、苦しそうにも見える叫び声を発して、彼の攻撃は、一点に集中する攻撃から、周り全体を巻き込むような攻撃に変わった。

「何! こんなデタラメな攻撃なのに、一つ一つ強さが変わってないだと⁉︎」

「全て感情に任せているからだ。このままでは、彼は、力尽きて死んでしまう」

「危ない‼︎」

 ユウナは皆を、バリアを張って守る。

「すまないユウナ」

「うん。だけど高柳と天は守れない」

「あいつらなら大丈夫だ。きっといい方向に向かっている。だって二人とも神様だぜ!」

 

「これじゃ、危ないな。仕方ない。imagerはお前に任せた」

「ああ、任せておけ!」

 高柳は、天にimagerのことを任せると、

「久しぶりに二刀流で行くか」

 高柳は、妖刀高柳と、妖刀月夜を取り出した。

 そして、高柳は自分の体を能力で強化した。

 そして、斬撃で攻撃を弾き、天を援護した。

 そして天は、imagerの元にたどり着く。

「imager!」

 天は、彼を咄嗟に抱きしめた。

「キイーーアーー‼︎」

 グサリ! 彼の攻撃は、刃となり、彼の腹を生々しくも貫いた。

 天はそれでも、抱きしめるのはやめなかった。

「こんなの、君に比べたら全然痛くないね」

 言葉ではそう言っていたが、彼の言う言葉は震えていた。

「な、ぜ? 痛いだろう? 苦しいだろう? なのに何故離さない?」

「さっき言っただろう? 君は、この痛みよりも苦しい思いをして来たんだ。だから、僕はそれよりも苦しくない痛みしか味わってないから抱きしめるんだ」

「分かんないよ。何でこうなるんだよ?」

 imagerは疑問の声を上げる。

 今にも気を失いかけそうな天は、震える声で、笑いながら言った。

「ごめんな。……分からないよな。正直我も何を言っているか分からない。だけどこれが一番正しいと思ったから」

 そして天は、そこに倒れた。

「つまり天は、お前に死ぬまで寄り添ってやりたいと思っているんだ。ただ、それだけだ」 

 高柳は、二人の元に歩いて近づいてきて言った。

「一緒に、居たい?」

「そうだ。アイツはお前と居たい。せめて少しでも気を楽にして欲しいから。本当は加害者が言えることじゃないと思って、はっきり言わないだけで、そう思っている」

 高柳は、天の気持ちを伝えた。

「そう……。僕は何でそんなことに気づかなかったのだろう。何で彼を許そうと思わなかったのだろう。気づかなかったのだろう。何で、家族の思いとかを考えなかったのだろう。きっと、こんな生き方はして欲しくないと思っているはずなのに」

 imagerは、そう言って自分を責めるように言った。

 復讐は何も生まない。

「仕方ない。人は誰しも間違える。天も間違えたし、俺も間違えたこともある。だけど、大事なのは、その間違いを如何に活かせるかだ」 

 高柳は言う。他人事ではないように。

「ごめん。僕も間違っていた。天。僕は君と一緒に居たい。だから……」

 imagerは、喋るのを後にして、行動する。

 彼の体からサイコロが出てくる。そして、彼の体は小さくなっていく。どんどん小さくなっていく。そして、サイコロ六個全てを出した。

「今からこのサイコロを使って君を治すよ」

 そう言って、天にサイコロをかざす。しかし、そこにある人影が急に現れて言った。

「辞めるんだね。それは僕のサイコロだ。そんなことしたら、サイコロが無くなっちゃう。もしそうなったら、殺すよ」

 人影は琉だった。彼は、空気を読まず言った。

「じゃあどうすればいいんだ? どうしたら彼を、天を助けられる?」

 焦るimager。

「そうだ。それしかこの致命傷は治らない。それに、高柳の力じゃ間に合わない。それに力不足だ」

「そんなことはどうでもいい。俺は、サイコロが大切だ」

 琉は自分のことを優先して言う。

「ただし、そいつを治す方法は、それ以外にある。お前らには面白いものを見せてもらった礼だ。これならどちらにも利がある。どうだ?」

「なら、その方法を教えてくれ」

「よし、分かった。その方法とは、お前がサイコロを六個全て渡し、俺が能力を使って治す。どうだ?」

 どうするか? 信用できるか? いや、出来ない。だが、そんなこと言っている場合では無い。そんなこと考えていたら、天は死んでしまう。

「分かった。サイコロを渡そうと、サイコロを手のひらの上に出した」

 imagerはサイコロを渡す。

「確かに。よーし、約束通り治すよ。」 

「早く頼む」

「分かってるって。天が治らないはimagerはサイコロを渡さないから、imagerはサイコロを渡すは天を治すに変更。これを実行せよ」

 その瞬間、imagerの手元にあったサイコロは消え、琉の元に。そして、天は黄色い光に包まれ、みるみるうちに傷が消えていく。

 そして、

「うっ。此処は?」

「よかった天、治ったか」

「そう言えば傷が消えて痛くない」

「それはあいつがやってくれたんだ、って居ない」

 そこには琉の姿は無かった。どうやら、目的を達成したから帰ったらしかった。

「あれ、imagerか? なんか小さくなってるな」

「ああ。サイコロ全部無くなったからな」

 見た目からいうと、中学一年生の女の子だ。どうやら、サイコロを使って性別と年齢を偽っていたらしく、サイコロあるのと無いのではギャップが凄い。

「サイコロを何で?」

「天のために、imagerが琉にサイコロを渡して治してもらうように頼んだんだ」

「そうなのか? ありがとうimager」

「いや、当たり前だよ。それより死ななくてよかった」

「お陰様で生きていることだし、これからよろしくimager」

 天は手を差し伸べる。

「こちらこそよろしく」

 手を繋ぎ、抱き合う二人。その二人は、高柳には、年はズレているが、親友同士に見えた気がした。

 

「おーい。大丈夫か?」

 向こうから走ってくる人影から声が聞こえる。

「大丈夫だ。お前らこそ大丈夫か?」

「こっちも大丈夫よ。それより、二人とも仲直りしたのかな?」

 ユウナには二人が親友同士に見えていたらしい。それほどその場は和やかだった。

「うん。仲直りした」

 二人は声を揃えて言った。声があったからみんな笑った。

「どうやら無事解決したようね。じゃあ、私達は帰るわね」

「送ってやるよ。手伝ってもらって歩いて返すなんで、なんだか悪いから」

「気遣いありがとう。だけどいいわ。私達、これからここの近くで食事会をしようと思ってたから」

「そうか。なら、この恩はまたいつか返す」

「じゃあ、その時を楽しみにしているわね」

 そう言って、彼女達はこの場を立ち去った。

「よーし、なら俺たちもパーっとパーティーやるか」

 高柳が言った。

「なんだかダジャレみたいだな」

 かずきがそう言った。

「全く高柳のダジャレはよくすべること」

 ユウナがクスクスと笑った。

「いやいや、滑ってないでしょ」

 あはは。その場に笑いが起きた。ダジャレのつもりは無かったにせよ、結果オーライかな。

「なら、imagerいらっしゃいの会かな」

「そうだな。じゃあ改めて」

「imagerいらっしゃい‼︎」

「ありがとうみんな」

 彼はいつぶりだったか。こんな幸せを感じるのは。人の暖かさはこんなにも嬉しいんだなと思った。そう思うと、涙が止まらなかった。

 

「さーてと。サイコロを取り戻したし、楽しいこともあったからなんだか今日は幸せだなあ」

 幸せを感じるものはここにもいた。

「さて、任務を達成したことだし、これでまた宇宙の平和に繋がったな。奴らは強いには強いが、それほど脅威では無かったな」

「任務を達成したようだな。御苦労だった。これでまたしばらくは平和だ。あんなことはまだ起きない」

「そうだな。俺は楽しめるから起きてもいいけどな」

「全く、楽観的な見方は辞めなさい。いつか痛い思いをしますよ」

 

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