第2話「机」

 一階の一般書コーナーを素通りし、二階の児童室に上がる。


 児童室にたくさん置いてある子ども向けの本に興味はないけれど、僕はこの部屋の机が好きなんだ。木製の長机はふれるとひんやりして、また、木製ならではのなめらかさも手に心地よい。不特定多数の子どもたちが使うから、ところどころに傷がついていたり色褪せていたりもするけど、それもまたいとをかし、なんてね。

 その健康的な色合いから、図書館なのに、なんとなく自然の中で勉強しているような気分にさえなる。子どもひとりが座るのにちょうどいいサイズの――同じく木製の――丸椅子も座り心地は申し分ない。これで背もたれがあれば満点だったかな。


 自習スペースなら三階や地下一階にもあるものの、あのへんはいつも暇そうな大人たちがたくさんいてなんだか落ち着かないし、加齢臭も結構きつい。

 それと比べて児童室はいつもいていて、日によっては僕しか座っていないこともある。今日も僕の貸し切りだ。

 

 健康で春秋しゅんじゅうに富む小学生は、放課後は都筑たちのように外に出てドッジボールやサッカーでもして身体を動かすほうが自然だろうし、僕が住んでいる市は決して学力の高い部類ではない。放課後、塾もない日にこうして図書館で自習するような子どもはあんまりいないようだ。


 椅子に座って志望校の過去問を開き、国語の問題に取りかかる。塾では苦手な算数と理科を受講していて、ここでの自習は主に国語と社会の二科目。国語は一番好きな科目だ。特に漢字が得意で、夏には漢検準二級――高校在学レベルらしい――も取った。

 携帯で時間を計りながら、文章題に専念する。少し離れた場所で母親と一緒に絵本を探している園児の笑い声も、次第に耳からすべり落ちていった。


「よしっ、できた」

 

 目標タイムよりも五分早く解答し終え、身体を起こして天井をあおぐ。今日はなかなか快調だ。

 答え合わせをする前にいったん用を足そうと正面を向いたとき、奇妙な光景をとらえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る