ともだち Chapter.8
先代領主〈
その
背高くも細身な肢体は、冥界属性も頷けるほど霊的に色白い。
常に
自然摂理に反した〈
「科学……か」
重金属で囲われた房で
四方5メートル弱の閑散とした部屋だ。
取り囲む鉄壁は無表情で、
「
石工知識に
室内を見渡すも、在るのは
「確かに鉄尽くしの牢獄は、
虚しく自嘲を
総ての〈怪物〉に適応される法則ではないが、民間伝承的に〈魔〉は〈鉄〉に弱いと伝えられる。
殊に〈悪魔〉は、そうだ。
欧州圏に
そもそも、この退魔法則は『キリスト教』によってもたらされた。
そして『キリスト教』が定義する〈悪魔〉には、土着神属も含まれている──〈
「なればこそ〈北欧神〉の一角を
ヘルは
奥まった暗がりまで見通しよく通路が延びている。
にも
無駄だからだ。
幾度となく試した。
半歩近付くと、まるで
「
確かに
しかし、不可視なる障壁が、
「魔術結界にも似た強力な
「ほう? 少しは学習したようだな?」
不意に反響した声に、彼女は鎮静化していた警戒心を
反響する硬い靴音は、やはり
「……ウォルフガング・ゲルハルト!」
押し殺す歯噛みに
二名の
「逃亡は不可能。貴様の能力も封じてある。かつては、この地に領主として君臨した〈冥女帝〉も堕ちたものだな」
「……ならば、
静かに込める
しかしウォルフガングは、それさえも絶対的優位に
「フン、貴様に生死の選択権は無い! それは
兵士が差し出したのは、
それをヘルに見せ、ウォルフガングは
「
ヘルは
電光を
だが、全身を刻む
少なくとも〝人間〟でない事は明らかだった。
何よりも──これは〈冥女帝〉たるヘルだからこそ看破出来るのであるが──〝
初めて見る〈怪物〉であった。
「知っているか?」
ウォルフガングが、強く
「……いいや」
ヘルは
「嘘ではなかろうな?」
「つく意味が無い」
背後の兵士へと黙視で確認を
ややあってから、兵士は無言の頷きで肯定した。
心拍数──発汗成分──瞳孔の動き──微々たる表情の変化────どれひとつ取っても、計測データからは『嘘』の要素は検出されない。
「フン、無駄足か……まあ、いい」
「待て、その者が何だというのだ?」
「貴様が知る必要は無い」
語気に押し殺した
それを感受して、虜囚は含み笑った。
「ク……フフフフフ…………」
「何だ? 何が
「さては、貴様に
「何だと!」
ギョロリとした
「図星か」
「黙れ!」
拘束の際に課せられた〝機械の腕輪〟から激しい電流がほとばしる!
不可視の
「うあぁぁぁーーーーっ!」
「たかだか神話時代の偶像
懲罰だ!
独裁者による独裁者の
「ハァ……ハァ……」
「いいか! 貴様を生かしてあるのは、まだ
「ハァ……ハァ……フフフ……ウォルフガングよ、ひとつ警告しておいてやろう。
「貴様ァァァッ!」
「うあああぁぁぁーーーーっ!」
ウォルフガングの憤怒が電罰へと憑依する!
それまでよりも増した電圧だ!
だが、鋭く
「ハァ……ハァ……ハァ…………」
ウォルフガングが去ってから、ややあって電刑は
苦しみ
(それにしても、あの女怪は何者だ? 容姿こそ〝人間〟に酷似していたが……その残酷なほど
人間でもなければ、怪物でもない……。
あまりにも不確定で未知な
(
人智
既存知識で理解出来ぬ不可解な存在こそが〈怪物〉────。
なれば、あの〈
「よお、久しぶりだな……
不意に男の声が聞こえた。
固い涼気が反響させる声質は、
聞き覚えのある声に、ヘルは顔を上げた。
通路の奥まった暗がりから、コツリコツリと靴音が近付いて来る。
やがて浮かび上がった姿は、若くも粗野な印象の男──。
「……父上」
久しい再会に実の娘が向けた目は、しかし喜んではいない。
「ヒャーッハッハッ! 〈冥女帝〉とも呼ばれたオマエが、ずいぶんとゴキゲンなトコへ住んでるじゃねぇか? ええ?」
後ろへと流した蒼い長髪を
その品性無き挙動は
「……
「ハッ! ダークエーテルが
「
天井を仰ぐ
「それで? 私に
「……出してやろうか?」
「何ですと?」
「だからよぉ、出してやるって言ってんだよ」
懐から取り出した
「対価は何です?」
「ほう? 呑み込みが早いじゃねぇか?」
「
「ヘッ……実の娘のクセに、寂しい事言うねぇ?」
空々しく
紫煙越しに覗く瞳は〝情〟ではなく〝交渉〟だ。
「オマエの
「
「……〝
「ッ!」
「
「オイオイ?
だからこそ、
「やはり
「あん?」
静かなる不快感に、
「〈
ロキは
「ったく、女ってのはベラベラと
「では、目的は何です?」
「楽しいからだよ! モラルも信仰も破綻した混沌が楽しいからだ! 希望もクソも無いままくたばる人間共──そいつを
狂喜染みた高笑いに溺れる!
これが
さりとも、その忌むべき
彼女にしてみれば
本来ならば、彼女とて
しかしながら〈冥女帝〉という立場が、彼女の心情に強い変化をもたらしていた。
実の
「……私は〈冥女帝〉として、数えきれぬほどの〝魂〟と接してきました」
「あん?」
静かに紡ぎ出された娘の吐露に、ロキの陶酔が妨げられる。
「その
「何だってんだ? 唐突によぉ?」
「それは〝生きる事〟です! たったひとつしかない
「……で?」
「私は……〈
謁見の中断とばかりに黒髪のベールが揺れる──その気高き背中に、
「テメェの意見なんざ
ロキが吠えた!
腹の底から絞り出すかのような憤怒で!
「
「……ち……父上?」
烈火の如く
ロキが内包した激しい気性を
神々すら
その彼が
驚くなという方が無理であろう。
「ハァハァ……ハァ……判ったな!」
(
湧き出るのは、悲しくも
(──あの〝ウォルフガング・ゲルハルト〟と)
それは、人知れず覚悟に定める〝心の決別〟でもあった。
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