第2話和多志太高等学校







 場所は和多志太高等学校。

 この学校ではある悪巧みが行われていた。その悪巧みというのは、まぁ、学校でだから高校生がやっているのであろう。しかし、子供たちは大人が驚くような行動をする。決して侮ってはいけない。子供は子供なりに考えているのだ。

 

 和多志太学校の女子二人の間では、ある作戦が行われていた。

 

「楓。こっちは作戦通りよ」

「了解。雛はそのまま作戦通りに続けて」

「うん。わかった。頑張ろうね」 

「そうね。頑張ろう。この作戦は絶対成功させたい。いや、させてみせる」

 彼女二人は心を奮い立たせる。

「見てろよ先生。それに、…。これが私たちだ‼︎」

      ・

 場所が変わって高柳の神社。

 そこには、高柳とかずきがいた。彼らの元に情報が流れ込んできた。正確には、とあるルートで入手したと言うべきだ。かずきが日本全体を調査していたところ、偶然にも、不思議な怪奇現象が起きている学校があることを見つけたのだった。人が消えると言う怪奇現象。それはつい最近から起き始めたものだった。

「なぁ高柳。ある情報を得たんだが知りたいか?」

 かずきは、鳥居の上で逆立ちしている高柳に向かって聞いた。

「とある情報?へぇどうせ暇だし聞かせてくれ。よっと」

 高柳は逆立ちをやめて、鳥居から降りてきた。

 この高柳という神、鳥居の上で逆立ちをして、スリルを楽しむことをするくらい暇であった。

 イマイチ分かりにくい表現かもしれないので、簡単に言うと、

「何もやることないから、命かけてみた」

 的な感じである。絶対に真似しないでね。一切の責任を負いません。神様は時に自分勝手である。

「鳥居の上で逆立ちなんて、なんと罰当たりな」

なんて思うかもしれないが、彼は一応神様だ。

 念のためもう一度だけ言っときます。鳥居の上で逆立ちなんてしないでね。

 と、少し脱線してしまったから、話を戻そう。

「ここ最近、特定の学生や先生から物が盗まれることが多発しているみたいなんだ」

「ふーん。泥棒か?」

 聞くからに泥棒としか思えない。

「いや違うな。この情報を深く読み進めてみると、面白いことが分かったんだ」

「面白いこと?」 

「ある生徒がいじめを受けているらしいんだ」

「泥棒といじめって、関係ないように見えるが」

 いじめられた腹いせに、盗みに働いたのか?いや、もしかしたら、やらされているとかか?

「それが関係あるんだよ。さらに、俺の推理が正しければ、いじめを受けている生徒はとんでもないことしようとしてるんだ」

「とんでもないことか…、もしかして自殺か?」 

 少し心配だ。神様として見過ごせないな。もし、自殺をしようとしているのであれば、止めなければ。

「いいや、違う。その生徒たちがやろうとしているのは……」

 かずきは情報の全てを高柳に話した。

「なんだかとんでもないことしようとしているじゃないか。確かにすごい発想だが、止めてみせる。行ってみようぜかずき」

「ああそうだな。」

「ちょっと待って二人共」

「ユウナ。今来たのか」

 ユウナは息があがっている。どうやら急いで飛んで来たようだった。

「私も連れてって」

「ユウナも知ってたのか」

「さっきまで、とある学校の校庭にいて、はぁはぁ、女の子達が外にいてね、はぁはぁ、何か自殺とか世界をどうとか言ってたのよ」

「やっぱりな。急がないと」

「よく分かんないけど、ヤバイかなって思ったの」

「ユウナ。その予想は的中した。さあ、その学校に行くぞ」

「そうね。今すぐに行きましょう」

 彼ら三人は、急いで和多志太高校に向かった。

 

 和多志太高校はなかなかな校舎である。

「なんだか金持ちの子供が行きそうな学校だな」

 率直に言ってそんな感じの学校だ。

「あっ、こんにちは」

 後ろから、ここの生徒らしき人物が挨拶をしてきた。

「おう」

「こんにちは。偉いねちゃんと挨拶して」

「いえいえ、社会の基本なので、出来て当然ですよ」

 うふふと笑う女子生徒。ここの学校は悪くなさそうだな。そんな印象を与えられた。

「挨拶なんて、今時の若者はあまりしないじゃないの。だから、しっかりできるあなたは凄いよ」

 ユウナは女子生徒を褒める。

「褒めていただいて光栄です」

 本当に礼儀正しい子だなって思う。本当にいじめなんて、この学校にあるのだろうか?

「では、私は部活があるので」

 そう言って、女子生徒は校舎の中に入っていった。

「あまり悪そうな雰囲気でもないな。」

「そうね。思い過ごしだったのかもね」

「そうやって奴らはいじめを隠してきたんだ。なんだかさっきの奴、怪しいと思わなかったのか?」

「うーん?」

「そうかしら?ちゃんと礼儀正しいし、いい子だったわ」

「それが奴らの罠だ。とにかく怪しいから調査をしよう」

 かずきは疑いが晴れないようだった。まあ、そうだな。まだ、生徒一人にしか会ってないんだから。

「かずきがそこまで言うならやろう」

「そうね。念のためね」

「ありがとう。おそらく他にも影で誰かがやっているだろうから、生徒や先生達の行動を調査しよう。」

 そして、和多志太高校の調査は始まった。

 

 現時刻一時。だいたい昼休みの時間であるだろうから、生徒に変装して生徒の話を聞いたりして情報を集め始めることにした。

「なかなか高校生らしいんじゃないか。」

「ちょっと恥ずかしいけど、悪くないわね。」

「おそらくバレるだろうから、高柳、術かけてくれないか。」

「ああそうだな。」

 高柳は地面を軽く踏み、能力を使った。

「あかさたなはまやらわ我の願いをかなえたまえ。はっ」

 なんだかわけわからんことを高柳は言っているが、これは俺のノリである。カッコイイだろ。こんなこと言わなくても発動は出来るけど。

「よしこれで生徒には不審に思われず話しかけられるぜ」

「ありがとう。さあ行こう」

 まず、まとまって弁当を食べている女子グループに話しかけた。

「ねえ。最近いじめってある?」

「ちょっと唐突すぎんじゃない」

 ユウナが小声で言った。確かにまずいか、と高柳は心配になったが、

「いじめねぇ。聞かないわねぇ。ねえ、あんた達は聞いたことあるぅ?」

「いや聞いたことな〜い」

「知らなーい」

 彼女達は気楽そうに答えた。

「だけどぉ、なんでそんなこと聞いたのぉ?」 

 ギクリ。

「ああ。えーと」

 高柳は狼狽した。するとすかさずかずきが、

「先生にバレないようにね調べて来いって頼まれたんだ。最近テレビとかでいじめが目立ってるから。だけど、こいつが直球で聞くんだもんなぁ」

 高柳の頭をグリグリした。

 グリグリしたって、可愛らしく聞こえてしまったかもしれないから補足しよう。高柳はそれによって奇声をあげた。

「ぎゃぁぁぁ。痛い痛いやめろかずき」

 そんな高柳のことを無視してかずきは続けて聞く。

「出来れば俺たちだけの秘密にして欲しいんだけど……」

「あはは、ウケる。分かった分かった、このことは秘密にしてあげる。まさか先生たちがこんなことしてるなんてね……」

 一瞬、彼女の目に悪意が灯ったように見えた。気のせいだろうか?

「じゃあ、よろしくな」

「がんばってねぇ……」

 チッ。舌打ちが聞こえたような気がした。

「…」

 確かに見て聞いた。彼女たちの悪意の目と舌打ちを。

 

 さっきの会話の中で気になったことがいくつかあった。その中でも一番気になることがある。

 彼女たちは皆、どこか暗いオーラを放っているように感じた。そのオーラは人それぞれだが、皆共通してどこか暗かった。そのオーラというのはなんとなくなのだが、何かあると感じた。そんな感じがするのだ。そんな勘は、大抵当たることが多い。

 

「なぁ、いくら俺がピンチを招いて、友達関係を思わせる感じを出すために、ここまで痛みつけるのはないだろ」

「すまん。だけど、こうすることで彼女達は、引いただろ」

「そりゃ引くだろうな。こんな光景見せられたらな」

「だけど、これはちゃんとした作戦であって、こうすることで彼女達は関わろうと思わないだろう」

「まあそうだが」

 高柳は不満そうな顔で言う。

「それにしても、すごいよかずき。とっさにあんな感じに対応出来るなんて」

「いや、そんなことはない。ただ、思いついたことを言っただけだ」

 いや、さっき作戦って言っただろ。高柳はその言葉を言いそうだったが、かろうじて引っ込めることが出来た。

 それがすごいんだよって言いたくなったが、ユウナは抑えた。

 何故二人は何も言わなかったか? それはかずきの顔が本気モードで、真剣な表情だったからだ。邪魔しちゃ悪いと思った。

「それより、さっきの怪しいな。おそらくいじめがある。そして、隠蔽されている」

 先ほどの悪そうな目つきと舌打ちからそう思わせた。

「もう、コソコソ調査するよりも、いじめについて聞いて、相手の顔や行動で見極めるしかないな」

「とにかく、もうちょっと調べてみましょう」

 

 次は、サッカー部が集まったと思われる男子グループに話しかけてみようか。

「なあ、いじめってこの学校にあると思う?」

 話慣れているかのように聞いてみると、

「いやぁー、ないと思うなぁ」

 今、少しだけ目線を逸らした。何かを隠している様子だ。恐らく知っているな。いじめがあることを。

「なぁ、他のみんなもあると思うか?」

「いや、無いと思う」

 みんななんとか誤魔化している雰囲気である中、一人の男子はなんだか違った。そして、その男子は、

「本当はあるんだ。実は僕たち 」

 と言いかけたとき、はっと、目の前の景色が変わった。というか、男子が消えたのだ。急に目の前から。

「なんだ。何が起きた‼︎」

「えっ⁈」

「なんであいつ急に消えたの⁈」

 みんな驚いた表情で固まった。

 まさか、物が盗まれて消えるとかじゃなくて、人が消えるだとは思わなかった。

「かずき。今のどう思う?」

「なんとも言えないが、おそらく、この件と関係あるであろう、例の怪奇現象だろう」

「やっぱりそう考えるのが妥当だな」

「だけどこのままだと、犯人が特定できないわよ。こっちのことがバレているかも」

「そうだな。どうするか」

「下手に高柳の能力を使うのはまずいしな」

 奴らに能力を奪う、利用するなんてやつがいたら厄介だからな。能力を発動する間に隙が多いのが弱点なのだ。

「おそらく近くに奴らがいるだろう。手分けして探そう」

「ああ」

「分かったわ」

 できる限り能力を使わないようにした。

 

 といっても、すぐに見つけられるなんてことは無いわけだからどうしようか、長期戦だなと思う三人。万事休すか。めんどくさいなぁ。そんなことを思い始めた時、かずきは、気を引き締める為に、策を講じる。

「また生徒をあたってみて、その情報を知っているやつがまだいるようなら奴らは動くだろう。いくら高校生でも、必ず見落としていたりする生徒は居るはずだ。それを恐れて、奴らは何処からか俺たちを見ている。見つけ次第能力を使って生徒の口を塞ぐだろう。その時を狙って特定しよう」

 と、かずき。

「分かった。それでいこう」

 二人は、それで良いと言って、また、それぞれ生徒をあたってみることにした。

 しかし、昼休みはもう終わりに差し掛かっていた為、放課後にまた調査をすることにした。

 そして放課後。

 結構時間がかかる作業だった。一時間以上はやった。もしかしたら、三時間はやったのかもしれない。気づけばもう七時過ぎだ。学校には、野球部とサッカー部くらいしか居なかった。さすが運動部だ。ハードな練習だっただろう。しかしこちらも同じく疲れている。もう諦めようかな何て思ったが、念のため運動部の生徒にも聞いた。生徒達には、生徒会の仕事と言った。そしてここでやっと、今までの苦労が恵まれる時が来た。達成感というものがその時湧いてきたが、まだ終わったわけではない。これからなのだと奮い立たせる。

 奴らの情報を知っているやつがいるとわかった瞬間にまた同じように生徒が消えると読んでいたので、あらかじめ質問する前に、ユウナには生徒の手を握ってもらっていた。勿論、ナチュラルな感じでだ(ずっとこの動作をしてきたので、より自然に手を握ることが出来た。意外とユウナは可愛いので、男女共に、触ることを受け入れてくれた。男子は嬉しそうにニヤニヤしたり、女子は、手が綺麗だとか言って)。そしてここで状況が動いた。

 ユウナとその生徒は、突然姿を消した。成功した!

「その瞬間を待ってたんだよ!」

 と、かずきが気合いを入れるように言って、スマホを取り出した。

 あらかじめ三人の体にGPSをつけておき、その人が何処に行ったのかをかずきはスマホで見た。一応高柳もスマホをかずきから渡されていたのだが、スマホというものを使ったことが無かったので、かずきに追跡は任せている。しばらくして、

「どうやら成功したようだ。場所を特定できた」

「何処だ?」

 かずきが言った言葉は、生徒は本来入れないとされていた場所だった。

「屋上だよ」と。

 

 屋上とは、今時の学校では恐らく入れないんじゃないか? まあ、入れる学校もあるだろうが、少なくともここの学校は本来、生徒は立ち入り禁止だった。そんなところに今回の犯人がいる。今思えば、最初っからそこに何かあるな、怪しいなとは思っていたが、入る方法が無かったので、後回しにしていたところだ。

 今は、生徒も減ってきて、先生達はどうやら周りには居なかった。職員室にいるのか、帰ったのか。それとも運動部の顧問なのか。そんなことはいいとして、今ならこっそり屋上に続く階段を登れそうだった。

 屋上へ上るには、一回扉から外に出て、屋上へ続く階段を上らなければいけない。しかも、その扉は鍵がかかっていた。(もし鍵がかかってなければ、生徒達が勝手に屋上に行ってしまうだろう。当たり前だ)

「かずき。鍵かかってて上れないぞ。どうする?」

「俺に任せろ」

 かずきは高柳にそう言って、鍵のかかった扉の前に立つ。

 鍵穴から見て、最近のものではない。クリップとかで鍵を開けられそうだった。

 そう思ったかずきは、ポケットの中にあったクリックを取り出し、かちゃかちゃやり始めた。そして十秒後。

「よし、空いたぞ」

「早!」

「こんなもの、誰だって開けられる。そう考えたら、奴らもこうやって入ったのかもしれないな」

「今度教えてくれよ、鍵の開け方」

「また今度教えてやる。それより行くぞ」

 そして二人は、扉を開け、その先の階段を上っていった。

 

 屋上は殺風景だった。フェンスすらない。下手したら、飛び降り自殺をすることも出来た。

 周りを見たが、目立つものは見当たらない。犯人がいると思ったのだが、誰一人すらいない。ハズレくじを引き当てたような気分になる。なんだかもう帰りたい気分になった。まぁ、帰るわけにはいかないのだが。ユウナも居るし。

「かずき。何も無いが、本当にここか?」

「ああ、間違いない。高柳も見てみろ」

 かずきは高柳に、スマホで確認するよう促す。

 しばらく高柳はスマホをいじったが、やっぱり使い方が分からないらしく、お手上げ状態だった。

「もういい、貸してみろ」

 かずきは高柳からスマホを取ると、サッサッと、操作して

「ほら」

 スマホを高柳に返して、見せると、

「あっ、本当だ」

 ユウナにつけたGPSが、屋上を指していた。

「そして、屋上を拡大して、立体的に見れるようにすると」

 かずきはじぶんのスマホを操作しながら言って、高柳に、そのスマホの画面を見せた。

「ん? これって、ここの真下か? それに、建物中なのか?」

 今の携帯は、そんなことも出来るのか。いや、もしかしたらかずきが凄いから出来たことなのかもしれない。

「まあ、こうだろうとは思ってた。奴らは、下の階と屋上の間の、何もない空間。即ち、壁の中にいる」

「は? 人間って、壁の中に入れたっけ?」

「人間はそんなことはできない。恐らく奴らは、その中に、空間を作ったのだろう」

「つまり、能力者が二人いるってことか」

 人を消すことが可能な能力と、空間を作り出す能力。

 一人が、二つの能力を持っていることもあるが、それは例外であって、普通は一人一つの能力しか持てない。

 もし仮に、それは一つの能力によってやられたことであったとするならば、それ程強い能力をもっているとして、中々苦戦するのかもしれない。能力とは生命だ。能力が強ければ強いほど生命力も上がる。まぁ、どちらにしても油断大敵だ。

「まあ、その可能性が一番高いと言えるな」 

「どうやってそこに入るんだ?」

「恐らく、この辺に扉みたいなのがあると思うんだけど……。あっ、あった。ほら」

 かずきが指を指した地面には、じっと見ないと分からないほど、周りと同化している新しいタイルが敷き詰められていた。そのタイルをどかしてみると、扉らしきものがあった。

「ホントだ。こんなものがあるなんてすごいな」

 恐らくこのタイルも、空間を作るときにと同様に能力を使ったのだろう。

「この先に奴らはいる。ユウナもそこに居るはずだから、急いで助太刀するぞ」

「分かってる。油断はするなよ」

 二人は扉を開け、敵の秘密基地に入っていった。

 

「ここは何処なのだろう?」

 ユウナは男子生徒と一緒に移動してきたのだが、ここが何処なのか分からなかった。なにせ、真っ暗な部屋だったのだから。すぐ前が、全く見えない。

 そしてシーンとしている。

 静寂な空間。

 しばらく考えこんでいたユウナだったが、突然真っ暗な空間に、光が差し込んできた。思わず目の前を覆った。

「あらあら。私としたことが、関係のない人まで連れてきてしまったようね」

「誰?」

 ユウナは聞く。どっかで聞いたことがあるような声だ。逆光なので、相手の顔が見えなかった。

 そこの空間には、よく見たら寝てる人影が結構あった。しかし、その人影たちは、横になって倒れていたため、起きているのはユウナだけだった。

「声で分からない? 一度会っているはずなんだけどね。 とりあえず、私たちが犯人よ」

 分かりそうで分からない。なんだか、ムズムズする気分にさせられた。

 しかしユウナは、そんなことよりも気になったことがあった。

「私たち?」

 犯人は一人ではないと言うことだ。

「そう。私だけじゃない」

 少し俯いて言った。

 私に答えて言ってくれたはずなのに、なんだか自分に言い聞かせるようにも聞こえた。

 ユウナは彼女に質問した。

「ねえ、なんであなた達はこんなことするの?」

「そんなことを言ったって、分かんないでしょ!」

 彼女は強めな口調で言った。

 何か、癇に触ることを言ってしまったのだろうか。

 とりあえずユウナは、言葉を返すことにした。

「話してみれば分かるかもしれないよ」

 そんなこと言ったのが悪かったのだろうか。彼女は、ますます怒ってしまった。

「思ってないこと言うな。みんなそう言って苦笑いとかして逃げるんだ」

 荒々しい声で彼女は言う。

 その顔は泣いているようにも見えた。

「ごめんね」

 思わずユウナは謝った。

「謝んな! 自分が惨めになる」

 しばらく気まずい空気が流れた。

「ねぇ、いじめってどう思う?」

 彼女はそんなことを突然聞いてきた。

 

 結局は、高校生なのだ。それ程強いことは、なかなか無い。恐らく一人では出来ないだろうから、グループで組んでやっているのだろう。

 情報はそれで十分だ。「いじめ」と言う単語で分かった。分からないほど私は鈍感じゃあない。

 初めから彼女二人だけは暗かった。薄々気づいていた。それは、私だけに言えることじゃあない。

 彼女は、最初にあたった女子グループのメンバーの一人であるのだろう。

 そんな予想は、ほとんどマトを射ているのだった。

 

「いじめはしてはいけないものだと思うけど」

 ユウナは思ったことを、正直に言った。

 一息置いて、次の質問が飛んできた。

「ならさ、そのいじめを見つけたら辞めさせるよね」

「そうよね」

「なら、見て見ぬ振りはしないわよね」

「見て見ぬ振り……」

 ユウナは言葉に詰まった。

 彼女の言葉は、まだ続く。

 いじめなんてないと思う人は、ほとんど居ないだろう。どんなところにも有るものだ。

 ユウナは、彼女の話をしばらく聞き、彼女達へのいじめ、学校の内部の状況、大まかに分かってきた。

 グループとして分けるならば、大きく分けて四つ。

 彼女達のいじめを受けている生徒。

 いじめをしている人。

 先生達。

 いじめとは関わりのない生徒だ。

 もっと詳しく聞いていくうちに、驚くことをユウナは知ることとなる。

「先生は見て見ぬ振りをするのかなぁ」

 彼女はどうしようもないような、憂いの表情だった。

 

「私たちはなんでいじめられているのか分からなかった。だって、いじめているリーダーは、私と友達だったのに。最初は、私に何か非があると思ったよ。だけど分からない。何があったのか分からない。急にやってきたんだ

 その時が。

 確か、入学してから一年が経った高二の頃だ。

 昨日までは楽しい高校生活だった。だけど今日は違った。

 昨日まで楽しく話した友達が、いきなりどついてきた。私は、「何?」って聞いた。だけど、「分かるでしょう?」って言った。勿論、私には分からなかった。だけど私は、ふざけてやってるのかな、って思った。だから、明日にはそのノリは終わってるかなと思った。だけど終わらない。次の日も次の日も続いた。そして一週間が経った。まだ終わらなかった。終わるどころか、エスカレートしていった。私をいじめる人が増えていった。まるで、今流行りの遊びみたく。止まらない。一ヶ月、二ヶ月、遂には半年過ぎた。もう限界だった」

 ……。

 ここで彼女の言葉が止まった。

 気づけばそこには彼女は居なかった。

 恐らく彼女の能力で移動したのだろう。

「そんなことがあったなんて。これは、私達が手伝ってあげないといけないな」

 ユウナはそう思い、光のある方へ向かっていく。

 

「おっ、ユウナか?」

「あっ。高柳とかずき」

「良かった。無事のようだな」

 三人は、能力者によって作られた空間の、一番広いところでばったりと出会ったのだった。

「そんなことより、大変なのよ」

「何かあったのか?」

 かずきが聞く。

「うん。さっきまで、犯人と一緒に居たんだけど、重要なことが分かったの」

「重要なこと?」

 高柳とかずきが興味を持って聞いてきた。

「犯人は、いじめの被害者で、いじめの真犯人が居るの。ちなみに犯人は、最初に調査した女子グループの中の二人だった」

「犯人は、そのグループの他に、また別にも居るのか?」

 高柳は確認する。

「う、うん」

 先ほどまで彼女の話を聞いていたユウナには、彼女が嘘をついているようには見えなかった。

「なるほど、そういうことだったか。これは面白くなってきたな。よし、俺たちで今回の事件を解決してみようじゃないか」

 かずきは笑って言った。

 

 とある公園のベンチに、とある生徒がいた。

「いじめって何なんだろうね」

 彼女は自分に自問自答した。

 彼女の名は土俵哀歌。苗字は、力士たちが相撲をするときに使う場所のアレで、哀れむ歌と書いてあいかである。

 哀歌は、自分に自問自答をするのを毎日している。

「いじめは何でやるの?」

「いじめは誰が得をするの?」

 そんなことを毎日自分に問うては同じ答えを言うのだ。

「自分がいじめのリーダーだからでしょう?」

 彼女はいじめのリーダーである。

「本当はこんなことしたくないのに。彼女は友達なのに。何でしなければならないの?」

「いじめのリーダーだからでしょう?」

 哀歌はうんざりした。自分の勇気のなさを。自分の友達を、周りに流されるがままにいじめてしまっている。それが嫌だった。だけど勇気が出ない。

 怖い。

 どうしても足を踏み出せない。どうしても自分を守ろうと、踏み出さずにいる。

「もう嫌なの。こんな自分が嫌い」

 いくらそう思っても、変われない。

「誰か助けて」

 そんなことが起こるはずもない。何故ならみんなも流されているのだ。

 暗黙の了解。

 消えてしまいたい。こんな自分が、こんなリーダーがいなかったら、いじめなんてなくなるんじゃないのか?

「……そんなわけないよなぁ……」

 もう諦めよう。いつか誰かが解決してくれる。こんな自分を殺してくれる。そんな人が来るのを待っていよう。

 彼女は諦めて前を向いて開き直った。

 

「君がリーダーなのかな?」

 哀歌は驚いて、顔を上げた。

 そこには一人の女子高生がいた。

「誰、こんな時間に?」

 哀歌は聞いた。

「私は、あなたたちの問題を解決する者よ」

「問題を解決?」

 ドキッとした。そのことを悟られないように、咄嗟に聞き返した。

「あなた、苦しいんでしょ? それを私達が解決して見せましょう」

「えっ」

 哀歌は自然と涙が溢れてきた。自分でも驚いた。まさか涙を流そうとは思ってもいなかった。

 本当に救世主が来るとは思ってもいなかった。確率は低いと思っていた。だって、先生たちは何もやってくれないから。なのに来た。

 まだ、周りに流されていない生徒がいた。意外と、気づいていないだけでいるのかもしれない。

 ユウナは哀歌を抱きしめながら、

「泣くのはまだ早いわ。あなたも手伝ってもらうわよ」

「手伝う?」

「そう。これはあなたたちの問題なの。私たちも協力はするけど、最終的には、あなたたちで解決してもらう」

「全部やってくれないの?」

「その通り。手助けはする」

「私、疲れてるの。お願いだから全部やって」

「ダメ。それは出来ない。だってあなた、友達をいじめているのよ。それがいつのまにか解決って、虫が良すぎるわよ」

「それはそうだけど……」

「確かに、苦しいのは分からなくはない。だけど、じぶんの力を使わずに、人に解決してもらうってのは違うと思う。あまり言いたくないけど、これはあなたが嫌だって意思表示しなかったから起きたことでもあるのよ。その根本が悪かったら、また起きるわ」

「っ……‼︎」

 哀歌は言い返せない。全く、その通りであるからだ。

 いつだって私は消極的だ。だけど、今回は違った。私がリーダーだ。私は変わったと思った。だけど何かが違った。

 私は自分で意思表示出来ていなかった。ただ、周りに流され続けてリーダーになった。しかも、そのために友達まで売って。全くふざけている。

 もしかしたら私は今からでも変われるんじゃないか? そんな言葉が頭をよぎる。そして、その言葉は自分に語りかける。

「ね。今からでも遅くないよ。確かに相手は許してくれないかもしれない。だけど、謝ろう。変わろう。こんな自分から」

 本当は変わりたかった。だけどきっかけが無かった。だから怖かった。だけど今回は違う。協力してくれる人がいる。

 哀歌はそう思った。そう思っていたら、口が開いていた。

「お願い、協力して。変えたいの自分を」

 哀歌は泣きながらも、精一杯ユウナにお願いした。

「分かった。協力するよ。変えてみせよう」

 ユウナは優しく答えた。

 これが初めの改革だ。


 和多志太高校のとある男の先生は一人、夜の中庭を歩いていた。

 仕事が終わったので帰ろうかなと、校内の駐車場へと向かう途中にふと、中庭を歩きたくなったのである。

「あんた。いじめに気づいてんだろ」

 背後から聞こえる声に、いじめというワードがあったから咄嗟に声が出そうだったが、なんとか堪えることが出来た。

 一息置いて、振り返った。

「なんだ、こんなところで何をしている。早く帰りなさい」

「さっき俺が言った言葉聞いていたか? この学校のいじめに気づいてるんだろ?」

「確かに聞こえたよ。いじめ? 我が校にあるのか?」

「いや、こっちが聞いている。」

「……、いや知らないな」

「嘘つけ、知ってるだろ。調べたんだよ。あんたがどうやら生徒を裏切った先生らしいじゃ無いか」

「‼︎ そ、それは間違いじゃ無いのか?」

 焦りながら言う。

「確かな情報だ。信用できる奴が言っていたからな。それよりあんた、先生に見えねぇなあ」

「なっ。先生だぞ、私は。君も教えたことがあるだろう」

「もし、先生ならさっきの質問に、「それは間違いじゃ無いのか」とか、焦りながら言わないだろう」

「ぐぅ。……なら、」

「なら?」

「どうすれば良かったんだ‼︎」

「真っ先に、いじめの原因を見つけて解決すればいいだろ」

「私は今までそうやってきた。だけどいじめは毎年のように起きる。解決しても、またいじめは起きる。自分がいくら努力しても、この学校、いや、他の学校からもいじめは生まれてくる。無くならないんだよ。どうすればいいか分からない。分かる人なんていない」 

「確かに、いじめは無くならない。どうすればいいかなんて、本当は誰にだって分からない。だけど、先生が諦めたらダメだろ。先生は、生徒を嫌でも支えないと。じゃなきゃ、なんで先生になったんだ? 少なくとも理由の一つくらいあっただろ。最後まで意志を貫けよ‼︎」

「そうやって、なんだって先生に任せる」

「先生。それは違う。生徒もいじめを解決する努力はしている。何も好きでみんなやっているわけじゃあないんだ。ただ、みんなプロセスが分からないんだ。だからそこで先生が全てやるんじゃなくて、生徒ができないところを手助けするんだ。先生も、伊達に生きているわけじゃないんだし。この時こそ、先生のキャリアを役立てるチャンスなんだ」

「……」

「お願いだ。今の生徒に対して、授業をしてくれ。先生として。思いを伝えてくれ」

「……。はぁ。初めてだよ。人にこんなこと言われたの。なんだか気恥ずかしいな生徒にこんなこと言わせるなんて。ありがとう。目が覚めたよ」

「良かった」

「私も大人だ。生徒に教えて育てる先生だ。先生として、できる限りのことは尽くす」

「ありがとう先生。じゃあ、今日は帰って明日に備えるよ」

 そして、帰ろうと歩き出す。

「ちょっと待って。すまないが名前を教えてくれないか? 物忘れが激しいもんで」

「高柳」

 そして彼は去って行った。

 

 同じ日の夜のこと。

和多志太高校の、いじめられているグループ以外の全校生徒の家のポストには、生徒向けの封筒が入れられていた。それにはちゃんとした訳がある。

 ちなみに、その封筒というのは、かずきが住所を調べて、ポストに入れた。

 流石に、一人では間に合わないので、ユウナと高柳が、途中で合流したところで、手伝ってもらった。

 その封筒には、仕掛けがある。必ず、生徒が見れるように、術をかけておいたものだ。

 何故、こんなことをしたのかと言うと、それにはちゃんとした訳がある。それはこの後分かる。

 そして次の日。

 朝のホームルームが終わった頃だった。

「今から見せるのは、本当の私たちだ‼︎」

 いきなり放送が流れた。学校中はざわめく。

 グラララララララララ。

 いきなり地面が揺れ始めた。そして、その揺れは収まった。生徒や先生たちはみんな無事だった。

「何が起こったんだ?」

 みんな不安な表情でいる。

 窓の外から見ても、何も景色は変わらない。いつも通りの景色だ。

「今のは、あなたたちを学校の外へ出られないようにするための揺れです。命に関わることでは無いので安心してください」

 放送はそんなことを言う。

「何のためにそんなことを」

 皆、流されるように放送室の方に向かっていく。

「ちなみに私たちは放送室にはいませんよ。捕まえようって思ったって、あなたたちにはできませんよ」

 煽るように放送は流れる。そして、次の最後の言葉で放送は終わる。

「自分の意思で動かない人形なのだからね」

 少し笑いを込めた言葉で終わった。

 生徒の皆は、怒りはしたが、どこか後ろめたいことがあるような表情だった。

 先生たちは、それを見ていた。

「なぁ。みんなで彼女たちを助けないか?」

 先生は言った。

 生徒のみんなは、最初は黙っていたが、

「俺は協力する」

「私も」

「僕も」

 次々と生徒の中から声が上がり、それはやがて生徒全員へと広がっていった。

 

 密かに、生徒の中に紛れていた高柳は、状況を確認したので、バレないように能力で抜け出して、体育館の屋根裏に戻ってきた。屋根裏は秘密基地にはピッタリだ。

「よし。こっちは予定通りだな。かずき。そっちはどうだ?」

「こっちはそう少しで掴めそうだ」

「そうか。じゃあ、準備体操でもしておくか」

「分かったぞ」

「早いな‼︎」

「急いだからな。事は急を要する」

「ま、そうだな。でどこなんだ。彼女たちは?」

「ここだ」

「いや、いないじゃないか」

「正確には、中じゃなくて外だ」

「外?」

「屋根の上」


「やはりあなた達でしたか。お待ちしていました。正確には、きて欲しくないのですがね」

 グループのリーダー。神谷楓が、出迎えてくれた。

「まあ、そうかもしれないけど、邪魔させてもらうよ」

「まあいいけど。あなたたちに、私たちを止められるかしら?」

「止められるさ。それに助けられる」

「そうは言っても、あなたたち、私たちの能力わからないでしょう。特別に、間近で見せてあげてから、殺す」 

 そう笑って、

「ひなーー‼︎」

 彼女は大声で雛を読んだ。

 そして、ふっと目の前に女子高生が現れた。

「雛参上!」

 どうやら、以前、ユウナと話した彼女、人を消したり移動したりする力を持っている彼女の名前は、ひなと言うらしい。

 彼女が女子グループ四人を連れてきたのだ。

「あんた移動系能力だな」 

 かずきが言った。

「そうだけど。結構便利よ。この能力。例えば」

 雛は、屋根に触れた。そして、三人の足元の屋根は消えた。そこだけ綺麗に。四角に。

 三人は屋根裏に落ちた。あまり高くなかったので、三人は無事に着地することが出来たが、心臓に悪かった。いきなりやらないで欲しい。どんな絶叫マシンだ。

 高柳とユウナは、空を飛べるからいいとしても、かずきは空を飛べないから、危なかった。もし、もっと高さあったら、屋根裏なかったらと考えるとゾッとする。紐なしバンジーかよ。だけど、高柳かユウナがキャッチしたと思うけれど。まあ、今はそんな事はどうでもいい。前を向け。

「どうだ驚いただろ?」

「面白いことしてくれるじゃないの」

 ユウナは、驚いたが、すぐに立て直した。

「雛。遊んでいる場合じゃないよ」

「それもそうね」

 笑った表情から、真剣な顔つきになった。さっきまで、暖かかった空気が冷め、急に緊張が高まった。

 そして、彼女らは声を合わせて言った。

「今こそ私たちの力を見せる時」

 その瞬間、無数の槍が三人の周りを囲うように出現し、三人の元に、一斉に飛んできた。

「任せて」

 ユウナはそう言って、自分たちの周りを囲うように、バリアのドームを張った。

 槍はバリアのドームによって防がれ、ガシャガシャガシャと、音を立てて地面に落ちた。

「ありがとうユウナ。助かった」

 高柳は礼を言う。

「容易い御用。守りは、私の専門範囲だからね」

 ユウナは守護神であるがために、バリアなどの守りの力を使うことが出来る。

「それよりかずき。相手の能力分かった?」

 ユウナが言うと、

「細かいところまでは分からないが、楓の能力。物体を実現させる力なのだろう。そして、さっきの槍の数からして、相当な数を一度に実現させることが出来るのだろう」

 地面に落ちた槍を見ながら言った。恐らく二百はあるんじゃないかと思われる。

 かずきは続けて、

「それに、一度実現したものは無くならないっぽいな」

「かずきって言うの? 君凄いね。大体当たってるよ」

「ふん。それよりいいのか。自分の力をバラすようなことを言って」

「心配無用。弱点さえ分からなければ大丈夫なのさ。それに、弱点を知る前に、あなた達はいなくなっていると思うけどね」

「へぇ、面白いことを言うな。なら、試してやるか」

 高柳は、彼女ら二人の元に走っていく。能力を使っているので、百キロは出ている。本来ならもっと早く移動できるのだが、相手の力を見ようと思っているらしい。と言っても、そんなに距離が無いから(大体二十メートルくらい)、あっという間についてしまうので、対策のしようがない。しかし、予め対策をしているのであれば別である。

 高柳が目の前から消えた。

「何⁉︎」

 本人も驚いたし、ユウナとかずきだって驚いた。それもそのはずで、予めあった分かりにくい落とし穴がそこにあったのだ。

 それに見事にはまってしまった高柳は、そのまま落ちていき、屋根裏ではなく、体育館の中まで落ちたのだった。

「痛ってぇ」

 足から着地したものの、痛いものは痛かった。咄嗟には空を飛べず、着地してしまった。いくら神様でも、高柳とユウナは元人間なのだ。

 そんなこともあり、しばらく動けない高柳。

「大丈夫か、高柳?」

 かずきは予め、色んなことを想定していたが、まさか落とし穴でやられるとは思ってもいなかった。

「ああ、大丈夫だ。足治したらそっちにいく。それまで頑張ってくれ」

「分かった」

「これで一人減った。あいつが一番厄介だったからね。奴が帰って来る前にお前達を倒す」

「言っとくけど、同じ攻撃は通用しないわよ。と言うか、大抵の攻撃は効かないけどね」

 バリアでなんでも守れるから、と。

「分かっているよ。ちゃんと予習はしてきた。いくわよ雛」

「あいよ。楓」

 楓は、ポケットから写真を一枚取り出し、投げた。そして、

「写真現像‼︎」

 そう言い放った言葉は、ヒラヒラ舞う写真に写っているものを、具現化させた。

「‼︎」

 その写真に写っていたのは、蓋つきガラス瓶だった。その写真には、面積かける一万と赤い字で書いてあった。それは何を意味するのかと言うと、

「なんだ。ガラス瓶なんて出して何をする気だ?」

「まあ見てな」

 雛がそう言った。

「……。‼︎ いつの間に?」

「油断した」

 ユウナとかずきはいつの間にやら、ガラス瓶の中に移動させられていた。蓋が閉まっているので閉じ込められた。

「そして」

 雛はまだ何かやっているようだが、何をやっているのかさっぱり分からない。

 そんなことより、早くここから脱出しよう。しかし、ガラス瓶だから硬い。どうやって出るか?

 少し考え込んだかずきだったが、ここでユウナがある異変に気付く。

「んっ? なんか苦しい?」

「そう言えば何か苦しいな」

 勘違いかと思ったが、時間が経つにつれ苦しくなる。

 はっとする。

 この中は、蓋で閉められたガラス瓶の密室だ。何故相手はこんなことをしたのか? 考えれば分かる。

「空気を抜かれてる」

 そう、雛の能力によって、空気をガラス瓶の外に移動させているのだ。

「ぐっ、息が」

 空気が奪われる。バリアでも防ぎきれないものである。

 まずい。意外と息が持たない。

「ユウナ、大丈夫か?」

「大丈夫。だけど急がないと」

「それもそうだな」

 しかし、方法が思いつかない。ここから脱出する方法が。

 このままだと窒息死してしまう。

「意外とあっけないね」

「そうね」

 楓と雛は、笑っている。

 だんだんと意識が朦朧としてきた。このまま死ぬのかと思ったが、神は助けてくれた。

 スパッ。

 ガラス瓶が真っ二つに切れた。日本刀で斬ったと思われる。誰の仕業か。

「待たせてすまないな」

「高柳。遅いんだから」

「高柳。助かった」

 ガラス瓶が真っ二つに斬れた今、二人は無事生還した。

「まぁ、なんだかんだでかっこいいだろ、俺。仲間のピンチを救うなんてさ」

「その話は後でね。今やるべきことをしましょう」

「そうだ高柳。油断はするなよ」

 二人は高柳にお礼は言うものの、ノリが悪いようで。

「まぁ、そうだな。先に終わらせることを終わらせてからにするか。俺の話は」

「ちょっと予定が狂ったわね」

「だけど問題ないわよ楓。あなたの力は計り知れないし、楽勝よ」

「それもそうね。私にはこの力がある限り最も強い、最強よ」

「最強かどうかを試してやるか」

 そう言って構える高柳。今度は油断はしないと言わんばかりの構えだ。同様にユウナも、何かあったらすぐバリアを張れるようにする。

「行くぜ」

 その言葉を言い終わった頃には、既に雛の背後に回っていた。

 それに気づいた雛は背後を向こうとした、その瞬間、

 パン

 高柳の手を叩く音が響いた。

 一瞬怯む雛。

 その瞬間を逃さず、高柳は彼女に催眠術をかけた。

 すぅすぅと、寝息を立てて寝た。

 その間に、楓は写真を一枚現像したようで、そこには二人の楓がいた。

「これは厄介だな」

 一人でも厄介な能力者が、二人に増えたとなるともっとめんどくさい。

「ややこしくなる前に終わりにするか」

 高柳は、自分の手に生命を宿らせた。そしてすぐさま二人の楓の背後に回り込み、両手で二人に触る。

「なっ……、にぃぃ……」

 二人の楓は弱々しく地面に膝を落とす。

 何が起きたか?

 それは彼女の体に新たな生命を宿らせた。簡単に言うと、彼女の中には本来無かった生命を入れて、困らせたのだ。

 能力者は、実に精密機械のようで、少しでも違う生命が入ってくると、能力に支障をきたし、使えなくなる。能力とは、生命の副産物みたいなものである。本来ならば、そんな支障は起きるはずもないのだが、人工的にやるのであれば別だ。今回は、高柳が彼女の体に生命を入れて、困らせ、能力を封じたのだ。

 他にも自然現象である老化がある。。老化は、生命を体から知らぬ間に放出していき、徐々に能力は弱くなっていく。しかし、使えなくなることはなかなか無い。

 なかなか酷いことをしているようにも思えるが、それほど残酷では無い。これは、一日以内でそのほかの生命を取り除くか、このまま慣らしていって、リハビリを続けるかすれば解決するのだ。リハビリを続けていく場合は、もしかしたら、新たな能力に目覚めるのかもしれない。そんな可能性だってあるから、わざとそうする人もいる。

 そんなこんなで、楓にも催眠術をかけ、眠らせた後に、ほかの生命を取り除き、元に戻した。

 呆気なく戦いは終わったが、もし、失敗していたらとんでも無かったのだった。まあ、最終的にはハッピーエンドとまではいかないが、悪く無い形で、戦いは終わったのだった。

 

 戦いは終わったなんて真っ赤な嘘で、ここからが本番なのだ。二人を助けると言うミッション開始である。

「起きたか?」

 楓と雛が目を覚ました其処は、学校の保健室だった。

「あれ、なんでここに居るの私は?」

「さっきまで戦っていたはず。まだ、目的も達成してないのに」

 目的ってなんだっけ?

 二人は忘れかけた目的を思い出そうとする。

 確か……。

「ごめん。私、意気地なしで、勇気なしで。いつもいじめたく無いとか思ってたのにいじめてて。本当に自分が嫌になる。言い訳にしか聞こえないかもしれない。こんな私を許さなくてもいい。」

 泣きながら誤っているのは、元いじめグループのリーダー土俵哀歌だ。

「先生も謝らなくちゃあならない。すまない。言い訳はしない。自分が面倒なんて思って見て見ぬ振りをした。先生としてあるまじき行為だ。決して許されることでは無い」

 生徒のいじめを見て見ぬをした、唯一の先生。

「ごめん」

「ごめんね」

「ごめんなさい」

 そんな声が、生徒たち大勢が言い始めた。

 楓と雛は、しばらく呆然としていたが、やっと状況が飲み込めたようで、

「なるほどね。自分たちの非を認めて、謝りに来たってわけね」

ふぅ、っと 一息置いた。そして、

「決して許さない。絶対に許さない。絶対に忘れないからな。なんて、言う気力も無くなったし、心の傷はこの先も残ったままかもしれないけど、私たちにも非はある。だから一旦許す。だけど約束して。二度といじめはしないで。もししたら、もう許さないからね」

 ワァーーーー。

 歓声が上がった。


「なんとか無事、解決したみたいだな」

「まぁ、いくつかの問題は残ったままだが、残りは自分たちでやるだろう」

「そうね。神様として、見守っておこうかしらね」

「俺は神じゃ無いけどな」

 かずきが言った。

「まぁ、いいじゃない。頭いいんだし。神様みたいなもんでしょ」

「頭脳の神、か」

 それもいいな、と。

 そう言うことにしよう。

 闘神、守護神、頭脳神。

 なかなかいい語呂である。

 まぁ、色々あったが、なんとか終わったのでよしとするか。

「ちょっと待って!」

 三人の背後から声がした。それも二人。見るまでもなく分かった。

「なんだ楓と雛か。どうした?」

 高柳はそう聞いた。そうしたら急に、

「はいこれ」

 何かを手渡された。

「何だこれは?」

「私と雛のラインのI.D.よ。もし、何かあったらここに連絡して。恩返しくらいはしたいから」

「其処までしなくても、」

「あなたたちと一緒にいると楽しいからってのもあるけどね」

 笑いながら二人は言って、

「じゃあね」

 そう言って消えた。

「なかなか面白い女の子たちじゃない」

「全くだ。若い奴はエネルギーに満ち溢れている」

 じじいか。そう突っ込みたくなったかずきだが、そう言えば、見た目によらず、結構歳いってるのかもしれない。神様なんだし。

「高柳は何歳なんだ?」

「年齢か。いくつかなぁ? 確か千歳はいってるのかな? 分からん。覚えてない」

 覚えてないほどか。千歳ってのは本当かもしれない。

 なら、ユウナはどうだ。

「ユウナはなんさグファ」

 殴られた。レディには歳を聞くのは失礼か。ははっ。恐らく結構歳いってるんだろうな。

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