第3話

 建造物が無くなる。

 或いは、建造物を無くす。

 最も採用されている手段はもちろん、物理的に壊す。長い年月を重ね作り上げた建物を一瞬で破壊するーー爆薬でも爆弾でも飛行機でもなんでも良いから、とりあえずぶち壊す。これは建造物自体が移動できないを前提する場合の話であるーー解体して別のところで立て直す再築工法という技術はある、それから高層ビルの場合なら曳家は一番適切かもしれないが、いくら技術が優れでも都心でやるならさすがに一日足らずでは無理と思う。ツインタワーの場合は尚更である。

 そもそも、有り得るだろう、工事寸前たる建物を面会場所にするなんて。

 「おいおい、カオスくん、面会場所はここであることは間違いないかな。本当に道に迷っていないかい?」

 「俺は方向音痴になった覚えは全然ないが。いや、俺を信じなくとも、ほら、ここの記録、今朝とはまったく同じだろう、ナビの指示通りだ」無序はモニタを僕に示す。

 確かに同じ路線の記録が残っている。

 なるほど。道に迷ってるわけでもないか。

 よかった。再びそちら側のモノと関わることはないと言う保証がもらったとはいえ、てっきりまた塗り壁や鬼打墻系の怪異にでも遭ったのかと思うところだった。

 去年のクリスマスイブで公園でやったことを二度とするのは真っ平御免だ。

 一度さえやれば生涯のトラウマにはなる。

 「わかった。カオスくん、とりあえず車をそっちの駐車場で止めよう。僕は先にここに降りて待つから」

 「何か思いついた様子だね。結構複雑な顔している」

 「まあね。思いつくではなく思いだすというわけだが」

 「君も君で色々と大変そうだね。こっちの色々変態とはまるで正反対」

 自覚あるんだ。

 ある意味こっちより大変かもしれないね、色々変態って。

 またあとでと言ってから車から降りた。

 天気は曇り。湿気が多い。それから件のツインタワーはやはり見つけないのである。

 ふむ。時間はまだたっぷり残ってる。普段あまりない贅沢ね。

 では、建造物を壊さず、しかも移動せずの場合を考えてみよう。

 真の意味で有を無にすることをできるのは、神業しか言えない。

 無神論者なら、それを奇跡としか呼ばないだろう。

 奇跡。ミラクル。

 あるいは、マジック。

 昔マジックショーで自由の女神像を消失させた魔術師がいたが、魔術と称する時点で当然ながらそれは実際に建物を消えさせるわけではあるまい。魔術といい奇術といい、或いは妖術と言ってもよかろうが、技術である事実自体は変わるまい。要するに、種明かしすれば誰でも再現できるようなことであるーーなにせ、超能力ではないから。

 超能力でもない限り、自由の女神像を消すことはもはや無理難題でしかないが、消すことができないなら、消えたように見せれば良い。

 裏を返せば、見せないことである。

 見せない。

 隠す。

 隠された故、見えない。

 現象としては、消失。

 消える。失われる。無くなる。

 認識できない。

 情報が取れない。

 情報収集ができなければ、

 情報交換も情報処理も為す術がない。

 情報処理。

 情報。

 視覚情報。

 視覚情報処理ーー博士の専門分野。

 そう言えば、今回の面会場所は博士が自ら選んだというわけである。

 なるほど。早めに来るのは正しい判断だった。

 まあ時間ギリギリのところでも恙無いと思うが。

 

 駐車をしに行った無序は、きっと僕よりも早く気ついたはず。

 面会場所はちゃんとここに有ることを。

 そして最初からここにツインタワーなんかいないことも。


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