学校の先輩でも本当は甘えたい

 俺の幼馴染である清水聡美は、学園のアイドルとして男子生徒から絶大な人気を誇っている。

 文武両道完璧超人な彼女を一目見ようと、今日も廊下には多くのギャラリーが群がっていた。


 その様子を教室で眺めていると、隣の方から声を掛けられた。


「やっぱすげーな、清水先輩は…1年の教室を通るだけでこの人だかりだぜ?」


 俺の肩に両手を置きながら、廊下の様子を眺めているこいつは太田雄大おおたゆうだい、俺のクラスメイトで友達だ。


「そんなに興味あるならお前も廊下に出て見てくれば?」

「いや、俺は無駄な勝負はしない主義なのさ…」


 カッコイイことを言っているように思えるが、裏を返せば、自分のことは目も止めてくれないと言っているようなものであった。

 確かに、家での聡美姉ちゃんを知っている俺にとっては、雄大なんて眼中にスラないんだろうな…


「あっそ、勝手にしな…」


 俺が苦笑しながら廊下をぼおっと眺めて、清水聡美が通りすぎるのを見ていた。

 すると、聡美姉ちゃんは、俺たちのクラスの前で立ち止り、教室の後ろのドアから中を覗いてきた。

 教室中が清水聡美の登場によりざわついた。

 俺の教室に何か用だろうか、そんなことを思っているとキョロキョロと教室を眺めていた聡美姉ちゃんと目が合った。

 聡美姉ちゃんは俺を見つけるなり、ニコっと優しい笑みを浮かべた。


「吉原くん、ちょっと」


 滅多に学校で声を掛けてこない聡美姉ちゃんが俺に手招きをして呼んでいた。

 クラス中の視線が俺に集まった。肩を掴んでいた雄大に関しては口をポカンと開けてアホみたいな顔をして俺を見ていた。


 俺は変が噂が立たないうちに、そそくさと立ち上がり聡美姉ちゃんの元へと近づいた。


「何ですか?」


 聡美姉ちゃんと俺が幼馴染だということは、学校の人たちは知らないため、他人行儀な対応を取る。


「生徒会の方で少しあなたに頼みたいことがあるの。ちょっと時間取れるかしら?」


 聡美姉ちゃんは、学校の生徒会長もしており、先生からも一目置かれる存在として有名だ。


「はぁ、いいですけど」

「じゃあ、ちょっとこっちに付いてきて」


 聡美姉ちゃんは、目で俺を指図して、歩き始めた。

 俺もその後を追うようにしてついていった。


 すると、教室の方から男子達の悲痛の叫びのような声が聞こえる。


「嘘だろ…なんで吉原なんかが清水先輩なんかに!?」

「でも・・・生徒会って言ってたから何か仕事の話なんじゃない?」

「にしても清水先輩最高だぜhuuuu!!!!」

「YEHAAAAA!!!!!」


 ところが一転、男子達が清水先輩が教室に現れ、一目見れたということだけで雄たけびを上げていた。

 ホント聡美姉ちゃんの影響力スゲー

 俺が聡美姉ちゃんの人気っぷりに感心しているうちにスタスタと歩いていき、気が付けば生徒会室の前に到着していた。


「入って」

「はい…失礼します…」


 俺は恐る恐るドアを開いて生徒会室の中へと入った。

 中には人は誰もおらず、来客用のソファーと机、そして正面には威厳ある生徒会長の机があった。


「えいっ!!」


 すると、聡美姉ちゃんが俺の背中に抱き付いてきて、生徒会室の中に押し込まれる形になる。

 ガチャっという音が鳴り、生徒会室の扉が閉まる。


「はぁ~友ちゃん…会いたかったよ~」


 俺が後ろを確認すると、俺の背中にスリスリと顔をこすりつけている聡美姉ちゃんの姿があった。


「何やってんの?聡美姉ちゃん?」


 俺が状況が理解できずに聡美姉ちゃんに質問を返した。


「え?何って、友ちゃん成分を充電してるところ~」


 当たり前のように言ってのけ、顔を破顔してグデーっとしている姿は、さっきまでの凛とした清水聡美とは大違いだった。


「充電って、いつも家でしまくってんじゃねーか」

「だって、最近生徒会が忙しくて全然友ちゃんのところ行けなかったから、私の中の友ちゃん成分が足らなくなっちゃったんだよ~!」

「最近ってたった1日来れなかっただけだろ…」

「たった1日でも私にとっては死活問題なの!この時までずっと我慢してたんだから!」


 駄々をこねながら聡美姉ちゃんは再び俺の背中に顔を埋めて、両腕を俺のお腹の辺りに巻き付けた。


「じゃあ、もしかして用があるって俺を呼び出したのって…このこと?」

「うん、そうよ♪」


 エヘっとお茶目な口調で聡美姉ちゃんは誤魔化した。


「職権乱用!」

「仕方ないじゃない、他に二人きりになる方法思いつかなかったし、友ちゃんが素直に言うこと聞いてくれるとは思わないし。」


 確かに、普通に聡美姉ちゃんが教室に現れて俺を呼び出したら、何か裏があるんじゃないかと思い、絶対にその場から逃げ出していたと思う。


「お願い、昼休み終わるまででいいから、ちょっとだけ甘えさせて」


 一度抱き付いていた手を離して、俺の方に向き直ると目をウルウルとさせながら見つめてきた。そういう目で見られると、俺もつい口ごもってしまう。


「ねぇ、ダメ…?」


 甘えるように声を出して首をちょこんと傾けて俺をさらにじぃっと見つめてくる。

 こうなると、俺もつい甘くなってしまう。


「はぁ…じょうがねぇな。今日だけ特別だからな」

「やったぁ!ありがとう友ちゃん~」

「うわっ、だから抱き付くなって!近い近い!」

「いいじゃん、家ではいつもしてるんだからぁ」

「場所をわきまえろ」

「いいじゃん、今は二人っきりなんだし」


 こうして、今日も聡美姉ちゃんとの甘々な日々は続いていく。

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学校の先輩と家の幼馴染 さばりん @c_sabarin

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