ともだち Chapter.5
大通り
それは左右から挟み込むかのように並び、
その声援を浴び、中央を長い
物々しい
ウォルフガングの
「……驚きましたね。まさか
群衆に
至近距離からでは発見されてしまう怖れから、雑踏の最後列からの観察だ。すぐ背中には
「別に心底から支持しているわけでもないさ。やむを得ず……といったところだ」
脇に並ぶハリー・クラーヴァルが、多少
「本意ではない……と?」
「大半はね」
「どういう意味です?」
「強制参加なのさ。民衆の自尊を折る
「それでは〝人間性の損失〟ではありませんか!」
嫌悪感を
「旧暦に
「心が折られているから……ですか」
「ナチスドイツ──アドルフ・ヒトラーが〝稀代の独裁者〟として大成したのは、政人としての才覚よりも
「……洗脳」
ブリュンヒルドの呟きに、寂しい
「ヒトラーの〝
「いえ、まるで見てきたかのように話されるものですから……」
内心、ドキリとする指摘ではあったが、こうした状況は初めてでもない。
「想像力が強くてね……夢想空想は
「再現実験? ナチス軍隊のですか?」
「参加者は有志の高校生。彼等を〝看守役〟と〝囚人役〟に
「いいえ?」
「程無くして〈擬似ナチス〉が完成したのさ。実験責任者の観察の下でもあるにも
「そんな馬鹿な?」
「事実だよ。つまり〝
老若男女──全て変哲もない〝一般人〟だ。
そうした人々が、自覚すら
その可能性が、誰にでも内在しているのだ。
あの人も──あの人も──あの婦人でさえ────。
薄ら気味悪い感覚に襲われ、ブリュンヒルドはおぞましさを覚えた。
まるで、誰しもが〈怪物〉の
自分自身が、絶望的な
「ブリュド? わたしも兵隊さん見たいわ?」
足下からの御願いに、
幸か不幸か──マリーの背丈では眼前の
「た……たいした見せ物でもありません! もう行きましょう?」
「ええ~?」
「それよりも、出店を見て歩きましょう? ホラ、時間に限りもありますし……」
頬を伝う冷や汗を
その後ろ姿を無言に見送ったハリーは、やがて
すわ主役登場とばかりに低速走行する装甲車両。
その屋根から華々しく観衆へと手を振るのは、この
「ウォルフガング・ゲルハルト……どこまでも〈第四帝国〉の幻想を追い求めるのだな」
涼しい
この壮大な茶番劇を
屋根の上から人知れず傍観する男だ。
「ケッ! 科学の軍隊だァ? あんな
粗野な印象の男であった。
シャープな
紺色の革ジャンを胸元開きに着こなし、黒革のパンツをロングブーツで固めていた。
その名を〝ロキ〟という。
とはいえ、ロキは
〈
神々の
ただし、彼の言動は真意見えぬ
さりながら、時として神々の窮地を、その狡猾な智謀によって救ったのも事実ではあった。
はたして、本質は〝善〟か〝悪〟か──
そもそも善悪は表裏一体であり、切り離して成立するものではない。
二元論的観念に
ともすれば、彼こそは〝自然体の神〟とも呼べるであろう。
仮に、これから先、何を為そうとも……。
「しかし
食い終わった
「さて……
生来の悪意を浮かべたロキは、
送り注ぐ
赤く灯る
それは、まるで
突然、武力誇示の流動が
ロキの標的と
ゴーグル越しの
後続の兵士達も
華々しい虚栄の見世物は、一転して〝棒立ちの人形展示会〟へと変わった。
「何だ? 何事だ?」
観衆がどよめく中、ウォルフガングも全体的な異変を察知する。
惨劇が幕を開けたのは、
そして、彼等は右
無抵抗な民衆へと!
「ぎゃあああーーーーッ!」
「うわぁぁあーーーーッ?」
次々と射殺されていく人々!
完全に
──
その赤が、
撃つ! 撃つ! 撃ちまくる!
「い……いや……いやあぁぁぁーーあがばらぶらッ?」
「ひ……ひぃ? ひぃぎゃらぶればッ!」
銃弾が暴雨と降り注ぐ!
肉片が飛び散り! 悲鳴が染めた!
虐殺!
殺人人形による虐殺劇だ!
だがしかし、周囲の
命令待ちに待機するだけであった。
「何だ! 何が起こっている!」
後方で状況把握に
彼が問題としているのは、
「システムエラーだと? 何故だ!」
自身が組み上げたプログラムは万全であった。
〈
にも
飛び交う断末魔を騒音と意識排斥し、彼は
「ぐぁぁぁーーッ!」
(──
「ひぃ! ひぃぃぃーーッ?」
(──
「たす……たすけ……ぎゃあああーーッ!」
(──
と、そこでようやく
「何をしている! さっさと
眼下の惨状を高みの見物に、ロキは静かな
「ケッ……下手に脳ミソなんざイジるからだよ。
「……にしても、数にして十八体程度か? まだまだ
万全な能力が発揮できないのも、仕方がないだろう。
「チッ! もう
「これは? 暴走?」
逆流に荒れ乱れる
(確かに〈科学〉は万全ではない。ウォルフガングの
不自然だ。
違和感を感じる。
(
そこはかとなく悪意を感じる。
確信は無いが……。
その予感が
「アレは……ロキ?」
かつて告げられた警告──それが
バザー区域に混乱が押し寄せて来たのは、大通りの惨劇発生から数分遅れであった。
命からがら逃げ込んで来た群衆が、そのまま顔色を変えて通過して行く!
その
しかしながら、ただ事ではない事は、喧騒に呑まれる直前から瞬時に察知できた。
「何があったのですか?」
誰に
暴牛の
それでも奇特な
「ぼ……暴走だ! 〈
「暴走?」
その後ろ姿を軽い感謝で見送り、
「マリー? 自宅へは
「ええ~?」
露骨な不安を浮かべる女児を、片膝着きの正視で
「私は〈
「ばるきゅれー?」
「私は〈ヴァルハラ〉──つまり〈北欧神館〉に
「
呼応に神聖なる輝きを帯びた羽根を、頭上へと投げる!
と、それは無数の
「……わあ?」
「オ……オイ、何だ? アレ?」
パニックに追い回されていた街人達も、路地の片隅で生じた
「神……様?」
あまりにも
変身の
「神様だ……神様が救いを
「
「マリー、来た道は覚えていますね?」
「え? う……うん」
「それを戻って裏道を
「でも……」
「大丈夫ですよ。此処より先は、私が災厄を食い止めます。誓って、
誇り高い
その跳躍は飛翔と化し、
「あ……」
心細さを
子供ながらに理解はしている──こんな状況では仕方の無い事だ。
だが、それでも手を引いて逃げてほしかった。
取り残されたマリーは、選択肢も無いままに帰路へを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます