ヒロインの真髄なんて
────もう.......犯人は分かった。
先程の会話で、ゆうかに悪戯をしている犯人が俺には分かった。犯人の大きな特徴は、犯行に及ぶ前の事前準備をしていたことにある。
────ゆうか先輩と頑張って下さい!
係当番は俺のクラスの人間しか知らないはずだ。つまり犯人は.......
八重桜さきだったのだ。
俺にだって犯人が分かっていれば行動も読める。この問題を解決出来るのは、俺しか居ない。今はトモキも助けてくれない。俺だけでやるんだ!
「ヤマト遅いよ〜」
「き、緊張すると腹壊すタイプ!」
「あっ、えっと、じゃあ仕方ないね」
トモキ、借りさせてもらったぞ、女子には多少引かれるみたいだが.......
「ヤマト、何か倉庫から出してるの?」
「いや、いいんだ、気にするな」
そして、俺たちの当番の時間がやってきた。薄暗いお化け屋敷の中には、様々な仕掛けがあり、仕組みを見ただけで面白そうだった。これからここで何が起きるのだろうか。
俺が考えたのはこうだ。八重桜は、人目の少ないここで確実に仕掛けてくる。そして、お化け屋敷に入っている人数の少ない最初か最後頃にやってくるだろう。あの会話から察するに、彼女はもうここを把握していると見ていい。
あとは備えて待つだけだ。
────八重桜さきは終わり頃にやってきた。足音しかしなかったので、すぐにこいつは遊びに来たんじゃないとわかった。
「わっ!あれ?驚かないな.......」
「待てゆうか!」
「ゆうか先輩、待ってましたよ!今度はこっちが驚かせる番ですね!」
八重桜さきは、俺と話す時と同じように、笑顔で、元気で、無邪気な姿でその口から、見る目が変われば、残酷で、辛辣で、最悪な言葉を放った。
────彼女の右手には、スタンガンが握られていた。
何が起きているのかさっぱり理解が出来なかった。
俺の目の前には上から、満面の笑み、制服の上着、スカート、そのスカートの横には、学園にはそぐわないであろうスタンガンが握りしめられていた。
「八重桜、一体なんだそれは」
「よくドラマとかに出てくるじゃないですか、スタンガンですよ」
そう言って八重桜はスタンガンを鳴らして見せた。
「何の為にこんなことをするんだ!?」
「私、あの日知っちゃったんです。先輩の事を好きな先輩がいること。そして、その時に感じた嫉妬で、先輩のことが好きだと分かったんです。」
「.......っ」
何も言い返せなかった。俺にはその言葉が重すぎる。ラブコメ主人公にもなれない俺には、やはり重すぎるんだ。
「だからって、なんでこんなやり方するんだよ.......」
「私は、こういうやり方しか知りません。だって、相手が幼なじみのかわいい先輩ですよ?」
「お前.......常軌を逸してるよ.......」
「なんとでも言ってください、これで全て終わりますから」
八重桜はゆうかの方へ駆け出した。
「やめて!」
「やらせねぇよ!!!!」
俺は咄嗟に、蒟蒻を濡らすための水を、八重桜の体にかけた。水道水は電解質、彼女も今スイッチを入れれば自滅行為だと分かっただろう。
「あーあ、失敗しちゃった」
「ヤマト.......ありがとう」
「なんで先輩はいつも優しいのよ!」
八重桜が叫んだ。
「私が入学した頃、先輩は、私が無くしたキーホルダーを一緒に探してくれた.......何度もそういう事をしてる先輩は覚えてないかもしれない、でも!私は覚えてて.......」
「八重桜、お前の気持ちは凄く嬉しい、だがこれだけは言える。お前は間違ってる.......」
「だって.......どうしても許せなくて.......だって.......」
彼女は泣き崩れた。そんな彼女を、ゆうかはそっと抱きしめた。俺はというと、自分が引き起した状況だという苦い感情と、ゆうかを守れたという憎き喜びが入り混じった。
俺は、何を得たのだろうか.......
お化け屋敷の水溜まりは、演出ということで片付けられた。八重桜はというと、スタンガンの所持が教員に見つかり、停学処分となった。
恋は、時に人を惑わす。そんな大きな力を持っているものを、制御し、行使しているラブコメ主人公は、そもそも憧れて良いものなのだろうか.......
────「いや、あの時はビックリしたよ〜」
「まあ、怪我がなくて良かったよ」
「ヤマト、ありがとね」
五文字という字数で、これ程人を喜ばせられる言葉があるだろうか.......
「じゃあまた明日!」
「ああ、気をつけてな」
その時、俺の元に一本の電話が入った。俺の着信音はいつもスターウォーズだが、トモキだけ分かりやすいようにアニソンにしておいたのだが。
「どうした?電話?」
萌え声に反応してか、ゆうかが戻ってきた。赤面の俺。うん、今度からバイブにするぞトモキ。
「もし、どうしたんだ?」
「かなえが.......!!」
全てに決着をつける時が来たようだ。
ここを超えた先に、俺たちのストーリーがあると信じて!
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