2番目によるモノローグ

亜未田久志

一位とは


 俺は一位になれる実力がある。

 勉学でも,運動でも、恋愛、家事、ゲームなんでもござれだ。

 だけどそんな事を言っても誰も信じはしないだろう。

 親だって信じようとはしない。

 何故なら、それは俺が今まで一度も一位を取った事などないからだ。

 いつも二位。

 だけどそれには理由がある。

 単に目立ちたくないだけというのもあるが。

 これがとても利口で器用な生き方だという事だと証明したいという事でもある。

 一位はもてはやされる。

 そりゃもうちやほやされる。

 期待される。

 


 


 俺はそんなのごめんだった。

 だけど俺にだってプライドぐらいある。

 一位になるのが嫌なら二位になればいい。

 一位ほど目立ちはしないが、三位ほど微妙とも思われない。

 三位も十分すごいはずなのに。

 一位二位と三位の間には、謎の距離感がある。

 俺が実力者だと知らしめるには二位が一番だ。


 しかし、そこで厄介なのが、この学校の一位だ。

 そいつは十分な実力はあるのにどこか危なっかしい女子だった。

 運動の方は将来プロを期待されている男子がいるのでちょっとスピードを落として順位を調整とかしなくていいので楽なのだが。

(その男子相手でも俺が本気を出せば、俺が一位を取る事が出来る……代わりに体力が無くなるが)

 勉強に限ってはそうはいかない。

 頭はいいはずなのに、教科書やら文具やらを忘れるその女子に俺は悪戦苦闘していた。

 毎回、何かしら忘れて授業に支障をきたすものだから、いつも俺が予備の文具やら教科書まで買って用意した。

 それでも彼女はケアレスミスが多かったりするのでテストの点数が安定しない。

 そこで俺は必死にケアレスミスや忘れ物を防ぐために二重、いや三重のチェックを忘れるなと再三注意するのだが、その度「君はやさしいね」なんて言われてしまって、そんな事より俺を二位にする事に集中してくれ。


 彼女は生徒会長でもあり、俺は副会長であった。

 生徒会長が学校の一位かどうかは色々と議論の余地があるだろうが。

 少なくともウチの学校では成績優秀の彼女が生徒会長になっている事で実質学内ナンバー1の称号を手に入れていた。

 そして副会長の俺もまたナンバー2の称号を欲しいままにしていた。

 しかし、ここでも彼女のドジが炸裂する。

 重要な書類をどこかに無くしたり。

 部費の桁を間違えたり。

 俺のサポート無しでは生徒会長なんて務まらないだろう。

 彼女が生徒会長になったのは推薦によるものだが、まさか推薦人たちも本人がこんなポンコツだとは思ってもいまい。

 そしていつも通りに彼女のミスを修正していれば。

 決まって。

「いつもありがとう」

 とほほ笑んでくる。

 だからそうじゃなくて俺を二番手にする事に集中してくれ頼むから。


 恋愛の一番とはなんだ。

 恋愛に順位なんて存在しないだろうが。

 クラスでちょっと人気の女子と付き合うぐらいがちょうどいいだろうか。

 そんな不遜で不純な事を考え過ごしていたある日。

 例の彼女から声をかけられた。

「今日、生徒会室に、いいかな?」

 なんだか少しいいよどんでいる。

「今日は作業無いはずですけど」

「そ、それでも!」

「わ、わかりました」


 彼女の言葉に従い生徒会室へ。

 夕暮れ時、西日が部屋に差し込む。

 シルエットになった彼女の顔色は見えない。

「私、君の事が好き!」

 ……………………

 なんだって?

 おいおいおい、待て待て待て。

 俺と生徒会長が付き合う?

 そんな事になったら。

 学校のカップルになってしまうではないか!


 ……しかし。


「俺も、会長の事、好きです」

 彼女の世話をするたびに彼女のあどけない魅力にひかれていった。

 たまには一番もいいかもしれない。

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