わたし Chapter.2

「マリー? 入ってもいいですか?」

 ブリュンヒルドは、優しいノックから呼び掛ける。

 マリーの部屋の前だ。

 母親に聞けば、あれ・・以来マリーは引きこもるようになったという。

 正直、ブリュンヒルドにしても、腫れ物に触るように気は重い。

(とは言っても、放っておくわけにもいきませんよね。双方・・の事情に精通しているのは、私だけなのですから……)

 ややあって扉が小さく開いた。

 隙間から覗く幼い目が警戒する。

 それは、まるで抗議するかのようにも映った。

「あ、マリー?」

 確認するいとまもあればこそ、次の瞬間には引っ張り込まれる!

 その唐突な展開は、俊敏にして強引!

 さながら、ワニの捕食のごとく!

「ひゃう?」

 珍妙な悲鳴を残して、ブリュンヒルドは為すがままに呑み込まれた……。





「ったく、シケた牢獄だなぁ? オイ?」

「……父上」

 またも来訪した父親ロキに対して、冥女帝ヘルは露骨なうとましさを向けた。

 衛兵たる科学兵士ウィッセンチャフト・ソルダットは居る。

 監視システムも作動している。

 科学牢獄のセキリュティは、以前と変わらず万全であった。

 なればこそ、彼女はいまだに霊子キルリアン牢獄ジェイルの内へと囚われているのだから。

 にもかかわらず、毎回、ロキは自分の庭のように悠々と入り込んでいた。

 衛兵ソルダット達も取り立てて騒ぐ様子が無い。あたかも空気か虫であるかのように無関心のまま立ち尽くすだけだ。

 おそらくロキの神力による仕業で間違いないだろうが、それにしても不可解であった。

 いな、不気味ですらある。

もとより感情はおろか思考すら読めぬ〝不死者アンデッドもどき〟ではあったが、ウォルフガングに対する服従だけは絶対的な支配力であった。しかし、その唯一無二が欠落したとなると、何をよりどころとして見定めていいのかすら判らぬな)

「腑に落ちねぇ……って顔だな?」胸中を見透かしたかのようにロキが揺さぶる。「種明かしをしてやるよ。コイツ等・・・・は、もうすでに俺の手駒なのさ」

「手駒? まさか! 精神支配を?」

精神・・ねえ?」指摘を一笑いっしょうするも否定はしない。「んな上等なモン、最初ハナっから在りはしねぇだろ。脳ミソをいじくられたコイツ等は、ただの人形デクだ」

「……此処へ訪れるたびに、傀儡くぐつ化を繰り返していたのですか?」

「ま、実験・・は済んでいたからな。現状いまのオレじゃ、気張っても一日いちにち二〇体前後の支配が関の山……だが、それを毎日繰り返したら、どうなる? アレから一ヶ月半──約四十五日だ。すでに七〇〇体弱程度は、オレの私兵なんだよ」

(成程。道理で、あの誘いをしておきながらも私を解放せず、日に日に通っていたわけだ)

 つまりは父親ロキにしても時間が欲しかったのだ。

 私兵増産の時間が……。

「ウォルフガング・ゲルハルトには?」

「ハッ! あの石頭が気付くと思うか? テメェの軍隊は絶対忠実・・・・と過信してるヤツだぜ? 傀儡化どころか獅子身中の虫ですら気付きゃしねぇよ!」

 確かに、そうだろう──ヘルは、これまでの観察に納得する。

 ウォルフガングは科学者・独裁者としては卓越した才を発揮するようだが、対人心理的な機微にはうとい傾向がうかがえた。

 おそらくおのれ以外に〝人間・・〟を据えないワンマン体制を実現したがゆえか、同胞はらからが反逆する可能性など考えた事すら無いだろう。

 それを『慢心』と言うのだろうが。

「さて……と、んじゃ此処とオサラバといくか?」

 唐突な宣言に、ヘルが怪訝けげんを返した。

「これから……ですか?」

「ヘッ……名残惜しいかよ?」

「いえ……そうではありませんが……」

 ロキの茶化しに違和感を覚える。

 先の思索通り、ロキが解放を引き延ばしていたのは私兵を増産する目的があればこそ……だ。

 つまりは戦力増強。

 それを切り上げたという事は、充分な勝算が見積れたという事を意味する。

 ともすれば、もしや──?

兄上・・の封印場所が判明したのですか?」

「相変わらず呑み込みが早ぇじゃねえか? ま、知性・・いちゃあ、オマエは兄妹きょうだい随一ずいいちだったからな」

(やはり!)

 危惧を押し殺して噛む。

 災厄の火種は、よこしまなる神の掌中しょうちゅうに収められた。

 だとすれば、また多くの〈生命いのち〉が失われるだろう……。

 苦しみとなげきの果てに……。

 それを考えただけで、彼女ヘルの胸は黒い魔物に握り潰された。

 さりとも、あらがう事など出来はしない。

 彼女は〈〉であり、彼は〈父親・・〉──絶対的な支配者・・・なのだから。

「……して、その場所とは?」

 懸念けねんを噛み殺してたずねた。

 その問い掛けに、ロキは浅く自嘲を浮かべる。

「抑えきれねぇほど高い魔力が溢れ出てんだからよ、そりゃ〈完璧なる軍隊フォルコメン・アルメーコーア〉とやらは研究資源として重宝しただろうぜ? だからこそ、この牢屋みてぇなオカルト科学にも応用出来た。ま、そいつ・・・なのかまでは悟っちゃいねえだろうがな」

「それは如何いかなる意味です?」

 ヘルの疑問を受け、ロキはさらに口角上げた。

「ヘッ……『灯台下暗し』ってヤツだな」





 子供らしい飾り気に彩られた部屋で、ようやくブリュンヒルドはマリーとの対話に腰を落ち着ける事が出来た。

 大きな熊のぬいぐるみを抱えて、ベッドの上へと座り込む女児マリー

 ブリュンヒルドは、その脇へと柔らかく腰掛け、彼女自身から心を開くのを待つ事とした。

 消沈しているのか苛立いらだっているのか──いなあるいは両方か──少女はふてた・・・かのような態度で、フカフカとした熊の頭へと顔をうずめている。

 まるで悲哀にも映る表情は、年齢とし相応にはそぐわない。

 感情を持て余しているのは明白だ。

(無理もありません。悠久の時間ときを生きる戦乙女ヴァルキューレの私ですら困惑する異常な状況なのですから……。してや、年端もいかぬ子供では尚更でしょうね)

 気遣きづかうれう想いをいだ最中さなか、ややあってマリーの方からくちを開いた。

「……お姉ちゃんは──」

「え?」

「──お姉ちゃんは、元気?」

 ちからを落とした抑揚……。

 困惑の中で、やっとの事で紡ぎ出したのだろう。

 だから、穏和な物腰で諭すように導く。

「気になりますか?」

 しかし、女児はかたくなに首を振る。

「……本当は、会いたいのではないのですか?」

 一層激しく首を振った。

 ぬいぐるみの頭に深く顔をうずめて……。

(この恐怖を何とか払拭ふっしょくしなければいけませんね。そうしなければ救われない……マリーも……あの〈〉も…………)

 後悔はさせたくない。

 おのれが体験したような想いは……。

「マリー? 聞いて下さい……確かに、あの人・・・は恐るべき異能ちからを持っています。そして、それを発現して、一人ひとり残らず敵を葬りました。ですが、それは本意では無かったはずです。本当は、そんな忌まわしい能力など知られたくなかった……こうなる事が分かっていたから。ですが、彼女・・は迷いなく振るった。何故だと思います?」

 幼女の反応は無い。

 頭をうずめて丸まっているだけだ。

 それでも構わずブリュンヒルドは続ける。

 率直な誠実さが無垢な童心にみ入るのを信じて。

貴女あなたが大切な友達・・だから──自分を犠牲にしても守りたい存在だからです」

「……わかってる……」

 消沈がつぶやいた。

「黙っていれば、み嫌われる事もなかったでしょう。変わらぬ関係でいられたでしょう。それでも貴女を選んだ・・・・・・のです。それほどまでに、大切な友達・・だから……」

「わかってるよ! そんなこと!」

 こらえきれない激情に染まり、癇癪かんしゃくが顔を上げる!

 哀しくうるむ瞳を向けて!

「お姉ちゃん、優しい人だもん! いつも自分のことなんか構わないで、わたしのことばかり! わたしの……こと……ばかり…………」

 限界だった。

 鬱積うっせきした吐露が、琴線きんせんを断つ。

 だから、ふくよかな頬を熱いものが伝った。

 感情を懸命にこらえて泣き濡れる顔を、ぐしぐしと小さな握りこぶしぬぐう。

「……余程、会いたいのですね」

「そうよ! 会いたいわよ! 会いたいの! でも、怖いの!」

「でしたら、会いに行きましょう? 私と一緒に……」

「ダメよ! もう無理なの! あんなお姉ちゃんを見ちゃったら、わたし……わたし……もう昔みたいに見れないもの! 大好きなのに、怖いの! 怖くて怖くて、しかたないの!」

 会いたくとも、会うのが怖い──。

 会って真実を確かめるのが怖くて仕方ない──。

 さりとも、会いたい想いはつのる────。

 相反する感情に苦しめられるも、それは何一つ矛盾していない。

 だが、だからこそ、ブリュンヒルドの語気は強くなるのだ!

「そこまで〝会いたい〟という気持ちが強いなら会うべきです! でなければ、貴女あなたは一生後悔する!」

「ブリュド?」

 唐突に声を張った叱咤に、マリーが目を丸くする。

 呆気に捕らわれて驚く女児の視線に、ブリュンヒルドは感情を鎮めた。

 おのれの未熟さをたしなめるかのような一息の後、戦乙女ヴァルキューレは穏やかな口調で語り聞かせる。

「……少し、昔噺おとぎばなしをしましょうか」




 かつて神話の時代、人間界には見目麗しき姫君がいた。

 ブズリ王の娘である。

「ねえ、シグルズ?」

 萌える丘陵で共にくつろぐ中、王女は隣で寝そべる想い人へとい掛けた。

「ん? 何だ?」

 腕組みを枕に横臥する青年は、おおらかな物臭に応える。

 精悍でたくましくも、繊細さを感受させる美形だ。

 彼こそが北欧神話に名を馳せた英雄〝戦士の王シグルズ〟であった。愛用の〈魔剣グラム〉によって〈悪竜ファブニル〉を退治し、その黄金を掌中に収めた竜殺しの英雄ドラゴンスレイヤー──その武勇を知らぬ者などいない。

「その……あの……婚姻の事……なんだけど……」恥じらいに紅潮しながら、モジモジと指を絡ませ遊んだ。「その……そのね? すぐでなくても、いいんだけど……その……そろそろ……」

「するよ」

「……え?」

 あまりに自然体な返答に少々意表を突かれる。

「俺はお前と結婚する」

 いつの間にやら彼は、片肘枕でこちらへ向き直っていた。その気負わぬも迷いなき正視が何だか恥ずかしく、王女はますます赤面して顔をらしてしまう。

「も……もう! 茶化さないで! 私は真剣に……」

「茶化してなんかいないさ。俺はお前が好きだったんだからな……ずっと前から」

「え? そ……そそそ……そんなの聞いた事も……」

「あははは……赤くなってやがんの」

「もう! 茶化さないでってば!」

「俺だって本気さ」

 屈託なく彼は笑った。

 込み上げてくる至福。

 いつからだろう。

 この幼馴染みひとを〝異性〟として意識し始めたのは……。

 と、彼は両手広げの仰臥に青空を眺め、穏やかな抑揚に申し出た。

「ただ、もう少しだけ待っていてほしい……最後にやるべき事を終えるまで」

「え?」

 胸中をよぎる不安。

 彼の指す事柄が、を意味するのか──彼女は察していたから。

 ブズリ王家と冷戦状態が続くギューキ王家の事だ。

 何かの火種があれば、両王家は戦争へと突入するだろう。

 その関係悪化を払拭すべく、彼は〝和平の使者〟を買って出たのだった。



 愛しきシグルズが旅立って、幾日が過ぎたのであろうか?

 来る日も来る日も凱旋を待ち焦がれた。

 だがしかし、彼女の下へ訪れたのは、到底信じがたい情報であった。

「嘘よ! 嘘! 嘘!」

 ベッドへと泣き崩れる。

『ギューキ王女〝グズルーン〟とシグルズの婚姻』──それが彼女にもたらされた現実だ。

「何故? 何故なの? シグルズ……」

 深く愛し合っていた。

 永劫のちぎりだと思っていた。

 神々でさえ引き裂く事が叶わぬ愛だと……。

 それなのに、どうして心変わりをしたのか──分からない。

 いくら考えても分からない。

 いな、考える事すら拒絶した。

 あまりにも残酷な傷心に……。

「会いたい……会いたいよ……シグルズ」

 狂おしいほどの情熱が暴れる。

 いますぐにでも城を飛び出したい!

 総てを投げ捨ててでも、愛しいひともとへと駆けつけたい!

 真相を確めたかった。

 彼のくちから、本当の事を聞きたかった。

 ……そうではない。

 否定して欲しかったのだ──いつもと変わらぬ笑顔で「お前以外になびくものかよ」と。

「……だけど……もしも……」

 胸中を不安が支配していく。

 怖い。

 会うのが怖い。

 この情報が真実だとしたら?

 いままでの愛がいつわりの仮面だとしたら?

 その時、自分は正気でいられるだろうか……。

 永遠の名に育んだ愛が幻想と消え、果てぬ憤怒に呑まれるのではないだろうか?

 血塗られた剣をたずえて放心にたたずむ自分と、その足下に転がる恋人シグルズの亡骸──ドス黒い狂気ビジョンによる想像イメージが心を浸食し、おぞましい寒気を誘う。

 だから……泣き濡れるしかなかった。

 泣いても泣いても枯れぬ涙に、王女は泣き濡れるしかなかった。

 恋火れんかを殺しくすまで……。

 その心が死に果てるまで…………。



 おのれの心を核と封じて、氷の感情をまとった。 

 もはや笑う事すら忘却にてた。

 だから、王女は政略結婚すら拒まない。

 相手がギューキ王家第一王子〝グンナル〟というのは、何とも皮肉な話だが……。

 よりにもよって、恋敵グズルーンの兄だ。

 さりとも、それすらどうでもいい。

 城郭から眼下を眺め、王女は冷ややかに思う。

(……安っぽい)

 高々と燃え盛る炎の壁。

 それを物ともせずに飛び込み、グンナルは王女への求愛の強さを示すというのだ。

(……安っぽいパフォーマンス)

 如何いかなる勇猛さを誇示しようとも、彼女の心が感銘するはずもない。

 遠き日に──愛しい人との思い出に──総てを投棄したのだから。

 はたして、グンナルはそれ・・した。

 これで父王ブズリの信頼は絶大なものとなったであろう。

 後は『婚礼の儀式』という消化作業に望むだけだ。



「それでは……それでは、あの時・・・貴方あなたは……シグルズだったというのですか!」

 グンナルがくちすべらせた真相に、王女は愕然とする!

 くだんの火炎くぐりをおこなったのは、グンナルと入れ代わったシグルズであった!

 のみならず、それを発案したのも、義兄を気遣ったシグルズだというではないか!

「そこまで……そこまでして、私を捨て去りたいのですか! シグルズ!」

 心の氷が一瞬にして溶かされる!

 情念の炎によって!

 さりながら、それ・・恋火れんかの再燃にあらず!

 転じた憎悪!

 あれほど愛した想い人は、胸の内で憎しみの対象と化けた!

「シグ……ルズ……シグルズ……シグルズ! シグルゥゥゥーーーーズ!」

 滲む視界を睨み据え、王女は呪詛を叫ぶ!

 狂ったかのように……。

 おのが愛をズタズタに引き裂くかのように…………。



 総てを失った。

 事の真相を知ったのは、焦がれた想い人シグルズあやめた後である。

 ギューキ女王〝グリームヒルド〟は魔術に長けた人物であった。

 如何いかにシグルズが武勇にひいでていたとはいえ、狡猾な姦計かんけいの前には赤子同然だったのであろう。

 彼は魔術によって過去を忘却させられ、グズルーンへの〈魅了チャーム〉を植え付けられてしまったのだ。

「嗚呼、シグルズ……シグルズ……」

 王女は、ひたすらに慟哭どうこくした。


 何故、彼を信じられなかったのであろう?


 何故、狂恋きょうれんなどに溺れてしまったのであろう?


 そもそも、彼に会って確かめていれば、事無きを得ていたのではあるまいか?


 たったそれだけ──それだけの勇気で、残酷なる歯車は狂ったのではないだろうか?


「シグルズ……シグルズ……!」

 悔いても悔いてもなげきは尽きぬ。

 彼は〈神界ヴァルハラ〉へと導かれるだろう。

 二度と還らぬ。

(ならば、私も……)

 天を仰ぎ、嘆願を吠えた!

「偉大なる主神オーディンよ! 何卒なにとぞたましいを迎え入れて下さい! 貴方あなたつかえる〈戦乙女ヴァルキューレ〉として! 彼と同じ世界・・・・に身を置けるのであれば、果てぬ戦いの宿業さえも受け入れましょう!」

 そして、王女はみずからを貫いた。

 愛しい人の忘れ形見〈魔剣グラム〉を用いて……。

 いろどる赤は、残酷で、美しく、はかなかった…………。




 壮絶な物語ロマンスに、マリーは言葉も無く聞き入っていた。

 一方でブリュンヒルドには高揚する様子もなく、思いの外に涼しい。

 その表情は、寂しそうなうれいにあったが……。

 ややあって深い呼吸をすると、彼女は普段の沈着さへと立ち返り正視に告げた。

「いいですか、マリー? 大事な人に『会いたい』という想いが強いのなら、絶対に会うべきなんです。おのれいつわった我慢など〝永遠に続く闇の森〟も同然。その果てに、どうして光明があります? 例え、どんな結論が待っていようとも御会いなさい。自分自身が深く後悔しないためにも」

「う……ん、でも……」

 渋った態度に躊躇ちゅうちょを示す。

 けれど、ブリュンヒルドが伝えたい事は、しっかりと直視してくれた。それだけは確かだ。

 現状いまは、それでもいい。

 どうせ即決させるには無理な話だ──してや、幼児おさなごならば。

「その気になったら言って下さい。私は、いつでも付き添います」

 心静かに立ち去ろうと、ブリュンヒルドは腰を上げる。

 と、マリーが慌てて後ろ髪を引いた。

「あ! ブリュド、待って!」

「どうしました?」

「そ……その後は? どうなっちゃったの?」

 強い関心に問う。

 語り部は柔らかい微笑びしょうに答えた。

「皆、滅びました……悲恋の運命に巻き込まれたかのように。グンナルと弟のヘグニは王女の兄であるアトリ王の報復によって殺され、今度は妹のグズルーンがアトリ王に復讐を──」

「ううん! ちがうの!」

「──え?」

「王女様は? シグルズに会えたの?」

 思い掛けない質問に驚く。

 子供の視点というものは、どうやらとことんまっすぐらしい。

「……会えるはずですよ、いつかは」

 悲恋の王女は、柔和な微笑ほほえみにさとした。

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