スポットライトが照らすのは、いつでも決まって表だけ

 ────文化祭。それは高校のメインイベントでもあることから、ラブコメではよく取り上げられる場面だ。だがこの状況を見て欲しい。

「ねぇヤマト!早く小道具作ってよ!間に合わないよ?」

 隣でわーわー言ってるゆうかの声を、右から左へと聞き流している俺は、現在進行形で文化祭の小道具を作っていた。うちのクラスではお化け屋敷をやる事になったのだが.......さかのぼること五日前────


「────それじゃあ、うちのクラスが何をやるか、決めていこうか」

 眼鏡をかけた学年委員が場を仕切っていた。俺は特に文化祭にかける思いもないので、窓際の一番後ろと言う絶好のポジションから、校庭で体育をしている生徒を見ていた。

 すると、こちら側に手を振ってくる女子生徒がいた。目を凝らしてみると、八重桜さきだった。少し離れたところで冷ややかな目で見てくる山岸なみえも居た。

「手、振り返しちゃおっかなっ.......」

 ほんの少しの少年心が俺の手を挙げさせたとき────

「おっ、じゃあ小道具はヤマトな!お化け屋敷に決まったから頑張ってくれよ、反対意見は?」

「ちょっ、まっ」

「ヤマトは器用なのでいいと思いまーす」

「花園、まて────」

「にしし〜」

────その笑顔で俺は即決した。


 そんなこんなで今この状況だ。ハッキリ言ってつまらん.......!

「かなえ、ここはこう、うぎゃーっと!」

 トモキがかなえに指導しているか、かなえはずっと首を傾げたままだった。本当に大丈夫だろうか.......


 それからさらに何日か経ち、とうとう明日に文化祭を控えることとなった。

「かなえはここにいて、角から人がくるから.......」

 今ではトモキの説明に対して、かなえは頷く姿しか見なくなった。それに比べてこっちは.......

「ヤマト、明日急用で来れなくなった子がいるの、私と一緒に脅かし役やってくれない?」

 来ました仕事。何年か後はこれを自ら求める事になるのだろうが、こうも次々と来ると嫌になってくる。

「だめ.......かな?」

 仕方ない、やるか.......


 最終準備も終わり、クラス単位での下校だった今日の帰り道。俺はイツメンとかなえが呼んでいる四人で帰っていた。ちなみに、俺、トモキ、かなえ、ゆうかだ。

「ついに明日だね!」

「ワクワクしてきたな!」

 いつしかかなえとトモキも仲が良くなっていた。

「ヤマト、みんな驚いてくれるかな?」

「大丈夫さ、トモキが考えた構造だ。戦略的には最高峰よ」

「褒めてるのかヤマト〜」

 トモキは俺の頭をくしゃりと撫でてきた。

「やめろって〜」

 この時間が止まって欲しい。俺はそんな自分らしくないことを考えていた.......


 文化祭当日。俺はまだ本当の問題が何も解決していないのをよそに、目の前にある楽しみだけを見つめていた。そんな俺の登校は清々しいものだった。

「ヤマト、一緒になるなんて珍しな」

「よっトモキ、クラスで集合時間が決まってるからな」

 いつも一人で登校してる俺からしたら、とても素晴らしい朝だ。

「そういや昨日のことなんだけどよ、────」

 トモキの話が止まった。俺は咄嗟とっさにトモキの顔を見た。彼の表情は固まっていた。目線を追ってみると、その先にはかなえがいた。

「どうしたんだ?かなえじゃな────」

 俺は、この光景を一度見たことがある。かなえが路地裏でただただ頭を下げているこの光景を。あれは休み明けだった。その時には何も思わなかった。しかし、今日は違う。かなえは、俺たちのがたいの何倍もあるスキンヘッドの男と話していたのだ。

「.......っ!」

 走り出したトモキに、俺は片手を伸ばした。

 (今行くべきではない)

 俺は無言で首を振った。見逃せない問題を、見逃さないために、あえて、見逃した瞬間だった.......二人の心の器には、やるせないという名前の、悪感情の水で今にも溢れかえりそうだった。


────何があったかはわからない。しかし、これだけは言える。


 救いをわないものほど、一番救いが欲しいのだと、その救いに、俺たちはならなければならない.......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る