マジに美味しく超簡単 ―おじタン、ほぼムス。番外編―

流々(るる)

おじタン、レシピ

「お腹すいたぁー」


 うちの探偵事務所へ来るなり、第一声がこれだ。

 高校一年生になったばかりの朋華は食べる。とにかく食べる。

 それでいて太らないのだから、うらやましい。

 俺があんなに食べたら腹回りに影響が出そうだけれど、彼女にとっては背が伸びるための栄養となっているらしい。


「何かがっつり食べたい」

「はぁ? もうすぐ五時だぞ。夕飯食べれなくなっちゃうでしょ」

「大丈夫。お母さん、今日は遅いって言ってたから」


 俺が小学校の登校班に付き添って「見守り」をしている関係で、こどもたちと仲良くさせてもらっている。

 母娘で暮らしている彼女とはもう六年になるつき合いで、学校帰りにここへ寄っておしゃべりをしたり、PCで遊んだりしてから家へ向かうのが日課となっていた。


「何か作ってー」


 何だ、その抑揚のない声は。

 ひとに頼むならもう少し言いようがあるだろ。


「こんにちはー」


 そこへユウキちゃんがやって来た。彼女もここの常連さんだ。


「あれっ、今日は部活じゃないの?」

「今日は休みだった。買い物に行こうと通ったら、朋華ちゃんが見えたから」


 そう言って、二人でハイタッチ。


「これからおじさんが何か作ってくれるって」


 作るとは一言も言ってない。


「えー! そうなのぉ⁉」


 ほら、乗って来ちゃったよ。

 ユウキちゃんもよく食べるんだよなぁ。小柄なのに。

 まだ中一だし、彼女の方はまさにこれから成長期なのか。


「何作ってくれるの?」


 あー。

 分かりました。何か作りますよ。


「買いに行くのは面倒だから、あるものでいいよね」


 そう言って、冷蔵庫を覗く。個人事務所だし、遅くまでここにいることも少なくないので、何かしらは常に入っている。

 流しとコンロ一つだけというミニキッチンもあり、簡単な調理道具も揃っている。

 さて、どうするか。

 卵に、新ジャガ。あとで一杯飲むつもりで買ったマグロの中落ちもある。

 ほかには……冷凍庫に鶏五目チャーハンが袋の半分ほど残っていた。


「それじゃ、二人とも手伝ってよ」

「いいよ」「オッケー」

「それじゃ、まずはジャガイモの皮を剥いて」


 ユウキちゃんにピーラーを渡す。


「三個とも剥いていいから」

「わたしは?」

「朋華は隣のユキさんの喫茶店に行って、ご飯をもらってきて」

「えぇー⁉ なんか恥ずかしいよ」

「大丈夫。朋華はユキさんのお気に入りだから。お茶碗二杯分くらいでいいよ」


 亡くなった父とユキさんは古くからの知り合いで、店を引退した今はちょくちょく遊びに来てくれる。

 渋々事務所を出ようとする彼女の背中に声を掛けた。

「それとローズマリーを一枝もらってきて。店の前に植えてあるから、ユキさんに教えてもらいな」

 

 それでは作業開始。

 ボウルを取り出し、そこへ凍ったままのチャーハンをざざっと入れる。


「剥き終わったよ」

「ありがとう」


 受け取ったジャガイモを五ミリ厚くらいにスライスしていく。

 それをもう一度ユウキちゃんに渡す。


「このお皿になるべく重ならないように並べて。そうそう、そんな感じ」


 手元ではチャーハンの上に卵を一つ、割り落とす。


「そうしたらラップをかけて四分、レンジでチンしてくれる?」


 ボウルの中でチャーハンと卵を混ぜ合わせる。


「何作るの?」


 ユウキちゃんが興味津々といった様子で覗き込んだ。


「こっちで見てていいよ」


 そう声を掛け、フライパンに油を引く。

 白い煙が出始めて十分に温まったところで、ボウルの中身をざばっと入れちゃう。

 平らになるように薄く均したら、コンロの火を中火にして蓋をする。

 普通にチャーハンとして食べるんじゃなくて、卵をつなぎにして薄く焼くと……。


「ほら、ひっくり返すとピザみたいでしょ」


 とろけるチーズでもあれば最高なんだけど。

 裏面を焼くときは蓋はしないで、ちょっと強火にしてこんがり目に焼いて――はい、ライスピザの出来上がり。


「そのままでも味がついているけれど、食べるときにお好みでケチャップ掛けて」

「美味しそうだね」


「もらってきたよ」


 おぉ、ちょうど帰ってきた。


「ありがとう。先に食べてていいよ」


 二人でソファに座り、出来立てのライスピザへ手を伸ばしている。


「美味しい!」「マジおいしい」


 よかった好評で。

 それじゃ、次。

 フライパンに今度は油を多めに入れて弱火で。

 温まったところへローズマリーを入れて素揚げにする。こうすると油にも香りが移るからね。


「何かいい匂いがしてきた」


 そう言いながら朋華がこちらへ見に来た。


「これさっきもらってきたやつでしょ? こんなにいい匂いがするんだぁ」

「熱すると香りが出るからね。爽やかな感じでしょ」


 いったんローズマリーを取り出して、さっきのジャガイモを入れる。

 もう熱も通っているから時間はかからない。

 少し強火にして表面に焦げ目をつけるように焼いたら、塩と胡椒を振って出来上がり。

 皿に載せてから、さっきのローズマリーを散らすと、ポテトのローズマリー焼きの完成。


「この二つは相性いいからね。俺は大好きなんだ」


 最後はこれ。

 カップがないから湯呑み茶碗でいいか。

 その中に醤油とゴマ油をスプーン三杯分くらい、同じ量だけ入れる。

 計量スプーンもないから適当で。


「二人とも、辛いのは平気?」

「大丈夫」「全然オッケー」


 それじゃ、そこへ豆板醤も入れてかき混ぜる。

 これでタレはOK。

 中落ちを出してタレを掛けて揉み込むように混ぜたら、お椀に盛ったご飯の上に乗せて、と。

 真ん中を少し凹ませて、そこへ卵を落とすと、マグロユッケ丼の完成だ。

 

「はい、どうぞ」


 二人へ渡すとすぐに食べ始める。


「これも美味しいね」

「わたしも家で一人の時、作ってみようかな」


 こんなに美味しそうに食べてもらえると、作った甲斐がある。


「あっという間に出来ちゃったし。なかなかやるね」

「まあな。俺のレシピだけに、おじタンレシピ。お、時短じたん……ってな」


 うごぉっ!

 黙々と食べながらも、朋華の左裏拳が俺の腹に飛んできた。

 ひとこと余計だったかぁ……。



― 了 ―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マジに美味しく超簡単 ―おじタン、ほぼムス。番外編― 流々(るる) @ballgag

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ