第46話 10か月

気付けば、アキレス腱断裂から今日で10か月。

いつものリハビリに行く。

「少しは良くなってますかね。」

スタッフリーダーのAさんが声をかける。

「どうですかね。そう、今日で10か月なんですよ。記念日。」

「記念日ですか。」

「最初は、松葉杖で来てたから、良くはなってるよね。長いけど」

いつものラクシア。

足にジワジワ圧力をかけて、また抜くを繰り返し、足の血行などをよくするマシンだ。

10分間。

私は、他の人の2倍の圧力にしている。

10か月…

最初の2か月は、ギプスだったので、リハビリは出来ない。

装具になってから、ここへ通いだして、7か月くらいか。

6か月くらいで、社会復帰出来ると思っていたから、

長く感じる。

いや、長い。

これだけ長く通っていると、

顔見知りも増えるが、完治していなくなる人もいる。

先日も、いつも杖をついてやっと歩いていた高齢の男性が、

杖をつかずに歩いていた。

「良くなってるんだ。」

と思ったが、手術をすることになり、2か月、県リハに入院するので、

しばらく来ないと言う。

そんな人もいれば、

車椅子でほぼ毎日来ていた男性がいた。

車椅子に乗り、その足には、装具。

車を運転して来ていた。

車に乗る時どうするのだろうと見ていたら、

まず、自分が車椅子から運転席に乗り込み、

片手で車椅子を持ち上げて、後部座席に乗せていた。

すごいな。

でも、腕力があればこそ出来るが、そこまで力がない人は、

1人で車に乗り降りすることはかなり難しい。

どう見ても、良くなるように見えない状況だったが、

2種類の電気治療をしていた。

運動療法をしている様子はなかった。

治る希望があるのだろうか、と思っていた。

ある日、大きな紙袋を持ってきており、

女性スタッフに渡しながら、何やら話していた。

その日以降、その男性はリハビリに来ない。

そうか、完治はしないのだから、

どこかに引っ越すかなにかで、

あの日が最後だったのだ。

私が、一番長く通うのかな。

これが、病院じゃなくて、飲食店だったら、

大常連客だ。

ポイントカードでもあったら、割引か、そろそろ無料特典くらいあるはずだ。

病院もそういうのやれば、

あと1回で無料になるから、頑張ってリハビリ行こうなんてことに、

ならないか。

骨折や切り傷なら、完治が目に見える。

しかし、アキレス腱は、見えない。

まして、完治は難しいと言われているのだから、

一体いつまでリハビリを続けるのか。

もういいですと言われるのか。

当初は、医師も色々診てくれるが、

今は、月に1度の問診。

こちらから、何か投げかけないと、足に触ることもない。

そう、最近の医師は、患者に触らない。

下手をすると、内科でも聴診器さえあてない。

何人かの人とそんな話題になった。

触ってくれるだけで、安心感になるんだが。

とりあえず、私の場合は、理学療法士が触って、状態を把握してくれているし。

来年、孫が産まれる。

このままだと、孫を抱きあげることは出来ない。

そう、手術しない限り、孫と遊んだり出来ないんだ。

そう思ったら、泣けてきた。

でも、

やっぱり、

手術は出来ない。

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