ともだち Chapter.2
ダルムシュタット周域は、豊かな自然に囲われた穏やかな情景に
天空は慢性的な闇に支配された魔空と化し、地上の生態系は
生ける
それは
その恩恵を授けているのは、領主〝ウォルフガング・ゲルハルト〟率いる〈
町外れをぐるりと
その外界には雑木林が
そうした開放的な空間は、旧暦時代ならば豊かな自然との協和を
さりながら、
世界中に
開放的な空間
いずれにせよ、日々〈
今日も今日とて、数体が押し寄せていた。
「くあぁっ!」「があぁぁ!」
生気無く青冷めた顔からは普段の
そんな
彼等は金網の柵越しに対峙するも、まるで微動だにしない。直立姿勢で横並びに整列し、バリケード然と待機していた。
上官からの命令待ちだ。
その無機質無感情な様は、ある意味〈デッド〉とは異なる不気味さを感受させる。
「フン……毎日毎日、飽きもせずに」
兵士達に
「排除しろ」
右手を挙げて命じると、
どうせ
一斉に点る
ゴーグル越しの目が
発砲──乱射──一斉射撃──!
銃弾の雨が狂ったように乱れ飛び、死体の血肉を
そして、
「フン……いつものように後始末もしておけよ。街の付近で腐敗されては衛生的に迷惑だからな」
残骸への
こうした惨殺光景が、ダルムシュタッドでは日常的に繰り返されていた。
いずれにしても、一時
正直、排斥してもキリがない。
と、ウォルフガングは足を止めた。
ふと感じた違和感に呼ばれたかの如く。
まるで警戒を継続しているかのように、前方を見据えたまま直立していた。
敵は排斥したにも関わらず……だ。
地面には無数の
しかし、警戒が解かれぬ理由は一目瞭然と解った。
死体が転がる大地を黙々と
線の細い美女である。
肌は白雪のような透明感を宿し、薄く通った鼻筋は凛然とした美貌を刻んだ。こちらを見据える
白銀の甲冑が露出した上腕と
左腕に構えた
翼と広がる赤きビロードマントは、彼女が〝戦いの子〟たる宿命の
その特徴的な出で立ちを視認するなり、ウォルフガングは正体を看破した。
「……〈
珍しい
強烈な魔気に閉ざされた
そうした
さりながら、それ以上にウォルフガングの好奇心を強く
迎撃指示を待つ兵士達を左手上げに制し、ウォルフガングは前へと進み出た。
進み来る〈
「
「
「……
零れた呟きを拾い、ウォルフガングは鼻で笑う。
「ハッ、何がだ? 奴等〈デッド〉は、所詮〝再活動した死体〟に過ぎん。
「仮にそうであったとしても、ここまで容赦無き必用があるのですか?」
「貴様達のように剣を
内なる怒りと
「あの者達は
「そうだ!
物々しく猛るウォルフガングを
コバルトブルーの澄んだ瞳が、
微弱ながら〝
「……
「
「何をしたのです?」
「貴様のような化石頭に理解できるとは思わんが……『ロボトミー』というのを知っているか? 脳の不要部分を切除する外科技術だ。着目すべきは〝
「ですが〝喜び〟や〝悲しみ〟も失う」
「不要だ」
「……そうですか」
これだけの
失望とも
「
凛々しくも気高き名乗り!
そして、彼女は地を蹴った!
超人的な跳躍に高々と舞い、境界線とする
「撃てぇぇぇーーっ!」
上官が右手を上げるのを合図に、
上空へと
さりながら、ブリュンヒルドの回避は超人的であった!
まるで四方が足場と
それを撃ち抜くのは、大気に浮かぶ羽根を矢で射抜くかのような難行であった!
運良く捕らえた弾丸も、
悠然と敵陣の中へと着地する
「おおおぉぉぉーーっ!」
「お姉ちゃん、寄ればいいのに」
家の庭先までマリーを届けた〈
「わたし、お母さんにも紹介したいのよ? だって、もうずっと〝ひみつのおともだち〟なんだもん」
「うん、ありがとう。でも、ダメ……」
「どうして?」
「怖がる」
「顔のこと?」
「うん。体も……」
上腕の
無感情ながらも、
「平気よ。こわいのは、最初だけだもん。わたしが、お母さんに言ってあげる。お姉ちゃんは、やさしいんだって」
「ありがとう」
「ね? だから一緒に行こう? あ、そうだわ! 今日はお泊まりしましょう? そうすれば、お母さんだって、お姉ちゃんの事が分かるもの。うん、いい考えだわ! ね?」
「ありがとう。でも、ダメ」
「え~?」
「また今度……」
いつまでも「今度」など無い。
自分は
何故だろう……これだけで胸がチクチクと痛い。
その時、家の玄関が開いた。
「マリー? 帰って来たの?」
母親だ。
「あ、お母さん!」
マリーの顔が明るくなる。
絶好の機会だ。
鉢合わせた以上、もう〝お姉ちゃん〟は逃げられない。
「勝手に出て行って、こんな時間まで……心配したんだよ?」
「は~い、ごめんなさい。ね、ね、それよりも──あれ?」
キョロキョロと周囲を見渡すマリーは、やがて母親に連れられて家の中へと入っていった。
その様子を屋根から見届けた〈
「おやすみなさい」
そして、
超人的な脚力で!
屋根や高木を足場に、向かい風を裂き続ける!
と、不意に〈
「……銃声」
常人には捕らえられない
更に意識を集中し、その方角を特定した。
「南方……町外れ……戦っている……」
風に運ばれる音が〈
また
そう思うだけで、胸が苦しくなった。
さりとも、そんな想いを
どこまでも不毛な時代である。
「ハアッ!」
華麗
駆けて、駆けて、駆け抜けて──
その戦いぶりは、まさに
次々と機能停止へと
実戦に
だが──「フン……さすがに〈神の戦士〉という肩書は
「コード
軍服の襟へと仕込んだマイクロマイクに改めて指令を下す。
その違和感は〈
「……何だ?」
敵が間合いを取り始めた。
先刻までの密集戦とは明らかに陣形が異なる。
気付けば彼女
そして──!
「うあぁぁぁーーーーっ!」
四方八方から踊り迫る電撃!
青く
「ああっ! うああっ! あああぁぁぁーーっ!」
「対電極──
進み出たウォルフガングが、優越に
「こ……れは……〈
「
「人……間が……クッ……〈神〉の領分を……侵そうなどと……思い上がりも……うあぁぁぁーーーーっ!」
挙げた右手に電圧が上がる!
生身であれば一瞬で
さりながら〈
生きながらにして、悪意の拷問に
「さて……」ウォルフガングが冷徹な観察視を注いだ。「
「な……に?」
「貴様は貴重な
「何を……クゥ……言っている!」
「つまりだな? 貴様を
「ふざける……ぅあああっ!」
(
清廉なる高潔が、
(
彼女の心が
普通の男ならば、無抵抗と化した彼女を前にして
それだけでもゾッとする
有るのは、徹底して相手を
だからこそ、
魂そのものが
真性の
「まぁ、いい。連れ帰ってから、ゆっくり考えるさ」
これまで以上の電撃が狂い咬む!
「ぅあぁあぁあぁぁぁぁぁーーーーっ!」
「心配するな。殺しはせん。意識果てるまで浴びせるだけだ」
「いや……いやあぁぁぁーーっ!」
聖女の悲鳴が
爆発力に拡散した土の粒子が、電撃を
その正体は、天空より降って来た影!
「何っ?」
想定外の乱入者に
約二メートル弱の
伸び荒れた黒髪で右顔を隠し、
そして、色白く
これが〈
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