わたし Chapter.6
青い電光石火!
四方八方からの縦横無尽な肉弾特攻!
大気中の陽子に電極干渉し、自在に斥力を生む!
その結果〈
横っ面を矢と殴り抜かれ!
脇腹に雷拳を
その都度、
無論、フェンリルとてサンドバッグに堕ちたわけではない!
巨大な
天災と呼んでも
その巨体から繰り出される一撃一撃は〈
当たれば……の話ではあるが。
空を噛み切り、地盤が陥没する!
相対的な能力差を、ヘルは達観に分析する。
(確かに
ともすれば、どちらが勝者足り得るか──それはヘルの分析眼を
「クソッ! 何なんだ! あの
遠巻きからの戦況把握に、ロキは忌々しさを噛んだ。
「フェンリル!
司令塔と叫ぶ!
それに呼応するかの
「ゥオオオオオーーーーン!」
猛る魔狼!
使用許可が下りた!
奥の手だ!
来るべき〈
それ
だが、こうして許可が下りたのだ!
使えるのならば負ける道理は無い!
フェンリルを起点として掻き集められていく大気!
集束する気流の影響は〈
足首を掴まれたかのような強引な捕縛力!
「空気流動?」
危うくバランスを崩して落下し掛けた。
潮流化した大気では安定した電荷干渉など不可能。
即座に、より緻密な電荷干渉へと微調整する事で、何とか滞空を踏み留まった。
眼下の巨狼を観察に見据える。
「ヤツが目一杯に空気を吸い込んでいるからか……だが、何をする?」
そうした
「グゥオオオオオォォォォォーーーーーーン!」
魔獣が吠えた!
蓄積した空気を一挙に吐き出す大咆哮が〈
しかし脅威だったのは、
「クッ! これは?」
それは吹雪!
フェンリルが発した轟音は、同時に凍てつく
渦巻く
「ムウッ?」
滞空を
これほどの豪風では、大気も不安定に過ぎ去るだけ。
鎮静化していない状態では電荷干渉などさせてはくれない。
つまり
一転した劣勢をロキが
「ヒャーハッハッ! テメェが
ピリピリとした鋭敏な痛覚が〈
降り注ぐ雨粒も、この渦中に巻き込まれれば噛み付く氷刃!
顔面を
脚とて、そうだ!
冷たくも荒々しい魔物の手が鷲掴みに離さない!
その捕縛ダメージが全身の痛覚神経へと伝導してくる!
「このままでは……凍る?」
末路を予見しながらも〈
代わりに彼女の思考が巡らせるのは「
「大気が安定していれば……」
何かしらの反撃手段に転じる事も可能だ。
「このままでは
淡々とした思索に〈
予測すらしていなかった奇襲を受け、軽度の
厚い毛皮が鎧と化して外傷こそ負わなかったが、難敵を隔離していた猛吹雪は止んでしまった。
この好機を逃さずに〈
薄れゆく白に見定めた助っ人は、凛然たる〈
「ブリュド?」
「
わざと怒ってみせるも、ひとまず安堵の吐息に表情を砕けさせる。
「大丈夫でしたか?」
「何故?」
「
「……フッ」
互いに交わす
それで充分だった。
「
腹立たしさを咬み締めるロキ!
邪魔立てに……ではない。
その存在を視認した
「どこまでもオレを邪魔者扱いするかよ……クソジジイィィィーーーーッ!」
憤怒に顔面を握り
指間から覗く目は、
その逆恨みは、より一層助長させるのだ──彼が
「それにしても、よく単身で〈
滞空する〈
「
「規格外ですよ。
「そうか」特に実感も感慨も
ブリュンヒルドは薄い苦笑に首を振る。
「そんなものがあるなら〈
「そうか」
眼下から睨み据えてくる真っ赤な憎悪。
それを正視に返す無抑揚な
ブリュンヒルドが微かな畏縮に呑まれるのに対して、当の〈
恐怖は無い。
地上の巨狼を見定めながら〈
「さて、どうやって倒そうか?」
ヘルが
並の相手なら、とっくに
さりながら、あの巨体が相手では、いまひとつ威力に欠けていた。
かといって、闇雲に足掻いても勝機は無い。
黙考を巡らせる。
ふと意識が傾いたのは、身体を叩き濡らす雨。
仰ぎ見れば、黒雲は稲光を
「ふむ?」
自身の能力と現状況を判断材料と噛み砕き、妙案へと結論着いた!
「ブリュド、少しの時間だけアイツを惹き付けてくれないか?」
「私が?」思い掛けない重責に目を丸くするも──「……何か策があるのですか?」
「うん」
「
「知らない。けど──」強く降り注ぐ天恵を顔面から受け止め、隠れ潜む白き胎動を見据える。「──やってみる価値はある」
「……いいでしょう」
静かに快諾を示し、
「ですが、あまり長くは
信じてみる。
この〈
だからこそ、信じてみる!
──
苛立ちに開かれた
──目障りだ!
獣は憤りに荒れ狂った!
だが、ブリュンヒルドは、反撃の総てを
時に優美に……時に鋭角に!
先刻の〈
ブリュンヒルドの善戦ぶりに好機を確信した〈
矢と突き昇り雷雲へと突入した!
周囲を見渡せば、撹拌する黒波に隠れ泳ぐ光蛇の群!
それを誘き寄せる!
「ハァァァアアアアアッ!」
襲い来る
その全てを吸収蓄積した!
決戦の
体内を駆け巡る高圧電流!
筋肉繊維の隙を道と辿り!
細胞の穴を潜り!
肢体に
それは痛みとも快楽とも解らぬ衝撃だが、常人ならば消し炭と化す事は必至だ。
しかし、体内を
「あのヤロウ? 電気を……雷を喰らいやがっただと!」
信じ難い異能に驚愕するロキ!
「電気を
禍々しい荒神の威風には、ブリュンヒルドでさえも息を呑んだ。
「あれは……あれが
世界を照らし砕く激しい明滅に、ようやくフェンリルも
白い
雷雲を背負う科学産物!
みなぎる電光は先刻までの比ではない!
「フゥゥゥ……」
深い吐気に激しさを鎮めた
帯電した長髪が無重力のように広がり波打つ。
淡く
醜美を彩る左右非対称な心象──美しく──醜く──慈愛に──残酷に────。
その畏怖を誘う異形の風采を前に、さしもの魔獣にも戦慄が芽生え始める。
──何だ? 何なのだ?
理解不能な存在。
まったく異質な存在。
出逢った事の無い存在。
「フェンリル……」静かに発せられた穏やかな呼び掛けに、魔獣の本能がビクリと反応した。「……ごめん」
そして〈
「ォオオオオオォォォォォーーーーーーッ!」
雄叫びに
内在する
真っ向から特攻して来る青き雷弾!
竜頭と化した
しかし、フェンリルとて意地があった!
北欧怪物最強としての意地が!
「グルォォォオオオオオーーーーン!」
咆哮と共に吐き出す凍気!
その勢いは増す!
迫り来る電攻を急速に氷結させていく敵意!
真っ向から浴びる〈
だが──「オオオオオォォォォォーーーーッ!」──猛る電竜は吼え挑んだ!
「おおおぉぉぉーーーーッ! フェンリィィィーーーール!」
渾身に繰り出す雷拳が貫いた!
眼前に牙剥く
「グギャオオオォォォォォーーーーン!」
魔空に木霊する断末魔!
死の酩酊に、よろけ
赤き
咽奥を貫き抜けた〈
「フェンリル……ごめん」
それは、殺めた
天は容赦無く打ち付ける。
濡れた毛皮は毛羽立ちを鎮め、
絶命間近の巨狼からは、もはや攻撃的な意気は
先刻までみなぎらせていた苛烈な敵意は成りを潜め、ただ〝誇り〟だけが虚脱的な
視界の隅で近付いて来る影を察知した。
意識を傾ける。
〈
──トドメを刺すか……いいだろう。それが勝敗の鉄則だ。自然界に
心を渇いた自嘲に染める。
──だが、忘れるな! オレが
しかしながら、間近まで来た〈
「……フェンリル、ごめん」
喉笛を優しく撫で
戸惑いを覚えた。
侮辱にさえ感じた。
答えを模索する。
それが〝博愛〟と呼ばれる事など知らぬままに……。
廻る思索が心安らぐ闇に呑まれるまで……。
尽きた命を前に〈
「……ごめん、フェンリル」
悲しみを噛み締める。
背後に気配を感じた。
ブリュンヒルドだ。
「本当に倒してしまったのですね……あの大魔獣を」
「うん」
振り返らずに返事だけを返した。
ひたすらに獣の
その挙動を見ていると、何故だかブリュンヒルドの胸中も締め付けられた。
「……気にしているのですか? 殺めた事を?」
「うん」
「相手は神敵たる魔狼……
「違う」
「え?」
「死んでいい命は無い」
「そ……それは……」
正論であった。
倫理的には間違いなく。
それが摂理というものだ。
戦争──私闘──日常的な食事に至るまで、
「仕方ないのですよ……
「うん。分かっている」
明日の
マリーの命を守る
サン・ジェルマンを救う
そして、街の人々を守る
自分にとって大切なものを守るには、時として他者を
しかし、それでも──「みんなが仲良く生きられる世界ならば、良かったのにな……」──儚くも寂しい
「…………そう……ですね」
純朴で切実な吐露が、ブリュンヒルドの胸に突き刺さる。
と、突然〈
「どうしました!」
慌てて駆け寄るブリュンヒルド!
狼狽浮かべる
「心配ない。エネルギーを使い過ぎただけ」
「エネルギーを?」
無理も無い。
相手は〈
それを、彼女は単身で倒したのだから。
「立てますか?」
「うん」
ブリュンヒルドに肩を貸されて、よろめき立ち上がった時であった。
「……オイ」
不機嫌な声音に呼び掛けられる。
煙雨に霞む地平を歩き来る人影──
「
すかさず警戒に
フェンリルが復活した以上、その背後に彼がいる可能性は予想していたが……邂逅したのは初めてだ!
が、ロキの関心は彼女に無い。
興味を欠いた
「……よくもオレの息子を
「うん、ごめん」
近付く敵へと謝罪する。
歩みは止まらない。
「実際、フェンリルを仕止める〈怪物〉なんて、いるとは思わなかったぜ……コイツァ〈
「そうか」
その様子を見た
そして、あの笑みが示すのは〝高揚感〟だ。
自分の退屈を紛らわせる
「で?」皮肉めいた
「覚悟?」
「オレ様と事を構える覚悟だよ」
含まれる挑発を許すまいと、
「何を言うのか! そもそもは、キサマ自身が蒔いた災厄ではないか!
「あ? 何で〈
「そ……それは!」
ブリュンヒルドにしても、その矛盾した自己葛藤と訣別できたワケではない。
だがしかし、それでも彼女は、こう
そう、
気高く!
誇りを
「──それは、彼女が親友だからです!」
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