第23話  〇〇の資質  (没23)

     『 ○ ○ の 資 質 』    (没23)

 近頃、チマタを賑わせている言葉の一つに『資質』がある。

 政治家に必要な資質とは何だろう? 恐らく多くの政治家が話術の巧みさで人々を引き付けることができる点から、『雄弁』をその一つに挙げるに違いない。現に政治家になった人たちが学生時代に弁論部に所属して、腕(口?)を磨いたという話はよく聞く。確かに政治家が『口下手』では魅力に欠けるのも否定できない事実だが、私には人々を前に何時間も自説を喋り続ける弁舌力よりも、世人の意見や要望をひたすら聞き続ける忍耐力の方が政治家には必須のように思える。

 では物を書く人の資質って何だろう? 文章力は確実に勉強によって身に付くし、何に視点を向けるか?も映画を見たり音楽を聴いたり、あるいは街をぶらりとするだけで書きたい物事にはたくさん出会える。とすれば、創造力と想像力を併せ持たなくてはならない物書きの資質とは?・・考えあぐねて辞書で、『資質』を引くと「生まれつき持っている性質、才能」とある。

 生後数十分で立ちあがり、数時間の内に群れと共に行動する野生動物の子供にはとにかく生き延びなければならない必然性から、生まれつきの性質や才能が備わっているとしても、果たして人間の子供に「生まれながら備わっている才能」ってあるのだろうか?

 例えばクラシックの世界で、いかに神童と呼ばれた人たちであろうと、その人が幼少期に楽器を手にしてすぐ弾きこなしたとは信じ難いし、数十分の難曲を暗譜するのに何の苦労もなかったとも思えない。むしろ天才の称号を与えられた人ほど、過去に凡人の何倍も研鑽を積んだ事実をいとも平然と述べる。つまり、どの世界のどんな天才といえども汗なしに天才の名声を勝ち得た例はない。

 恐らく幼児は人間としての性質と無限の可能性を秘めた『真っ白な才能』を持っているだけで、善人になるか悪人になるかは教育次第で決まるように、才能を開花させるか否かは後々の努力の問題に相違ない。

 結局、それぞれの職業にそれぞれの資質が必要なのではなく、その職業に対する自分の意欲と頑張りが憧れの職業に就ける扉を開く最も大切な鍵になるだろう。

 きっとM氏なら思った事を文字に置き換えるだけで、あるいは喋った言葉がそのまま美文に変わるだろうが、たった数分で読める原稿用紙三枚のコラムに数日を費やす時もある私に『生まれつき』物書きになれる才能があるとは到底思えない。にも拘らず、ある日突然、子供たちにオッサンのメッセージを届けなければ・・と気づいた没価値男は凡才を顧みず臆面もなく表題に選んだ一つ一つの真実を伝えたいという熱意だけで物書きに挑み続けている。それゆえ凡夫に生まれた自分を嘆く暇があるなら、『兎と亀』の説話を反芻してせいぜい努力を重ねる事にしよう。

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