ともだち Chapter.6
「ハァァァーーッ!」
そのまま体重を乗せたショルダータックルに
機能停止を確認する
ただでさえ即興的な対応力に劣る槍攻撃では、
剣に比べて破壊力と間合いに有利な反面、小回りに
だからこそ、使い手の鋭敏さが問われた!
「ハアッ!」
勇壮
暴走していようが、していまいが、関係無い!
彼女にとっては、等しく排除すべき害悪だ!
暴走兵の発砲をブリュンヒルドが跳躍で
意図せずして、
しかしながらブリュンヒルドの真なる凄さは、これだけの戦況にありながらも一般市民を
「何をしているのです! 早く御逃げなさい!」
慄然と固まる街人を
その間にも流れ弾が人々に当たらぬように配慮し、わざと空いている場所を足場と選んでいた。
言い換えるなら、彼女自身が
「クソッ! また、あの
装甲車輌の助手席から上半身を乗り出し、前方に生じた戦闘を忌々しく睨み据えるウォルフガング!
前線状況のリアルタイム映像は、正常起動している
「コード
「市街地での
広範囲放電攻撃を使用すれば、一般市民を無差別に巻き込んでしまうのは必至。
とはいえ別段、彼等の命を重んじたわけではない。
そんなものは
彼が危惧するところは、
そんな事態になれば、これまで着々と進めてきた
「……此処は
腹立たしい決断も視野に入れる。
自軍さえ
勝者は見えているが……。
(どうやら街の人達は全員逃げたようですね……ならば!)
此処よりは反撃の
ブリュンヒルドが、そう決断した矢先であった──「ブリュドーー!」──脇道から飛び出してきた幼女の声に、
「マリー? どうして?」
不覚にも一瞬見せた挙動は、戦況観察に集中するウォルフガングの目にも
「子供? 知り合いか?」
鼻頭を指でトントンと叩きながら思索し──狡猾な策謀者はニィと邪笑を浮かべる!
思い掛けない
「マリー! 何故戻って来たのです!」
「だ……だって!」
さりながら、その瞳は自分を曲げようとはしない。
「
「子供みたいな事を!」
風穴を
「子供だもん!」
負けじと正論が反抗した!
「
振り返り様の遠心力を加味して
「だって……だって……」泣きたくなる感情をグッと
「だって、ブリュドを
「……マリー?」
不意討ちの銃弾を
高々と宙を背面飛びする中で、
まったく予想打にしていなかった返答に……。
(適当な言い訳を!)
この子は──マリーは、
まっすぐな子供だ。
──来たから、どうなるというのだ?
──戦力になるとでも考えているのか?
(……まったく、これだから子供という者は……戦場に
神話の時代より
どれだけの
どれだけの
常に
だから、戦いへと臨む心には、いつしか荒涼たる風が
(なのに、この感覚は何だというのだ?)
戦場には場違いな想い。
命取りにすら
振り払いたくない。
戦意と感情の矛盾に自分を持て余す。
その時、ガチャリと鳴った金属音が、ブリュンヒルドを戦いの現実へと呼び戻した!
拳の銃口を一斉に向ける
その標的は──マリー!
「な……何ッ?」
滞空の間に戦況が一変した!
「ぁ……ぁ……」
戦慄に支配され、
足がガクガクと震えて
立っているのも、やっとの事だ。
自分に対して一身に向けられる拳は、それだけで充分な暴力の威圧だった。
「……ぃ……ぃゃ……」
か細い
街を守ってくれていた〝
まったく理解できない!
ただひとつだけ理解したのは、迫り来る〝死〟への恐怖だけ!
「……ぃゃ……ぃゃ……いや……いや!」
理不尽さへの抵抗が鮮明な自覚になっていく。
それは
「たすけて!
「マリー!」
ブリュンヒルドは駆け出す!
着地と同時に!
その屈伸を瞬発力へと転じて!
我が身を盾に幼女の前に立ちはだかった瞬間──そう、それこそがウォルフガングが意図した瞬間だ──
「な……何? こ……これは!」
発砲ではない!
無数の鎖が彼女の身体へと絡み付き、一切の自由を奪った!
その先端部は
「あうっ!」
「ブ……ブリュド!」
「マリー! 早く御逃げなさい!」
「やだ……やだぁ……」
「どうして、あなたは……私の言う事が聞けないのです!」
「だって、ブリュドが! ブリュドが殺されちゃう!」
「ッ!」
少女の打算無き優しさに、ブリュンヒルドの叱責は打ち消された。
くしゃくしゃに泣き濡れた顔で、鎖の
「…………答えなさい」沸々と涌く怒りを絞り出す。「答えなさい! ウォルフガング・ゲルハルト! 何処からか見ているのでしょう!」
我慢ならない
この少女の涙──それだけが理由だ!
ややあって
『フン、久しぶりだな?
「最初から
『
「こんな小さな子供を、死の恐怖にまで
『無いな』
「な……何!」
紫煙を吐く音が微かに聞き取れた。
腹立たしくも!
『肝心なのは成果であり、それを
「違う!」
聞くに耐えない悪言に、ブリュンヒルドは
それは悠久の戦場を駆け巡ってきた〈
「綺麗事など言わぬ……確かに〈戦争〉とは不毛な
『大義名分は、勝者によって作られるものだ』
「き……貴様という男は……どこまでも!」
ギリッと歯噛みする。
平行線の口惜しさだ。
人間の内に潜む
『さて……では、共に来てもらおうか?
「な……何?」
『以前も言ったはずだが? 貴様には、
ジャキリと鳴る金具音!
不可解な思いを
だがしかし、その標的は
敵兵が狙いを定めた獲物は、再びマリーであった!
「ひっ!」
悪夢の再来が少女を恐怖に組敷く!
またも身が畏縮し、動けなくなる!
「な……何を? 何をしようというのです! ウォルフガング・ゲルハルト! もう、その子に用は無いはずです!」
慄然から生まれる怒声!
返ってきたのは冷酷なる肯定!
『ああ、もう
「なっ?」
『
「き……貴様は……貴様は!」
ブリュンヒルドの
勝利宣言とばかりに、ウォルフガングが命令を
『……
ヴォンと
「ぁ……ぁぁ……」
体が動かない!
迫る〝死〟への屈服に、へなへなと崩れ落ちた!
「マリー! 逃げなさい! 逃げてぇぇぇーーーーッ!」
悲痛な叫びが街路を染める!
機械仕掛けの拳が一斉に火花を咲かせた!
「い……いやあーー!」
その瞬間、幼女の防壁と降り来る巨影!
屋根を
「何だと?
驚愕を染め、ウォルフガングはモニターへと食い入った!
そして、平然と〝ともだち〟へ振り返った。
「マリー、呼んだ」
「お……お姉……ちゃ……」涙に濡れた少女の顔が、
抱きついていた!
安堵のままに、その
「大丈夫。マリー、いい子、いい子」
腰に
しかし、感傷へ浸っている
すぐさま〈戦士〉としての顔へと戻り、きびきびとした対応力を発揮する!
「大丈夫なのですか? その傷は……」
指摘された〈
無数の
「痛い」
「早く手当てを!」
「大丈夫、痛いけど痛くない」
そう言うと〈
「ふんッ!」
体内に残された
「これで治る」
実際、
「あ……
驚異的な回復力を目の当たりにして、ブリュンヒルドは唖然とする。
いくらなんでも異常過ぎる。
『ええい! また貴様か!』
辺りに響く激昂!
その出所を展望に探しつつ〈
「うん、私だ」
『クソッ……だが、まあいい。ものは考えようだ』
包囲網がジャキリと銃口を向けた!
「クッ?」
絶体絶命の窮地にブリュンヒルドは身構え、恐怖心を甦らせたマリーが〈
『貴様には、おとなしく捕まってもらうとするか……そこの
「貴様という男はッ!」
ブリュンヒルドの怒り!
何故
だが──怯える頭を優しく撫でる──可哀想なまでに怯える幼女の姿は、
フランケンシュタイン城から逃亡し、行く先々で暴力に怯えた日々と……。
だから〈
「マリーを
『何だと? 何を言っている?』
「誰だ?」
頸動脈に埋め込まれた電極が、パリッと小さな帯電を咲かせた。
「この者達です!」
限界に達したブリュンヒルドの
「この〈
「そうか。解った」
脚に
「な……何を?」
ブリュンヒルドの戸惑いには答えないまま、〈
「私は、誰かが傷付くのはイヤだ」
電極が
「誰かを傷付けるのもイヤだ」
迷い無く踏み込む!
首筋に小躍りする蛇は、次第に身体中を
「だけど──」
沸々と込み上げてくる激しい感情が
「──マリーを悲しませるのは、もっとイヤだ!」
青き化身と成りて地を蹴った!
駿足!
次の瞬間には
ただの拳ではない!
電流
それは太い杭と突き刺さり、同時に放電を発して内部から喰らい尽くす!
凄まじい電圧の処刑によって、ガクリと事切れる
その脱力的な
すぐさま他の
続け様に、次なる
普段の重々しい挙動が嘘であったかのように〈
「フンッ!」
返り血とも
そして、また
「あ……
あまりにも苛烈過ぎる戦いぶりには、さすがの
優美なる舞を
まるで
脚へとしがみつく幼い震えを
(その時……私は、
電光
「これは……まさか〈イオンクラフト効果〉か!」
放電によって大気中の電子へと干渉し、同極電荷間──
つまり、現状の〈
それも異常ともいえる瞬発力を秘めて!
理論上では可能とはいえ、あの
認めなければならない!
まさに〝恐るべき電気の怪物〟である事実を!
「な……何だ?」
心底に淀み涌く黒い
「何だ!」
それは次第に
まるで、世に
「何なのだ! この〈
それが〝恐怖〟と呼ばれる感情である事を、彼の自尊心は認めようとはしなかった。
「オオオオオォォォーーーーッ!」
猛る!
「ゥガアアアァァァーーーーッ!」
猛り叫ぶ!
初めて
はたして、そこに
「ゥアゥアゥアアアァァァーーーーッ!」
電光の野人は吼え狂う!
それは、魔獣たる
ブリュンヒルドの目には、憐れな存在にしか映らない。
ひたすらに憐れで哀しい虚像であった。
だから、彼女は無自覚な
死罰の
総ての
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