セカンドボーイに一直線

御剣ひかる

まさかの連なり

 彼女は、恋をしている。


 相手はクラスの同級生男子だ。成績はトップクラスで常に二番か三番かを争っている、スポーツはそこそこだが足は速い。持久走大会の最高記録は二位。部活はサッカー部だが控えの二番目。

 何をしてもトップに立てない彼は皆にからかわれて“二番目くん”と呼ばれている。


「二番目くん、性格はいいからねぇ」

 彼女の相談に乗る親友は、好きになるのもわかるわとうなずいた。

「けどさぁ、あきらめた方がいいよ?」


 親友がとても気の毒そうな顔をしたので彼女は驚いた。


「えっ? どうして?」

「二番目くん、隣のクラスの女王が好きじゃないかなってウワサだよ」


 隣のクラスには、成績一番で高飛車な女の子、“女王”と呼ばれる女子がいる。女子にはともかく、男子には人気だ。


 それを聞いて、彼女は顔を曇らせた。


「でも、……まだ付き合ってるわけでもないし、女王サマが二番目くんを相手にするとは、あんまり思えないんだよね」

「あぁ、それは確かに。んじゃ、頑張ってみる?」

「連絡先とかゲットして、ちょっとずつ話せるようになりたいなぁ。協力してよ」

「あ、それならアイツの一番の友達から崩してこっか」


 将を射んとする者はまず馬を射よということわざ通り、二人は二番目くんの友人、“二番目の腰ぎんちゃく”――ひどいあだ名だが本人はヘラヘラしている――に声をかけに行った。


「え? アイツの連絡先? いいよ。ってかどうせならみんなで遊園地とか遊びに行ったりしない?」

「あっ、それいいねぇ」

「あの、ありがとう」

「いいよ、うまくくっつけるといいね。あ、もしダメだったら俺で妥協しない?」

「ちょっとぉ、今からそんなふうに言わないの」

「あはは。失礼しましたー」


 彼女の恋は、クラスメイトに支えられている。

 ――ように見えたが。


「おぃ、おまえ大丈夫か? あの子のこと狙ってんだろ? なに応援してんだよ?」


 “二番目の腰ぎんちゃく”に言うのは、黒縁メガネが妙に似合ってる“メガネくん”。


 ちなみに彼は小太りで、あだ名が“メガネくん”に定着する前は一部で“ふとっちょ”と呼ばれていた。しかし二学期になって一番太っているのが他の子に入れ替わったのであだ名が入れ替わったのだった。


「まぁ大丈夫じゃね? 今回はさすがに誘うのは不自然だけど、別の日にアイツが女王サマとデートできるようにセッティングするつもりだし」

「うわぁ、策士」

「おまえも協力しろよな。俺はあんまりアイツと“女王”を表立ってくっつけようとすることできないんだから」

「ハイハイ。じゃ、おまえもあの子がダメだったら俺で妥協――」

「するかバカ!」


 横から両肩を抱いてきた“メガネくん”の脇腹に、腰ぎんちゃくの肘うちが見事にさく裂した。




 そして日曜日。

 遊園地のアトラクションに向かって歩く一団がひそかに注目を浴びていた。

 “二番目くん”の少しだけ斜め後ろにおとなしそうな女の子が、なかなか声をかけられずにちょこちょことついていく。

 彼女の隣にお調子者の“腰ぎんちゃく”がニコニコしていて、彼のうしろで“メガネくん”がニヘニヘ笑いながらくっついていっている。


 どう見ても仲の良いグループではなくて、狙い狙われている関係だと丸わかりだ。


「……もしかして頼る人、間違えたのかも。ってかメガネおまえマジでそうなのかよっ!?」


 “二番目くん”に向かって伸びるいびつな一直線ラブに、一人蚊帳の外の女の子は頭を抱えた。


 彼女としては親友が“二番目くん”とくっついてくれるのがいいのだが、そうなると“腰ぎんちゃく”が“メガネくん”に言い寄られるなどという、目の前では絶対に見たくない光景が繰り広げられるのかもしれない。

 かといって親友がフラれるのはかわいそうだし見たくない。


「これはメガネに誰かいけにえを探すしかないのか」

 ぼそりとつぶやいた。


 果たして、一直線ラブの行方は……。



(了)

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セカンドボーイに一直線 御剣ひかる @miturugihikaru

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