学級委員にならなくても

卯野ましろ

学級委員にならなくても

「この時間に学級委員を決めるぞ~」


 昨日から新学期が始まり、とうとうこの時間がきてしまった。


「まず立候補者は……」

「はいっ」

「おっ、やる気満々だな! 他にはいないのかー?」


 こうして男子の学級委員は、すぐ決定した。ピシッと挙手した彼以外に、希望者はいなかった。


 それにしても、よく学級委員なんてやりたいと思うよなー……。


「女子は……選挙にしよう! 今から用紙を配る。紙に学級委員に相応しいと思う女子の名前を書いて、この箱に入れてくれ」

「はい」


 まあ、そうなるよね!

 用紙が配られ、私はすぐに「いつもの子」の名前を書いた。




「これで全員、投票ができたな。じゃあ開票するぞー……って男子はもう決まったんだよな。よし! 前に出て初仕事だっ!」

「はーい♪」


 彼、もう楽しそうだな。

 すごい……。

 私とは大違い。


「それでは開票しまーすっ。まずは……」


 学級委員第1号が、箱から1枚目の紙を取り出して開いた。


「海老澤さん」


 エビちゃん! 

 いつものエビちゃんだ!

 よし、この調子でいってくれ……、


「おっ、山本さん1票!」


 えっ……!

 2番目に自分の名前が呼ばれてしまった。どうしよう。頼むから、あと1票だけ出て、それで終わって欲しい。たった1票で止まるのは自作自演疑惑が発生するから困るのだ。


「山本さん!」ホッ。

「澄川さん」ホッ。

「山本さん!」うわ!

「海老澤さん」ホッ。

「山本さん!」ぎゃっ!

「海老澤さん」ホッ。

「山本さん!」ぐあっ!

 ……。




「それじゃあ海老澤。前に出て!」

「はいっ」


 危なかった……。

 エビちゃんと私の差は、たった2票差だった。本当に僅差だ。今まで何回もこういう目に合ってきたけれど、やっぱり落ち着かない。私は、いつもギリギリ学級委員にならないのだ。

 良かった。

 良かった!




「亜美、残念だったね~」


 ニヤニヤと、わざとらしく私にそんなことを言う親友たち。


「何言ってんのよ。私、安心したわマジで!」

「あーあ。せっかく亜美に投票したのにさ」

「うんうん。次こそ亜美が学級委員になると思ってた!」

「エビちゃんの壁は厚かったね~」


 親友たちは私を学級委員にさせたいのだ。いつもいつも、なりそうでならない私がおもしろくなって始めた悪ふざけ。飽きろ!


「もう諦めてよ。私は面倒くさいこと、嫌」

「えー」

「えー、じゃない」

「……はーい……」


 いつもこんな風にかわいいから、この子たちの親友は絶対にやめられない。




「失礼しました~」


 放課後。先生に頼まれた用事を済ませ、一緒に下校している親友が待つ図書室へと向かった。職員室のドアに背を向けると、


「山本!」


 誰かが私を呼んだ。先生ではない。


「多田……」


 彼は学級委員第1号だ。ちなみ男子の中で唯一、私と6年間ずっと同じクラスだ。中学も高校も、いつだって私のクラスには多田がいる。


「何?」

「お前さ……どうして、いっつも学級委員にならないんだよっ!」

「は?」

「オレ今回も、お前に投票したのにさ! 何で……」

「ちょっと、余計なことしないでよ!」

「……ごめん。じゃあ、また明日」

「う、うん……」


 多田は淋しそうに、私とは違う方向へ行ってしまった。




「それは多田くんがかわいそうだよ~」

「そうだよね……」


 帰り道。最も付き合いの長い幼馴染みの親友に、さっきの多田との出来事を話した。やっぱり私は少しキツかった、という結論になった。


「多田くんって良い子じゃん。本気で亜美が学級委員に相応しいと思って投票している可能性大だよ」

「そうかな~。からかっていたりして」

「いや私たちじゃないんだから!」

「そこは自分で言っちゃうのね」

「……それにしても多田くん、よっぽど亜美と一緒に学級委員やりたかったんだね!」

「……はっ?」


 多田が私と……?


「だって自分が学級委員に立候補して、その後に『今回も』亜美に投票したんでしょ? これは何かあるよ」


 多田……。


「へー。お前、頭良いんだ」

「すげー走るの速いよな」

「絵、うまくね?」


 模試の結果発表。持久走大会。美術の時間などなど……。確かに多田は、いつも私を褒めてくれる。


「大丈夫か?」

「気にすんなよ」


 私が元気がないと、すぐ気づいて優しくしてくれていた。


「……とりあえず明日、多田に謝るよ」

「そっか」

「ありがとう」

「良いって~」




 翌朝。ちょうど良いところに、あいつがいた。


「おはよっ」

「わっ!」


 私が挨拶すると、びっくりして多田が振り向いた。


「何しやがっ……」


 言い切らないうちに、私は多田の目の前にペットボトルをつき出した。冷え冷えのこれを首につけたから、多田は驚いたのだ。


「昨日はごめん。お詫び!」

「え……ありがと」

「でも私、学級委員なんか本当にやりたくないんだから」

「それは悪かったよ……」

「そんな回りくどいことしないで、なるべく早くね」

「へ……?」

「……何でもなーいっ」


 自分から始めたくせに私は恥ずかしくなって、多田を置いて走って校門を目指した。




 多田が真っ赤な顔で私に「好きだ」と言ってくれるのは、まだまだ先の話。

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学級委員にならなくても 卯野ましろ @unm46

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