第4話木偶の坊の神

 とある基地にて。

「高柳たち一行と電神雷神の交戦について報告致します。彼らは、どうやら丸く収めたそうです」

 被害は多少出てしまいましたが、と。

「おお、そうか。それで奴らとの力の位置関係はどうなった」

 争いが丸く収まって良かったとなでおろす半面、奴らの力が強くなりすぎてないか心配であるようだ。

「その辺は心配ありません。これまでとはあまり変わらず、ただ電神雷神が味方についたというだけであります」 

「そうか。できれば争いは避けたいからな」  

 なにかを考えるように言った。

 ーーー

「争いは避けたいのに何故、大きな力を手に入れようとするのだ?」

「‼︎」

 どこからか声が聞こえてくる。

「誰だ。どこにいる?」

「そんなことはどうでもいい。我は何故お前らが避けたいと言っている争いを自分たちからやめないのだ?」

「ふん、そんなんで解決したら良いんだがな。現実はそんなに甘くない。第一、降参したとしても相手はやめてくれないだろう」

 誰だか知らんが、考えが甘いと思う。

「人間とはそう考えるのか。相手を信用してないのか」

「それは信用したいさ。だかな、相手が嘘ついてるかもしれんだろ?」

 しょうがないことなんだ、と。

「……。だから争いは無くならないのだな。そうやってお前らはどっちかが消えるまで争い続けるのだ。そうだ。人間とは愚かである。そうやっていつまでたっても自分の欲を言っては、「みんなのためだ」というのだ。全く悲しいものだな」

 可哀想可哀想。

 そう、失望交じりに言ってきた。

「貴様。お前もどうせ同じことをするのだろう?」

 貴様に人間を馬鹿にする権利はない。

「ふん。我がそんな愚かなることをするわけなかろう。貴様らと一緒にするな」 

「貴様らと話していると気持ち悪くなるわ。さらばだ」

 そう言って何者かが消える。

      ・

 上空より、

「まだ人間どもは争いをするのか」

 今度こそ大戦が始まる前に止めなければならない。

「絶対に悲しみを生んではならない。次は必ずヘマはしない!」

 彼は一人密かに決意した。

「おいおい。人間なんて助けるのか。馬鹿馬鹿しいな」

「ハデス。お前にはわからないのか?」

 何か心配そうに聞いた。

「お前、人間が死んでいく時のそれぞれの美しさを知らないからそんなことを言うんだ」

 全く芸術がわかんないやつは可哀想だな、と。 

「そんなのは芸術じゃない。狂乱者だお前は」

 ふん。なんとでも言うがいいさ。

「そういえばハデス。お前さっき誰と話していたんだ?」

「地球防衛軍だとか言うとこで隊員と話してた」

 なに。

「お前、なに聞いたんだ?」

 恐る恐る聞く。

「人間は何故争うのかだが?」

「彼らはなんて言ってたんだ?」

 くっくっく。

「つまんないぜ。ただ相手が信用できないから争うだってよ〜。ハハッ、人間って可哀想だよね〜〜。相手を信じれない」

「なにが面白いんだハデス。僕には笑えない」

 君を軽蔑する。同じ神として。

「誰がなんと言おうと僕は絶対に争いを止める。」

 もう一度心に刻んだ。

「まぁ、それぞれに考えはあるのさ。それもまた芸術だ。アポロ」

 ハデスはポツリと言った。

 

 神々は、人間のように、考えたりする。怒ったり、笑ったりする。こんな神もいる。宇宙とはなんなのか? 神は人間と同じ宇宙の生命だ。ただ、人間からしたら、凄いってだけだ。

 今回の高柳達の運命の歯車は、彼らの歯車との交わりはない。運命とは不思議なものだ。気づかないところで運命が決まっているのかもしれない。

 

木偶の坊

  

「我は誰なのだ?」

 素朴な質問なのに、人間は私は誰なのか気付かずに人間の殻から出て行き死んでいく。神も一緒のことが言える。

「我には理解できない。何故我がここにいるのか。その理由がわからない」

 ある時、気付いたらそこにいた。わたしには親がいない。いるのかもしれないが、居たとしても会ったことがない。冷たい親だから会いたくない。こんなこと言ったら少なくとも人間ではないことはわかる。だから我は神なのだと思う。

 もしかしたら誰か私について説明してくれるんじゃないのか。

      ・

 どこの学校も夏休みが始まって間もない日の午後。

「ねぇ高柳、天下無双神の卵って知ってる?」

 こんな問いを来夏が問いかけてきた。

 天下無双神? なんだそれは。

 おっと、そういえば彼女について紹介してなかった。彼女の名前は来夏。夏が来ると書いてらいかだ。彼女はかずきの高校の友達であり、そのこともあり、繋がりができて仲良くなった。驚くことに、この歳で職を持ってるらしい。その職業は神の専門家らしい。詳しいことはあまり分からない。教えてもらえないからだ。ちなみに無能力者だ。そんな天職を持っている彼女が聞いてきた。

「いや知らないな。なんだその強そうな神は?」

 なんだか興味が湧いた。

「その神は将来恐らく天下統一をするんじゃないかって言われてるの。そして、その神はとても強い能力を持ってる」

「へー、やっぱ強いのか、そいつ。」

 ますます気になるな。戦ってみたいな。

「で、その強い能力ってやつが、あんたのなんでも叶えられる能力よりも、より強力なの」

 高柳は少し驚く。

「ほぉー。面白いね。その話、もっと詳しく聞かせてくれよ」

 ますます興味が湧いたようで、来夏の顔を見る。

「その神は木偶の坊みたいで、悪いことはあまりしないのだけど、ある時、その神は星を破壊したんだって。それからと言うもの彼は次々と星を破壊していった」

「それって無差別ってことか?」

「どうやらそうらしいのよ」

 無差別に星を破壊か。

「さらにその彼の能力は、なんでも叶えられる能力ってのはあなたと同じなんだけど、あんたは一度考えてから発動する能力だけど、その神は、無意識に思っただけでも発動可能らしいのよ」

「無意識にだと。それはやばいな。無敵じゃねーか」

 そう。無敵。

「そいつは、スイッチは入れたりするのか? 俺みたく、使う前に、地面を思いっきり踏んだりしたりとか」

「しない」

「まじか!」

 スイッチを入れる必要がないと言うことは、いつでも二十四時間使えるってことだ。俺の場合は、戦う前にスイッチを入れるが、それは、ずっと使いっぱなしだと、とんでもなく疲れるからだ。というか、体が持たないのだ。つまりそいつは、莫大な力を持っていることを示す。

「その奴はほっといて大丈夫なのか? 下手にほっとくと世界が消えるぞ」

「だからあんたに話をしにきたのよ」

「なるほどな。俺くらいしか頼れなかったのか」

「そう。もし交渉が失敗したらあんたに助けてもらおうと。互角とは行かないかもしれないけど足止めくらいはできるでしょう」

「まあわかんないけど。だけど、足止めしたらしたでどうするんだ?」

 ちゃんと策はあるよな、と高柳は聞く。

「もちろん。その足止めした隙をついて攻撃する。それで倒す。いくら無意識でも、あんたの力だったら、ある程度能力が打ち消しあうからね。勝機は見えると思う」

「なるほどね。もし失敗したら?」

 答えは分かってるんだけど念のため確認しよう。違うかもしれないからな。

「もちろん消える。なにもかも。運が良ければ助かるかもね」

 そんな生暖かい気持ちは捨てて、本気で取り組まないとね。なにせ失うものが大きいからな。

「まぁ別に無理してやることはないよ。高柳は大変な役割だからね」

 そんなことで逃げるかよ。楽しそうじゃねえか。天下無双神の卵の力。

「いいや。引き受けてやる。面白そうだからな。ただし、がっかりさせんなよ」

 あんたならそう言うと思ってたよ。

「ちなみにこの件は、二人には内緒ね」

 彼らを巻き込みたくないからね。あんたに期待してるよ。と、来夏。

 そう言って、その件についてのプロジェクトが始まる。

 

 

「今の話聞いた?」

「ああ。俺もここにいたから聞こえちまったよ」

 ユウナとかずきが社の中で隠れて聞いていたのだ。

 何故彼らはここにいたのか? 遡ること一時間前。

 二人はユウナの御社に居た。

 二人は暇だった。

「暇ね」

「そうだな。暇すぎる」

 なにが面白いことないかな、と。

 かずきは思う。宿題は終わってるし、勉強もやらなくても大丈夫だし。新しい趣味作ろうかな。

 ユウナは思う。神様は暇だな。そこまで忙しくないし。神様らしい事したいな。

 それにしても、

「暑いわね」

「そうだな。暑すぎる」

 今年の夏は、暑すぎる。どこか涼むとこないかな?

 ユウナはふと思いつく。

「上空に行く?」

 かずきは思う。

「あー。涼しそうだな」

 どうせ行くところないし良いか。それより暑すぎて頭がどうかしそうだ。

「決まりね。じゃ、行くわよ」

「ちょっと待って。俺人間だから飛べない」

「そうだったわね。うっかりしてたわ」

 どうするかな。

「じゃあ私に掴まって飛んでいく?」

「掴まるってどこに」

 ……。一瞬静かになる。

「そりゃあ私のお腹を抱えるように? かな」

「それちょっと恥ずかしい」

「恥ずかしいってなによ。嫌だって言うの?」

 そう言って頰を膨らます。可愛い。って言うか、この人何歳なんだろ? 気になるけど、聞いたらなんか色々やばそうだからやめとこう。前も聞いて殴られたし、次は無いかも。

「いや、そんなことはないんだけど、……。分かったそうしよう」

「そうと決まれば、さあ、早く私に掴まって」

 男に体を触らせるとか、抵抗感ないのかなこの人。もしかして相当年いってたりして。

「今なんか変なこと考えたでしょう」

 心を読まれた‼︎ 

「いや、やにも考えてないが……」

 笑いそうなのを必死に平常心を保つ。

「さあ早く」

 かずきはユウナのお腹を抱えるように掴まった。

「さあいつでもいいぜ」

「よーしいくわよー。それ」

 ドーーン

 ちょっと大げさな効果音だな。正しくはフワッだろう。あまり勢いがなかった。

 だんだんと地面が遠くなっていく。

 しばらくして、雲がある辺りまで来た。そしてもっと上がっていく。

「おおっ涼しい」

「今、だいたい上空二千メートルくらいね」

「掴むの疲れてきたな」

「今放すと落ちるわよ」

「あ、そうだった。やばいやばい、早く地上に降りて。腕がもたない」

「はぁ、世話の焼ける男だこと。私は今涼しんでるんだから。だけどどうしてもっていうなら、頼み方があると思うんだけど」

 この場に及んで。マジで落ちて死にそうなのに。Sか、ユウナはSなのか⁉︎

「降りてください。お願いします」

「はーい、分かりました。降りまーす」

 そしてユウナが、思った以上にあっさりとお願いを聞いてくれたことに感謝して、かずきは安堵する。決して俺がMっていうわけじゃあない。

 だんだんと地面が近くなっていく。人類がいるべき場所だ。安心する。

「あー、死ぬかと思った」

 腕がヒリヒリする。もう少しで死ぬとこだった。

「私は、もう少し涼みたかったな」

「俺は十分涼んだけどね」

 冷や汗が止まらなかった。

「だけど、これでまた暇になっちゃったね」

「ああそうだった。俺たち今、暇だったんだった」

 すっかり忘れてた。さて、どうするか。

「そういえばかずきはいつもどうやって空飛んでたっけ?」

「それは、高柳の能力でやってもらってたりとかしてだけど……」

 ……。

「あっそうだ。高柳っち行こう」

「まぁ別にいいけど。行くとこないからね」

「これでまた高柳に近づけるな。ユウナさん」

「はぁ、馬鹿言うな。そんな風に考えないし。馬鹿じゃないの?」

 バカバカ、とユウナ。

「さっ、とりあえず行こう」

 腕も休まったことだし、そう言ってユウナのお腹を抱えた。

「お前は歩いてけ」

 ゴンッ。

「いてーー」

「ああごめんなさいね。痴漢と間違えてしまったわ」

「はあー、お前さっきは、「早く早く」とか言ってたじゃないか」

「それとこれとは違うの。気が変わったわ」

 この女、めんどくさいなぁ。

「お願いします。連れてってください」

 紳士的にキリッとした表情で頼んでみた。

「まぁ、私は優しいから連れてってあげましょう。感謝しなさい」

 この女は結構単純なのかもしれない。だが、そんな風に思ったことを言ったりしたら、殺されるかもしれないから、口が滑っても言わないようにしなきゃな。

 なにがともあれ、これで高柳のところに行ける。

 

 そうやって飛んできて、

「あれ、なんか高柳の他に誰かいるな。なんか話してるように見えるな」

「じゃあバレないように、離れたところに着陸しよう。そしたら、社の中まで歩いていって、様子を見てみましょう。もしかしたら面白いことが聞けるかもしれないからね」

 そうやって、バレずに社の中でこっそり盗み聞きをしていた、と言うわけだ。

「まさかこんな凄い話が聞けるなんてな」

「世界が消えるってやばくない?」

「とにかく俺たちも協力できるように説得してみよう」

「そうね。私たち抜きでやらせてたまるもんですか」

 そんなことがあって、結局二人にこのプロジェクトが早々にバレてしまったのだった。

 

「あなた達、聞いてたのね」

「ああ。社の中でこっそり盗み聞きをしてた」

「面白いことが聞けると思ってね。まさかこんな事が聞けるなんて思わなかったけどね」

 ここにきて正解だったわ、とユウナ。

「なに、私たちなしでそのプロジェクトを進めてくれてるのかな? 私たちにも、その話を通してもらおうかしら」

「このプロジェクトはとても危険なの。もし失敗したら危ないから、出来ればあなた達を巻き込みたくなかったのよ」 

「バレちゃぁしょうがないだろ。こいつらも計画に入れることは出来ないのか?」

「うーん。だけどまぁ、あなた達の力はそこそこあるから、入れてもいいと思うんだけど、……。足手纏いにならないように頑張ってくれる?」

 今更のごとく。

「当然。むしろ活躍しまくっちゃうよ」

「当たり前だ」

 ユウナとかずきは、既に覚悟を決めている。

「よし。じゃあ、これで決定だな」

 高柳が言った。

「では今からプロジェクトの説明をするわ」

 そして来夏は、ピラッっと一枚の紙をポケットから取り出した。

「まずこれをみて欲しいんだけど」

 その紙を見る四人。

「へぇ。なかなか無茶するねえ」

 高柳は、それを見て言った。

 その計画は、とても危険どころか、ものすごく、とても危険であった。

     ・

 翌日。高柳は、予定通り地球防衛軍の基地にやってきた。

「ここが地球防衛軍の基地なのか」

 それなりに頑丈な建物らしく、四階建てである。

「以外と小さいんだな。もっと大きいと思ったんだが」

 もしかしたら、地下室とかあったりするのかな?

「まぁいいか」

 高柳はインターホンみたいなものに話しかけた。

「こんちは。高柳という神です。開けてもらえないですかね?」

「了解。高柳様お入り下さい」

 そう言った人間の言う通りに、一人でその基地に入っていった。 

 入り口から入ってすぐ目の前に、人が立っていた。

「お待ちしておりました。話は来夏様から聞いております」

「そうか。で、今回一緒に戦ってくれるメンバーってのは誰だ?」

 今回高柳がやることは、地球防衛軍のメンバーを連れてくることだ。

「お待ちください。ただ今、呼んで来て参ります」

 そう言って地球防衛軍の隊員は奥の部屋に入っていった。

 それから数分後、奥から人が二人出てきた。

「こんにちは。粥川榛名と申します。あなたが今回、一緒に戦ってくれるメンバーさんですね。よろしくお願いします」

「はじめまして。鳥山崇です。よろしくお願いします」

 結構明るい女性と、クールな男性が出てきた。どちらも二十代と見える。

「こっちこそよろしく。早速だが、計画の内容はわかってるか?」

「二人、共に分かっております」

「分かった。じゃあ、行くか」

「分かりました」

 そう言って高柳は、地面を軽く踏み、術を編んで、その場から自分の神社に移動したのだった。

「ただいま。」

 高柳は、自分の神社に瞬間移動で帰ってきた。全く、なんでも出来るとは、便利な能力である。

「ここは?」

 二人ともあたりを見回している。

「おーい。もう帰ってきたのか」

 来夏がそこに待っていたようだ。

「早速、二人とも予定通りに、所定の位置についてもらうわ」

「了解」

「高柳は例のこと、できる?」

「俺をなめてもらっちゃ困るぜ。任せろ」

「うん。お願いね」

 計画は順調に進んでいる。

     ・

 昨日。

「ねぇ、これなら出来そうでしょ」

 そう言って、来夏は自信満々に紙を見せて言ってくる。

「たしかにこれは成功しそうだが、失敗したらまずいな」

 高柳は不安げな表情を浮かべ言う。

「しょうがない。このプロジェクトはもともと危険なんだから。だけどこれが私に考えられる最善の策なの。」

 彼女が考えたプロジェクトは、こちらがやられて世界が消える可能性も大きかった。

「それ以前に、これじゃあ天下無双神の卵とやらが死んじまうんじゃないのか?」

「それはない。死なせない。彼を説得させる。そして破壊行動をやめてもらう」

「この説得が失敗したら、これをするの。そして、その神には苦しいけど耐えてもらうしかない」

「止めるにはこれしかないの!」

 彼女は念を押すように言った。

「わかった。じゃあ戦いの日は、明日の夜か」

「それぞれよろしくね」

 来夏はそう言った。

 

 そうして戦いの時間は刻々迫ってきて、残り三時間。

「榛名ちゃんと崇くんは順調に進んでる?」

「はい。こちらは順調です。問題ありません」

「了解」

「ユウナちゃんとかっちゃんはどうだい?」

「こっちも順調だ。それより、かっちゃんってのは何?」

 かずきは不思議に思う。

「かっちゃん。こっちの方が呼びやすかったからね。かずきちゃんも良かったけど、かっちゃんの方がにあってるよ」 

「まぁ別にいいが……」

「よーし、じゃあ戦いの時間は刻々迫ってきているから、気を引き締めていこう」

「おーー!」

 

 

 そして運命の時が迫って迫って三分前。

「よーし、じゃあ準備はいいな?」

 高柳は、皆に確認する。

「いつでもいいよ」

「じゃあ、」

 高柳は、地面を強く踏み、術を唱える。

「かきここに、きかくきかか、かけききかけ」

 高柳たちが、そこから消えた。

 彼らは、戦いの場所に行ったのだった。

 

 

 ここは、陸上競技場。

 高柳は、天下無双神にバレずに地球に誘導するように予めしておいたのだ。結果として、彼女はそこに居る。

 高柳は、幼い女の子の前に立っていた。その子は、顔以外肌を見せない服を着ていた。

「おっ、こんちは。天下無双神の卵さん」

 高柳は話しかけるが、その神様は喋らない。

「あれ? いきなり無視ですか? いやぁ、私はあなたと、お話がしたくて参りました」

 この神全然喋らないな。木偶の坊みたいだな。というか、本当に人形みたく小さいな。幼神といったところか。本当にこいつが、俺以上の力を持っているのか?

「あのぉ、起きてる?」

 全然反応しない。これじゃ話にならない。

「仕方ない。じゃあ、」

 と言って、術を唱える。

「かきここき、きかくきかか、かけききかけ」

 そうやって高柳は、幼神を喋らす能力をかけたのだが、

 ピキーーン。

「うち消された?」

 やっぱり、来夏の言った通りだ。無意識にやっている。奴は、動かなかったから。

「あの。頼むから話聞いてくれないかなぁ」

 幼神を喋らす方法が見つからない今、手詰まりだ。

「何故、貴様はここにきた?」

「!」

 急に喋り出した。

「やっと喋ってくれたな。きた理由は、お前と話をつけるためだ。」

「話? 私に、何を話そうとしているのだ?」

 さあ、ここからが勝負。慎重にいかなければならない。

 

「お前、いきなり星とか壊したりしてるんだよな?」

 もしかしたら自分で意識がなく、無意識にやっているかなと言う気もしたため、念のため確認する。

「私は、たしか星を無差別に破壊したことがあったような気がする」

 幼神は、思い出すように言う。

「気がするって、自分でやったこと覚えてないのか?」

「ああ、そうだ。私は詳しく覚えてない。無差別に破壊したからな。なんの目的もなく、なんとなくな」

 幼神の口角が、少し上がったような気がした。

「なんとなくだと?」

「お前もなんとなくイライラした時、物や人に当たったりするだろ。そんな感じだ」 

「お前……。そんな風に思って、星を破壊してんのか。」

 拳を強く握る。こいつは危ない奴だ。

「お前そこの星にいた生物のこと考えたことあるか?」

「いや、考えたことはないな。ただ、我の欲求を満たしてくれれば良いのだから、関係ない」

「お前、とんでもない奴だな」

 高柳にとっては、それ以上だった。目の前に見える映像とのギャップが激しいのもあったが、高柳は、自分の覚悟が弱かったことを恨んだ。

「お前は、自分の欲求のために生物たちを殺したと言うのか?」

「うーん。……まあそうだが、少し違うな。勘違いしてるようだが、確かにお前ら人間は、この我のしたことは、殺しと言うようだが、正確に言うとそうではない」

「何? 星を破壊して、生物も殺したんだ。殺しは殺しだ。残酷な行為だ。特にお前のしたことは特にだ」

「殺しというのは、それほど残酷なものではない」 

「ふざけるな‼︎ お前はおかしい。何を考えている」

「我にも分からない。分からないことだらけである。しかし、これが正しいと思うのだ」

「正しくなんかない。お前の論理は間違っている‼︎」

「いいや、間違っていない。現に我は、ある論理にたどり着いたのだ」

「なんだ? 聞くだけ聞いてやる」

 全く馬鹿馬鹿しい。しかし、これはこれで作戦は進んでいるからよしとしよう。

「お前は何故、私たちがここにいるか分かるか?」

「はっ? 俺たちの生きる意味か?」

 いきなり不思議なことを聞いてきやがる。

「それも聞くつもりだったが、まずは何故、我々がここに居て、生きているのか、その意味をお前に聞きたい」

「そんなの一生かかってもわかんないだろ。人間は生まれつきこの疑問を持っては、一生向き合って、結局解けないでいるんだぜ」

 生まれつき疑問に思うことだ。

「こんなに時間をかけても分からないものが、簡単に分かるわけないだろ」

「そうか。お前はこの疑問は分からなかったのか。ならば、私の答えを言ってやろう」

「どうせまたお前のおかしな論理だろ」

 そんな風に言う高柳を無視して幼神は言った。

「この世界の、宇宙の一員なのだ。例えば、この我の服。これは我が無意識に能力が作ったものだか、この服には原子が含まれているだろう? それと同じように我々もこの宇宙の原子なのだ」

 訳が分からない。

「なんだそんなものか。お前の考えたことは」

 静かに聞いておけば、とてもつまらない話を聞いた気分になった。

「この話のままでいくと、我の殺しは、残酷なままである。もちろん先に話は続いている」

「まだ続くのか」

 いい加減にしてほしい。ただの言い訳にしか聞こえてこない。

「原子はそれ以上になく、もっとも小さいものである。それは分かるな?」

「あぁ。そのくらい分かる」

 イライラしてきた。話が長い。

「つまりだ。もし、原子である我が原子のやつを殺しても、人間には死んだように見えても、本当は死んでないんじゃないのか? 原子は勝手に消えたり増えたりしないからな。さらに、」

「さらに?」

「これは、物などにも言えることである。そして、この原子を生命と考えた。つまりだ。その人は死んでも、その人自身は死なないんだ。ただ、旅立つ手伝いをしただけなんだ」

「だけど、そいつが死ぬ時ってのは苦しいのには変わりはないんだろう?」

「まあ、それはそうだ。そこは我慢してもらって、その対価として旅立つ手伝いをしてあげてる。どう、全然残酷じゃないだろう。むしろボランティアだな」

「人間ってのは、苦しむのが嫌いなんだ。怖いんだ。人にこんなことをすることを何故、ボランティアと言えるのか不思議なくらいだ」

「ふーん。お前には分からないのか?」

「俺が分からないんじゃなくて、お前が必死にこう言う現実から逃げようとしてるからだろ。これじゃ誰も分からないよ」

「ふん。ただお前には分からんだけなのだ。きっと分かる奴がいるさ」 

「どうやら話し合いは出来そうにもないな。なら力づくで」

 高柳は構えた。

「こちらも話し合いより争いたい」

 幼神も、同じように構えた。

 作戦通り動くために、ここで出来るだけ相手の注意を自分に持ってくるように意識しなきゃな。

「妖刀高柳‼︎」

 高柳は、日本刀を転送して持ってきた。

「いくぞ」

「我はいつでも良い。さあこい」

「ずいぶん余裕だな。喰らえ」

 ヅッ

「……? 何だ。何で俺はここにいる? 確か俺はさっき……」

 高柳は、先程喰らえと言った後に、幼神に斬りかかった。そこまではいい。問題はここからだ。

「時間を戻された?」

「そうだが。よくわかったな。なかなか楽しめそうだな」

 おそらく俺が触れる瞬間に、奴の無意識が俺をこうさせたのだろう。斬られる前に戻ったのだ。これは想定内であったが、

「予想はしてたが、相当厄介だな」

 簡単にはいかないか。そう思ってため息をついて、やれやれと思いながら、彼の意識を自分に向けなければならないから、戦いし続けなければならない。

「どっかに隙はある。そこを狙う」

「お前では我に勝てん」

 そしてまた、高柳は幼神に立ち向かった。

 ヅッ

「また戻された。これじゃあ、いつになっても攻撃が当てられない」

 どうすればいい?

「だから無駄と言っただろう。まあただ我もここに立ってお前を見ているだけもつまらないな。少しだけ我もお前を倒す努力をするとするか」

「?」

「何してる。早くこないのか?」

 言われなくても立ち向かうしかないんだよ。そう思った高柳は、能力を使って、瞬時に幼神の目の前に向かって、また幼神に立ち向かうが、

「高柳の斬撃をカウンターせよ」

「!」

 急に幼神が喋った。

「なんだかやばそうだ‼︎」

 そんな危険信号があったが、勢いよく幼神に斬りかかったため、止められなかった。

 ザンッ

 なんだ攻撃当たるじゃないか。

 ……。いや、違う。

「痛。なんだ痛ぇ」

 腹のあたりが痛いし、暖かいような。腹を触ってみると、

「なんだこれは? 俺がやられてるじゃねーか‼︎」

「無様だな」

「なんで俺が? ……。そうか、カウンターか」

「さっき我が言っただろう。相当、今の攻撃が効いたと見える。混乱してるな」

「ふん。確かに、今俺は痛い。しかし。フゥ、よし回復完了」

「ほう、回復したのか」

 高柳は、能力を使い、バレないように回復していたのだ。

「そうだ。時間さえあればな。しかし、」

「我の方が立場も能力も有利であるな」

 その通りだ。

 そろそろ仕掛けるか。

「こんなことしてちゃ、いつまでたっても倒せないな」

「その通りだ。どうする」

「俺の全てをかけて、全力で行くぜ!」

「ほう、楽しみだな」

 よし。これさえ決めれば。

「俺の能力の最大出力。ぐっくくくかーーーっは。よし、いくぞ、準備はいいか?」

 高柳は幼神に聞く。

「私はそんなことしなくてもすぐ力を出せる」

「ずるいなぁ」

 高柳は思わず笑った。

 その場は揺れていた。とてつもない力のぶつかり合いを物語ってるようだ。

「はっ‼︎」

 ドンッ。

 妖刀高柳に、高柳の全ての力がまとう。

「中々面白いな。私も少し本気を出そう」

 そう言って瞬時に力が高まった。それも、高柳よりも強い力が。

「これは、俺の全ての力だぞ。つまり、いくらお前でも油断はできないはずだ」

 高柳は斬りかかる。

「無駄だ」

 ドンッ

「やっぱりな。簡単に防がれちまうな」

 幼神は、高柳の全ての力をまとった刀を、圧縮した空気で作った棒みたいなもので受けとめた。

「ぐっ」

「何もかも私の方が強い。時間の問題だな」

 高柳はニヤリと笑う。

「今だ‼︎」

「何だ?」

「分かってるわよ高柳」

 ユウナは上空から、幼神の空気の棒をバリアによって封じた。

「なんだと!」

「喰らえ幼神!」

 高柳は幼神の隙をつき攻撃を当てようとするが、

「効かぬ‼︎」

「なっ!」

 瞬時に、幼神の周りに盾が出てきた。

「いまよ榛名ちゃん崇くん」

 観客席から姿を現し、幼神目掛けて特殊な銃弾を撃つ。

「……」

 バンバン

「無駄だ」

 また盾が出てくるが、

「ぐはっ。いっ、痛い。何故当たる?」

「これはどんな干渉もされない銃弾だ」

 この弾は、相手の能力を見て、常に相手の近くにいて、オーラを感じ、そのオーラと能力耐性を入れることで作れるものである。一つ作るのにも時間がかかりすぎる。だから、こういった戦いの時に使える。

「なんだと。そんなのがあるのかぁ。ぐっ」

 幼神はぐらつくが、かろうじて立っている。

「はあーーーー‼︎」

 バリン

「何!」

「喰らえ幼神!」

 高柳は日本刀で突きを食らわす。

 グサッ

「ギャッ」

 生々しい音と共に、刀が幼神の腹を貫通した。

「どうだ幼神」

「はぁはぁ、ぐっがっ、はぁはぁ、ぎっ、我がやられるわけがない」

 幼神が消えた。

「空に逃げたか」

「このあたりごと吹き飛ばすか」

 幼神が核爆弾らしき物を出して、

「はぁはぁ、喰らえ」

「させるか。来夏‼︎」

「了解、かっちゃん」

 瞬時に来夏が幼神の背後に移動した。

「いつのまに。何故、人間が空を飛んでる?」

「そのさっき撃った弾の中に細工してワープ出来るようにしたのさ。よっ」

「バビッ」

 蹴られた幼神が、核と落ちてくる。

「消去っと」

 高柳が核を消した。


「あいつタフだな」

 幼神が浮いてる。

「ビッぼびばば。ふっふはははは。我がこんなにやられるのは初めてだぞ。ふん。」

 瞬時に回復した。

「一瞬だけだか、我を焦らせて思考を混乱させたのは褒めるに当たる」

「何を偉そうに言ってやがる。降参して、考えを改める気は無いのか?」

「はっ、馬鹿めそんなことするかぁ。我は怒ってる。貴様らをボランティア精神で、全力で殺してやろう」

「そうか。ならばこちらもやられるわけにはいかないからな。死んでも知らんぜ」

「シャーー」

「早い。くっ」

「今の速さよく避けたな」

「おいおい、そんなことで殺せると思ってんの?」

 ピキ

「そんなに死にたいのか貴様」

 いいだろう。と攻撃を仕掛けるが、どれも避けられて当たらず、

 ピキピキピキ

「うっざい。何故動く? 死にたいんだろ?」

「俺は一度も死にたいなんて言ってないがな。それより大丈夫か?お前の周り」

「⁉︎ しまった」

 地面には術がかけられていた。

「貴様をこれで封印する」

「ぐっ。逃げれないだとぉ」

「これでお前は終わりだ」

「ぐぁーぁぁ」

どうすればいい。必死に幼神は考えた。能力は封印されてて使えない。何ができる? 天下無双の神が負けてたまるか。

 ビシッ ビシッビシッ

「なんだ、封印が壊れてく。奴はもう能力を封印してて使えないはず」

「ぐぁーーばーーー」

 パリーーーン

「フゥ危なかった。」

「お前どうやって封印を解いた?」

「さあ、我にもわからん」

「封印の仕方を間違えたか?」

「まぁ、これでお前らの希望は消えたな」

 ははっ。

 万事休すか。

 ゴロゴロ

「なんだ、空が急に暗く」

「喰らえ。千万ボルト」

 幼神の声と共に、雷が落ちる。

「なっ」

 ズドーーン‼︎

 陸上競技場の真ん中に、大きなクレーターが出来た。

 そこに五人の人影が。

「ありがとうユウナ」

「ええ」

「やはりガードするよな」

 幼神が予想をしていたかのように消える。

「どこに消えた?」

「ここだよ」

「! 背後にいつの、ガッ」

 ビリビリ バタ

 ユウナが電撃によって倒される。早すぎて、全く反応できなかった。

「ユウナ。貴様‼︎」

 高柳は怒った。

「これですぐガード出来ないね」

 幼神が笑った。

 ビリビリ 

「がっ」

「ギャ」

「うっ」

「ヅッ」

「なっ」

 五人一斉にやられた。

「なかなか強かったが、結構呆気なかったな。きゃはは。」

 背後に迫る影。それに気づかない幼神。

 ズドン

「何故お前が立ってる?」

 そこには高柳がいた。

「さっきまでのは俺の分身だ」

 そう。これも作戦で、予め保険として高柳は、自分の分身を作っておいたのだ。

「なんっだと!」

「よくも仲間を、ユウナ、かずき、来夏、崇、榛名お前らの仇は俺が討ってやる」

 怒る高柳。

「ふん。お前には我を倒せない」

 笑う幼神。

「喰らえ。我の力でお前をねじ伏せる」

「確かにお前の方が強いよ。だがな、やらなきゃいけないんだよ。喰らえ‼︎」

 二人の攻撃はぶつかり合い、そこは地獄絵図のようにしか見えない。

「きゃは、我が傷おいの体とて、やっぱり我の方が上だ。死ね高柳」

「ぐっ。負けるかぁーー」

 激しくぶつかり合い続ける。

 しかしこの戦いは、意外な形で終止符を打つ。

「なっーー‼︎」

「なんだ奴の力が急に。これなら勝てる、はっーー」

 ズドーン

「我、が、やられ、るか」

 どさ。

 勝者高柳

 

 空に、一人の人影があった。

「はー。面白いもの見せてもらった。さすがだね高柳。幼神に勝つなんてね。まぁ俺の助けもあったんだけどね」

 空から聞こえる声に耳を傾ける高柳。

「誰だお前?」

「俺か? 俺はハデス。神様でーす」

「ハデスか。聞いたことがあるような気がするな。それよりあんたは、何をしたんだ俺たちに?」 

「幼神の脊髄をぶっ壊してやったんだよ。だから奴は弱くなった。そして多分能力はもう使えない。まぁどうせ死ぬからそんなのどうでもいいんだけどね」

 あははと笑うハデス。

「そうか。あんたそんなひどいことしたのか」

「いや、お前だってさっきまで奴を、天下無双神の卵を殺そうとしてたじゃないか。ただ俺が殺す手伝いをしたってだけで、同じ話だと思うが」

 高柳は言い返せなかった。自分は何をしたのか、何を失ったのか反省した。

「ハデスくん。君、こんなとこにいたのか」

「あっアポロか」

「あれ。なんかここで争いがあったの?」

 アポロは、半壊しかけた陸上競技場を見て、不安な表情をする。

「そうだ。こいつが勝者だ」

「ああ、やっぱり。負傷者は?」

「六人ほどいる」

「じゃあ助けなきゃ」

「無理だね。こいつらは死んでる」

「えっ。また悲しみを」

 何故もっと早く止められなかった。アポロンは反省した。

「常に気を配るようにしよう」

「ただある方法があるがな。まぁ高柳頑張りたまえ。アポロ行くぞ」

「あっ。分かった。ごめんね高柳くん頑張ってね」

 ふっ。彼らは消えた。

 そこには呆然とした高柳だけがあった。高柳は思った。

「身勝手な神だ」

 と。

 

「はっ、みんな死んじゃったんだ」

 しばらく動けない高柳がそこにいた。

「そういえば、なんかあいつら言ってたな」

 ハデスが言った言葉に引っかかった。

「ただある方法がある」と。

 

「あっそうか。自分の能力があったんだった」

 すっかり忘れてしまっていた。

「しかし本当に自分に出来るのだろうか。」 

 やったことがない。自分はいくらなんでも出来ると言っても、死んだら魂はどっかに行ってしまって元の体に戻れないんじゃないのか?

「しかしやるしかない」

 早速高柳はみんなの元に向かった。

 

「だめだ。微かにあったかいが、もう冷たくなってる」

 高柳の心をますます不安にさせ、正気を奪っていく。

「しかしもうやるしかない」

 これだけが頼りなんだ。

「かきここに、きかくきかか、かけききかけ」

「皆を蘇らせよ。はっ」

 淡い黄色の光が彼らを包んでいく。

「うっ‼︎」

 ユウナがゆっくりと目を覚ます。

「ユウナ。大丈夫か」

「あれ。何がどうなったの?」

「今はまだ詳しく話せない。また後で話す。今は、みんなを生き返らせることが先だ」

 そう言って、高柳は皆が生き返っているか、確認しに行く。

「なんとか勝ったみたいだな」

「来夏。大丈夫か?」

 他にもかずき、崇、榛名も起き上がった。

「よかった。みんな生き返った」

「?」

 来夏と高柳を除くみんなハテナを頭の上に浮かべるような顔でいた。

「つまり勝ったってことでいいんだね」

 ユウナが聞く。

「そういうこと」

 高柳は笑う。

「いやー、本当に成功すると思わなかったよ」

 来夏はこうなることを知ってたかのように言った。

「どういうことだ?」

 高柳は不思議そうに言った。

「いや、だって普通死んだら魂はどっかに行ってしまうだろ。だからこの体で生き返ってさらに記憶を失ってないってことは、高柳の力というのもあるけど、みんな魂がここに留まっていたんだなぁって思っただけ」

 高柳はまだイマイチ理解できないようだ。

「つまり、俺たちはどこにもいかずに、高柳の力を信じてここに居たってこと。いや、信じていたというより、高柳という神を分かっていたということだな?」

 かずきが簡単に言ってくれた。

「つまり、みんな俺を信じてここに居たんだ」

 やっと分かった高柳。

「そういうこと」

「みんな俺を信じてくれてありがとう」

 その場の空気は温かくなった。

 はっ、と高柳は思い出す。

「しまった。あいつのことも助けなきゃ」

「あいつ?」

「幼き神の、天下無双神の卵だよ」

「そうだ、まだやり残したことがあったわね。さっさと終わらせよう。そしたらパーティでもやろう」

「そうだなユウナ」

 高柳は、幼神のとこに向かった。

「よしいくぞ!」

 息のない幼神に向かって言う。

「かきここに、きかくきかか、かけききかけ」

 頼む‼︎

「幼神を生き返らせたまえ!」

 生き返ってくれ‼︎

 そして再び淡い黄色の光が幼神を包むが、

「なんだ? 生き返らない」

「何ですって!」

 みんな心配そうな顔で言う。

「何が起きているんだ。何でこいつは生き返らないんだ?」

「こいつは魂が此処にないんだよ。おそらく」

「えっ。どうすればいい来夏?」

「まぁ、高柳の力にも限界があるとは思えにくかったけど。もしかしたら彼女自身がその能力を無効化しているのかも」

「あ。そうか、あいつ無意識に力出せるんだった。魂になっても力はなくならないってか」

「だから一つだけ思いつく策があるんだけど。成功するかわからないけど」

「あるのか来夏。教えてくれ」

「覚悟はあるの?」

 来夏は真剣な顔で聞いた。

「ああ、もちろんだ」

 高柳も真剣な目つきで答えた。

「分かった。じゃあ教えるわね」

      ・

「さっきあなた達がやったことをすればいいのよ」

「さっきやったことって?」

「さっきはみんなでやったけど、今度は一人だから、それは出来ない。だから、自分の能力をぶつける」

「? どう言うことだ?」

「だから、自分の能力を賭けて、相手の能力を壊すの」

「なっ、そんなことできるのか?」

「できるわ。能力も生命という塊からできてるから、生命を相討ちで潰すの」

「よくわかんねぇ」

「まぁそんなことはどうでもいいわ。とにかく、この策ではリスクが大きいのと、」

「それとなんだ?」

「あなた、能力を失うことになるわ」

「能力を失うだと?」

 それは痛い。

「それは幼神も同じことなんだけど。それしか思いつかないわ」

「つまり、それしかあいつを助ける方法がないんだな?」

「そう」

「なら、やってみる価値あんじゃないの」

 高柳は笑った。

「何でこいつは笑ってんの? 自分の力を失うってのに」

 自分だったら嫌なのに。と、来夏。

「こういう人よ、高柳は」

 ユウナはため息つきながら言った。

「まぁ私も知ってたけど、まさか、こんなに馬鹿だとはおもわなかったわ」

 来夏は笑って、安心した表情で言った。

「よーし。じゃ行ってくる」

 高柳はみんなにそう言って。

「かきここに、きかくきかか、かけききかけ」

「幼神の元へ我を連れて行け」

 いってらっしゃい。

 高柳はその場を後にした。

 

「此処は何処だ?我は死んだのか?」

 幼神はとある宇宙を、入れ物を探しにさまよっていた。

 彼女の体は今はないが、薄っすらと透けている体の形だけがある。所謂、魂だ。

「さすがだよ君。まさか死んでも記憶が残っていて、さらに能力も残ってるとはね」

「誰じゃ。我を殺した者か?」

「私は殺してないよ。手伝いをしただけ」

「……」

「申し遅れた。私はハデス。神だよ」

「……」

「あれ、急に喋んなくなっちゃったね。あっ、元はそういうキャラか」

 あははと笑うハデス。

「そういえば、もうそろそろかな」

「……」

「君を殺した人が来るのは」

「何じゃと?」

「じゃあね、僕は邪魔になりそうだから消えるよ」

 そうやって幼神の前からハデスは消えた。

 

「我を殺した者か、誰だったか」

 いくら我がすごくても、記憶は少しずつ消えてしまうようだった。確か……。

 遠くからなんか動く光が、

「なんか飛んでくるな。もしや我を殺した者か?」

 その光は徐々に幼神の元へやってきて、そして今着いた。

「よう。天下無双神の卵。お前を戻しにきた」

 幼神は、思い出した。こいつは高柳だ。

「戻すってどこにだ?」

「もちろんお前の体にだ」

「我はもう戻りたくない」

「何故だ?」

「その体でもう楽しめなくなったからだな。要は、飽きたのだ」

「飽きた? くっ笑わせんな。いや笑えんな。理由が馬鹿らしかったからつい笑っちまったよ」

「何が笑える。我は、神であったのだぞ。神とはそんなものだろ」

「違うね、ぜんっぜん違うね。お前、神の立場ってもんを知らないな」

「だから言ったであろう。さっきのと」

「違うね!馬鹿だ」

 高柳は幼神の声を断ち切って言った。

「本来神って言うもんはモラルがないとダメなんだよ。分かるか? モラル。道徳のないものは神の資格なんてない。強いものは弱いものをいじめるんじゃない。守らないといけないんだよ。しっかしお前ときたら、思いのままに破壊してくしよ」

 幼神は、子供のようである。

「モラル? 道徳? なんだそれは、馬鹿馬鹿しい。弱いものは強いものに従ってれば良いのだ‼︎」

 もう幼神は、ただの子供が言うような主張になってきた。

「そうかそうかそうですか。だがそれでは余計な悲しみを生むんだ。今から元の体に戻って、一緒に償う気はないか?」

「償うか……。それなら我を許してくれるのか。我はそれでお前さんたちと楽しくやってけるのか?」

「ああ。しっかりと償う気があるのなら俺たちは協力するぜ」

「そう、か。ありがとう。我は寂しかったのだ。いつも一人で、生まれた時から一人で、楽しくなかったのだ。だから寂しさのあまり破壊をして楽しんでいたのだ。」

 ポロポロと涙を流しながらなく幼神。

 彼女は天涯孤独だった。その寂しさは、彼女には大き過ぎたのだ。

「そうか、寂しかったんだな。すまないな、同じ神なのに、今まで気づかずに。だが、これからはお前も俺の仲間だ」

 ニッ、と笑う高柳。

「ありがとう」 

「まぁ、今は礼なんかいい。それより早く戻ろうぜ」

「うん」

 そして再び生き返らせる術を唱える高柳。

 能力を互いに失わずに済んで良かったと思った高柳。来夏の予想は、外れたのか? と思ったが、そうではなかった。

「かきここき、きかくきかか、かけききかけ」

 そして生き返る幼神と思いきや、生き返らなかった。

「なんで生き返んないんだ?」

「もしかしたら、我が先程まで行きかえりたくないと思ってたからかもしれぬ。だから元の体が、無意識に拒否しているのかも」

 元の体もそうなのかよ、と思ったが、ここは突っ込まずに抑えた。

「せっかくここまできたのに。これでは……。いやまだ策はある」

「そうか。じゃあそれを」

「いやそれには一つ問題があって、能力を賭けるんだよ」

「つまりはどう言うことじゃ?」

「能力を失うんだよ。どうやら俺たちの能力は生命で出来てるとかどうかでそうらしい」

「なんじゃ、そんなの容易い。我の能力を全て賭ければ問題ない」

「いやそれはさせない。少なくとも少しは俺も賭けてやる」

「いいのか高柳?」

 彼女は、はっとした。自然に彼の名前を呼んでいたのだ。

「ああいいさ。それが仲間だ」

「ふふ。じゃあ行こう高柳」

「ああ、天ちゃん」

 天ちゃんって何だ? 天下無双の天からとったのか? ふふっ、とまた嬉しそうに天ちゃんは笑った。

 

 二人は、互いに戦った陸上競技に戻ってきた。

「おっ、あいつら帰ってきた」

「ただいまみんな」

「お帰り二人とも。今から生き返らせるのね」

 心配そうな声でユウナが言う。

「ああ。心配すんな」

「さあやろう天ちゃん」

「うん」

「いっせーのーせ」

 声を二人で揃えて。

 キィーン

「ぐっ、耐えろ天ちゃん」

「う、うん、大丈夫だ」

 火花を散らしてぶつかり合う力。

「もう少しだ、頑張れ」

 みんな応援してくれてる。天ちゃんは温かい気持ちになった。そして、

 バリィーン。

「よし解けた。じゃあ、あれ能力が上手く使えない」

 能力を半分くらい失って、慣れない高柳。

「大丈夫。我も力を合わせるぞ」 

「ありがとう」

「礼を言うのは我の方だ」

 そうか。はは。そう笑った高柳。

 二人で、力を合わせて術を唱える。

「かきここき、きかくきかか、かけききかけ」

「天ちゃんを蘇らせたまえ」

 淡い黄色の光が、幼神の元の体を包む。そして幼神は生き返った。

「よし。終わった」

「いや……。待って」

 来夏が幼神の体をじっと見ている。

「動かない」

「おい天ちゃん」

 話しかけるが返事はない。しかし意識はあるように見えた。

「どう言うことだ?」

「おそらくそれは脊髄が破壊されていて動けないんだ」

 かずきが言った。

「しまった。体を治すことを忘れてた」

 先にやっておくべきだった。

「おそらく彼は、生きてはいるが、これからはこの生活をしなきゃならない」

「どうにかならないのか?」

 それは、

「ない。治癒の能力がない限りは」

「俺は、元の三分の一しか能力が使えないな」

「そうか。どうすればいい」

 その場はまたズーンと重たい空気になった。あと少しなのに。あと一歩なのに。

「まぁ、また俺が生命をかければいいだけのこと」

 今度こそ能力がなくなるな。

 高柳の異能は完全に消えるのだ。

「高柳。私も賭けるよ」

「ありがとうユウナ」

「高柳すまない。俺たちは何の役にも立てない」

「かずき気にすんな。お前たちはよく頑張ってるよ。ただ、俺が能力を持っているからやるんじゃ無くて、俺がやりたいって思ってるんだ。やらせてくれ」

「そうだよ。神様たちに任せなさい」

 自信満々にユウナは言った。

「さあ、最後のミッションだ」

 準備をする二人。

「待っててね天ちゃん」

「行くよユウナ」

「いつでもいいわよ」

「いっせーのーせ」

 その瞬間、幼神の体を囲うようにしてピンク色のオーラが出た。

「さあ、どうだ天ちゃん?」

 幼神は、みるみる回復していった。

「……あり、が、とう……、二人、とも」

「ありがとうって言ったのかな? 良かった、回復してる」

「本当にありがとう二人とも。それとみなさんも」

「本当によかった。一時はどうなることやらと思った」

 皆、肩をなで下ろす。

「これからは、我の罪を償うため、人々を助けようと思う。みんなは我を、受け入れてくれるか?」

「もちろん」

「ありがとうみんな。そして、これからもよろしくね」

 彼らは、あの天下無双神の卵と呼ばれるものを仲間にしてしまった。おそるべし。

 この後の話なんだが、高柳は、元の能力の四分の一ほどしか使えなくなってしまった。それは、自分の実力の範囲なら使えるらしい。そして有限の制限もついた。

 ユウナはあまり違いがわからないほどらしく、以前と能力はほぼ変わらないらしい。しかし能力を出す制限がかかってしまったらしく、どうやらそれは体力がないと使える回数が減ると言うものだ。最近ユウナは体力づくりに走ってるらしいが、本当かはわからない。

 そして幼神、いや天ちゃんもまた能力が弱くなってしまった。さらに、少し後遺症があるようで、完全には力を使えないらしい。たまに力が出ない時がある。しかし、能力は以前の高柳レベルらしい。まだ全然強い。

 彼らは能力が弱くなってしまったのだが、勢力は衰えない。最強のチームだ。このチームは誰にも負けない。

        

        

 

 

 

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