第8話  休カン日

  『 休 カ ン 日 』  (没8)

 私はアルコールが好きだ。もちろん飲み始めたのは大学生になってからで、普段は飲まなかったがコンパや何かで飲みだすと度々、朝まで飲んだ。それでも滅多に酔わなかったのも父の体質を受け継げば当然と思っていた。

 仕事を終えてから毎日、酒を飲むようになったのはここに来てからだが、ほとんど外に飲みに行かない私の酒は、『春夏はビールとワイン、秋冬はビールと日本酒』で、一定量を守る実に健康的な酒だと自賛していた(時折、チューハイや焼酎が増えるけど・・)

 たまたま受けた市の健診で肝臓が引っかかった。確かに数値を比べると高い。しかし車でも五十年も乗れば「どこかにガタは来る」と高をくくったものの、総合判定で要指導に○が付き、再度医者を訪ねなければならなくなった。医者は「寝酒を止めるか、量を減らすか、休肝日を作るか」の三点を挙げて、肝臓は沈黙の臓器ゆえに自覚症状が出た時はもう遅い、と酒飲みを脅した。

 私は「いずれを採るか・・」で、ハムレットのごとく悩んだ。寝酒を止めるという事は、私に酒を止めろと言っている事と同じだ。なぜなら夕食後に子供たちと話し、勉強を教えなければならない私に晩酌は当然許されない。となれば、仕事を終えて風呂を浴びた後に飲むしかない。むしろ今日と明日の狭間で酒を飲みつつ自己と対峙するのは私のポリシーであり、長年のライフスタイルでもある。かと言って現段階でさえ酔わないのに量を減らす事は難しい。結局、私は週に一度の『休肝日』を受け入れるしかなかった。

 今度は、何曜日を休肝日にするか?で悩んだ。熟慮の末、月曜と決めたが当然、その夜は眠れない。あっちに寝返り、こっちに寝返り・・体のためと我慢したが(寝返りは得意なはずなのに?)、何回挑戦しても翌日は冴えない一日に、休肝日の効用を考えた。

 確かに酒の入らない日は肝臓には良いだろうが、眠れないストレスで『月曜病』に陥るのは心に良くない。では、酒を飲むと確実に熟睡できて爽快な一日を送れる精神面か、それでもなおカラダのために休肝日か、一体、どちらが私にとって有益なのだろう?

 私は惑う事なく心を採った。一日の仕事を終えて今日の頑張りに美酒を振るまい、さらに明日への活力を蓄える事は大切だ。しかし体力が明らかに若い頃よりも落ちている以上、これからの酒は飲み方次第で百薬の長にも凶器にもなりうる事を肝に銘じて、内外で飲む酒に守るべき〝三掟〟を課した。「前後不覚になるまで飲まない。酔って管を巻いたり絡むのは無様でいただけない。酒の席だからと言って許される非礼は何一つない」

 それぞれが自分のペースを守って飲む酒ほど人々の心を和ませ、一層の友好に役立つものはない。私は週一回の休肝日を忌避したけれど、新聞業を営んでいる妻は月一回の休刊日を心待ちにしている・・・。

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