スポットライトが照らすのは、いつでも決まって表だけ
────文化祭。それは高校のメインイベントでもあることから、ラブコメではよく取り上げられる場面だ。だがこの状況を見て欲しい。
「ねぇヤマト!早く小道具作ってよ!間に合わないよ?」
隣でわーわー言ってるゆうかの声を、右から左へと聞き流している俺は、現在進行形で文化祭の小道具を作っていた。うちのクラスではお化け屋敷をやる事になったのだが.......
「────それじゃあ、うちのクラスが何をやるか、決めていこうか」
眼鏡をかけた学年委員が場を仕切っていた。俺は特に文化祭にかける思いもないので、窓際の一番後ろと言う絶好のポジションから、校庭で体育をしている生徒を見ていた。
すると、こちら側に手を振ってくる女子生徒がいた。目を凝らしてみると、八重桜さきだった。少し離れたところで冷ややかな目で見てくる山岸なみえも居た。
「手、振り返しちゃおっかなっ.......」
ほんの少しの少年心が俺の手を挙げさせたとき────
「おっ、じゃあ小道具はヤマトな!お化け屋敷に決まったから頑張ってくれよ、反対意見は?」
「ちょっ、まっ」
「ヤマトは器用なのでいいと思いまーす」
「花園、まて────」
「にしし〜」
────その笑顔で俺は即決した。
そんなこんなで今この状況だ。ハッキリ言ってつまらん.......!
「かなえ、ここはこう、うぎゃーっと!」
トモキがかなえに指導しているか、かなえはずっと首を傾げたままだった。本当に大丈夫だろうか.......
それからさらに何日か経ち、とうとう明日に文化祭を控えることとなった。
「かなえはここにいて、角から人がくるから.......」
今ではトモキの説明に対して、かなえは頷く姿しか見なくなった。それに比べてこっちは.......
「ヤマト、明日急用で来れなくなった子がいるの、私と一緒に脅かし役やってくれない?」
来ました仕事。何年か後はこれを自ら求める事になるのだろうが、こうも次々と来ると嫌になってくる。
「だめ.......かな?」
仕方ない、やるか.......
最終準備も終わり、クラス単位での下校だった今日の帰り道。俺はイツメンとかなえが呼んでいる四人で帰っていた。ちなみに、俺、トモキ、かなえ、ゆうかだ。
「ついに明日だね!」
「ワクワクしてきたな!」
いつしかかなえとトモキも仲が良くなっていた。
「ヤマト、みんな驚いてくれるかな?」
「大丈夫さ、トモキが考えた構造だ。戦略的には最高峰よ」
「褒めてるのかヤマト〜」
トモキは俺の頭をくしゃりと撫でてきた。
「やめろって〜」
この時間が止まって欲しい。俺はそんな自分らしくないことを考えていた.......
文化祭当日。俺はまだ本当の問題が何も解決していないのをよそに、目の前にある楽しみだけを見つめていた。そんな俺の登校は清々しいものだった。
「ヤマト、一緒になるなんて珍しな」
「よっトモキ、クラスで集合時間が決まってるからな」
いつも一人で登校してる俺からしたら、とても素晴らしい朝だ。
「そういや昨日のことなんだけどよ、────」
トモキの話が止まった。俺は
「どうしたんだ?かなえじゃな────」
俺は、この光景を一度見たことがある。かなえが路地裏でただただ頭を下げているこの光景を。あれは休み明けだった。その時には何も思わなかった。しかし、今日は違う。かなえは、俺たちのがたいの何倍もあるスキンヘッドの男と話していたのだ。
「.......っ!」
走り出したトモキに、俺は片手を伸ばした。
(今行くべきではない)
俺は無言で首を振った。見逃せない問題を、見逃さないために、あえて、見逃した瞬間だった.......二人の心の器には、やるせないという名前の、悪感情の水で今にも溢れかえりそうだった。
────何があったかはわからない。しかし、これだけは言える。
救いを
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