第10話 自営業と自由業
『自 営 業 と 自 由 業』(没10)
自営業という言葉をある辞書でひくと、『独立して自分の力で経営する職業』と書いてある。一方、自由業をひくと『勤務時間などにしばられず、独立して営む職業』とあり、例として医者・弁護士・著述家などを挙げている。一読した限りでは両者に意味の差異は殆どないように感じられるが、恐らく世間ではその差異は甚だしく大きいに違いない。
自営業に例がないところを見ると、一般に自営業とは規模の小さい個人商店を指すのだろう。けれども人々の脳裏にはわずか一字違いの根底に、両者の(歴然とした)社会的地位や収入の差があると思われる。
しかし医者にしても弁護士にしても、雇われていればそこの勤務時間に縛られるはずだし、独立・開業している場合も一応の営業時間というものはあるはずだ。著述家は確かに毎日の勤務時間に拘束される事はないかも知れないが、非常に手強い『締め切り』という期限爆弾にガンジガラメにされる。
結局、自由業だからと言って時間を無視して勝手気儘に振るまえば収入も信頼も得られるはずはなく、まして社会的地位で自由業の人格が決定されるものでもない。個人の評価は、あくまでもその人が人間的に尊敬できるかどうかで成されるべきであって、ある職に就いているとか、収入の多寡や事業の大小で判断されるのは正しくない。
生きていくにはお金が必要だが、そのお金を得るための職業として考察する場合、違法な手段や道義上好ましくない稼ぎ方は別として本来職業に貴賎はなく、さらに私はどんな職業であろうと人の職業は全て、誠意が一番大切な『サービス業』と認識している。なぜなら人間を相手にしなくてはいけない以上、お客様こそ神様・・だからである。
もしも人生をお金のためにアクセクと送るのではなく、好きな仕事で働いた後に与えられるお金で生きていけるとしたら、その人生は毎日が楽しく正に最高のものだろう。それゆえ若者には、「君たちの人生はまだまだ長い。一生付き合える仕事を見つける事が大切だ。そのためには十代・二十代の回り道など気にしなくていい」と助言しよう。
ところで私自身にとって一字の違いはどうだろう? もちろん理想は金も暇も思いどおりの自由業だけれども、『金があれば暇はなく、暇があれば金はない』のが世の中の常と知り、はたまた若い頃に憧れた自由業のどの一つも現実に成るには(自営業とは異なる領域で)かなりの才能を必要とする職種ばかりで到底叶わないと悟って、今や殆どヤケクソ気味に人生の『自由人』を実践している。それが傍目には都落ちの変わり者と映り、近所ですら仕事をあまりしない『プータロー』的自由人と受け取られている事にも充分、気が付いてはいるのだが・・。
♪「分かっちゃいるけど止められない。あ、そーれ、スイスイ・・・」ってか?
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